3月 2/3
おはようございます、私です。
今日も晴れてるな。
一面の銀世界だった屋外も、お日様のおかげで徐々に雪解けしてきました。
森の中は日当たり悪いのでまだ50cm以上積もってるけど、平原は30cmくらいの積雪で所々土が顔をのぞかせてます。
今年の雪解けは、例年より少し早いかも。
東の庭にある滝も凍結が解け始め、また庭に溢れ出しました。
だって、排水路は凍ったままだからね。
よく考えたらお風呂もトイレも魔道具でお水出せるから、滝の水ってもう要らないんだよね。
仕方がないので氷の滝を無理やり登り、レンガいっぱいぶっ込んで吐出を止めました。
全身熱魔法ガンガンに掛けて作業したけど、全身ずぶ濡れになりました。
だって決壊するの嫌だからレンガを奥に送り込んで固めたんだけど、水路が狭まって水が勢いよく吹き出しちゃって、顔面にモロくらいました。
まあ、景観的にはあったほうがいいんだけど、あのずぶ濡れはもう嫌だ!
ソード君と話してた丸太橋は、お話後、三日目には架かっちゃいました。
兵士さんたちが十人くらいで作業してるのをおうちから眺めてたんだけど、わずか一日で出来上がってた。
さすが森を巡回することに慣れた辺境の兵士、丸太橋はお手の物だったみたい。
隣領のダンジョンに案内するときに通ったんだけど、上面は板張りになってたし、落下防止の欄干まで付いてたよ。
大工さんも手伝ったのかな?
隣領のダンジョンは、もうスライム出荷が始まってます。
といっても、スライム檻を作れる人材がうちの領にしかいないから、見張りや運搬はむこうの兵士さんだけど、こっちの兵士さんが檻詰め作業を代行しに行ってるんだけどね。
でも隣領って王家直轄地だから、すぐに王都の魔学研究所から人員が五人派遣されて来るらしい。
しかもその人員、こちらの領に来て指導を受けながら、王家専用の自走車(雪上車の車輪版、つまり自動車)を作るんだって。
教えるのって、きっとソード君だよね。
またソード君が忙しくなりそうだな…。
うーん、どうしよう…。
実はネージュと遊んでて、とっても便利な魔法発見しちゃったんだよなぁ…。
前々から思ってたんだけど、ネージュって私が伝えたいことを理解してくれるんだよね。
ただ、言葉だけで伝えるのは無理で、言葉と一緒にイメージを思い浮かべると、ちゃんと伝わってるんだよ。
試しにネージュが薪を浮かせて持ってくるイメージだけ念じてみたら、ちゃんと薪を持ってきてくれたんだ。
だから色々試して見た結果――
・対面で伝わる(魔力消費感知できず)
・壁越しでも伝わる(魔力消費極小)
・おうちと洞窟内でも伝わる(魔力消費極小x3くらい)
・おうちと街の北門でも伝わる(魔力消費極小x10くらい)
・ネージュからも、言葉じゃなくてイメージが伝わってくる。
ってとこまではわかったんだけど、これ以上の実験は人同士じゃないと難しいんだよね。
後、実験したいのは――
・言葉を伝えられるか
・複数人に同時に伝えられるか
・逆に複数いる場合に、特定個人だけに伝えられるか
・レベルや魔力制御の度合いによって、伝わるかどうか、伝わる距離に差が出るのか、消費魔力に変化はあるのか
・イメージと言葉とでは、伝わる距離に差があるのか
・最大到達距離はどのくらいか
・相手の状況(安静時とか話し中とか)によって、伝達に差が出るか
うん、全部相手が人じゃなきゃ試せないし、人数も大勢欲しい。
…これって通信魔法とか念話とかってやつだよね。
便利すぎて絶対やばいやつだから、ソード君に相談必須だよ。
でも、ソード君が知ったら第一優先で取り掛かりそう。
王家の自走車も第一優先だろうから、またソード君が忙しくなっちゃう。
今でさえ地下都市計画に隣領のダンジョン関連で遊びに来てくれる回数減ってるのに、これ以上忙しくしちゃうのはなぁ…。
うーん、どうしたもんか…。
……うん、とりあえず内容は話さずに、ソード君の仕事量だけ確認しよう。
よし、出来てるポーションと通常薬納品に行って、それとなく聞いてみよう。
かける君は王都の研究員に見られたら面倒事になりそうだし、最近は吹雪くこともないからスノーバイクでお出かけしよう。
ネージュ、街行くよー。
よかった。今日はソード君いたよ。
ソード商会でお薬納品後、執務室でお茶してます。
「最近、お仕事忙しいの?」
「…忙しかったけど、当分は地下都市だけになりそうだな。しかも地下都市の方もかなりの部分を作業員に任せられるようになったから、余裕あるぞ」
「およ、自走車の指導は?」
「マギから貰った報告と全員名前が違うし、馬鹿なことしか言えない奴らが来たから、街にも入れずに叩き返した」
「え、マジで?」
「ああ、上位貴族の子息が偉そうに『我らがわざわざ辺境まで足を運んでやったのだ。さっさと案内しろ』とか言いやがったから、勅許状見せて兵士に拘束させてその場で送り返した」
「うわー、そりゃひどいね。…マギ君、大変そうだなぁ」
「父上が怒って、国王陛下に手紙書いてた。あんな無能を研究所に在籍させるなら魔道具や水晶の出荷を止めるって書いてたから、少しはマシになるんじゃないか」
「うわ、国王様を脅しちゃってるけど、領主様は大丈夫なの?」
「ああ。魔道具や水晶、ステンレスの出荷は領主権限で止められるからな。魔道具や水晶は王国全体の七割を、ステンレスに至ってはすべてうちの領が生産してるんだ。止められたら王都で暴動が起きるぞ。しかもお嬢の心証が悪くなるから、王命での強制徴収も出来ないしな」
「ほよ?なんで私が出てくるの?」
「…お嬢、自分がどれだけの物を発明してきたか自覚しろよ。今の王国経済が空前の好景気なのは、ほとんどお嬢の発明品のおかげだぞ。しかもダンジョンのトラップ化やポーションの適正使用化で死亡率が下がって、さらに農産物の増産まで可能になってきてる。そんな発明家の心証を損ねることなんか、ちょっと頭が回るやつなら絶対にしねえよ」
「うーん、欲しい物いっぱいあっても仕事増えなきゃ買えないのに、なんで好景気になるの?」
「今の下水施設をスライム式浄化槽に替えるため、王都や周辺の街じゃ求人だらけだぞ。さらにうちの商会や魔学研究所が魔力変換水晶単体でも出荷するようになってきたから、商人が筐体づくりのための職人も募集しまくってる。自走車作るために木工職人や鍛冶屋も大忙し、写像版づくりのガラス職人も全然足りてねえ。他にもお嬢の発明品関連で求人が増えてるのなんか、数えだしたらキリがないぞ」
「………私、とんでもないものばっかり作っちゃってる?」
「やっと理解してくれたか。てか、まだ疑問形かよ」
「でも、私は前世に有ったものを何とかこっちで再現してるだけで、私自身が発明したわけじゃないよ」
「たとえそうだとしても、この世界じゃお嬢が初めて作ったことに変わりは無いぞ。お嬢が作った物で、この国がすげえ好景気なのも事実だからな」
「うー、…なんか納得いかないけど、現状は理解したよ」
「まあ、そんな訳だから、父上はかなり強気に出ても大丈夫なんだ」
「そっか、領主様がまずい状況にならないなら、まあいいや」
「で、今度はどんな発明だ?」
「……は?な、なに言ってんの?なんで新しい発明したことになってんのよ!?」
「お嬢、気付いてないのか?めっちゃ申し訳無さそうな顔で忙しいかって聞かれたら、それくらいしかないだろう」
「…私、そんな顔してた?」
「ああ、俺が覚悟決めるくらいにはな」
「……ごめんなさい」
「お嬢は謝る必要ねえだろ。お嬢の発明は、全部人のためになるものなんだから誇ってくれよ。で?。さっさと白状しろ」
「褒めてくれてたはずなのに、最後は尋問っぽい!?」
「無駄な引き伸ばしはいいから、キリキリ吐け」
「うぐ、…えと、その、変な魔法が出来たかもしんない」
「ん?めずらしいな、お嬢が魔道具化してないなんて」
「うん、魔道具化出来ない魔法かも…」
「お嬢にしてはえらく曖昧だな。どんな魔法なんだ?」
ここまで来たらもういいや。よし、実験しちゃえ。
【ぴんぽんぱんぽ~ん♪こんな魔法でぇーす】
ちょっといたずらで、声で(発声はしてないけど)呼び出し音付けてみた。
「ぬおっ!?お嬢の声が頭の中に!!」
【あ、ちゃんと届いたんだね。そうなの、声やイメージを届ける通信魔法だよ】
「うへぇ、マジかぁ~。もうお嬢のことでは簡単には驚かないつもりだったけど、これはなぁ…」
【だよね、びっくりするよね。この魔法、街の北門から私のおうちまで届くんだよ】
「は?目の前にいなくてもか?」
【うん、見えなくても届いちゃうの。これって、便利だけどめっちゃやばいよね】
「ん、やばい?………ああ、そうか!確かにやばいな。軍の脳筋どもが暑苦しく活性化しそうだ。これはしばらく秘密厳守で、父上と相談だな」
【うん、お願いします。でも、相談する前に、どれだけ届くとか誰でも可能かとか双方向出来るかとか、色々実験した方が良くない?】
「実験しないとやばさの度合いも分からねえか…。ところでお嬢、いつまでこの魔法使ってるんだ?俺、独り言しゃべりまくってるみたいで、ちょっと情けないんだが…」
「あ、うん。客観的に見ると、危ない人かも」
「ぅおいっ!!」
この後、二人で色々実験してみたけど、意外なことに、ソード君が習得にてこずってた。
ソード君からの伝達が、対面ではわりとすぐに出来たんだけど、私が部屋から出たら伝わらなくなったの。
話を聞くと、見えない相手と話すって感覚が掴めなかったみたい。
これは電話ってものを体験したことがあるかどうかで、習得難易度変わりそう。
糸電話作って離れて話してやっと習得出来たんだけど、糸電話の方に興味津々になっちゃって大変だったよ。
魔法の習得そっちのけで商会員たちと糸電話で遊び始めちゃって、いつのまにか糸電話が販売されることになってた。
子供のおもちゃだよ?売れるの?
なんだかみんなが楽しそうなので、通信魔法で試してほしい項目を書いて、ソード君に渡して帰りました。
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