1月 2/3

翌朝、枕元にしめじハウスが出現してた。


どうやら私が早くに寝込んじゃったから、ネージュが暇して余ってる木材で作っちゃったみたい。

中でネージュが気持ちよさそうに眠ってた。

私が作ろうと思ったのに、ネージュに先を越されてしまった。

多分雪ハウス作りして、自分のおうちも作れるって気付いちゃったんだね。


体調?お食事中の方はごめんね。

朝のトイレでいっぱい出て、やっとすっきりしたよ。


さて、ネージュに朝食作ったら、私はかける君の整備しよう。

いや、朝も食べる気になれなかったんだよ。


足回り点検してからボディ拭いてたら、ネージュがやって来たのでぷすりに行きます。


まるっと二日放置したトラップタワー。

奴ら結構溜まってた。

まあ、一週間くらい放置できる容量に改造してあるから、溢れる心配はないけどね。


ぷすり後、薬草のお世話してからポーション作り。

あ、ネージュ、今日は行っちゃうのね。

効率悪いけど、ポーション一個分の薬草摘んではポーション作ってを繰り返します。

こうすると、はかるん値6.0超えるんだよね。

今日は十六本出来たね。


じゃあ、お野菜と稲のお世話しよう。

畑は少しずつ規模を縮小してってます。

いっつも余っちゃって、お裾分けに行ってるからね。


そして水田。

稲が出穂しましたー!

少しずつだけど、稲穂が垂れだしてるんだよ。

あと一ヶ月くらいで収穫できるかな。

植えたの九月だから、四ヶ月くらいで収穫になっちゃうよ。

そういえばお野菜も成長早い気がする。

こっちの植物って生長早いのかな?

ポーション薬草なんて、ちょっとの魔力で急成長するし。


ん?

…ひょっとして普通の植物も魔力で成長早まるのか?

そういえば中央と東の森、ダンジョン近くの木、太くないか?

茂みも多いよな。


…実験してみよう。


ということで、新たに小部屋を二つ作りました。

一つは薬草畑横にドアにスリット入れて、もう一つはガレージ横に、外からしか入れない小部屋を作りました。

とりあえず、数種類の野菜の種植えて観察してみよう。


日課の後に小部屋作ってたら、やっとお腹が空いてきた。

よし、お昼作ろう。


二十四時間ぶりの食事、おいしかったよ。

しかし、薬師が食べ過ぎでダウンなんて、信用問題だね。

今度からは、残して持ち帰ろう。


食後はネージュとまったりしてから小物制作です。

館で姉妹ちゃんから聞いたんだけど、タダで住まわせてもらってるからって、家事の手伝いしてるんだって。

身分の区別なく頑張りたいからって下働きと同じ作業を手伝ってるらしいけど、洗濯と料理の下ごしらえで苦労してるらしい。


洗濯機は需要が多すぎて、館に導入出来てないみたい。

手洗いだと、この時期のお水は冷たいよね。

洗濯機作って贈ろうかと思ったんだけど、どうせならベアリング使って完全な物を贈りたいので、今はベアリング待ちです。


下ごしらえは、特に根菜類と芋の皮むきが大変なんだって。

実家では、皮むきとかは下働きの人がやってたらしく、包丁扱いが苦手らしい。

なので、スライサーとピーラー作ろうと思って。

うちでも使ってるけど、単純なものだからソード君には報告してないから、街に出回ってないんだよね。

あと、女の子グループだけのお揃いの小物を持ちたくって、携帯用ミラーも作るつもり。


スライサーとピーラーは、刃以外は硬化粘土製。

陶器みたいでちょっと重いけど、木だと濡れて傷みが早いからね。

刃は錆防止にステンレスで作りました。

オールステンレスでも良かったんだけど、世間的にはステンレスが高いので、安く見えるようにしたんだ。


私、昨日学んだもん。

高そうに見えるものは、受け取る側のハードルが高くなるって。

え?洗濯機?

…出来てから考えるよ。


携帯ミラーも、コンパクト型は止めました。

だって、装飾したくなるから、高く見えちゃうもん。

だからベースは3cmx7cmの長方形の木製。

角を丸めて、ちょこっとだけかわいくしてあります。


ベースに一回り小さめのステンレス鏡をはめ込んで、石英ガラスでコーティング。

蓋は木のスライド式。

無地は寂しいので、蓋にネージュのシルエット入れました。

キーホルダーっぽくカラビナ付けたら出来上がり。

うん、高そうには見えないぞ。


む、にゃんこの顔型のコンパクトとかもありだな。

でも、木製だと万一顔が割れたらかわいそうだし、金属製だと高そうに見えるよな。

よし、貴族様用装飾付きコンパクトと、猫顔コンパクトは設計図だけ書いて持っていこう。


魔道具じゃないから、ソード商会から雑貨屋さんに丸投げしてもらえば、ソード君は忙しくなんないよね。


小物作ってたらいつの間にか夕方になってた。

そうだ、しめじハウスに敷物作ってあげよう。

ささくれとかはきれいに処理してあったけど、敷布団的な物があった方がいいよね。

綿と布とミシンで円形敷布団作ってたら、ネージュにご飯を催促されてしまった。

ごめんよ。もうすぐ出来るからね。


ネージュと食事したら、昨日すっぽかしたお風呂に入ってからいざ寝室へ。

どう?、どう?ネージュ?


ネージュ、しばらくしめじハウスの中でくるくる回ってたけど、いい位置見つけて丸まりました。

うん、気に入ってくれたみたいだね。

じゃあ、おやすみー。




あーさー。

猛吹雪ぃー。

うん、この季節は仕方ないね。


いつもはネージュが先に起きるのに、今日はまだ寝てるね。

お布団暖かで気持ちいいっすか?

ネージュを起こさないようにこっそり起きて、朝の身支度。

窓の外は猛吹雪だけど、パジャマ姿でお湯で顔を洗える幸せ。

おうちちゃん、ありがとう。


着替えて朝食の準備してたら、ネージュが起きてきた。

ネージュ、おはよー。


朝食摂ったらいつもの日課。

ポーションは6.0が七本、9.0が二本。

5.0以上は一本500レアだし9.0以上は1,000レア。

合計5,500レア(約五十五万円)。

先日なんか9,000レア(約九十万円)だったよ。


いつも思うけど、私って儲けすぎじゃない?

まあ、本来は危険な森の中を複数人で薬草探し歩き、ダッシュで帰って調薬しても、ランク低いし数も半分以下だから、一人当たり500レア行かないだろうけど。

王都ではマギ君の薬草栽培が軌道に乗り始めたらしいから、そのうち高ランクポーションが量産されて値下がりしてくれるよね。


さて、吹雪も収まって来たから、お昼済ませたらお布団買いに行こう。

だって、姉妹ちゃんがまた泊まりに行きたいって言ってくれたから、客間のベッド増やそうと思って。


ついでに納品しようと、出来たポーション持ってかける君でお出かけ。

雪は舞ってるけど、吹雪きは収まってるね。


軽快に走って門の手前に来たら、なにやら渋滞してた。

大きな箱そりが何台も並んで、北門への道を塞いじゃってる。

ああ、生誕祭でお休みだったから、除雪量が多かったんだね。


箱そりの中は雪が満載で、数人がかりで、中の雪を道端にのろのろと掻き出してる。

さぼって嫌々作業してるんじゃないよ。

この時期の屋外作業では、汗をかくのは厳禁。

掻いた汗が冷えて、体温奪っちゃうからね。


あ、一人こっち来た。この反応はお兄ちゃんだね。

防寒対策でみんな目の部分しか出て無いから、魔力反応じゃないと分かんないんだよ。


「悪い、しばらく通れないぞ」

「うん、大変だね。みんな兵士さん?」

「ああそうだ」

「私が手伝ってもいい?」

「このメンバーなら大丈夫だぞ。頼めるか?」

「うん」


かける君を降りて箱そりに向かいます。

お、ネージュも来るの?じゃあ手伝って。

まず私が、箱そりの一つに手をついて重量軽減魔法発動。


「左右から持ち上げてひっくり返しちゃって」

「うお!マジで持ち上がるぞ。めっちゃ軽い」


おにいちゃん、何度も上げ下げしてないで、早くひっくり返してよ。

うん、大きな雪ブロックが転がり出ました。

箱そりを元に戻してもらって、一台完了。


「ネージュ、今のやり方で手伝ってあげて」

「みゃん」


ネージュ、一声鳴いて道の反対側の箱そりに向かいました。

私は次の箱そりに向かいます。


「いいよー」

「…」


ゴロン

よし、二台目完了。


「みゃん」


ゴロン

ネージュは一声鳴いて合図してるね。偉いぞー。

さて次だ。


「いいよー」


ゴロン


「みゃん」


ゴロン


「いいよー」


ゴロン


「みゃん」


ゴロン

よし、全部終わったぞ。


「おー、助かった。次回も頼む」

「あはは、タイミング合ったらね」


みんなが箱そり押して帰りだしたので、私もかける君に戻りました。


「ネージュ、ありがとね」

「みゃん」


道が空いたので、街に入りました。


ソード商会の方が雑貨屋さんより近いので、先に納品に寄ります。

あ、駐車場も除雪終わってるね。

雪に乗り上げなくて済むから良かったよ。


納品してたらソード君と姉妹ちゃんが帰ってきた。

ネージュは片手をあげて挨拶してる。


「おかえりー。生誕祭はおよばれありがとう」

「ようお嬢。その…生誕祭はすまなかったな。辺境では提供された食事残さないのがマナーなんだってな。隊長から聞いた」

「ああそっか!私の説明不足だ。このあたりじゃ食べきれない程は出されないから、ソード君に言ってなかった。ごめんね」

「お嬢は家庭教師じゃないんだ。抜けがあっても謝られることじゃないぞ」

「でも、身近にいるものが教えるのもルールだし…」

「俺もお嬢に話して無かった。貴族はもてなしの際は食べきれない量を出すのが普通なんだ」

「まじっ!?」


びっくりして思わずお姉ちゃん見ちゃった。


「本当よ。食べきれない量を出すほどもてなしてますって意味なの。もったいないわよね」

「そうだったんだ…。じゃあ今回は、お互いが一つずつ学んだって事だね」

「おう、そうだな」

「ところで、三人とも少し時間ある?」

「いいぞ、執務室で聞こう」


三人で執務室に入り、おねえちゃんが紅茶を用意してくれた。

妹ちゃんは既にネージュをもふりだしてる。


「ありがとう」

「いいえ。みんなが交代で休みとってるからね。味は保証できないわ」

「それじゃあ忙しいんじゃないの?」

「午後は荷受けと納品の予定だ。だが、今朝の吹雪で定期便の到着が遅れてるから、到着までは待機だ」

「そっか。じゃあまずはソード君にお願い。さっき来る時に兵士さんたちが除雪した雪を捨ててたんだけど、重量軽減使えないと大仕事だから、兵士さんにも順番に研究所の講習に参加してもらったらどうかな?」

「ああそうか、捨てるのは重くて大変だよな。でもなぁ、兵士たちかなり忙しいぞ」

「便利な魔法使えないから時間がかかって忙しいんだよ。例えば、レベル5くらいでスライムの核を一撃で破壊出来る人だけでも講習に参加させれば、習得はかなり早いはずだよ。そうすれば、極寒の雪上を重い荷物背負って平気で歩けて、レベルプラス2くらい強い兵士さんの出来上がりだよ。今まで複数人で長時間作業してたのが、一人で短時間で終わっちゃうから効率は段違いになるよ」

「そんなに早く習得出来るか?商会の連中でも覚えてるのは半数もいないぞ」

「覚えられた人って、武術やってる人で技がうまいんじゃない?」

「………まじかよ!全員力より技で勝負するタイプだ!」

「武術の技って身体をイメージ通りに動かそうとするから、半ば無意識に魔力で身体制御してるのよ。細やかに制御できるほど技の切れが良くなるはずよ。ソード君は魔力制御が先だったけど、魔力制御うまくなって急に強くならなかった?」

「…そうだった。レベル上げ中断してた時も、どんどん身体が思い通りに動くようになった」

「私、言ったじゃん。魔力制御次第で何倍も強くなるって」

「すまん、正直忘れかけてた。…上位者を一人ずつローテーションするくらいなら何とかなるか」

「覚えたら給金アップはお願いね」

「それは当然だな」

「おねえちゃん、これって魔力制御がうまくなったら、魔法覚えられる上に勝手に強くなるってこと?」

「そうらしいわね」

「実例が貴女の膝の上にいるよ」

「え?ネージュちゃん?」

「ネージュは魔力制御うまいから、私の魔法一回見ただけで覚えちゃうんだよ。そして私と出会ってから十日くらいで牙イノシシを一撃で倒しちゃった」

「みゃん」


あ、ネージュ、ちょっと胸張ってる。


「え?牙イノシシって、すごく獰猛だって…」

「俺も見てた。俺たちが身構えた時には、すでに倒してた。ちなみにお嬢は石ぶつけただけでヒグマ倒してる」


あ、ソード君、余計なことを。


「ヒグマを石ぶつけて倒すってありえないでしょ!?」

「…」


私は黙秘権行使だ。


「お嬢はたった数分で五十匹のスライムも倒してるぞ」


ちょ!さらに情報追加した!


「え?年に何十人もスライムに襲われて死んでるって、王都で聞いてたわよ。五十匹を数分!?」


ほらー、おねえちゃん混乱しちゃったじゃん。

妹ちゃんも視線が痛いよ!


「ソード君がひどい」

「なんでだよ!ただの事実だろ!」

「乙女の秘密を勝手にしゃべった」

「え?あ!…いや、その…すまん」

「乙女の秘密がヒグマとスライム五十匹…」


ぐはっ、またクリティカル食らったじゃん!


「…」


気まずい沈黙。どうすんのよこの空気!

およ?ネージュどうしたの?

ネージュがとことこ歩いて来て、私の鞄をてしてししてる。


「ああ、そうだった!私、これを渡しに来たんだった!」


めっちゃ強引だけど、話を変えてしまえ。


「今日は二人にこれを渡したかったの」


姉妹ちゃんの前に、スライサーとピーラー、携帯ミラーを差し出した。


「………えっと、これは何かしら?」


よし、おねえちゃんなんとか乗ってくれたよ。

私はやや早口に、三つとも使い方を説明しました。


「ソード君、これだったら忙しくはならないよね」

「…実は例のペン、細工が細かすぎて上級貴族お抱えの細工師でもないと作れそうにないんだ。だからマギに頼むつもりだ。これもついでに頼むか」

「あ、じゃあこれも」


コンパクトとグラインダー、卓上旋盤の設計図出しました。


「この鏡は完全に細工師の分野だな。で、こっちの二つは?」

「これは一般用じゃなくて、製造現場で使うための機械なの。こっちはいろんなものを素早く削る道具。こっちも削るための物だけど、精密に削るもの」

「便利なのか?」

「こっちだと剣の荒砥とかがすぐできるよ。これは歪みの無い円柱とかが削り出せるの。両方とも、手作業でやるよりはるかに早くね」

「なるほど。ミシンみたいに作業効率が上がるのか」

「うん。でも家庭には必要無いから、完全に製造者向け。こういうのは王都の方がはるかに需要あるから、マギ君に頼んじゃダメかな?」

「…いいな。生産力が上がって品質も上がるのか。こういった物こそ王都の研究所の仕事だな」

「よかった、ソード君が忙しくなんなくて」

「こういうのなら大歓迎だぞ。作業効率爆上げの発明をする王子様か。でかい功績だな」

「ねえおねえちゃん。この人たち、王子様に立てさせる功績を決めちゃってない?」

「決めてるわね。しかも王子様不在で」

「「…」」


危なかった。またクリティカル被弾するところだった。

今回はセーフ…だよね?


ちょっと微妙な空気になりかけてたら、定期便到着の知らせが来た。

よし、さっさと撤退しよう。


「じゃあ私はそろそろ…」

「あ、ちょっと待った。多分荷物にお嬢が注文したものが入ってるはずだぞ」

「え、そうなの?でも、今から荷ほどきでしょ?」

「そうだな。少し時間掛かるな」

「じゃあ、買い物あるから、雑貨屋さん行ってからまた来るよ」

「おう、そうしてくれ」


ソード商会を出て雑貨屋さんに行ったんだけど、お布団、売り切れだったよ。

他の街から来た人たちがこの街の寒さを甘く見てたらしく、厳冬期に入って慌ててお布団追加購入したらしい。

仕方ないので、注文だけして戻りました。


再度ソード商会に寄ったら、ソード君たちは出かけちゃってた。

でも、ベアリングとネジは届いてたので、支払いして帰りました。


おうちに帰ってかける君整備したら、早速旋盤づくり。

部品のほとんどは既に作ってあるから、回転部の軸受にベアリング取り付けたら、まずは芯出しだね。


チャック部(物を挟むぶっとい金属円盤みたいなとこね)を手でゆっくり回しつつ、各所をちょっとずつ慎重に変形して、徐々にブレを無くしていきます。


………

……


芯出しとレールの調整で、夜までかかっちゃった。

精密化って、めちゃ難儀。

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