2月 1/3
女子会翌日ー。
雪は降ってるけど、風はないね。
さあ、身支度してみんなの朝食、準備しなきゃ。
リビング降りてきたら、もう姉妹ちゃんが起きてた。
既に暖炉に火が入ってるし、カーテン開けてある。
相変わらず働き者姉妹だね。
「おはよー。相変わらず早いね。寝心地悪かった?」
ぬお!?なになに?
突然おねえちゃんに抱きしめられてしまった。
うわ、更に妹ちゃんが後ろから抱き着いてきた。
なんぞ!?
「ありがとう。あなたが作ってくれたベッド、最高だったわよ。ふわっふわな寝心地で、しっかり熟睡できたわ」
「背中暖かくてすぐ寝ちゃったよ。ベッドやランプ、お姫様になったみたいだった」
えっと、このハグは感謝の気持ち?
なら嬉しいな。
「暖炉に火を付けるの、いつもは火で炙るようにしてるから時間かかるんだけど、燃えてる薪を想像したら簡単に火がついたわ」
「顔洗う時、試しにお湯を想像したら、ちゃんとお湯が出来たの」
「あなたのおかげよ。これで私たち、次の段階に進めるわ」
おお、やっと開放された。
でも、お胸気持ちよかったです。
いかん、そうじゃない。えーと…。
「次の段階って?」
「「魔力変換水晶づくり」」
おお、見事にハモった。
さすが姉妹。
でも、魔力変換水晶は簡単だぞ。なんで段階になってんの?
「変換水晶って、対象の魔法使えるなら勝手に出来ちゃうよね?」
「え?みんな苦労してるわよ?」
「まじで?」
「大まじよ。見習いの卒業試験なのよ」
「んーん?どゆこと?」
「…ひょっとしてそんなに簡単に出来ちゃうの?」
「うん」
「「…教えて!」」
「いいけど、先に食事しない?お腹空くよ」
「そ、そうね。じゃあ支度しましょう」
みんなで畑に行って食べたい野菜を収穫してきたら、パスタ茹でます。
「このお鍋にお湯入れてくれる?ごぼごぼ沸いてるやつ」
妹ちゃんにお湯を頼みます。
「えっと、こう?」
おお、しっかり湯気が出てる。
「うん、ありがとう」
「そうか、水じゃなくてお湯なら、沸くのも早いわよね」
「うん、時間と燃料節約」
すぐに沸き立ったのでパスタ投入。
おねえちゃんにはベーコンときのこをバターで炒めてもらいます。
私は固形牛乳(水分抜いて粉にして冷凍してた)とスープの素、小麦粉をお湯で溶かし、おねえちゃんのフライパンにダイブ。
炒めてもらってる間に、妹ちゃんにはサラダ作ってもらってます。
さて、お皿お皿。
領主様が色んな種類の食器くれたから、いいのいっぱいあるよ。
今日はカトラリー、フォークだけでいいな。
おねえちゃんに塩コショウしてもらい、盛り付けたら完成です。
「調理時間、すごく短いんだけど…」
「実家じゃ火起こしからだから大変だったよね」
「余らせた時間は趣味に使うの」
「ほんと趣味のために生きてるわね」
「うん」
いい笑顔で返事してしまった。
みんなでわいわい朝食です。
ネージュ用は、短くカットしてスプーン付けました。
普段はネージュが食べにくそうだからパスタ作らないけど、姉妹ちゃん居るから作ってみました。
今日はネージュもおんなじ味付けだよ。
「あの短時間でこの味。さっきはお湯で何を溶いてたの?」
「水分抜いた牛乳と、スープの素と小麦粉。牛乳はそのままじゃ長持ちしないから」
「それも私たちは出来ちゃうのよね」
「うん、でも水分抜くと器の底に固まるから、粉にしとかないと溶けるのに時間かかるよ」
「長期保存できる牛乳、冬場なのにしゃきしゃきの野菜に採れたてトマト。王都の友達に話したら、夢物語って笑われるわね」
「夢の世界がここにあるよ」
「えへへ、いつでも美味しいのが食べたかったからこうなっちゃった」
「これも趣味の結果なのね」
「うん」
楽しく食事してみんなでお片付けしたら、ちょっと水晶採りに行きます。
「ねえ、おねえちゃん。薬草がわさわさ茂ってるよ」
「前回はここまで来なかったけど、これはすごいわね」
「でも、マギ君もやってるよ」
「そうだったわね。第三王子殿下もやってるのよね」
「その呼び方、公式の場以外ではしないほうがいいかも。なりたくてなったわけじゃないみたいだし、タメ口で話しかけるとすごく嬉しそうだし」
「商会長の友人とは聞いてるけど、タメ口なんて大丈夫なの?」
「ソード君の言葉遣いが悪いのって、マギ君が喜ぶからやってるみたいだよ」
「…まあ、私たちが会うことなんてないから大丈夫よね」
「いやー、一年以内に会う気がするよ。だって、未知なこと大好きだもん。あれは絶対また来るよ」
「まじで?」
「うん、大まじ」
「「…」」
晶洞では妹ちゃんに魔力放出してもらいました。
「ふわー!…こんなきれいな風景、物語の中にしかないと思ってた」
「そうね、これは感動するわね」
一人十本くらい水晶採って、リビングに戻りました。
ダイニングテーブルに着いて、実習スタート。
でも、私はパン生地捏ねてます。
「それ、お昼の仕込み?」
「うん、だから気にしないで。ところで変換水晶の作り方は習ったの?」
「まだよ。変換水晶にする魔法が複数出来るようになってから教わるの」
「じゃあ、説明するけど、呆れないでね」
「は?呆れる?」
「簡単すぎるのよ。水晶を指の代わりにして、水晶の先で魔法を発動させるだけ。ただし、魔力増し増しで」
「え?たったそれだけ?」
「うん、だから出来なくて困ってる人がいるってのが理解できないの」
「…やってみていい?」
「うん。水生成とかがイメージしやすいと思うよ」
空のコップを二人に差し出します。
「わかったわ。………これ、魔力が流れないわよ」
「魔力が足りないだけ。コップじゃなくて桶を満杯にするつもりでやって。こぼれても拭けばいいだけだから」
「ちょびっとしか出ないー」
お、妹ちゃんは出来たね。思い切りいいな。
「それを十回繰り返すの」
「妹に先越された」
「焦らなくても出来てるよ。ほら、水が垂れそうになってるもん」
「あ、ほんとだわ。これを十回ね」
「ねえ、コップ溢れそうだよ」
おっと妹ちゃんはもうそこまで来たんだね。
コップをお鍋に変更です。
「私もお願い」
はいはい、お鍋ね。
「一杯になったけど、これでいいの?」
「うん。ちょっとまってね」
鍋の水を捨てて、再度妹ちゃんの前へ。
「水晶、よく見て」
「あー、模様入ってる!」
「じゃあ、今度は水晶光らせてみて」
「あ、うん。わかった。…うわ!水出てる水!」
「はーい、水生成の魔力変換水晶の完成でーす!」
「私も出来たの?模様は付いてるけど」
おねえちゃんのお鍋も空にしました。
「…ほんとに光らせるつもりなのに水が出てるわ。ちゃんと出来てる」
「ね、簡単でしょ」
「じゃあ、今度は熱魔法の水晶作るわ」
うん、お鍋の水を加熱するんだね。
あ、妹ちゃんもか。
「出来た…。じゃあ次は――」
「ちょっと待って。自分の魔力、どのくらい残ってる?」
「え?あ、半分もないわね」
「うん、変換水晶づくりは何度も多量の魔力使うから、それくらいにしといた方がいいよ」
「そうね。枯渇はきついわよね。…でも、わずか一日でここまで出来るなんて、思いもしなかったわ」
「あー、それ違うよ。いままでレベル上げしてずっと魔力制御頑張ってきたんでしょ。だから二ヶ月くらいの努力の結果だよ」
「…そうよね。ゼロから一日で出来たらばけものよね」
「うん。生まれたてでしゃべる赤ちゃんはいないよ」
「ぶは、たしかにその通りだわ」
「ねえ、私熱魔法で体覆うのと重量軽減で雪の上歩きたいんだけど、魔力足りない?」
「変換水晶作らないなら十分よ」
「「教えてください」」
おう、また見事なハモり。
極寒の雪国だから苦労してるんだね。
「じゃあまず熱魔法から。指先に暖かい程度で発動してみて」
「温かい程度ならすごく簡単に出来ちゃったわ」
「うん魔力もほとんど使ってないよ」
「じゃあ指の周りも出来る?」
「まあ、難しくはないわね」
「うん、できた」
「えっと、それが全身になるだけなんだけど…。わかりにくかったら指先からゆっくり全身に広げて行って。魔力増やしながら」
「「…」」
姉妹がチャレンジしてるのを、しばらく魔力感知で観察します。
おお、妹ちゃんの方は出来そうだね。
おねえちゃんは肩で止まっちゃってるかな。
「私、出来たかも。ちょっと全身が暖かい」
「私には難しいわ。肩で止まっちゃう」
「うん、それでいいよ。ただその包まれてる感じを覚えたら、一旦解除して」
「じゃあ、お風呂に浸かった時を思い出して。全身が暖かいでしょう。さっきの包まれた感じが、お風呂に入った時みたいに全身からするの。じゃあ、そのイメージでもう一度」
「「…出来た!」」
「これ、指から広げるより楽よね」
「うん、しかも魔力少しですむみたい」
「そうなのよ。指も全身も体なんだから、どこからでも魔法は発動出来るの。指から広げるより、近場から発動したほうがはるかに効率いいの」
「出来ちゃったわね。これで外で凍えなくてすむわね」
「後は重量軽減覚えなきゃ」
重量軽減はちょっとだけ難しい。
なにせ魔法には反作用が無いから、物を押したり引いたりしても、自分に反作用のベクトルは掛からないんだよ。
だから動かす対象を自分にして、上方向にベクトル掛けなきゃいけないの。
「えっと、妹ちゃんは物を引っ張り寄せる事は出来る?」
「うん、それくらいなら出来るよ」
「じゃあ、座ってテーブルに左腕置いて力抜いて、魔法で持ち上げてみて」
あ、おねえちゃんも一緒にやってる。
「えっと、こうかな?…うわー、左腕がなんか変な感じ」
「もっと弱く、腕が持ち上がるぎりぎり。浮きそうで浮かない感じね。重量軽減は自分を浮かせようとすると、さっき話した生物創造みたいに規制に引っかかるのよ。だから浮く直前までね」
「あ、なんか腕が軽くなった」
「その感覚が大事なの。お風呂に入った時みたいに全身が軽くなった感じで全身から魔法発動」
「えっと、身体全体がふわって軽くなった感じで…うわっ!出来たけどびっくりして解除しちゃった」
妹ちゃんは感覚型かな。魔力消費は少し多そうだけど、イメージ優先で発動出来たね。
「やるわね。私まだなのに」
「妹ちゃんは解除しないで歩いてみて。おねえちゃんは腕は軽くなるのよね」
「ええ。でも全身になるとイメージが出来なくて」
「熱魔法で覆うのをもう一回やって、そのままお風呂のふんわり感をイメージしてみて」
「全体を暖かく包んでそれから…、わ!私も出来たけど、これ、驚いて解除しちゃうわね」
「おねーちゃーん、雲の上歩いてるみたいだよー」
妹ちゃん、ふわふわしてるからって、喋り方までふわふわしなくていいよ。
「ほんとね。これはふわふわだわ」
「飛んじゃだめだよー。天井に頭ぶつけて、痛くて魔法解除しちゃって落ちるよー」
おっと、私までふわふわ喋りになっちゃった。
姉妹ちゃん、しばらくふわふわウォークしてたら、ネージュまで参加しちゃった。
妹ちゃんよ。魔力制御の練習がてら、粘土で動物作るんじゃなかったの?
「私、かける君整備に行ってもいい?」
「あ、ごめんなさい。楽しくてつい」
「いや、遊んでていいよ。私はかける君整備したいだけだから」
「将来の参考に、私も見ていい?」
「どうぞどうぞ」
妹ちゃんとネージュのふわふわウォークを横目に、ガレージに向かいました。
「車って、乗るたびに整備するの」
「うん、簡単に足回り点検して、核の補充とボディ拭くだけだけどね」
「点検大事よね。一度事故にあった身としては、特に思うわね」
「あれは設計ミスだと思うよ。当初二人乗りで設計したのに、六人乗りに変更しちゃうんだもん。足回りの強化、足りなかったんじゃないかな」
「そうだったの?でも、あなたの車は丸太何本も積めるんでしょう」
「元々重量物積む設計で足回り強化してあるし、荷物用の重量軽減も付いてるからね。スキー板、分厚くて広いでしょ。屋根の後ろには水晶見えてるし」
「ほんとだわ。…でも、こんなの作っちゃう人なんて、他にはいないわよね」
「あー、他の人との比較は止めて。ズルを褒められたみたいでいたたまれない」
「え?どうしていたたまれないのよ。誇れることでしょう?」
「えっとね、おねえちゃんが何らかの原因で身体幼くなっちゃって、もう一度学校入ったら天才って呼ばれない?」
「それは…結構恥ずかしいかもね」
「私、友達作りにいいからって学舎に連れてかれたことあるの」
この世界、国語、算数、社会みたいな内容を教える学舎っていうのがあるんだ。
辺境じゃあ、親の跡を継ぐからって、行かない子も多いんだけどね。
入る年齢もばらばらだから、クラス分けのための口頭テストがあるんだ。
その結果、私は入学を止めた。
「辺境じゃ、入学年齢ばらばらなんでしょ?」
「うん。振り分けテストの結果、五歳の私が一番だった。二番の八歳男の子は、結果を見て悔しそうに泣いてたの。私は、ズルして本来一番だったはずの子の努力を踏みにじった気がしたわ。だから入学しなかった」
「…あなたが有名になりたがらない理由が、やっと理解できたわ」
「うん。だから誰かと比較して褒められるのは辛い」
「ごめんなさい。いじめてるみたいよね。もう誰かと比較して褒めるのはやめるわ。でも、あなたに感謝するのは止めないわよ。私たちは、あなたのおかげで変換水晶作れるようになったんだから」
「それも二人の努力の結果だから、自分を褒めるべきじゃない?」
「努力が報われるきっかけを貰って、私たちが嬉しかったから感謝したの。それじゃあダメなの?」
「…ごめん、ちょっと口頭テストのこと思い出しちゃって、褒められたり感謝されることに過敏になってたかも。感謝はきちんと受け取るべきだね」
「うんうん。よくできました」
あれ?頭なでられたけど、今、褒められたよね。
でも、なんか嬉しいぞ。
うーん、こういうとこが姉属性なのかな。
おねえちゃんは、ボディ拭きも手伝ってくれました。
整備終わってリビングに戻ったら、妹ちゃんがへばってた。
「おねえちゃーん、遊びすぎて魔力がー」
「お馬鹿」
妹ちゃんは、しっかり妹属性な気がする。
今日のお昼は惣菜パン焼くつもりなので、そろそろ準備始めます。
一次発酵終えたパン生地をカットして適当に丸め、しばしティータイム。
ベンチタイム終わったら、成形です。
成形は魔法でやるんだけど、妹ちゃんは魔力回復しきってないので、手で成形。
動物の形とかどう?と、ぼそっと言ったら、嬉々として作ってます。
私は具材詰めながら、オーソドックスな形にします。
あ、おねえちゃんは花とか果物なのね。
ネージュはキノコ型。
なんでそんなにきのこ好きなのかな。
成形できたので、二次発酵タイム。
「王都じゃパンは買ってたから、初めてパン作ったわ。結構楽しいわね」
「うん、出来上がり楽しみー」
「焼くと匂いでお腹が空いてくるんだよ」
「ああ、パン屋さんの匂いね。あれは効くわね」
「私、思い出しただけでお腹空いてきちゃった」
焼くのは一時間位後なので、まったり雑談タイム。
ネージュはしっかり妹ちゃんが確保してます。
今度は姉妹ちゃんが王都の話をしてくれたけど、王城では特に夏の暑さがひどいらしい。
まあ、お城なんて、万一のために開口部少なくしてあるもんね。
しかも催事なんかあると、人の熱気と相まって、部屋に陽炎が立つんだって。
思わずしかめっ面したら、理解してくれる人は珍しいと言われてしまった。
大抵は王城や人の多さに憧れられるらしい。
なして?
雑談してたらいい時間になったので、パンを焼き始めました。
またしばしまったり。
やがて室内にパンの匂いが充満し、お腹が空いてきた。
換気してるのにこの匂い。
パンって匂い強いよね。
美味しい匂いだからいいけど。
焼き上がったので、粗熱取ったら昼食です。
「かわいく作ったから食べるのかわいそう…」
「ごめんなさい。仲間が欲しくて唆しました」
「ああ、自分もやっちゃったのね。私も失敗したみたい。美味しいんだけど、りんごの形なのにコーンの味がするわ」
みんなやっちゃわない?
成形楽しくて、つい色々な形にしちゃって、食べる段になって気づくの。
みんな仲間になろうよー。
昼食終わってお片付けしたら、お泊り会はそろそろ終了です。
夕方になって吹雪かれたら、もう一泊になっちゃうからね。
みんなでかける君に乗って、街に出発です。
うん、吹雪いてはいないけど、風も付いててちょっと怪しい。
早くに出て正解かも。
領主館に到着したら、中には入らず門の前でお別れです。
だって、中入っちゃうとお泊りコースになりそうだもん。
「二人とも泊まりに来てくれてありがとう。すごく楽しかったよ」
「お礼を言うのは私たちの方よ。あれだけ歓迎されたら、あなたのおうちに住みたくなるわね」
「私も住みたくなった。ネージュちゃんもいるし」
「あはは、連休できたらまた来てね。連休じゃなくてもお泊りだけでも大歓迎だし」
「ええ、また連絡するわ」
「じゃあ、またね」
挨拶終わってかける君発進。
ずっと二人とも手を振ってくれてるよ。
早速熱魔法と重量軽減魔法使ってるね。
ああ楽しかった。
じゃあ、おうち帰ろうね、ネージュ。
おうちに帰り着いたらちょっと吹雪きかけてた。
かける君整備してリビングに入ったら――
あれ?なんでだ?ちょっと寂しいぞ。
少し前まで姉妹ちゃんがいたリビング、今はネージュと二人だけです。
なんだかやる気が出なくて、夕飯前までネージュとゴロゴロしてしまった。
夕食もいつも通りなのに、なんか寂しい。
うにゅ。今日はさっさとお風呂入って寝てしまおう。
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