4月 3/3

みなさん、私です。


マギ君とシャルちゃんの突撃訪問を受けて数日、ポーションを作り終えて菜園のお世話してたら、ソード君から通信魔法が入った。


【お嬢、緊急事態だ。助けてくれ!】

【ふえ!?…分かった。何すればいい?】

【隣領でスタンピードだ。ポーションありったけ持って、数日留守にするつもりでいてくれ。足はこっちで用意するから、鉄橋で落ち合おう】

【了解。すぐ準備して行くよ】


スタンピードか。医療道具と薬、ありったけ準備しよう。

武器は剣ちゃん二号と短槍も持っていこう。

非常食や着替えも要るから、森行用のリュック装備だな。

うちのダンジョンは、そのままにしといても一週間近くもつから放置でいいや。

よし、おうちにカギ掛けたら出発だ。

ネージュ、スライム倒しに行くよ!


ネージュとおうち前の崖を飛び降り、鉄橋に向かって走ります。

あ、定期便の自走車が二台、北門から出てきた。

鉄橋について兵士さんに状況説明してたら、自走車が到着した。


「お嬢、乗ってくれ!」


ソード君が乗ってる自走車に飛び乗り、鉄橋に進みます。


「貴領の代官からスタンピードの救援依頼を受けた。通るぞ!」


ソード君、鉄橋を渡った先にいる隣領の兵士さんに向かって叫んでます。


「先ほど通った早馬でお聞きしてます。どうぞお通りを!」


おお、自走者が渡りきるまでに、向こう側の鉄作も開いたよ。

対応素早いな。

自走車は向こう側の門を抜け、一気にスピードアップ。

うわ、乗り心地悪いけど、緊急時だから仕方ないね。


「早馬の話では、森近くの村がスタンピードに飲み込まれ、領都にスライムが迫ってるらしい。俺たちは物資と兵を積んで領都に向かい、領都の戦闘を支援する。お嬢はけが人の手当を、場合によっては戦闘も頼む」

「うん、分かったよ。全力出していいの?」

「こっちは即応性を重視したから、荒れ地を走れる自走車が二台しかなかった。物資も載せてるから兵士は十人しか乗れなかった。最悪の時は、すまんが全力で頼む」

「うん。私の平穏より、人命優先だからね」


その後、私が持ってきた薬類も支援物資に入れるからと、ガタガタ揺れる車内でリスト書いた。


二時間後、隣領の領都が見えてきたけど、領都は既に大量のスライムに囲まれてた。

「く、遅かったか。これじゃあ中に入れねえ。お嬢は、なんか案あるか?」

「まだ門は破られてないね。なら自走車で正門前に突っ込んで並べて止めて。私が先に屋根に登って自走車を中心に円形の壁を作るよ。壁の内部を殲滅したら、壁に四箇所くらい穴開けて、穴の前に陣取って入ってくるのを殲滅するのはどう?」

「なるほど。襲われる方向を限定して、兵士をローテーションしながら殲滅するのか。でも、広がってる奴らはどうする?」

「スタンピード状態だと、理由はわからないけど、遠くにいる人間も検知するから街まで襲いに来るんだと思う。だから門の前で魔力放出すれば、かなり寄ってくると思うよ。だめなら囮で呼び込めばいいし」

「なるほど、それなら楽そうだな。よし、それで行こう」

「じゃあ、私は屋根に乗るよ」

「おう、落ちるなよ」

「任せてよ」


作戦が決まったので、私は走ってる車のドアを開け、屋根に乗り移ります。

ドアを閉めたら突入です。

おぉおぅ、スライム引いちゃってるから揺れる揺れる。

自分の体に下方向のベクトル掛けて、頑張って耐えます。


よし、門の前に到着。

壁出来ろー!

自走車を中心として、直径10m、高さ2.5m程の円形の壁を作りました。

工房作ってる時に気付いたんだけど、これくらいなら出来るようになってたんだよね。


よし、壁の中を殲滅だ。

短槍を振り回してスライム殲滅してたら、ソード君も降りてきた。


「荷台の兵士はまだ出るな。安全圏を作ったら合図する」


ソード君、手当り次第にスライム切りながら、指示を飛ばしてます。

壁に張り付いて、襲われる方向を半分に限定してる。

うん、考えてるね。

よし、円内の殲滅完了。

自走車の下にも何匹か潜んでたけど、魔力感知あるからバレバレです。


「ソード君、OKだよ」

「よし、兵士は荷台を開けて降りてくれ」


ちょっとだけ一息。

兵士さんのペアを五つ作り、ローテーションの順番を決めて配置に付きます。


「じゃあ、穴開けるよ」


槍を構えた兵士さんの前に、幅50cm,高さ1mくらいの穴を開けます。

すぐにスライムが飛び込んできたけど、ちゃんと殲滅できてるね。

もう一箇所同じようにしたら、今度はソード君の前に穴を開けます。

そして最後は私。

さて、魔力放出しながらジェノサイド祭りの始まりです。


物見塔の兵士たち

「おい、自走車って奴が突っ込んでくるぞ。こんな状況で門なんか開けられないのに、どうするつもりだよ!」

「うっわ、死ぬ気かよ。あ、並んで止まったぞ。ん?屋根の上に子供が乗ってるぞ!なんとか助けなきゃ!!」

「助けるって、どうやるんだよ!?はしごとかじゃ届かね…え?、丸い壁が出来たぞ!何だありゃ!?」

「うわ、マジかよ!?子供が飛び降りて槍でスライム殲滅してやがる!つ、強ええ!!」

「何だあの子供は?って、もう一人子供が出てきたぞ。こっちは剣だ。何だよあれ!?大して力入れてないみたいなのに、スライムがスパスパ切れてくぞ!!」

「おい、もう円の中のスライム全滅しちまったぞ。あ、荷台から兵士出てきた。こいつらひょっとして救援なのか?」

「そうかもしれんが、数が少なすぎるだろ。しかも円の外はスライムだらけだぞ。

なんでかスライムが向こうに集りだしてるし。なっ!?、壁に穴開けやがった!そんなことしたらスライムが…。おお!そういうことか!一つだけ穴開けて、スライム呼び込んで倒していくのか」

「でも、あのペースじゃ時間がかかり過ぎて体力切れがって、おいーっ!!四箇所も穴開けやがった。いくらローテーションしても、流石に人が少なすぎるぞ!長くは保たん!!」

「なあ、兵士たちは二人一組なのに、あの子供たち、一人で穴一つ受け持ってるぞ」

「ほ、ほんとだな、すげーな!。…なあ、あの小さい方、槍を脇に抱えて突っ立てるだけじゃないか?」

「よく見ろよ。穂先だけ動かしてるぞ。あれ、突っ込んでくるスライムの核に穂先合わせて、スライムの飛び込んでくる力を利用して刺してるんだ」

「うぇ、まるでスライムが勝手に刺さりに来て、自滅してるみたいだな」

「なあ、兵士たちはローテーション組んで休んでるのに、子供たちは代わってないぞ」

「…あれ、ほんとに子供なのか?俺たち、スライムに囲まれて精神やられて、変な夢見てないか?」

「…俺も自信無くなってきた。でも、ほほ抓ると痛いぞ」

「あ!兵士がミスりやがった。取りこぼしが中にって、うえーっ!?ちっちゃいほうが後ろも見ずに槍投げて倒した!おいおい武器投げたら…ああ、剣も持ってたのか」

「おいーっ!?槍が勝手に戻ってったぞ!?なんなんだの子供」

「そっちもびっくりだけど、自走車の屋根の上、猫が矢みたいなの飛ばして兵士たちをフォローしてるぞ」

「はあっ!?なんで猫が矢を放てるんだよ!?しかもスライム一撃かよ!?」

「俺、見てるだけで疲れてきたんだが…」

「俺もだ。驚きすぎると疲れるんだな」

「なあ、周りのスライム、減ってきてないか?」

「…減ってるな。街の周りにいた奴らがあいつらの周りに集まってて、どんどん倒されてくからな」

「お前計算出来たよな。一秒で一匹、四箇所で四匹、一分だとどんだけだ?」

「一分は60秒だから、60x4で…240だな」

「十分だと?」

「2400だ。え?十分で2400匹も倒せる?嘘だろ!?」

「でもよぉ、街の周り、スライム減って来たぞ」

「マジかよあいつら…。あ!子供二人が飛び出して行きやがった」

「なあ、スライムって、二人が槍で動けないようにして、もう一人が核を潰すんだったよな?」

「今更何言ってるんだ?何度もそうやって倒してるだろ」

「あの子供たち、走りながら一撃で倒してるんだが…」

「…そう見えるな。走るの早い上に減速すらしてねえ。もう見えなくなっちまった」

「俺、聞いたことあるんだが…」

「なんだよもったいぶって?」

「ここが男爵領だったころ、闇組織の奴らが二百人以上集まってどこかの街を襲撃したらしい」

「二百人以上って、この街の兵士より多いじゃねえか!」

「…一人も帰って来なかったそうだ」

「え?、マジ?……それってまさか、今目の前にる奴らの街とか…」

「どこの街かは知らねえけど、こんなやつらに守られてる街って、すげー安全そうだな」

「領ざかいで領土のいざこざとかあったら、俺、兵士辞めるわ」

「俺もだ。あ!子供たち戻ってきた。あれ?左に行ったのが小さい方じゃなかったか?右から二人で帰ってきたぞ」

「…一周してきたんじゃないか?俺、現実を受け入れることにした。あの子供たちなら、スライム殲滅しながら短時間で街を一周出来ても驚かねえ」

「お、おう。それって悟りの境地ってやつか?お前、すげえな」

「いや、諦めの境地」

「…」


寄ってくるスライムがかなり少なくなってきたので、円内はネージュと兵士さんに任せ、私とソード君で、街の周りを殲滅に出ることにしました。

私は西門経由、ソード君は東門経由です。

西門から南門にスライム殲滅しながら廻って行ったら、南門過ぎたところでソード君と会いました。

よし、北門に戻ろうか。


とりあえず街の周りのスライムは殲滅できたので、門を開けてもらって街に入った。

うん、全力突貫は必要なかったよ。


代官屋敷で報告した後、私はスライムに襲われたけが人の治療に当たったの。

ソード君が着いてきてくれたので、二人でけが人の治療。


結構怪我人居るよ。

この街はスライムの出現は稀で、普段の病人やけが人用のポーションしか用意が無かったらしい。

怪我のひどい重傷者はある程度治療されてたけど、骨折した人や皮膚がただれた人、打ち身の人は、ポーション全然足りてなくて応急処置だけだったよ。


骨の位置直して適量のポーション丸薬与えたり、皮膚のただれを洗浄しなおしてポーション軟膏塗ったりしてたら、夜遅くまでかかってしまった。


なんでもポーション飲ませればいいってものじゃないから、兵士さんたちは手伝えないんだよ。

適切な治療しないと骨折なんかは変なくっつき方するし、持ってきたポーションの在庫も心許ないから、適量を与えて節約しなきゃね。

今回はグレード9ポーションに加え、ポーション軟膏、ポーション丸薬も持ってきたから、何とか足りました。


やっと治療を終わって代官様とささやかな晩餐(てか、もう夜食)食べてたら、ネージュがスライムのイメージ送ってきた。

あ、感知に反応が…。

スライムの後続がいるかも知れないからと門の近くで食事してたから、私の感知圏が外壁の向こうまで広がってたの。

街の周りは真っ暗だから、夜の見張りは無意味なんだよね。


「ソード君、スライムのおかわり来たみたい。どうする?」

「げ、夜に来やがったか。兵士たちに暗がりの戦闘は無理だ。外での戦闘は避けたいな」

「じゃあ、門の上から狙撃かな。でも、矢だと軽すぎてボルトじゃなきゃ核に届かないから、私とネージュ、ソード君しか攻撃役いないよ」

「門は四つか…代官様、一つだけ門を封鎖出来ないか?土壁で補強すれば、朝までは保たせられると思う」

「篝火とかはダメなのかね?」

「スライムは焼くと毒ガスが出るから火は使いたくない。スタンピード状態だと水晶ランプの光でも逃げないから追い払えないし」

「全部の門を封鎖して耐えれば…」

「それだと戦力少ない救援は街に入れない。明日には他の街からの救援も来ちまうんじゃないか?」

「…東門が一番小さい。閉鎖するなら東門がいいだろう」

「了解。すぐ取り掛かろう。お嬢、スライム多いのは?」

「北門と西門だと思う」

「じゃあ、お嬢は北門、ネージュに西門、俺は東門封鎖してから南門担当するわ」

「ボルト用の土を門の上に上げてもらうのに、兵士さん三人ずつくらい手伝ってもらいたいね」

「わかった。振り分ける」

「私は西門でネージュに指示してから北門に向かうよ」

「ああ、頼んだ。じゃあ行こう」


ネージュを連れて西門に到着。

一応、門の前に土壁造成しときました。

ネージュにこの場でスライムをボルトで倒すイメージを伝え、私は北門へ。


あ、もう門に体当たりしてるのがいる。

急いで門前に土壁造成。

さあ、シューティングゲームの始まりです。


兵士さんが運んできてくれた土からボルトを作り、門の上からスライムを狙い撃ちます。

遠くて核が狙いにくい上に、スライムのスピードが速い。

核を一撃で破壊するのは、割と難易度高めです。


パシュ、パシュ、パシュ、パシュ

うーん、殲滅速度が上がらん。

私なら魔力探知全開にすれば、暗闇でも近接戦闘出来るけど、あまり勝手するのもなあ…。

仕方ないけど、このまま続けるか。


………

……


なんだか半分惰性でボルト撃ってたら、夜が白み始めた。

うげ、徹夜しちゃったよ。


伝令役の兵士さんが各門の状況を伝えてくれるんだけど、みんな頑張ってるみたいで、どの門も大丈夫らしい。


少しづつ明るくなって来て、周りの状況が見えてきた。

あー、スタンピードは終わったね。

見えてるスライム、ぽよんぽよん跳ねてるもん。

こうなると面倒なんだよなぁ。

数メートル以内に近づかないと襲ってこないから、待受けての殲滅は無理なんだよね。

門に近づいてくるのも少ないから、ボルトもたまにしか発射してない。

降りて殲滅に行くか?

でも眠いしなぁ…。


私が寝落ちしそうになったころ、門の内側に知らない兵士さんたちが整列し出した。

あ、打って出るのね。私はどうするんだろう?


伝令さんが来て、門の外の土壁壊したら、代官屋敷に集まってくれって。

どうやら私の出番は終わったようです。


西門に寄って土壁を壊し、ネージュを回収して代官屋敷に向かいます。

ネージュ、門の上で丸まって寝てたよ。

お疲れさま。


代官屋敷で報告&相談。

スタンピードが終わり他領の支援も到着するから、ゆっくり休んで貰ってから接待したいって申し出だったけど、ソード君は超多忙人間。

定期便自走車持ってきちゃってるから、早く帰らないと流通が混乱するからと、ソード君は断ってた。

私たちは徹夜明けのまま、慌ただしく帰路に就きました。


帰り道でこっそり通信魔法の実験したら、姉妹ちゃんとは40km以内だと相互通話可能。

ソード君は商会員とテストしてたけど、50kmくらいは通話可能だった。

ソード君と隊長さんは、残り30kmくらいで繋がった。

ソード君は、走行しながらこっそり報告もしてたみたい。


やがて自領に帰り着き、私は登り口のところで別れました。

早くお風呂に入ってから寝たい。


…徹夜明けのお風呂はやばい。

ネージュと二人して、お風呂に浸かりながら寝てしまった。

あやうくお風呂で溺死するとこだったよ。

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