1月 3/3

おはようございます。私です。

一月もそろそろ終盤、おそとは依然として極寒です。


苦労の末、ようやく完成した卓上旋盤で、まずは断念してた四つ玉そろばん作りました。

こっちのそろばんって、玉はでかいし玉十個だし軸は滑り悪くて引っかかるし、すごく使いにくいんだよ。

街で買い物するたびに、お店の人が苦労してるの見てて作りたかったんだ。

鍛冶屋のおじさんなんて、お客のはずの私に計算させるんだよ。

でも、同じ形の小さなそろばん玉、いっぱい作るのすごく大変だから断念してたんだ。


出来たそろばんは日本の標準的なそろばんを、三分の一くらいにカットしたサイズ。

足し算しか使わないつもりで、桁数は七桁にしました。

携帯性と操作性に優れた一品だよ。

あと、乗除算用に計算尺も作ったよ。

これでお店の人も、少しは楽になるかな。


でも、グラインダーと旋盤の削りカスすごいから、魔道具の工房とは別に、工作室ほしいんだよね。

小屋の地下室、丸太が減ったら工作室にしようかな。


ベアリングが来たから洗濯機も改修したよ。

脱水、高速になっていい感じです。

なので姉妹ちゃんにもプレゼントしたいんだけど、引く手あまたの高額商品だから、これはソードくんと相談しよう。


さて、吹雪いてないから納品に行こう。

ネージュ、街行くよー。


今日はお布団もらってくるつもりなので、かける君にコンテナボックス積んでお出かけです。


北門前の道、雪ブロックがかなり延長されてる。

私が手伝うまでは平スコップで掻き出してたから小山だったけど、重量軽減魔法使える人を頼んだみたいだね。

うんうん、冬場の野外作業は楽にするのが一番だね。


ソード商会に着いたら、今日はソード君いたね。

納品済ませて、執務室でご相談。


「洗濯機なんだけど、私が作って姉妹ちゃんに贈るのはまずいかな?」

「ん?ああ、館の洗濯用か。もう作ったぞ」

「ふえ!?まじ!?」

「ああ、お嬢に凍傷の話聞いて気になったから、俺が作った」

「ぶー、私が贈ろうと思ったのにー!」

「いや、それはまずいだろ。お嬢と友だちになったら高価な希少魔道具もらえるなんてなったら、エセ友だちが押しかけるぞ」

「うげ。でも領主館への寄贈のつもりだったんだけど…」

「あほ、それじゃあお嬢が高位の魔道具技師だってバレるだろ。館の洗濯するのは下働きが多いんだ。秘密漏れるわ」

「ソード君が持ってってくれればいいかなって」

「俺が空荷で雪上車で街から出て、帰りは洗濯機乗っけてんのか?情報屋の餌食だぞ」

「ごめん。そこまで考えてなかった。やっぱりそういう人たちって入り込んでるんだ」

「まず確実にな。例の裏で凍ってた奴らも、数日前に冬期労働者として入り込んでたからな」

「そっかー、気を付けるよ」

「おう」

「そうだ、今日はついでにこれ持ってきたの」

「ん?そろばんと定規か?」

「この定規、掛け算と割り算が出来るの」


使い方を説明したら――


「ひでえ!以前計算の仕方お嬢に聞いたら、一桁の掛け算暗記させられたのに。これ、暗記いらねーじゃん!」

「これは二桁までしか出来ないから、三桁以上扱う人は使えないよ。街の大人の人で、計算出来ない人のために作ったの」

「…汎用性求めるなら暗記したほうがいいのか。大人って、今更暗記してまで計算しなきゃいけない奴は少ないか…」

「うん、計算必要な人は暗記してるはずだもん。これはたまにしか計算しない人用」

「そうだな。こっちのそろばんは?」

「持ち運び簡単で、素早く計算できるんだよ」


試しに五桁六桁同士の足し算披露してみた。


「はええ!これまでのそろばんは途中で引っかかったりして数字忘れることもあったけど、こんだけスムーズだと失敗しにくいな!しかも五以上の数字、数えなくてもわかる」

「うん、これも効率重視で時間節約出来るでしょ。五つくらいあげるから、商会で使って」

「よくこんなに小さい玉、いっぱい作ったな。きちんと形も揃ってやがる」

「それ、ベアリングで旋盤作ったから出来たんだよ」

「いまいち実感してなかったが、旋盤って便利なんだな」

「うん。大量に同じもの作るのには必須だよ」

「マギの功績、思ったよりでかくなりそうだな」

「じゃあ、追加でこれも作ってもらって。マギ君、講義に使えると思うから」


研究所の講義用にと、黒板とチョークの構想図も渡しました。


ソード商会を出て、雑貨屋さんに到着。

不足してた日用品と、注文してたなめし革と新品のお布団二セット買ってトランクボックスに詰め込み、おうちに帰りました。


帰宅したら、せっせと客間改装。

ベッドも作り直しちゃうよ。


ホワイトオークの無垢材で、ヘッドボードは上部を雲みたいな形にして、スリムな棚付き。

しかも下部収納二つ。


そして極めつけは、暖房機能付きエアーマットレス。

板の上に敷布団だけじゃ硬いから、マットレス出来ないか悩んでたんだよね。

色々試行錯誤してたら、なめし革を融着出来ることに気づいたの。

座布団サイズでエアーマット作ってみたら、空気漏れはかなり少なかった。

それで、魔道具で送風し続けてみたら、座ってもいい感じに膨らんでくれるの。


送風の魔道具って、自分で空気を発生させて風にするから、加圧力高いんだよ。

もうエアーマットレス作るしかないよね。

送風を温風にしたら、背中からじわじわ温めるマットレスの出来上がり。

自分のベッドに導入したら、すげー寝心地よくて暖かだった。


姉妹ちゃんからお泊りのご予約来ちゃったから、もうテンション上がっちゃって、今回の改装騒ぎになりました。


ヘッドボードにはユリの水晶ランプが置いてあります。

白い石英で花を作ったんだけど、ネージュが手伝ってくれました。

やっぱりネージュの魔法制御、すごいわー。

おっと、改装に夢中になってたら、もう夕方だった。

食事の支度しよう。


食後、お風呂入ってて気付いた。

姉妹ちゃんとお風呂入りたいけど、三人プラスネージュ、いけるかな?

寝る前に、シャワーヘッドと風呂桶作って寝ました。

おやすみー。




朝だよー。

よし、晴れてる。

吹雪いてたらお泊り会、流れちゃうからね。


今日はダッシュで日課終わらせて、納品がてら姉妹ちゃんを迎えに行くんだ。

姉妹ちゃんのレベルアップ用にスライム溜めとこうかって聞いたら、急激にレベルアップして制御が追いつかないから、商会関係者は多種類の魔法が使えるようになるまではレベル5で止めてるんだって。

うん、ソード君の時もそうだったよね。

なので、しっかりぷすっときます。


私も明日は日課含めてお休みにしたいので、ポーションと通常薬は多めに作っておきます。


畑のお世話で色々食べ頃な野菜見つけたけど、新鮮な方がいいから、姉妹ちゃん来てから一緒に収穫して食卓に並べよう。


水田は結構穂が垂れてきたけど、収穫までもう少しってとこだね。

残念、新米食べさせてあげたかったんだけどな。


お出かけ待ちきれなくてお昼は簡単に済ませたいとこだけど、ネージュの保護者としてちゃんと作ります。

食休みも済ませたら、いよいよ出発です。

ネージュ、街行くよー。


外は雪がちらついてるけど、山脈見えるから吹雪そうにはないね。

北門前の雪ブロック、二段積みになってる。

なるほど、地吹雪で飛ばされる雪をガードして、除雪箇所を防御してるんだね。


いつものように門番さんに挨拶して街の中へ。

姉妹ちゃんを館に迎えに行く前に、まずはソード商会に納品です。

こんちわーって、なんで姉妹ちゃんいるの?予定変更?ひょっとしてお泊り会お流れ!?


「大丈夫よ。午前の講義がちょっと長引いただけだから。もう終わったからそんな顔しないで」


はふー、びびった。

でも、おねえちゃん、私見ただけで考えてることわかちゃったの?


「思考解読魔法!?」

「そんなへんてこな魔法、使えないわよ。あなた、顔に出過ぎなだけよ」

「あう、ちょっとびっくりした」

「荷物も持って来てるから、今からでも行けるわよ」

「よかった。じゃあお薬納品するから、ちょっとだけ待ってて」


そそくさとお薬納品。

あ、四つ玉そろばん使ってくれてるんだ。

音が、ガンゴンじゃなくてパチパチになってる。

うん、計算も早くなってるね。


納品終わって姉妹ちゃんとかける君に乗車。

二人乗りだけど、座席はソファーだからなんとか三人乗れます。

荷物はコンテナボックスね。

ネージュは当然のように妹ちゃんが抱いてた。


考えてみたら、おしゃべりしながらかける君でドライブするの、初めてだな。

なんか楽しいぞ。


「この雪上車、すごいわよね。荷物たくさん積めるのにかわいいわ」


わーい、かける君褒められたー。


「えへへ、ありがとう。荷物用にも重量軽減水晶使ってるからね。でも、そのうち個人用の車が当たり前になっちゃうかもね」

「私、前に見た雪像の乗り物がほしい」


おお、妹ちゃんはねこバス支持者なんだね。


「あれは数十人乗れるから、ちょっと大きすぎない?」

「そっかー。でも、かわいいのがいいな」

「長く乗るならかわい過ぎるのは大変かもよ」

「そうね。うちの母の年代になって、かわいい車に乗ってたら合わないわよね」

「う、想像しちゃった。…それは困るかも」

「作る側としては、長く愛着持って乗って欲しいよね」

「そうよね。私たちも将来は作る側になるのよね」

「多分半年以内にはね」

「そうだったわね。自分の事なのに、まだまだ先だと思っちゃってたわ」

「ひょっとして、あんまり進捗ないの?」

「ええ、私たちは来るのが遅かったから、どうしてもみんなより遅れてるわね。あなたに言われて魔力制御に主軸を置いたら、使える魔法の規模は上がったけど、まだ新しい魔法は覚えられてないのよ」

「お水の生成はどれくらい?」

「コップ半分だったのが水桶一杯分にはなったわ」

「それなら十分に…ああそうか!二人は雪が積もってからこっち来たのよね。じゃあズリ山レンガ、体験してないからだ」

「話は聞いたことあるけど、体験はしてないわね」

「レンガ作りは“変形”、“加熱”か“水分蒸発”、“圧縮”、“融着”を使うから、レンガ作るだけで四種類は覚えられるのよ。無意識に感覚で全部使うから、構えて個別に覚えようとするより楽なのかも」

「あれって、土を固めるだけじゃないの?」

「おうちに着いたから丁度いいね。実際に見た方が覚えやすいから、今からやってみる?」

「新しい魔法覚えられるなら、是非やりたいわ」

「妹ちゃん、粘土で動物づくり、やる?」

「やる!!」


ガレージにかける君入れたら、良さげな粘土を壁に穴開けて採取して、暖炉前に移動します。

作業用の厚めの布を敷き、教材広げたら粘土遊び開始です。


「まずは小さなレンガを作ってみて」


私は、粘土から数センチのレンガを見本に作り出し、姉妹ちゃんにも作ってもらいます。

うん、形は少し歪だけど、ちゃんと固まってるね。


「そのレンガ、割ってみて」


それぞれ作ったレンガを割ってもらいます。


「割れた断面、粘土に見える?」

「…水分が無くなってるわね」

「これで“変形”と “加熱”か“水分蒸発”か“水分消去”、二種類の魔法は使えてるってことだよね」

「…そうなるわね」

「今度は断面をこすり合わせてみて」

「え?こう?」


ぽろぽろと断面が崩れ落ちて行きます。


「落ちたカスって大きさまばらだけど、指で潰せる?」

「…指じゃ無理ね」

「それ、“融着”しちゃってるよ。これで三つは使ってるよね。今度はこれね」


粘土から陶器のような四角いマスを作り、マスを粘土で埋めます。


「今度はこの中の粘土、レンガにしてみて」

「あれ?ちっちゃくなっちゃったよ」

「“圧縮”しちゃってるね」

「…ほんとだわ。私たち、規模は小さいけど、ちゃんと四種類使えてるんだわ」

「魔法の規模や強さを上げるのって、何だっけ?」

「それは魔法制御が重要なんだしょう。だから練習してるんだし」

「うん。魔法制御、上がってるんだよね?コップ半分だった水が水桶サイズになるほどに」

「…私たち、ほんとはもう、出来るの?」

「うん。じゃあ、粘土からコップ作って水入れてみて」


多少時間かかって多少歪だけど、二人ともコップは出来たね。

水生成はよく使うから楽勝だよね。


「その水、どれくらいの温度?指入れてみて」

「え?温度って…普通に水よ」

「なんで凍ってないの?それって、水を作りながら、同時にある程度の温度を与えてるってことだよ」

「あ、そうなるのか。え?ひょっとしてお湯や氷も出来るの?」

「うん。でもその水を、氷やお湯にする方が楽だよね。水作らなくていいんだもん」


おねえちゃん、コップに手をかざして魔法発動。

おお、湯気が出てきたよ。


「出来た…熱魔法」

「違うよ。前から出来てたの。規模が小さくて気付かなかっただけ」


カラン

あ、妹ちゃんはコップに氷入れちゃってるよ。

冷やすつもりが氷生成しちゃったんだね。


「あれ?氷入っちゃった」

「水を凍らせるより、氷作る方が面倒なのに…」

「あれれ?」


その後粘土で、ミニチュア動物や果物なんかを作ってたら、夕方になってた。

妹ちゃん、作品は持って帰って飾るそうです。


みんなでお片付けして、みんなで食事の支度。

なんか楽しいぞ。


今日のメニューはマカロニグラタンとフリーズドライスープとサラダです。


「このスープの素ってホント便利よね。お湯掛けるだけなんて、自分でやってるのに信じられないわ」

「あの、そのスープの素、もう姉妹ちゃん出来るんだけど…」

「え?うそ!?」

「さっき粘土の水分無くしてたよね。出来たスープから水分無くして固めるだけなんだよ。私も最初は“水分消去”に気付かずに、葉っぱ一枚カラカラにするのに魔力全部持ってかれてたの」


うん、あれは前世の知識が悪影響した結果だね。

減圧や昇華させること考えちゃって、魔力バカ食いしてたもん。


「…ほんとに私にも出来ちゃうの?」

「出来ないと思っちゃだめだよ。粘土の水分あれだけ抜けるんだから、出来るのが当たり前なんだよ」

「おねえちゃん、私、今日気付いたの。魔法って、以前の私みたいに『どうせ出来ないんだ』って思ったら失敗するの。ほんとは出来ることなのに自分で失敗させてるんだって」

「おお!妹ちゃん大正解!!」

「…参ったわね。今も自分で『出来ない』って思い込んじゃってた。魔法は遊んで覚える。ほんとよね。最初から出来ないって思って遊ばないわよね」


むふふ、姉妹ちゃんが気付いてくれたよ。

いくら他の人から聞いても、自分がそう思わなきゃ発動してくれないんだよね。


「あーあ、これからは周りの人から羨まれる実力の姉妹になっちゃったね」

「まだ商会長やあなたには及ばないけどね」

「ただ、魔法制御力やレベルが違うだけ。時間さえあれば誰でも追い付けちゃうんだよ」

「そうね。あなたが言った『半年以内』。今やっと、本当に信じられたわ」


みんなでお話しながらの夕食、やっぱり楽しいな―。


夕食の後はお風呂タイム。

みんなで無理やり入るんだ。

ネージュ、お風呂行くよー。


お風呂では、ネージュが妹ちゃんに洗われまくってた。


「あと半年以内に、このお風呂も作れるようになっちゃうのよね」

「私はネージュちゃんが欲しい!」

「いや、いくら魔法でも、さすがにネージュは作れないから」

「あー、魔法を否定しちゃだめなんだぞー」

「うわ、妹ちゃんに諭された!?」


妹ちゃん、本気でやりそうだから多分例の規制でぶっ倒れるな。

お風呂出たら規制の話ししとこう。

あれ、ちょっとでも疑っちゃうと魔法発動せずに魔力消費しないけど、発動しそうになると規制で魔力空にされるからな。


姉妹ちゃんの衣服を洗濯しながら、みんなでリビングでお菓子食べつつ女子会。

話す内容が恋愛系じゃなくて魔法関連だけど、一応女子会だよね。


夜も更けてきたので、そろそろ就寝です。

エアマットはさっき動作させてきた。

ベッド、気に入ってくれるかな。


「ねえおねえちゃん、ベッド増えてるだけじゃなくてすごく高そうなのになってるよ」

「そうね。しかも女性用っぽい作りよね。…あの子、私たちのために作ったんじゃないかしら」

「すごく嬉しいんだけど、なんでここまでしてくれるんだろう?」

「商会長言ってたでしょう。あの子にとってはここまで嬉しいことなのよ」

「…私、王都の友だちよりも、あの子のことを大切にしたいんだけど」

「私もよ。王都の付き合いでは、良くも悪くも打算的な部分があるわ。でも、あの子は打算ゼロで真っ直ぐな好意を向けてくれる。まるで妹が増えたみたいな気になるわ」

「あ、じゃあ私、お姉さんだ!」

「ふふふ、三姉妹ね」

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