3月 1/3

おはようございます。私です。


季節は三月に入り、吹雪くことが少なくなってきました。

気温も少し上がってきたようで、降る雪が粉雪じゃなくなってきてます。

積雪も、徐々にだけど減りだしてます。


私とネージュはといえば、相変わらずの毎日を送ってます。

でも、今日はちょっといつもと違った。

朝から日課を済ませてリビングに戻ったら、ネージュの様子がちょっとおかしい。

南西方向をじっと見て、時折ひげをぴくぴくさせてます。


「どうしたの、ネージュ?」


私が問いかけると、とことこと足元にやってきて、私のズボンの裾を引っ張ります。


「…お出かけしたいの?」

「みゃん」


返事と一緒にうんうん頷いてます。

お散歩なら前足を振ってから勝手に出ていくので、どうやら私とお出かけしたいらしい。


「どこ行きたいの?」


ネージュは前足で南西方向を指してから、玄関につながるドアの前で手招きしてます。

おお!リアル猫招きだ!

って、いかん、可愛さにやられてる場合じゃないね。

ネージュが私を必要とする何かが外にあるってことだから、急がなきゃね。

ネージュは玄関ホールへ出て、玄関クローゼットから森用リュックとけんちゃん二号取り出してます。


「あ、待って。非常食とポーション抜いてあるから、補充するよ」


私は地下のストック置場から非常食とポーション持ってきて、森用リュックに詰めます。

外套も羽織り、お出かけ準備完了。


「よし、行こう」


外に出て玄関に鍵かけてたら、ネージュは西の庭をとことこ。

え、そっち!?

そこ、崖なんだけど…。

仕方ない、付いていこう。


重量軽減と熱魔法を発動し、ネージュに追従して崖を下ります。

猫って、自分が通れるところなら、どこでも道にしちゃうよね。

七十度前後の崖で下までは結構ある。

重量軽減使えるから怪我はしないとわかってても、視界的に結構怖い。

なんとか下にたどり着き、今度は雪に埋もれた岩石地帯を疾走します。

雪積もってて良かったよ。

本来ならパルクール必須の地形だもんね。


十分ほど走って渓谷に到着。

あ、渡るのね。はいはい。

って、今度は垂直崖登りなの!?

ネージュは身軽にジャンプしながら登ってくけど、私、そんな小さな出っ張りじゃ足がかりに出来ないから!

待ってぇー!


……


なんとか登り終えたけど、崖上でネージュが香箱座りして待ってた。

ごめんよ。私は君ほどの運動能力無いんだよ。

ネージュは立ち上がると、雪上を走り始めました。

あ、休憩なしですか。はい。


雪上を全力に近い速度で走ること二十分ほど。

目的地に近づいたのか、ネージュがスピードダウンしだした。

ここって、西の果樹エリアから更に南西。平原と森の境界付近。

あ、森に入るのね。


え?ネージュが氷のボルト作って浮かせてる。

敵いるの?私の探知にはまだ反応ないよ?

一応剣ちゃん抜いて、ネージュに付いていきます。

平原から300mくらい入ったところで探知に反応が。

うわ、複数の反応が急速に近づいてる。


狼か?

って、スライムじゃん!しかもスタンピードモード!!

突然、スライムとの戦闘開始。

うわ!あいつら雪に埋もれてからジャンプしてくるからタイミング取りづらい。

これは探知優先じゃないときついな。


ネージュってば、雪の中に氷ボルト突き刺してる。

探知でジャンプ前の、雪に埋もれて見えないスライム仕留めてるのね。

うちの娘、すごいわー。


ネージュと二人、スライムを討伐しつつ森の奥に進みます。

はい、ダンジョン入り口見つけました。

ここ、おうちから20kmくらい離れてるんだけど、ネージュってどうやって探知してるんだろうね。


高さ20mくらいの崖下に、土砂に埋まりかけた直径1mくらいの穴が空いてます。

そこから次々にスライムが飛び出してきてる。

とりあえず穴の前に陣取って、出てくるスライムをやっつけます。


スパ、スパ、スパ

討伐しつつ周囲を観察。

スパ、スパ、スパ

でっかい岩が入り口近くに転がってます。

スパ、スパ、スパ

これ、雪の重みで崖が崩れて出入り口塞がったんだね。

スパ、スパ、スパ

上を見ると、広範囲に崖の上の色が変わってる。

スパ、スパ、スパ

下にある土砂の量からすると、元々はオーバーハングみたいな崖だったのかな。

スパ、スパ、スパ

近くには根っこ付きの木も何本か転がってるし。

スパ、スパ、スパ

あ、出入り口が徐々に下に広がってる。

スパ、スパ、スパ

へー、出入り口塞がれると、こんなふうに広がるんだ。なんかきしょいな。

スパ、スパ、スパ

一定方向からしか襲われないので、ダンジョンから出てくるスライムは私一人で対処出来てます。

スパ、スパ、スパ

ネージュは私の後ろに陣取って、外に出てるスライムに対処してくれてます。

スパ、スパ、スパ

む、出入り口の拡張終わったのかな。

スパ、スパ、スパ

高さ2.5m、幅1.5mくらいの出入り口です。

スパ、スパ、スパ

出入り口の大きさって、ダンジョンの規模に比例してる気がするんだよね。

スパ、スパ、スパ

だとすると、中央のダンジョンより少し大きいかも。

スパ、スパ、スパ

……

スパ、スパ、スパ

……

スパ、スパ、スパ

…ねえ、これ、いつまで続くの?

スパ、スパ、スパ

スパ、スパ、スパ

スパ、スパ、スパ


延々と続くかと思われたスライム湧き、一時間ちょっとで終りが見えてきた。

ダンジョン内に見えてるスライム、ジャンプがぽよぽよになってる。

スパ、スパ

でも、これ、どうするよ?

スパ

ここって完全に隣領だよ。

スパ

王家直轄地になったんだよね。

勝手にいじっていいのか?

スパ

でも、このまま放置は問題じゃないか?

途中に川があるからうちの領には来ないだろうけど、新しい代官になった領主様の友人さん、困らないか?

スパ

一番近い村がどこにあるかしらないけど、林業で生計立ててるって言ってたから、森に入って木を切ろうとするとスライムに襲われる可能性あるよね。

スパ

あ、ダンジョンはあったんだから、今までもそうだったのか。

いや、スタンピードで飛び出した分が増えてるから、危険性は上がってないか?

スパ

ずごごごごご

ん?なんの音?

うお!?ネージュが後ろで穴掘ってる!

え?この形って、トラップ?

ずごごごごご

うん、トラップだ。

でも、ここ他領なんだけど…。

スパ

うーん、放置よりかは森の安全性上がるからトラップ化した方がいいよね。

叱られたらその時考えよう。

ネージュが下掘ってくれてるから、私は周辺を警戒しつつ小屋の材料集め。

倒木持ってきて板作りです。

おっと、スライムだ。

スパ

く、木が足りん。

倒木は朽ちるだけだから再利用みたいなもんだけど、生えてる木は隣領の資産だから切るのはなぁ…。


よし、屋根以外は土壁だな。土砂いっぱいあるし。

周りの土砂をせっせと集めて、トラップ部の壁作り。

レンガにするのも面倒なので、圧縮してそのまま固めます。


ダンジョン出入り口にスライム出てきたけど、前に穴空いてるから足踏み状態。

お前はそこで待機してろ。


よし、今度は小屋の壁だな。

うん、土質違ってまだら模様の壁だけど、とりあえずの雪よけだからいいか。

あ、ネージュ、下終わったんだ。

今、屋根架けてるからもうちょっと待って。


屋根でけた。

トラップの板張る前に、一応処理部確認しておこう。

おお、うちのトラップとおんなじタイプにしたんだね。

でも深いな。百匹くらいは溜まりそうだね。

次いつ来れるかわかんないから、最下部の底にはトゲトゲ付けとくね。


上に戻ったらトラップの可動板張り。

待たせたな、死んでこい。

よし、ちゃんと落ちた。

しばらく見てたけど、トラップの動作に不具合は無さそう。


討伐時に出入り口に積み上がった核は回収したけど、雪に埋もれたものや処理部のものは回収してない。

春になったら黒薬草生まくりだな。

…よし、帰るか。


「ネージュ、このダンジョンのこと、教えたかったの?」

「みゃーん」


ん?首を傾げながら頷くってことは、完全な正解じゃないな。


「他にもなんかあるの?」

「みゃん」


そうらしい。

ネージュは歩き出して、途中でしっぽでこいこいしてる。

…しっぽ、便利だな。


ネージュが行く方向はおうち方面なので、とりあえず付いていきます。

お昼食べずに来たからお腹空いてきたな。

駆け足程度に森の中を走りながら、ネージュに追走します。

ネージュ、低い枝の下を走り抜けるのは止めて。

私、枝にぶつかるよ。


む、スライム…氷ボルトが刺さって消えました。

しばらく走ってたどり着いたのは、ネージュ一家が住んでた場所。

なんと、墓標代わりの木の根元に、祠出来てる。結構大きな木の根本だから、雪には埋まりきってないね。

父ちゃんと母ちゃんの墓の祠に似てるけど…ネージュ、いつの間に作ったの?


「…みんなが雪で寒くないように作ったの?」

「みゃん」


どうよ!!うちの娘、優しいでしょ!

く、誰もいないから自慢できない…。


「…ひょっとして、みんなのお墓にスライムが来ないようにしたかったの?」

「みゃん!」

「おお、偉いぞネージュ」


思わずもふりまくってしまった。

しばらく周辺のスライム討伐して、ネージュと一緒にお墓参り。

あー、お供え物持ってきてない!

く、非常食で勘弁してください。


…祠の中、圧縮粘土製のリンゴや本しめじがお供えしてある。

ネージュってすごすぎない?

お母さん(代理)は嬉しいよー。

私も真似をして、氷でマンガ肉作ってお供えしました。


西の森経由で帰ったら、夕方になってた。

お腹すいたー。


夜、ネージュと一緒にぴくぴく。

私レベル13、ネージュはレベル12です。

当分上がらないと思ってたのに…そんなにスライムいたんだ。




翌日、日課を済ませて早めのお昼食べたら、街にお出かけです。

昨日のダンジョン、無断越境の上に無許可開発だから、さっさと報告しないとね。


領主館に到着したら、いつものごとく即面会。

領主様とソード君が、一緒に食後のお茶してた。


「お嬢さん、よく来てくれたね。食事はどうかね」

「あ、済ませてきました」

「では、お茶でも飲みながら話を聞こうか」


メイドさんが私の分のお茶を淹れてくれ、すっと退出して行った。

まずは結論から行こう。


「えっと、無断越境してダンジョン見つけました」

「…それは王家直轄領かね」

「うん、渓谷から15kmほど西に行った森の中。多分中央のダンジョンと同じくらいの規模」

「一人で中に入ったのかね?」

「ううん、入ってないよ。出入り口が中央より少しだけ大きめだったから」

「……出入り口でダンジョンの規模がわかるのかね?」

「多分です。今までのダンジョンは、規模と出入り口の大きさが比例してたから」

「…まじかよ、気付いてなかった。で、なんでそんなとこまで行ったんだ?」

「ネージュがスタンピードを感知したみいたいで、付いて行って見つけたの」

「スタンピードっ!?じょ、状況は!?」

「ソード君落ち着いて。もう収まってるから。着くまでに多分二百匹前後ネージュと一緒に討伐して、到着してから一時間半くらいは出入り口に陣取って、一匹も出してないから」

「そ、そうか。助かった」

「スタンピード終わってから出入り口前をトラップ化しといたから、多分しばらくは大丈夫だと思うよ。トゲトゲ付けてあるし」

「お嬢さん、協力感謝するよ。…その、すまないが、大凡でいいので教えて欲しい。いったい何匹倒したのかね」

「ネージュも私もレベルアップしちゃったから、多分二千匹くらい?」

「な!スタンピード状態のスライムを、二人だとしても二千匹倒すなど…、凄まじいな」

「えー、そんなに凄いことじゃないよ。ソード君も出来ちゃうから」

「え?俺、出来んの?」

「東の森ダンジョンのスタンピード、出口前でスライムやっつけてくれたでしょ。あれを一時間半やるだけだよ」

「…出来そうだな」

「まじか!?」


うわ、領主様の口調が…。


「お、おう、多分出来る。一方方向から飛び付いてくる奴を切るだけだからいけそうだ。問題は体力だけど、お嬢に教えてもらった身体強化、二時間くらいは保つしな。それより、対応を話し合った方が良いんじゃないか?」

「そ、それもそうだな。…隣領の森の中にダンジョンがあって、スタンピードは終わり、トラップ化済み。これで間違いないかね?」

「うん」

「正直ありがたい。減収が続く隣領が、スライムや核を出荷できる可能性が高いわけだ。あいつも助かるだろう」

「問題は誰が指導に行くかだな。渓谷を迂回して行くとなると長期に抜けることになるし、森まで行くのに雪上車は必要だしな」

「うむ、直線で行ければ余裕で日帰りできる距離なだけに、なんとも歯がゆい」

「雪上車は従姉妹が練習用に作ってるのがあるからあれが貸し出せそうだが、人材は長期に抜けられるやつはいないぞ」

「私が――」

「それは止めろ。元男爵領で未だ領内には良くない奴も潜伏してるはずだ。情報漏れが怖い」

「えー、じゃあ橋架ける?」

「そうしたいのは山々だが、何ヶ月もかかる上に、冬場の着工は無理だ」

「いや、仮の丸太橋でいいんじゃない?森の中じゃ渡れないところに丸太橋架けるのは当たり前だよ。あの崖なら、長めの丸太五~六本並べれば雪上車通れるし、架ける時間もかかんないし。どうせ正規の橋を架けるまでの間に合わせだもん」

「…丸太橋って、冬でもすぐに架けられるのか?」

「丸太は森からトウヒ切ってくればいいし、重量軽減掛けられる人が二人いればソリで運搬すれば楽々だし、全身熱魔法使える人が橋を架ければ冬場でも作業出来るし」

「…やれそうかね?」

「ソード君、私、ネージュで半日じゃない?」

「いや、お嬢さんはまずい。視界を遮るものが無い平原では、どこから監視されるか分かったものではない」

「えー、たとえ見られても、遠くからなら私ってわからないと思うんだけど」

「この時期に野外で作業出来る小さな子供って、お嬢以外にいるか?」

「ソード君や姉妹ちゃんなら出来るでしょ」

「身長差で特定されるぞ」


く、私、ダントツで小さいや。


「……うん、納得した。ごめんね、手伝えなくて」

「いや、橋が短期間で架けられるとわかっただけで充分だ。それに、新ダンジョンへの案内は頼むからな」

「うん、それは任せて」

「じゃあ、橋が出来たら連絡するから頼むぜ」


領主館を後にして思った。

他領への無断侵入、怒られなかったよ。

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