2月 3/3

みなさんどうも。私です。


先日は犯罪者に対する意識の差に、覚悟の足りなさを自覚した私ですが、領主様のおかげで改めて覚悟完了できたので、持ち直して元気してます。


ネージュはレベル11になり、なぜかお散歩再開しました。

吹雪くこともあるのでおうちの周りだけだろうと思ってたのに、気付いたら私の探知圏外に。

先日などお散歩途中で吹雪かれたはずなのに、吹雪の中を平然と戻ってきました。

雪猫って、レベルが上がるとマップ機能でも搭載されるんだろうか。

ホワイトアウトした世界を戻ってこれる能力なんて、全くの謎です。


私とネージュの生活は、姉妹ちゃんが再度お泊まりに来てくれたくらいで、目立った変化はありません。


一方、世間様では、渓谷を挟んだ南西側に接する男爵領が王家直轄地に変わるそうです。

代官として、うちの領主様の友人が赴任するらしい。

新代官は王都住まいだったそうで、寒い辺境特有のあれこれを領主様がレクチャーしに行ってるんだって。


おかげで領主様の不在が多く、ソード君も忙しそう。

なにせ渓谷を渡れるのは、ここから100km近く南下したところの大型渡し船だけ。

その場所から男爵領の領都まで、更に80kmほど。

うちの街から直線距離なら60kmくらいらしいから、すごく遠回り。

雪上車の最高速度が30km/hくらいだから、往復するだけで十二時間。

……お疲れさまです。


男爵領は元々、森の木を薪にして王都に大量販売することで繁栄したらしいが、石炭ストーブの普及で薪の需要は激減。

さらに魔道具温風機が発売されたことで、今後の薪の需要もお先真っ暗。

現在は建材として細々と販売してるらしいが、建材は毎年消費されるものじゃない。

他にめぼしい産業もなく、領民の流出も止まらず、衰退まっしぐらな領らしい。


なんでこんなお荷物領が王家直轄地になるのかと思ったら、魔道具の機密保持が理由だった。


以前の襲撃、隣領の男爵が犯罪者集団に依頼していたことが判明。

男爵は犯罪者集団にさえ信用されない人格だったらしく、成功報酬の支払いを確約する領主印付きの念書を取られてた。

その念書には落ち目男爵では到底払えない成功報酬が書かれてて、有力な後援者がいなければ履行不能な額。

男爵に犯罪者集団を殲滅するほどの武力は無いので、事後の証拠隠滅は不可能。

こうなると男爵領と接してる寄り親の侯爵が怪しいが、証拠は無い。

しかも男爵、王都への護送中、隠し持った毒薬で自害してる。

なぜか侯爵領に入ってから。

自害の報告も侯爵からで、真偽は不明。

侯爵怪しすぎ。

ならば男爵領を王家直轄地にして信頼の置ける代官を派遣し、うちの領を守ろうということになったらしい。


このあたりの対応の速さは、王政ならではか。


子爵領と共同で機密保持するために、子爵様と学生時代から親交のある友人が代官に抜擢されたんだって。


ソード君の話では魔道具の機密保持のためだけど、魔道具、もう王都でも作れるよね。

強権発動して研究所支部やソード商会ごと王都に移転すれば、わざわざ最辺境の領を保護する必要なくなるよね。


……自意識過剰かもしれないけど、多分賢者関連なんだろうね。

私、ここから離れたくないって言っちゃってるもんね。

…なんかすんません。


あと、乗っ取られた雪上車の乗員の安否も教えてもらった。

ちゃんと助かったそうです。よかった。


ソード商会員一人と護衛兵士一人が雪上に置き去りにされたらしく、教えられてたビバークの知識を使い、かまくら作って救援を待ってたんだって。

商会員が熱魔法を使え、かまくら内を温めて耐えていたところに、ソード君が派遣した状況確認の雪上車が間に合ったらしい。


ただ、それ以外のことは言いにくそうにしてたので聞かなかった。

なんでこの時期に、日中たった十五人程度で襲撃に来たのか不思議だったけど、私に言い辛いってことは、多分最初はもっと大人数だったってところかな。

そうなるとその人達は……はぁ。

でも、私は聞いてないから事実は確定してない。

気を使ってくれてありがとうね、ソード君。

私、ちゃんと覚悟したから大丈夫だよ。


そうそう。発明品はね、しばらくお休みにしました。

私自身が欲しい物を大体開発しちゃったってのもあるけど、ソード君がこれ以上忙しくなるのは嫌だからね。


しかも、丸投げ先のはずのマギ君と細工師の新商会、とんでもないことになってるそうなの。

私がぶん投げた旋盤とグラインダー、さらにソード君がミシンをマギ君に丸投げしたらしい。

製造系の商会の注文が殺到したみたいで、魔学研究所は製造に大わらわなんだって。


あれは製造現場の人からすれば救世主のような存在なんだけど、多分、需要そんなに無いと思って一緒に発表しちゃったんだろうなぁ。


更に、私が提出した魔力と植物の成長に関する不完全なレポートを完全なものにすべく、マギ君は前述の魔道具の水晶づくりとレポートの実験に忙殺されてるらしい。

食糧事情の改善は急務になるから、後回しには出来ないよね。

マギ君、ごめんよ。


そして公爵家の細工師商会は、四つ玉そろばんや万年筆づくりで手一杯なんだとか。

王家に献上されたことで、貴族の間では万年筆を持つのが大流行だそうな。

これは私も予想してなかったよ。

万年筆やそろばん、手作りだと難しくて時間かかるもんなぁ…。


みんなが忙しいの、ほぼ私のせいなので、流石に趣味の開発は自重してます。

さて、今日は何しようかな。


◇◇◇◇◇◇


「父上、お嬢に説明してきたぞ」

「ご苦労、どうだった?」

「あー、お嬢は多分気付いてるっぽい。雪上車の乗務員が助かったってとこは喜んでたけど、その後不思議そうな顔してたからな。だけど追求はされなかった」

「…やはりか。聡いお嬢さんだ」

「自分が相手の立場だったらどう行動するのか考えろって教えてくれたのもお嬢だからなぁ…。白昼たった十五人で街を襲撃。何がしたいんだって話だよな」

「複数の犯罪者集団二百人以上で街の中と外からの同時襲撃、研究所の魔道具を強奪した上に技師を誘拐して雪上車も強奪して逃走。本来の人数であれば成功した可能性が高いな」

「…実際は、外部襲撃組の半数以上が強化されていた南の街の検問で捕縛。残りのうち三分の二は、逃げたが装備不足での移動中に脱落して凍死。おまけに内部呼応組も裏通りに潜んでて、屋根の落雪に大半が巻き込まれて圧死。お嬢に冬場の発汗と落雪注意されてなかったら、俺も危なかっただけに笑えねえ」

「ああ、汗をかいての移動で低体温で動けなくなるとか、煮炊きや暖炉の熱で日中は裏通りに落雪が多いなど、聞いてはいても半信半疑だったからね」

「お嬢や兵士のみんなが、しつこいくらいに何度も話す訳だ」

「実際に体験して、ここの常識を知らないことがどれほど恐ろしいものかを思い知ったよ」

「お嬢曰く、『自然は恐ろしいものと思えたら辺境人』なんだとさ」

「むう…、至言かもしれんな」

「父上は隣領の友達にちゃんと伝えられたのか?」

「私も辺境初心者だからね。同行した隊長に語ってもらったが、最初は冗談だと思われた。前回と今回の襲撃のことを話したら、顔がっ引きつっていたよ。まあ、隣領の領都はここほどではないようだがね」

「そっか。…でも、後数ヶ月で雪解けだ。今度襲撃されたら、雪の守りがない分きついかもな」

「南の街での検問強化はかなりの効果があった。今回の凍死や圧死のことは王家にしか報告していない。公式の発表は、うちの兵士が全員を倒したことになる。これで少しでも襲撃を躊躇ってくれればよいが…」

「なるほど、兵が強いことをアピールするのか。…お嬢が言ってた万能兵士計画、新人にも拡大すべきかな」

「ん?なんだねその計画は?」

「お嬢は兵の忙しさを緩和するために提案してくれたんだ。でも多分、雪上を大荷物背負って高速で走り、5mの段差を飛び越え、数時間で小砦を建築可能。レベルプラス2くらい強くなって、持久力や技のキレも格段に上がる」

「なんだねその超人的な兵士は?」

「…俺、出来ちまう」

「…」

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