1月 1/3

一夜明け、今日から新年です。


今日から私、八歳です。

さすがに今日はお休みなのか、メイドさんはいなかったけど、恒例のごとく新しい服が用意されてたよ。

せっかく以前に貰った服、着替えに持ってきたのになー。


朝、挨拶を交わしながら食事したら、生誕祭のメインイベントです。

昨日遊んだ遊戯室に移り、プレゼント交換の始まりです。


まずは子供たちから親へ。

トップバッターはソード君。

布で包んであるけど、形状からしてバレバレです。

ファルシオンソードだろうな。


「父上は愛剣あるけど、大剣は戦場用だから、スライム用の剣を鍛冶屋に打ってもらった。俺の剣を参考に大人サイズにした剣だ」

「これは、例の二種類の金属を使った剣だな。ダンジョンのある領地の領主としては、こちらの剣の方が良いだろうな。しかし美しい剣だな。見るからに切れそうだ。ありがとう」


領主様、嬉しそうだな。元々騎士様だから、剣とか好きなんだろうな。

おっと、次は姉妹ちゃんだな。


「伯父様、私たちを受け入れてくれて本当に感謝しています。私たちからは、二人で紋章を刺繍したハンカチーフです。受け取ってください」

「これはまいった。君たちの未来の旦那様に申し訳ないね。いやはやこれは嬉しい」


およ?今の話からすると、女性から紋章入りのプレゼントを渡すのは夫にってこと?

でも、庶民にハンカチプレゼントする習慣なんて無いから、貴族の習慣なのかな。

領主様、娘が欲しかったらしいから、顔がでれでれだよ。

おっと、次は私か。


「私とネージュからはこれです。筆記用具なんだけど、一回のインクの補充で、かなり長く書けるペンなの」

「長く書けるとは…これは魔道具なのかね」

「いいえ、中にインクを蓄えられる構造にしただけです」

「…使い方を説明してくれるかね」


インクと紙を用意して、私が説明しながら領主様に使い方を実演してもらいます。


「こ、これは……いつまでも書けるぞ!しかも、なんと滑らかな書き心地。さらに羽ペンと違ったこの太さと重さも書きやすい。む、よく見ればペン先に我が家の紋章が入っておるぞ。何と細かい細工だ」

「その紋章の細工はネージュなの。私には細かすぎて無理だったから」

「また娘から紋章入りの物を貰ってしまったぞ!」


あ、領主様またデレた。

か、顔が…。


「お嬢、こんなペン、王族でも持ってねえぞ」

「そうなの?でも、ちょっと長く書けるだけのペンでしかないよ」

「…時々お嬢の認識に、ついていけなくなるぞ」

「いや、字を書くだけだから、羽ペンと大差ないでしょ」

「これも例の世界にあったものなのか?」

「うん、安いのは銭貨数枚」

「…そういう認識か。こっちじゃおそらく大金貨単位だぞ」

「えー、さすがにそんなには…あ、そういえば金使ってるから少しは高くなるか」

「は?金だと!?まさか金を生み出したり――」

「できないよ!金貨一枚流用しただけだよ」

「まじかよ。平然と金貨つぶしてやがった」

「そんなこと言うけどさ、大金貨一枚のこれと、小銅貨一枚の羽ペン。ソード君ならどっち買う?」

「ぐ…、多分羽ペン買う」

「じゃあこれは、大金貨一枚の価値は無いって事じゃない?」

「いや、金持ちは大金貨払うぞ。希少価値を考えろ」

「ソード君もお金持ちじゃん」

「ぐは!なんて嫌な切り返しだよ。俺は希少品集めて優越感に浸る趣味はねえんだよ。貧乏性だから羽ペン買うんだよ!」

「ひどーい、羽ペン買う人を貧乏人扱いした。羽ペンに謝れ!」

「してねーよ!俺が貧乏性だって言っただけだろ。しかもなんで謝罪対象が羽ペンなんだよ!?」

「お姉ちゃん、上位貴族相手に商談では一歩も引かない商会長がタジタジだよ」

「…あれはね、ただじゃれ合ってるだけよ。仲いいわよね」


ぐはっ!!思いもよらぬところからクリティカルくらった。

ちょっと楽しくなって調子に乗りすぎた。


「…ごめんなさい。ちょっと悪乗りしました」

「…俺も楽しくなって遊んじまった。すまん」

「ほらね。お互いわかっててやってんのよ」

「「…」」


ソード君と二人して、おねえちゃんの追撃を恐れ、口を噤んでしまった。

おねえちゃん、クリティカル姐御って呼ぶぞ!


「ところで、この別にある水晶は何か説明してくれるかね」


ぬお!領主様は今のやり取りスルーなの!?

…いや、今はこの流れに乗るのが得策か。


「それはただの水晶を、ベルトなんかに取り付けれるようにしただけだよ。夜、いちいちランタン持ち歩かなくてもいいようにと思って」

「なるほど。ベルトにぶら下げておけば、ランタンを持ち歩いてるのと同じか。しかも邪魔にならないな。…しかし、すばらしいプレゼントだよ、ありがとう」


子供側からのプレゼントが終わり、今度は領主様からのプレゼントタイム。


まずソード君には、紋章入の短剣。

これは、貴族家の継嗣を示すものなんだって。


次に、姉妹ちゃんと私には同じものだった。

紋章入りのゴールドメダル。

これは、貴族家が自家の要人に渡すもので、身分証にもなるらしい。

裏には各自の名前が掘られてたよ。


なんとネージュのまで用意されてた。

おうち帰ったら、かわいい首輪作って、このメダルを首元にぶら下げられるようにしてあげよう。


「正直何を贈るか悩んでしまった。衣服も考えたが、趣味に合わないものは困るだろう。道具類となると、君たちは欲しい物の大半を作り出せてしまう。結局、身分証代わりのメダルになってしまった」

「これって、家に多大な功績のあった成人に渡されるもののはずです。私たち姉妹がいただいてよいものでしょうか?」


おや、結構重要なものだったらしい。


「当然だよ。薬師のお嬢さんは言うに及ばず、君たちも魔学研究所員とソード商会員の兼任を希望してくれた。魔学研究所は国の、ソード商会はこの領の未来を担うと確信しているからね。だから、若い世代に期待させてほしい」

「あ、ありがとうございます。妹と一緒に頑張ります」


おねえちゃん、感動してちょっと涙目だね。

妹ちゃんは、とっさに言葉が出ないようで、大きくお辞儀してる。

そんな大そうなものなんだね。

でも困ったな。

私、ソード商会就職希望じゃないんだよな。


「あの、私は商会員には――」

「薬師のお嬢さんは今まで通りで充分、いや、過剰にこの領に貢献してもらっているから渡すのは当然だ。出来れば発明品は、もう少し控えてもらえばありがたい」


あれ?姉妹ちゃんには期待してて、私にはおとなしくしてろって聞こえるよ。

しかも食い気味に言われちゃった。

扱いちがくない?


「俺からも頼む。正直、お嬢のおうちに遊びに行く暇が欲しい」

「ソード君が忙しくなったのは、地下都市計画始めちゃったからじゃん」

「確かに自業自得だ。だが、発案したのはお嬢だぞ」

「私、思い付きしゃべっただけなのに…」

「その思い付きが有用すぎるんだ。冬場の鉱夫の雇用も出来たし、地下では野菜の収穫が始まったし、鉄鉱石や水晶も出始めてるぞ」

「私、なんにもしてないよ!野菜は作った人の、水晶や鉄鉱石出たのは掘った人の手柄じゃん!」

「お嬢、自覚を持て。籠るしかできないはずの冬場に色んな可能性を示しちまったら、誰だって食いつくぞ」

「うー、私、悪くないもん」

「まだ言うか。水晶ランプ、祝福条件解明、魔力制御での身体能力強化、ダンジョントラップ化、異種金属結合の剣、錆びない鉄、ポーション薬草の栽培、超高品質ポーション、高断熱住宅、スライム式浄化槽、魔力変換水晶、多数の超便利魔道具、各種新魔法、自走式雪上車、地下都市構想、そしてさっきの新しいペン。どれも有用性大きすぎて、緊急案件にしかならんわ!…俺、こっち来てたった九か月だぞ」

「うわ、どれ一つとっても間違いなく重大案件よね。そんなのを九か月以内で処理するなんて…仕事地獄ね」


ぎゃー!またクリティカル食らった!

うん、改めて言われると、ソード君が過労死しそう。

しっかり反省しよう。


「…ごめんなさい」

「わかればよし!」

「あの…。私からみんなにお礼があるんだけど、新作じゃなきゃいい?」

「まあ、新作じゃなきゃな。でも、お礼ってなんでだよ?」

「私、世間的には孤児だよね。でも、みんなに助けてもらったり仲良くしてもらってるから、結構しあわせだと感じるの。だからお礼したくって…」

「あー、まあ、それくらいならいいんじゃないか。みんなも喜んで受け取ってくれるだろう」

「ありがとう。じゃあ、これ」

「これは…携帯用の水晶ライトか。うん、これくらいがお礼には丁度いいな」

「…ライト付きのペンなの」

「うおい!ついさっき知ったばかりじゃねえか!まだ世間に認知されてねえどころか、ここにしか存在しねえよ!」

「…だって、みんなと同じ物が持ちたかったんだもん」

「くっ!また断れねえ理由が付いてやがる」

「はっはっは、そういった理由なら、ありがたく受け取るべきだろうな。そのペンの価値は、お嬢さんの感謝の気持ちの大きさということだからね。私もこのペンを愛用するよ」

「私たちまで貰っちゃったんだけど、私たちって、そんな大そうなことした?」

「お嬢にとってはそれほど嬉しい事だったんだろ」


く、ソード君め、鋭いな。

お泊りでのおしゃべり楽しかったし、商会でたまに会っても友達っぽい反応してくれるし。

ボッチは凄くうれしかったんだよ!

おっと、ちゃんとお礼言わなきゃ。


「うん、そうなんだよ。だからみんな、ありがとう」


よし。ちゃんと渡せたし、お礼も言えたよ。


「じゃ、設計図提出な」

「ちょっ、ここは和やかムードでしょ!?」

「お嬢は時々締めないと、とんでもない物作り出すからな」

「ひど!」

「ねえ、おねえちゃん、さっき言ってた発明発見もとんでもないと思うんだけど、それ以上のとんでもないものって何だろうね?」

「さあ?もう空飛んじゃうとか?」


ギクギク!

思わずソード君といっしょに、ビクってしちゃったよ。

そか、やっぱり飛行関連はやばいのか…。


重量軽減魔法出来たから、プロペラ使うか反作用水晶えば出来ちゃうよなぁ…。

あ、ソード君が睨んでる。

うん、作らないから大丈夫だよ。

エアスクーターあれば、森の見廻り便利だなとか思ってないから。


従者さんは今日はお休みらしいので、従者さんの分は領主様に預けました。


プレゼント会終わって、しばしまったり。

外はこの時期には珍しく、快晴だね。


「なあ、お嬢。雪でなんか作って遊ばねえか?」

「おお!いいね。えーと、ちっちゃなおうち作るとか?」

「お、楽しそうだな。人が入れる一部屋くらいの家なら、昼食までに出来そうだな」

「どうせなら一人ずつ作って、出来栄え勝負とか」

「よし、受けて立つぞ!」


ソード君と二人、重量軽減と熱魔法かけて外に出ます。

他の人はまだ両方使えないから、室内待機です。

あ、ネージュも来るのね。

でも、ズルになるから手伝っちゃダメだよ。


ソード君との間に雪の壁作って、お互いを見えないようにしたら、試合開始。

粉雪だけど、圧縮の際に少し熱を加えたらしっかり固まるからね。


せっせと雪を固めてどんどん積み上げていきます。

作るのはお菓子の家っぽいおうち。


煙突も角を丸めてかわいく作ります。

あ、窓枠はドーナツ貼り付けたみたいに丸にしよう。

ドアは板チョコ、のぞき窓はハート形だな。

さすがに雪のドアは開閉できないので、開けた状態で作ります。


中のソファーは、イチゴが背もたれ代わりに並んだケーキだな。

テーブルはクッキー仕様。


外壁はビスケット積んだみたいに線入れて、つぶつぶでへこませよう。

屋根の棟にはベリー並べて、ふちは生クリームっぽくデコレーション。

く、色が無いからこれ以上は表現しきれん。

まあ、こんなもんか。


「ソードくーん、私出来たよー」

「俺もそろそろ完成だ。じゃあ、仕切り壁崩すか」


二人して仕切り壁崩したら、ミニ砦があった。

よし、お互い内覧会だ。

ソードハウス、中には暖炉や剣、槍、盾、弓なんかが置いてある。

壁は石積みっぽくへこみが入れてあるし、のっぺりしてない。

テーブルにはジョッキが何個か置いてある。

く、芸が細かいな。かなり砦っぽいぞ。


「なあお嬢、これはひょっとしてお菓子なのか?」

「うん。でも、色が付けられないから表現しきれなかった」

「お菓子で家を作ろうなんて発想、すげーな」

「向こうの世界には童話なんかであったんだよ」

「俺の砦は自信作だったが、これじゃあジャンルが違いすぎて、比較できないだろ」

「じゃあ、審査員の皆さんに決めてもらおう」


待機組、みんな窓にへばりついて見てるんだよ。

ソード君と中に戻って、審査をお願いしました。


「私は騎士として砦には親しみがあるから、やはり砦かな」

「あの家はお菓子っぽく見えてかわいいわ。だからお菓子の家の方ね」


おっと、票が割れた。

でも、残りはかわいい物好きの妹ちゃんだから、この勝負もらったね。


「私はお菓子の家もいいんだけど、あっちの方がいい」


え?まさかの砦支持?

妹ちゃんの指さす方向を見れば…。


ぬをっ!雪上車の上に、でっかい大黒本しめじ生えとる!

い、いつのまに…。

中からネージュが顔覗かせてるし。


そういえばネージュって、庭にあるしめじ石灯篭、よく覗いてたな。

穴が小さくて入れないんだけど、気に入ってたのか…。

結局、みんな一票ずつで、引き分けだった。

ネージュ用のしめじハウス、リビングに作るかな。


お昼になったので、みんなで食堂に移動。

生誕祭の日には家族で豪華な昼食摂るんだけど、さすがに豪華すぎでしょ。

私、八歳の幼児だよ。こんなに食べれないよ。


…自分の分、何とか食べきったけど、めっちゃ苦しい。

残せって言われたんだけど、辺境の冬は食料貴重なんだよ!

しかも、振る舞われたら食べきるのがマナーなんだよ。

半ば意地で食べきりました。


でもやばい。ちょっと調子悪くなってきた。

すいません、調子悪いので帰ります。

客間で寝てけって言われたけど、それじゃあ、またお泊りになっちゃうよ。

野菜や薬草のお世話しなきゃいけないから、動けるうちに帰ります。


なんとかおうちに辿り着いたけど、しばらくトイレの住人になりました。

少し楽にはなったけど、まともに動けないので、夕食も摂らずお風呂も入らずに寝ちゃいました。

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