4月 2/3

みなさんどうも、私です。


先日領主様に会ったので、うちのダンジョンのことを相談しました。

そしたらね、森まで地下道掘ってもいいって。

万一私が遠出したりすると、今の状態だと兵士さんが私んちの地下通路に入らなきゃいけないから、いまいちよろしくないらしい。

兵士さんが私んちに日参するのを見られるは良くないんだって。

だから地下道延長して、ダンジョン入り口をトラップ化しました。


魔力尽きずに半日で終わったよ。

一年前と比べてレベルは倍だけど、魔力量は倍どころじゃないよね。

魔力制御がうまくなってるのもあるかもだけど、掘れる距離を比較すると100倍超えてるよ。

レベルアップ、怖くなってきたぞ。


今は薬草栽培用にダンジョンから漏れる魔力欲しいから、うちの地下トラップとダンジョン入り口のトラップ、両方が稼働してるの。

入り口トラップは兵士さんが檻詰めに使ってるから、私のスライムぷすりは三分の一くらいになってる。

次のレベルアップまでは、ネージュと二人でぷすってるから約八千匹。

一日八匹ぷすったとして…あ、大丈夫かも。

三年近くレベルアップしないな。

その次なんて、今から八年後だ。

うん、気にしないでおこう。


よし、すっきりしたから自走車作ろう。

実はね、姉妹ちゃんの自走車見て、どうしても自分の自走車を作りたくなったんだよ。

下部構造はとっくに出来てて、発注してたソファーとレッドオーク材待ちだったの。

やっと届いたから、せっせと組み立て中です。


外観はね、スバ○360ぽいのをイメージして作ってます。

中は姉妹ちゃんのと同じ五人乗り。

キコキコ回して窓も開閉します。

タイヤも天然ゴム製。


走行方法にはちょっと仕掛けがあります。

車体重量軽減と反作用駆動は今まで通りなんだけど、こっそり圧縮空気層の水晶付けてあります。

街中でレンガ舗装の道なら今まで通りでいいんだけど、ダート道はこっそり車体を浮かせて走るんだ。

タイヤがかろうじて設置してるくらいに浮かせたら、見た目は今まで通りだからね。

今はせっせとボディを変形中です。

丸いのむずい。


あれ?魔力感知に反応が五つ。

おうちに誰か来たぞ。

ダッシュでおうちに戻ったら、ドアベルが鳴った。

あ、一人はソード君だ。

はいはーい、今行きまーす。


「よう、お嬢。客を連れてきたぞ。賢者関連の秘密共有者ばっかりだから、気にせず話してくれ」

「やあ、薬師のお嬢さん。久しぶりだね」


げ、マギ君がいる。ちょっと前に気をつけようなんて思ったのがフラグだったか。


「あ、うん。ありがとう。マギ君は久しぶり。まずはみんな入って」


五人をリビングに案内し、とりあえず自己紹介した。

ネージュを紹介したら、私より少し年上の女の子の手がワキワキしてた。

この子がマギ君とソード君が助けた公爵令嬢だって。

ドレスじゃなくてワンピースだけど、すごくおしゃれだ。


二十代後半っぽい筋肉モリモリの男性は、マギ君の護衛。

二十歳前後の女性は、ご令嬢の侍女さんだった。


「まずはわたくしからお礼を。薬師さんからの情報で命を永らえることか出来ました。本当に感謝しております。また、お礼が遅くなってしまい、大変申し訳ございません」

「いえ、お礼は既に公爵家から過分なものを頂戴しておりますので、謝罪などされては困ってしまいます。薬師としてはご存命頂いたこと自体がお礼となります。ご快癒、おめでとうございます」

「まあ、マギ様のおっしゃるとおりの方ですわね。ご祝辞、ありがとう存じます」


む、マギ君何言った?じろり。


「えっと、お嬢さん。僕は『薬師として人を助けることに喜びを感じる人』って紹介しただけだよ。それと、言葉遣いは出来たら普通にしてくれないかな。彼女はご令嬢言葉が普通だから、あわせなくていいよ」

「まあ、そういうことならいいか。でも、公爵家のご令嬢ってことは、王族籍もあるんじゃない?不敬になんない?」

「彼女はそういうことを気にしないよ。というか、庶民言葉の方が親しみを感じる子だからね」

「ええ、命の恩人に敬語など使われては、悲しくなってしまいます。わたくしはまだ庶民言葉は勉強中ですので、わたくしの気持ちが伝わらないようでしたら申し訳ございません」

「いやいや、御礼の品だけじゃなく、わざわざ会いに来てお礼を言ってくれるなんて、充分すぎる程に伝わってるよ。こっちが感謝したいくらいだよ」

「そうでしたらよろしゅうございました。ですが感謝されてしまっては本末転倒ですわ」

「そだね。じゃあ、私はしっかりと感謝を受け取りました。これでいい?」

「はい、ありがとう存じます。それと、薬師さんにお願いがございますの。出来ればわたくしとお友達になってはいただけませんか?」

「え?私平民だけど、いいの?」

「ぜひお願いいたします。わたくし、薬師さんから頂戴したスノードーム、大変感動いたしました。療養中に毎日何度も眺めておりまして、あのような自然と人の営みとの調和を描く情景をお作りになる方と、ぜひともお友達になりたかったのです」

「あれ、気に入ってもらえたんだ。よかったー」

「気に入るどころの騒ぎではございません!草原にある家に雪が降り、ゆっくりと白に塗り替えられる世界。窓からこぼれる暖かな光と煙突の煙。わたくしあの家が自分の家と錯覚して、何度も帰りたいと思ってしまいました」

「おお!郷愁をイメージして作ったんだけど、そこまで読み取ってくれたんだ。すごく嬉しいよ!ぜひ友だちになってください」

「ありがとう存じます。わたくしたち、おなじ思いを共有するお友だちですわ!」

「見ていると、なにか心に訴えられてるような気がしたけど、あの魔道具にはそんな意味が込められてたのか。すごいね」

「ええ、今日平原から薬師さんのお宅を拝見して、このお宅にも近いイメージを感じましたわ」

「うわ!それも正解だよ。このおうちは、帰るとほっとする家がコンセプトなんだよ」

「マジか。お嬢のおうち見ると行きたくなるのは、作るの手伝ったからだと思ってた」

「ははは、うまくいくかどうかわかんなかったから、コンセプトは話してなかったんだ」

「く、なんかうまく嵌められた気分だ。お嬢、侮りがたし」

「話が纏まったところで、僕からもお嬢さんにお願い。彼女にもニックネーム付けてくんない?」

「え?ああ、お忍びなのね。うーんとねぇ…、じゃあ、シャルちゃんで」

「意味を聞いても?」

「前世の世界ではシャルロッテとかシャーロットとかって名前が、私にとってはお嬢様っぽく感じたんだよ。意味は『女性的でかわいい』だったと思う」

「おお、さすがお嬢さん。ソードや僕のマギ同様前世つながりだし、何より彼女に似合ってる。いいね」

「わたくしにも別の世界に関連した名前が…。ありがとう存じます」

「いや、ニックネームでお礼言われても…。まあ、シャルちゃんが気に入ってくれたならいいか」

「みゃーん」

「ん?あ、そろそろお昼か。みんなはまだ時間あるの?」

「お嬢、すまん。マギたちは午後に訪問しようって言ってたんだが、俺が昼前に連れてきたんだ。あの、どんぶりってやつ、もう一度食えないか?屋敷で何度も再現してもらったんだが、なんか米が旨くないんだ」

「うん、時間あるなら作るよ。しかもお米は前回より遥かに美味しくなってるのだー!」

「な、マジか!?」

「これもマギ君のおかげだよー。ありがたやありがたや」

「いや、拝まないでね。僕も食べてみたけど、あんまりおいしくなかったよ」

「それは多分、輸送中の保管の問題だと思う。後は炊き方か。よし、お米の実力をお見せしよう」


そうと決まればさっそく準備。

食材取りに保管庫へ。


ソードくんには侍女さんを菜園に案内してもらい、サラダ用の野菜を収穫してもらった。

なぜかマギ君やシャルちゃんまでついて行ったので、護衛さんもくっついて行った。


一足先にキッチンに戻り、まずはお米を研ぎます。

今回も浸け置く時間がなな。よし、お湯で炊いちゃえ。

新米だからお湯控えめにして、以前作ったお鍋で炊飯。


猪肉は…、生姜焼きっぽくしてやれ。

肉厚にするから隠し包丁細かく深めに入れて、次にソースを作ります。

生姜をすりすり。砂糖とワイン、塩コショウも少々。

くっ、醤油とみりんが欲しいな。

塩を少し強めにして、乾燥スープの素を削り入れてうまみを補填しよう。

あ、みんな戻ってきた。


「まだ森には雪が残っていたのに、夏野菜や秋野菜が収穫出来てしまいました。これもマギ様の研究結果なのですか?」

「いや、僕の研究結果なんて殆どないよ。みんなお嬢さんの発案だからね」


あ、侍女さん、サラダはお願いします。


「何言ってるかな。ポーションの使用量にしても、植物の魔力濃度による成長促進にしても、研究して実用化したのはマギ君でしょ。そんなこと言ってると、もっと時間の掛かる研究、ぶん投げるわよ」


手を止めず、お肉焼きながら話に加わります。


「げ、失言だった。取り消すからこれ以上お仕事振らないで」

「ほら、そんなに仕事抱えてまで頑張ってるじゃん」

「そうですわよ。マギ様が忙しすぎて、こちらに来るのが何ヶ月も遅くなってしまいました。頑張りすぎですわ」

「あ、はい。気を付けます」


おや?マギ君、シャルちゃんの尻に敷かれてる?

うむ、お仕事振るのは控えてあげよう。

シャルちゃんのためにね。

よし、お湯を注いで、スープも出来たぞ。


「ここでは従者も主人も共に食事するのがルールだ。だから一緒に配膳してくれ」


ソード君の発言に、侍女さんはちらりとシャルちゃんを見やり、頷かれたので全員分を配膳してくれました。


うん、ご飯も炊けた。

少し蒸らしたら、肉厚生姜焼き乗っけて出来上がりー。


「あの、もう一つマナーがあって、この深い器、どんぶりっていうんだけど、どんぶりは片手で持って食べるのがマナーなの。だからいつものマナーは一旦忘れてね。あと、毒味とかどうしようか?」

「薬師のお嬢さんが人に害を成すわけがないよ。だからみんなで食べよう。僕も正直温かい食事に飢えてるんだ」

「ああ、この暴力的なまでの匂いを嗅いでお預けなんて、もう辛抱できん!」


ソード君フライング。


「あ、こら!勝手に食べ始めちゃダメでしょ!」

「うま!うまうま!!」

「聞いちゃいないし…。仕方ない、みんないただきましょう」


ほら、シャルちゃんたちはちゃんとお祈りしてるじゃん!

欠食児童か!


「これ、本当においしい。お米がここまでお肉と合うなんて思わなかった。ソードがねだるのも納得だね」

「お米を炊いたのをご飯っていうんだけど、ご飯はおかずと一緒に食べるものなの。大抵のおかずとは相性いいはずだよ」

「本当ですわ。このごはん?自体もかすかに甘味がありますが、お肉と一緒に食すとすばらしいお味ですわ」

「うは、うまうま!」


うわ、ソード君の言語中枢が退化してる。

まあ、美味しそうに食べてもらえるのは嬉しいんだけどね。


「おかわり!」

「ちょ、もう食べちゃったの!?もう、仕方ないなぁ…」


私は食べてる途中だけど、仕方なくもう一杯作ってあげました。

どうせおかわりするだろうと思って、ちゃんと余分に作っておいたからね。


「はい、おかわり。もう無いからね」

「お嬢、ありがとー!」


く、なんていい笑顔するんだよ。

叱る気がなくなっちゃったよ。


侍女さんがお茶を淹れてくれたので、みんなでしばしまったり。

ネージュはシャルちゃんの膝の上で撫でられてます。


「はー、お腹がしあわせー」

約一名は、お腹をぽっこりさせてソファーに寝転がって、なにかつぶやいてます。

おいおい、ご令嬢の前だぞ。


「あの、薬師様。出来れば今の料理をご教授願えませんでしょうか」


およ、侍女さんからお願い事が来たよ。


「うん、いいけど、様付けはやめて」

「いえ、お嬢様のご恩人の方でしたら、敬うのは当然でございます」


あー、領主様の従者さんとおんなじだ。

これは私が我慢するしか無いね。


「わかりました。じゃあ、先に材料と手順書いちゃうね。帰る前に実際に料理すれば、お持ち帰りも出来るしね」

「是非に!」


そんなにお腹ポンポンにしてて、まだ食べる気か。


「ああ言ってるから、お持ち帰りしてね」

「承知しました」


私は紙と万年筆を持ってきて、レシピをさらさら。

お茶飲みながら、魔法で万年筆を操って書いてます。


「ネージュのカトラリー扱いもすごいと思ったけど、お嬢さんもすごいね。僕も練習してるんだけど、まだそこまで上手くは書けないよ」

「こんなのは慣れだよ。普段から使えば魔力制御も上がってお得だよ。メモ書きとかから始めると、自分用だから汚くても大丈夫だからね」

「なるほどね。メモなら人に見せないからね」

「うん、作業中で両手が塞がってても書けるから、結構便利。作業しながら食事も出来るよ」

「…マジで試してみる」


その後は工房棟の内覧会しました。

お貴族様の目から見た意見が欲しかったんだよ。

みんなの意見は―――


ソード君

「ま、お嬢だからな」

なにそれどういう意味?


マギ君

「王都の研究所や王族の私室でも、これほど魔道具は無いよ。工房も使いやすそうだ」

うん、手がワキワキしてるけど、なんとか耐えてるね。


シャルちゃん

「雄大な自然を見られるように配置されたベッド。わたくし、ここに住みたくなってしまいました」


侍女さん

「侍女は主人と同室でお世話をさせていただきますので、ツインはありがたいですね。衣服関連の汚れや破れがあった時に、ランドリースペースは助かります。キッチンも、あれだけの設備があれば夢のようです」


護衛さん

「護衛の場合は交代で不寝番をしますので、階段近くに居場所があるのが嬉しいですね。賊の進入路が階段に限定されるのもありがたいです」


いや、あの椅子はカーテン掛ける台に使ってからほっぽってました。

三階の階段ホールに、長椅子でも置くかな。

まあ、概ね好評な意見だったから、よしとしよう。


夕方前、今度は浸け置き時間をちゃんと取って、ご飯を炊きました。

炊飯中、シャルちゃんが西の苔庭を眺めてた。


「こちらのお庭、なにか不思議な魅力がございますね。ひょっとしてこちらも何か隠された意味がございますの?」

「シャルちゃん凄いわー。その庭は苔庭って言って、苔の緑と木々の季節変化を愛でるつもりで作ったの。ちょっと仕掛けが有ってね、座った位置から窓を通してみると、窓が一枚の絵画になるようにしてあるの」


シャルちゃん、あちこちの椅子に座って試してるね。


「窓を額縁にして庭を絵画に見立てるのか。すごい考えだね」

「ごめん、前世に有った手法を真似てるだけなの。カンニングみたいなもんだから私は褒めないで」

「了解したよ。でも、こんな手法を考えるなんて、賢者の世界はすばらしいね」

「そだね、考えついた人はすごいよね」

「ああ、この位置からですと、あの木に葉が茂っていればすばらしい眺めでしょうに…。お邪魔する時期を間違えましたわ」

「春は木々に咲く花を、夏はしげる葉の緑を、秋は紅葉を、緑の苔とのコントラストが楽しめるんだよ。去年の夏の終わりに出来たから、春の情景はこれからだよ。梅のお花は終わっちゃったけど」

「今の庭事情は、規模や配置、華々しさを直接目にして称えるのが主流だね。東側の庭はそうだよね。西側は室内から絵画として楽しむ庭か。個人的にはこちらの方が好きだな」

「わたくしもこちらのお庭の方が好きですわ」

「二人ともありがとう。もう少し先だと、花びらが舞い散る動きのある絵になるんだけどね」

「動く絵画…。ああ、わたくし、なぜこの時期に来てしまったのでしょう」


おっと、シャルちゃんが落ち込んでしまった。

桜が咲いたら、写真撮って送ってあげよう。


お、ご飯炊けたね。

蒸らし時間をしっかり取ったら、ちょっと実食。

炊き立てご飯、小さな塩おにぎりにして試食してもらったら、みんな驚いてた。


ソード君、『水で煮て塩をかけただけで、何でこんなに美味いんだよ!?』だって。

いや『炊く』って言ってよ。

あ、こら!勝手におにぎり作ろうとすんな!

領主様や姉妹ちゃんの分が無くなるでしょ!!

結局、生姜焼き丼の材料一式もお持ち帰り要求されたよ。

土鍋まで作らされた。


夕方、シャルちゃんが帰りがたそうにしてたので、晶洞に連れて行って魔力放出してもらった。

案の定、夢見る乙女さんになったので、写真を撮ってプレゼントした。

ソード君は侍女さんが作った肉厚生姜焼き丼を抱えて帰って行きました。


暖炉の上には、苔庭で撮影した写真(護衛さんが撮ってくれた)が増えました。


その日領主館では、豪華ディナーの予定が肉厚生姜焼き丼になったらしい。

二食連続で生姜焼き。飽きないか?

地下水田造成が、その場で即、決定されたそうな…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る