12月 3/3
いよいよ今年も大詰め。
日本だと仕事納めや帰省、大掃除や年末年始の準備なんかで慌ただしくなるころだけど、ここではあんまり変化ありません。
外気温が下がって、吹雪が増えたくらいです。
大掃除しろ?
私、おうちちゃん大事にしてるから、マメにお掃除してるもん。
かける君も乗った後は必ず整備してるし、小屋の掃除は改装した時に済ませちゃったし。
あ、小屋の改装はね、内壁と天井と床張ったの。
今までの壁は積んだ石むき出しで、冬になると石から怨念みたいに冷気が染み出してたんだよ。
この前、領主さんにお野菜押し付けに行ったら、木材余ってるからって、かける君に山積みな量、貰ってしまった。
うちでは使いきれないマギ君や公爵家からもらった高級木材廻したから、元々使う予定で注文してあった木材が、大量に余ってたらしい。
倉庫建てたり工房建てたり雪上車複数作ったりして頑張って使ったらしいんだけど、まだまだ余ってるんだって。
ソード君曰く、お嬢のせいで倉庫が空かないから責任取って持ってけだって。
うん、よく考えたら、丸太百本以上押し付けちゃったよね。
だから積めるだけ積んで帰って来た。
かける君のシルエットが、どこぞの地対艦ミサイルみたいになってたよ。
でもね、ガレージに入り切らない程積んできちゃったから、置き場所無くて大変だった。
ガレージや地下通路にごろごろ転がる丸太。
めっちゃ邪魔だった。
急遽消費するために、春にやろうと思ってた小屋の内張することにしたの。
空気層作るために小屋の内寸狭くなっちゃったけど、いい感じに出来たよ。
剥き出しの積み石と木目の見える木板の壁、比較になんないよね。
それでも結構丸太余ったから、空部屋だった小屋の地下室に収納しました。
丸太が通路曲がれなくて、角の拡張工事までしちゃったよ!
作業途中で久々に崖下のトイレ使おうとしたら、ドアが凍り付いてたし。
熱魔法で融かしてドア開けて用足ししたら、お水流れなかったし。
滝から取水してたんだった。
滝、凍り付いちゃってるから出るわけないじゃん…。
壁もレンガ一枚だから、おしり寒かったです。
なので洞窟内のマンホール横に、魔道具水洗トイレ作りました。
いちいちおうちに戻るの面倒だし、春からは小屋で調薬するからね。
外のトイレとお風呂は、どうするか考え中です。
まあ、どたばたしてるのは私の日常ともいえるので、通常運転って感じです。
今日は日課終わったら晴れてたので、うちのダンジョンの湧き部屋行って、水晶ランタンの核補充してこよう。
あ、その前にお昼食べよう。
ダンジョン入口着いたー。
ここまで来るの、すごく楽だったよ。
粉雪が岩と岩の隙間埋めてくれてるから、重量軽減かけたらパルクール必要なかったよ。
ネージュもるんるんで雪の上走ってた。
まあ、重量軽減無かったら、雪にズボりまくってたどり着けないんだけどね。
熱魔法と重量軽減魔法に感謝です。
あと、到着してびっくりしたんだけど、ダンジョン出入口付近、雪が解けてるの。
冬場、出入口が雪で埋まったら、あいつらどうやって出てくるんだろうとは思ったけど、まさかの常時融雪出入口だった。
出入口雪で埋まっちゃって、スタンピード起こされるよりかはよっぽどいいけどね。
何かあるといけないので、一応剣抜いて警戒しながら歩いたけど、何事もなく湧き部屋に到着しました。
うん、水晶ランタン、ちゃんと点いてるね。
核を補充してて思ったんだけど、この湧き部屋の下、私が掘った洞窟なんだよね。
ダンジョン出入口はおうちと反対方向だから、この湧き部屋がおうちに一番近い。
このまま洞窟に出れたら楽なんだけどなぁ…。
でも、湧き部屋に手を加えてなんかあったら大変だしな。
仕方ない、帰りも大廻りして戻ろう。
ネージュ、帰るよー。
帰りも早かった。
でも、おうち手前で吹雪きかけてたから、結構危なかったね。
うーん、やっぱり何か行く方法考えないと、冬場のダンジョン見廻りは危ないね。
トラップタワーからダンジョン出入口まで地下通路掘るか?
でも、出入口は私が自由にしていいエリアより奥だから、勝手に掘るわけにいかないしな。
うーん、悩ましい…。
しばしネージュと暖炉前でごろごろ。
外は吹雪いてて、ホワイトアウトしちゃってます。
こりゃ、北側の窓は全滅だね。
吹雪くとね、上の段の雪が吹き下ろされて、おうちちゃんの北面にぶつかるの。
しばらく吹雪かれると、北面一面全部真っ白。
北の窓を中から覗くと、おうちが雪に埋まってるみたいに錯覚するの。
最初の内は晴れたら融かしてたんだけど、吹雪くことが増えてからは、融かしてもすぐに真っ白になっちゃうからあきらめました。
おうちの立地的には、仕方ないんだろうね。
外壁と内壁の間に温風を循環させた壁暖房にするべきだったかと思ったけど、外壁に熱を取られる分、暖房費かさむよね。
このおうち初の冬本番は、さすがに無問題とはいかないようです。
まあ、旧自宅みたいに暖炉前以外は防寒着必須じゃないから、充分いいおうちなんだけどね。
今も暖炉はちょろちょろ燃やしてるだけで、部屋着でうろつけてるからね。
さて、そろそろ夕食の準備しよう。
北面の融雪あきらめてしばらくしてから気付いたんだけど、室内に調理の匂いが籠るんだよ。
調べてみたら、換気用のダクトも木で二重シャッターにしてあったんだけど、外側のシャッターが凍り付いてて開かないし、外の排気カバーも張り付いた雪で塞がれてたの。
仕方ないから、外側のシャッターと排気カバーの間に、融雪用の熱魔法水晶取り付けてみたんだけど、吹雪の時でも排気出来るかな?
うん、調理前に熱魔法水晶ONにしたら、ちゃんと排気出来ました。
でも、調理後OFFにするの忘れそうだったので、換気と、キッチン用の照明と連動するように改造しました。
これなら消し忘れにすぐ気づくからね。
さてさて、まだお泊りには早いけど、吹雪かれて行けなくなるよりは、街で時間つぶしてる方がいいよね。
なので、そろそろ街に出発です。
ネージュ、街行くよー。
うん、早く出て正解かも。
北門近くに来たら、少し吹雪きかけてるね。
いつものように、門番さんに挨拶して街に入りました。
あれ?門番さんが北門の内側にカギ掛けてる。
ああ!新年前日だから誰も街の外に出てないんだ。
外出てて吹雪かれたら、街の外で年越しだもんね。
私の為だけに門番さん居てくれたんだ。
お世話掛けます。
街の中もお休みモードだね。
通りには誰もいないし、雪上車も走ってない。
でも、ソード君は商会に来てくれって言ってたよ。
一人で仕事してんの?
ソード商会前に着いたら、駐車スペースに雪上車が三台も停まってた。
やっぱりダンジョン行も、南の街との定期便もお休みなんだね。
時間早いけど、ソード君、商会にいるかな?
かける君を停めるスペースが無かったので、ちょっと横着して路上駐車。
あ、窓越しに人影見えたから、誰かは居るね。
ネージュと一緒にかける君から降りたら、商会のドアが開いて、従者さんが出てきました。
かける君に気付いたのかな。
「いらっしゃいませ、お嬢様」
「こんにちは。早く来すぎたけど大丈夫かな?」
「はい、業務が終了して、先ほど商会員を送り届けたところでございます。どうぞお入りくださいませ」
従者さんにドアを開けてもらって中に入ったら、ソード君が迎えてくれました。
「ようお嬢、丁度良かった。夕方まで暇するところだったぜ」
「吹雪くといけないから早く来ちゃった。ずっと待ってるつもりだったの?」
「仕事が早く片付いたんで、待ってなきゃいけないかと思ってたところだ」
「それなら良かったよ。……あれ?でも、まだ裏で仕事してる人いるの?」
「あ?もうみんな送って俺たちだけだぞ」
「裏に人間サイズの魔力反応が一つあるんだけど…」
「……どのあたりだ?」
「多分、裏の塀のあたり。こっちに10mくらい」
反応のある方を指さしたら、ソード君と従者さんの雰囲気が変わりました。
あー、これって招かぬお客?
二人は壁に立てかけてあった剣を取り、裏口へ向かいます。
「お嬢は中で――」
「私とネージュが警戒してて、誰かに負ける?それに、私が行かなきゃ、場所が分かんないでしょ」
「…わかった。一応後衛で頼む」
「うん」
従者さんが裏口のドアをそっと開け、ソード君と従者さん、私が指さす方に剣を抜いて先行します。
反応に近づき、除雪してない場所を警戒しながら歩きます
おお、従者さんも重量軽減魔法使えるんだ。
反応のある場所は雪が1.5mくらい吹き溜まってて、他の場所と見分けは付きません。
これ、雪の中に潜んでるね。
あ、ネージュ、その浮かべた氷のボルトは、攻撃されるまで撃っちゃだめだよ。
反応まで残り5mくらいの所で、ソード君と従者さんの服をそっと引き、二人の歩みを止めます。
この距離なら、充分私の魔法の効果範囲内だよ。
反応に向けておもむろに手をかざし、風魔法発動。
雪を吹き飛ばしたら、白い大きな布が見えました。
あー、迷彩用か。これは多分プロだね。
前衛二人が布に視線を向けてるのを確認して、再度魔法発動。
白い布の手前側を持ち上げました。
下に見えたのは、しゃがみ込んで寄り添った白い服を着た人間三人。
白い布剥がされてるのに、ピクリとも動きません。
反応一つなのに三人か…二人はすでに亡くなってるね。
残り一人もこんな弱った状態なのに、最初に一般人並みに感知出来たってことは、元々はレベルもある程度上がってたってことだね。
でも、今はかなり低下しちゃってる。
「あーあ、低体温で動けなくなってる。二人はもうすでに…。残り一人もまともに意識ないはず」
「まじかよ…」
「……」
ソード君と従者さん、ちょっと呆れた顔しながらも、警戒しながら近づきます。
従者さん、剣先でつついちゃってるけど、反応ありません。
「これ、早く温めないと死んじゃうよ」
「…私がロープを取に戻ってもいいでしょうか?」
「いらないわ。もう動けるレベルじゃないから」
この魔力反応じゃ、残りの一人も助からないと思う。
一応武装解除だけして、従者さんとソード君が商会に担ぎ込みました。
「お嬢、どうするんだ?」
「二人はもう亡くなってるわ。この人はとりあえず防寒着と靴、手袋は脱がせて」
「わかった」
従者さんとソード君、協力しててきぱきと指示に従ってくれます。
私は温風機を強くして、白服に向けました。
「終わったら頭だけ出して毛布でぐるぐる巻きにして」
私は指示しながら白服の様態見てるけど、首筋さえかなり冷たい。
脈も不整で、ほとんど振れてない。
やっぱりこれはもう…。
様態見終わって患者を見つめてたら、ソード君が声かけて来た。
「低体温ってことは、お湯に浸けちゃダメなのか?」
「急に温めると、手足の冷えた血液が心臓に一気に行って、ショックで死んじゃうことがあるんだよ。今の体温からゆっくりと温度上げたいんだけど、温度計無いからお風呂じゃ危ないよ」
「へー、そんなこともあるんだな。ポーションは飲ませるのか?」
「意識無いから飲ませられないし、ポーションで体温は戻らないよ。手足、半分以上紫っぽくなってたでしょ。体温戻ったら水膨れみたいに腫れるはずだから、意識が戻ったら飲ませるよ」
「おお、さすが薬師だな」
「褒めないで。もう多分…。万一助かったとしても、手足や指先腐り落ちるから…」
薬師としてあきらめの言葉は吐きたくないけど、これはなあ…。
私に出来ることは無くなっちゃってるよ。
「うげ!腐り落ちるってマジか!?」
あれ?私の言いたい事伝わったと思うけど、後半の蛇足の方にソード君のリアクションが大きいな。
ああ、わざとそうしてくれてるのか。じゃあ、乗っからせてもらうよ。
「大マジ。助かっても元の生活には戻れないよ。この辺りじゃわりと常識なんだけどなぁ…」
「辺境怖えーよ!あれ?俺、お嬢に教えて貰ってない気がする」
「絶対しもやけ作ったり、手足の感覚無くなるまで冷やしちゃダメって言ったじゃん!」
「あれがそうだったのか!?でも、しもやけくらいなら王都でもなったけど、ちゃんと治ったぞ」
「患部が暖かい時間が長かったら、血流戻って治るんだよ。でも、こっちでは家の中でも寒いんだから、治らずに悪化しちゃうんだよ」
「うへー、暖かい館とお風呂に感謝だな」
「うん。それでも無茶しないでね」
「おう。指、無くしたくないから気を付ける」
「この人たちはここの寒さを知らなかったんだよね。なんであんなことしたんだろう?」
しまった。せっかくソード君が話を逸らしてくれたのに、つい三人組の末路を考えちゃった。
いかん、ソード君の話に集中しよう。
「商会の人間がいなくなっってから、魔道具盗みに入る気で隠れてたんじゃないか?」
「…研究所の方は大丈夫なの?」
「あそこは住み込みの見習いが何人もいるからな。しかも警備も住み込んでるから、休みでも見廻ってるぞ」
「そっか。でも、そうなると、ここが無人になるって知ってたってことだよね?」
「ああ、多分定期便の休止通知見たんだろうな。商会が休みだから運行も休止って書いたからな」
「なるほど。盲点だったわ」
「俺も今になって気付いた。今度から対策考えなきゃな。ところで、俺たちいつまでここにいなきゃいけないんだ?」
「…この人の体温が戻るまでって言いたいんだけど、それも困るよね。夕方まで待って、定期便の雪上車の荷台温めて館まで乗せてく?」
一縷の望みで、助かる前提で話をします。
「それが妥当か。兵士詰め所の牢は寒いだろうしな。館には泊まり込みの警備の兵がいるから、空き部屋に放り込んで、暖房して兵士に見張らせるか」
「では、お茶の用意をしてまいります」
話が纏まったとみて、従者さんはお茶を淹れに行きました。
素早いな。
でも、危篤患者の横でお茶って…。
従者さんも、多分気付いてるだね。
だから、少しでも私が落ち着くように考えてくれたのか。
私たちは商談スペースに移動して、しばしティータイムです。
「そういやお嬢、魔力感知であいつらに気付いたんだよな。何で街中でも使いっぱなしなんだ?」
「以前街中で従者さんに迷惑かけちゃったから、知らない人に接近される前に視認しようと思ったのよ」
「迷惑などとはとんでもございません。むしろ、仕事ぶりをお褒めいただく機会を頂戴しました」
「あー、従者さん的にはそうでも、私の中では申し訳なさがあるんだよ」
「まあ、お嬢ならそう考えるかもな。だが、俺たちは遠慮される方が嫌だってことは分かってくれ。あの三人のことなんか、俺たちがお嬢に迷惑かけたからって、謝り倒した方がいいか?」
「うぐ…。ソード君って、私の扱い上手すぎない?反論できないよ」
「はっはっは、これもお嬢が教えてくれたんだぞ。立場を入れ替えて見ろってな」
「ぐぬぬ…」
「御継嗣様、さすがにございます」
「だろ?先生がいいからな!」
「なんて不条理なの。私が教えたけど、うまく使いすぎ!…ん?あれ?“御継嗣様”?」
「ああ、父上の後は俺が継ぐことになった。王都の兄貴たちもおふくろも、正式に了承した。ド辺境なんて絶対嫌だとさ」
「爵位だけ継いで王都に居て、領地は代官任せとかは?」
「代官が認められるのは、街や村が複数の場合だけだ。しかも領主は、領主会議や緊急時以外は、長く領を離れられん決まりだ」
「そうなんだ。意外に考えられてるな」
「おいおい、意外ってなんだよ」
「いや、領地は人任せで、自分は王都でふんぞり返ってるのがいそうだったから。後、王宮勤めだと公平性が求められるのに、自分の領を優遇する奴とかね」
「そんな奴らはさすがに…まさか、居たから決まりが出来たのか?」
「でしょうね。当たり前のことをわざわざ明文化しなきゃいけない程、バカがいるってこと。王族の苦労が偲ばれるよ」
「…マギ、大変そうだな」
「うん、冥福を祈るよ」
「死なすな!」
…何とかいつも通りの私として振る舞えたかな。
残りの一人も、結局ダメだったよ。
二十分くらいで息を引き取りました。
症状見た時覚悟はしてたけど、見つけた時点ではまだ生きてたのに、助けることは出来なかった。
いくら経験しても、これは慣れないなぁ…。
残念だけど、定期便雪上車のカーゴルームに遺体を並べて出発です。
吹雪いてはいるけど、まだ街中なら走れるレベルだね。
定期便雪上車とかける君で、ゆっくりと兵士詰め所に向かいました。
詰め所には、副長さんとお兄ちゃんがいた。
年越しで詰めるのかな?ご苦労様です。
二人に手伝ってもらいながら、遺体を安置所に運びました。
「なあ、あの死体、誰だ?」
ソード君が副長さんに事情説明してたら、お兄ちゃんが寄ってきた。
そうか、街にいるお兄ちゃんも見覚え無いのか。
「わかんない」
「あの手足、外に居たってことだよな」
「うん、雪の中に隠れてた」
「はあ!?自殺なのか?」
「いや、雪の中じゃ死んじゃうって知らなかったんだと思う」
「あほか、んなもん常識じゃねえか!」
「多分、ここの冬の寒さを知らない人なんじゃない」
「年越しで仕事してる俺への嫌がらせか?よそのアホが面倒持ち込むな!」
お兄ちゃん、さすがに命がけで嫌がらせする人はいないと思うよ。
事情説明終わって、やっと領主館に到着です。
まだちょっと、気持ち引きずっちゃってるかな。
いかんいかん、しっかり切り替えなきゃ。
助手席の足元に乗っけて来た荷物持って、館に入りました。
若いメイドさんが出迎えてくれたので、お裾分けのお野菜渡しました。
来るたびに野菜渡してる私って、農家みたいだな。
ソード君と従者さんは、報告あるからって領主様の所へ。
私は姉妹ちゃんの部屋に案内されました。
商会で時々居合わせたけど、相手は仕事中だから手を振ったりネージュを一撫でするくらいで、長くは話せなかったんだよね。
お話しできて嬉しいよ。
姉妹ちゃんと近況を話し合い、ネージュが妹ちゃんのもふり攻撃にあいながら魔法について質問攻めにあってたら、夕食の準備が出来たからと食堂に案内されました。
食堂には、領主様、ソード君が既に席に着き、従者さんと若いメイドさんが控えてます。
テーブルには豪華な食事がずらり。
領主様に挨拶し、私たちも席に着きました。
あれ?王都の家族さんはいないんだね。
やっぱり真冬の移動は大変だもんね。
従者さんとメイドさんも下がっちゃった。
「皆、よく集まってくれた。今日はマナーを気にせず、生誕祭前夜の晩餐を家族だけで楽しく話をしながら摂りたい。薬師のお嬢さんには先に言っておくが、ここにいる全員が君の事を家族のように思っている。だから遠慮は無しで頼む」
ありゃりゃ、場違いかと思ったけど、先に言われちゃったよ。
みんな、うんうん頷いてるし。
そういうことなら、好意は素直に受けよう。
「みんなありがとう。じゃあ、遠慮なく満喫させてもらうよ」
「うむ。では、いただこう」
領主様が食事に手を付け、皆も食べ始めました。
「お嬢に報告しとくことがある。従妹の二人にも夢渡りの事を話した。だから気兼ねなく話してくれ」
私は姉妹ちゃんと仲良くなりたかったので、そのうち話すつもりだったから丁度いいね。
ソード君が先に話してくれてたか。この気配り屋め。
「そうなんだ、じゃあ気楽でいいね。ありがとう」
「それで、どうしても聞きたかったんだけど、いったいどんな世界なの?」
およ?妹ちゃん、別世界に興味深々だね。
でも、あっちの世界はおとぎの国じゃないよ。どっちかといえば、この世界の方がファンタジーだからね。
私が元の世界の事を話しだしたら、みんなから質問攻めにあってしまった。
食事食べさせてー。
話が脱線して、知らないうちに魔法講義になった。
食後、場所を遊戯室と言うか談話室?みたいなところに移し、今度は実習が始まってしまった。
こうなったら、とことんやってやる。
ソード君が持って来てくれた金属板に、ソード君、私、ネージュ、姉妹ちゃんで、魔法でできるだけ細い溝を掘ります。
結果は、当然のごとくネージュの優勝。
二位が私で三位はソード君。姉妹ちゃんは同率四位だね。
「この溝の太さを見ればわかると思うけど、これが魔力制御の差なの。自分のイメージでは細い線のはずなのに、実際に出来るのは縁の丸まった太い線。魔力制御がうまくなるほどイメージに近づいてくの。じゃあ、魔法でイメージしたものが完全に再現されるには、魔力制御が何より重要ってことになるよね。魔力制御は大規模な魔法を使うより、小さくて繊細な魔法で鍛えられるの。だから、こんな練習もあるよ」
置いてあったトランプで、トランプタワー作ってみた。
もちろん魔法でね。
やりたがりソード君、早速挑戦。
「くっ、これ、そろばん玉はめるより難しいぞ。軽いものをそっと動かすのがこんなに難しいとは。しかもちょっと失敗したら全部崩れやがる」
だよね。こっちのそろばん玉はでかくて重いし、穴も大きいもんね。
トランプの方がはるかに軽いから、もっと魔力絞らなきゃね。
「もっと小さなトランプあったら、すごい練習になるよね」
「…研究所の教材に作る」
「遊びでいいんだよ。普通にカード遊びするのやリバーシするのを魔法でやればいいんだよ。魔法は手の代わり」
「…じゃあ、文字を描いたりもか?」
「うん、超上級者向け。滑らかな筆遣いできないとシミだらけ。私もネージュもふりながら書けるように練習中」
羽ペン軽いからなー。
万年筆だと何とか見れる字にはなるんだけどね。
「ネージュちゃんもふりながら報告書とか書けたら…」
をう、妹ちゃんがトリップしとる。
「まずは後ろで手を組んで、普通に生活できてからね」
「そうか、あなたカトラリーを魔法で操れるほどなんだもんね。私、今から試してみる」
おねえちゃん、後ろ手に手を組んで座り、紅茶を飲もうとしてるけど、カップがグラグラ揺れてるよ。
「いきなりは無茶だよ。お茶こぼしたらやけどしかねないから、もっと安全なのからチャレンジしてよ」
「そ、それもそうね。じゃあ、どんなのがいいの?」
「じゃあ、私とリバーシしようよ」
おねえちゃんとリバーシ始めたけど、魔法の制御に苦労してるね。
駒が枡からかなりズレてるよ。
ああ、これだとそろばん玉入れ、結構時間掛かりそうだね。
「魔力込め過ぎだよ。今の三分の一で充分。理想は五分の一くらい」
「そんなに少なくていいの?」
「うん、手でゆっくりそっと動かすのに、力は入れないでしょう」
「でも、少ないとふわふわするわ」
「それは魔力が一定じゃないから。慣れてきたら安定するよ」
危なかった。
おねえちゃんが魔法に気を取られてるから何とか勝てたけど、手でやってたら完敗だろうな。
こっちの世界の人って、遊び道具少なくてそればっかりやってるからなのか、みんな強いんだよな。
あ、気付いたらネージュと妹ちゃんもリバーシやってる。
む、ネージュ、こっそり手伝ってるな。
制御が外れて落ちそうな時、少し持ち上げてるよね。
ああ、ゲームが進まないから手伝ってるのか。
でもネージュ、これは魔力制御の練習だから、ほどほどにね。
ソード君は、何とかトランプタワー完成させてたよ。
領主様は、ワインを飲みながら、なぜかみんなを見てにこにこしてたよ。
みんなが魔力制御で疲れて来たみたいだから、早めにお開きになりました。
お風呂出て、ネージュとお布団に潜り込みました。
おやすみー。
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