12月 2/3
十二月も半ばに入り、いよいよ年明けが近づいてきました。
この世界では一月一日を生誕の日としていて、みんなの年齢が一歳上がります。
家族で一年間の無事を祝い、親から子に実用品を送る習慣があります。
子どもも自分の出来る範囲で親に自作のプレゼントしたり、色々なお手伝いして親をねぎらいます。
ソード君に招待されたのは、この生誕の日イベント。
今年はネージュと二人でひっそり祝うつもりだったんだけど、家族として招待されちゃったので、領主様へのプレゼント作りました。
作ったのは万年筆。
この世界、未だに羽ペンだったので、自分も欲しくて作っちゃいました。
でも、構造うろ覚えだったうえに細工が細かいので、完成までに試行錯誤で一週間もかかってしまった。
日課以外、全部万年筆にかかりっきりだったんだよ。
かける君作るより時間かかったよ。
私には精密作業は向いて無いのかも。
まあ、デザイン凝っちゃったのも一因だけどね。
外装はローズウッドの圧縮材で、渋くて落ち着きあるいい色だよ。
クリップ(なんとロングソード型)やキャップの上部と下部に、飾りで金メッキしてあるし、ペン先も金で子爵家の紋章入りだよ。
金貨一枚、熔かしちゃった。てへ!
基本構造がやっと確定したので、今までの試作品も改良して使えるようにしました。
外装無いから作らなきゃだけど、ソード君欲しがりそうだし、そうなると姉妹ちゃんの分もあった方がいいね。
あ、従者さんは仕事柄必要だろうから、私の分も入れて五本あった方がいいか。
うん、色々迷惑かけてるし、お礼代わりにプレゼントしよう。
でも、領主様のみたいなのは特別仕様で作るの大変だから、後の五本はシンプルな外装にしよう。
女の子用はかわいいのにしたいけど、そうするとソード君用と従者さん用も差を付けなきゃいけなくなりそう。
うん、ここは割り切って五本とも同じデザインだな。
なんとなく仲間意識が増えそうだし。
若い人ばかりだから、ステンレスのサテン仕上げでもいいかな。
作るの楽だし(てへ)。
形状も膨らみ持たせないシンプルな円筒状にすれば、スタイリッシュでいいかも。
よし、作ろう。
………
……
外装作ってる途中で思いついてしまった。
キャップの先に小さい水晶埋めておこう。
こっちの世界ってね、照明用の壁スイッチなんて無いから、夜他の部屋に行く時はランタン必須なんだよ。
ランタン持たずに歩く時なんて、魔法で指先に炎出して歩くんだよ。
炎が揺れて歩きにくいし、暗いからって火力上げたら危ないよね。
私は魔法で光球作るからいいんだけど、この世界の人には明かりと言ったら炎。
だから光球がイメージ出来なくて作れないんだよ。
地下でソード君が私の光球見て真似したんだけど、火球が出来てた。
私の光球を触らせて熱が無いことを体感させ、何度も見せることでやっとソード君も出来るようになったんだけど、結構魔力食うらしい。
前世では電球や蛍光灯、LEDなど、色んな光源見てたし、光子っていうものの存在も勉強してたから、私にとっては簡単でも、他の人にとっては光球の魔法はかなり難しいみたい。
だから万年筆の頭に水晶埋め込んで、簡易ペンライトにしようと思い付いたの。
魔道具化しなくても、指当てて魔力流せばライトになるからね。
でも、領主様の万年筆には、水晶はデザイン的には会わないな。
領主様の分だけ機能が足りないのもなぁ…。
万年筆と一緒に、キーホルダー型の水晶でも付けとくか。
ベルトとかに着けといてもらえば便利だよね。
よし、そうしよう。
…
でけた。
あれ?もう夕方?
夕食の準備しなくっちゃ。
ネージュはどこだ?
リビングに降りてネージュの魔力反応を探します。
あ、コタツのテーブルの上で寝てる。
普段は登ったりしないのに…。
こりゃ、相手してなかったからふて寝だな。
ごめんよネージュ。
プレゼント完成したから、もう工房には籠らないよ。
はっ!ネージュへのプレゼント考えて無かった!!
うーん、どうしよう…。
食後、ネージュのご機嫌取りにいっぱい遊んで、お風呂でもシャボン玉作って猫パンチ遊びしてたらのぼせました。
ネージュ、一緒に寝よー。
む、ネージュぴくぴくしてる。
ネージュ、レベル10だね。
おやすみー。
おはようございます。私です。
朝起きて、リビングの窓から東の庭を見たら、滝が完全に凍り付いてました。
下の方から徐々に氷が成長してたんだけど、遂に氷が吐出口に到達して水が完全に出れなくなってるみたい。
10mの見事な氷瀑が出来上がってます。
排水溝が先に凍ったので、あたりに溢れた水が凍り付いて、もう少しで樹木が氷瀑に取り込まれるところだったよ。
うん、冬前に滝の吐出口、完全に塞いでおくべきだったね。
来年は冬支度として忘れずにおこう。
さて、今日も元気に日課こなしてポーション作ろう。
ネージュ、ぷすりに行くよー。
水田と畑のお世話してから、ポーション作ってて気づいた。
冬ごもりの間はポーション生産止めるはずだったのに、冬ごもり止めてせっせとポーション作ってるもんだからポーション瓶の在庫が心もとないな。
納品のついでに注文してこなきゃ。
昼食摂ったらかける君でお出かけ。
ネージュ、街行くよー。
途中の平原、地吹雪で粉雪が均されて平坦になってます。
うん、平らでふかふかだと乗り心地いいいね。
ソード商会に着いたらお薬とポーション納品。
ポーション瓶も発注しときました。
ソード君、今日は地下道掘りに行ってるらしい。
そっか、残念。
地下道は作業関係者以外立ち入り禁止にしてるって言ってたし、私が手伝いに行くと私の異常性が目立つから来ない方がいいって言われたんだよね。
仕方なく帰ろうとしたら、なんとソード君が戻ってきました。
「よお、お嬢。来てたのか」
「うん、納品とポーション瓶の発注に来たの。ソード君は帰って来ちゃっていいの?」
「ああ、街の連中が吹雪きそうだって教えてくれたから、家に帰れなくなる前に作業終了してみんなを返したんだ」
窓から外を見たら、確かに雪が強く斜めに降ってるね。
「ありゃ、失敗したかな。こりゃあ吹雪収まるまで、街出れないや」
「…あー、暇だったらちょっと手伝ってくんねえ?」
「ん?いいよ、何するの?」
「内緒」
??
なんだか分かんないけど、ソード君の指示でかける君に乗って代官屋敷に来ました。
案内されるままに地下室に入ったら、こんなとこに兵士さん立ってる。
あ、更に下に続く階段があるね。
おお!地下道連れて行ってくれるんだね。
作業員さんたちはみんな帰っちゃったから、丁度いいんだね。
なんかちょっとワクワクして来たよ。
水晶ランタン持って階段降りたら地下道の途中に出たんだけど、地下道広いわー!
幅3m、高さ5mくらいの道が、二本平行に走ってる。
3mx5mのトンネルを二本くっつけて、真ん中に分離帯代わりのアーチ状の柱を並べてある。
いや、広い地下道はどうやって補強するのか聞かれたから私が模型作ったんだけどさ、実際に見ると感動するね。
おや?ネージュは顔傾げてるね。
でっかい穴は不思議なのかな。
道の北側の壁には木製のドアが等間隔で取り付けられて、南側はドア無しの入り口が開いてる。
ドア無しの入り口を覗くと、レンガが山積み。
だよね。こんだけ広い空間掘ったら、レンガいっぱい出るよね。
木製ドアの中は畑なんだね。
中見えないけど、ドアに野菜の名前書いてあるもん。
うちとは規模が段違いだな。
ソード君に先導されてしばらく鉱山方向へ歩いてたら、南側もドアが付いてるエリアに来た。
ソード君、資料庫1って書いてあるドアのカギを開けて入って行った。
ああ、ここは古い資料置き場なんだね。
中に入ったら、棚に変色しかかった紙の束が並べてあった。
あれ?なんで入口のカギ掛け直したの?
「ここだ」
ソード君、一番奥の隅の棚をおもむろに奥に押した。
あー!隠しドアだ!
うちの崖下食料庫と同じように、押してスライドさせたら奥に部屋が!
ひょっとして秘密基地作っちゃったの!?
あれ?
秘密基地っていうより工房っぽいぞ。
壁側にカウンターみたいな机があって、壁には工具類がぶら下がってる。
部屋の中央には棚があって、箱に入った水晶と筐体用のパイプが山積み。
「ちぇー、秘密基地じゃなかった。だまされた」
「だましてねーよ。手伝ってくれって言ったろ」
「秘密って言ってたし、隠し扉まで付いてたもん」
「いや、この工房自体が秘密なんだ。警備のしやすい研究所や商会、館以外で、不特定多数が通る場所に魔道具工房あるのは知られたくねえんだ」
「じゃあ既存の工房でいいじゃん。なんでこんなとこに作っちゃったの?」
「遠いんだよ。地下で作業してると魔道具壊れることもあるし、商会の奴ら熱魔法で身体覆えない奴多いし、重量軽減できる奴も半分もいない。修理のために外にお使いに出すのは、この時期じゃ可哀そうだろ」
「商会まで地下道掘ったら?」
「街の井戸の位置と深さ調べたら、街の西半分は深さ10m以内に水脈ある可能性が高かったから掘るの止めた」
あ、ソード商会や魔学研究所は、街の西側だね。
「そっか、じゃあしょうがないね。で、何手伝うの?」
「作業員が、作業中にカンテラ何度も位置動かすのが面倒そうなんだよ。前、お嬢が持ってたポケットに差すライト、作り方教えてくれ」
「あー、あれかあ…。構造結構複雑だよ。作業用ってことはたくさん要るんでしょ?」
「ああ、地下作業員全員に持たせようと思ったんだが、困ったな…」
「短い円筒形のライトでいいじゃん。バンダナとクリップで済むし」
「は?バンダナとクリップ?どういう事だ?」
「説明するより作った方が早いよ。ちょっと見てて」
「おう、頼む」
まずは全長5cmくらいの短いペンライト作ります。
筐体は圧縮粘土。
いっぱい要るなら金属パイプはもったいないからね。
水晶嵌めた先端部と核入れる持ち手部分の接合部を、互いに半円形に蓋して、先端部捻ったら核の魔力が水晶に供給できるようにします。
次に、幅3cmくらいの金属の薄い板を、断面がヘアピンみたいになるように折り曲げて、クリップ作ります。
出来たクリップを、持ち手と平行になるように取り付けます。
次は核の補充蓋。
…蓋、ネジ式にしたいけど面倒だな。
いいや、木を詰めて蓋にしちゃえ。
よし、核入れて準備完了。
次は大きめのハンカチをハチマキみたいに折り曲げて――
「これ、額に巻いてくれる?」
「ん?わかった。これ、作業員たちが汗止めによく巻いてるな」
「で、耳の横のバンダナにライト挟んだら完成。これ、胸に差すライトより作業に向いてるよ」
ソード君を作業机に着かせ、持ってきたランタンを消灯。
「ああ、十分見えるな」
「横にあるランタン持ってみて」
「ん?おお!首振ると目線の方向に明かりが動くのか。いいなこれ!」
ソード君、歩いたりしゃがんだりして具合を確かめてる。
「歩く時は外して手で持ってね」
「確かに歩く時は持った方が見やすいな。たったこれだけのことで、こんなに便利になるとは思わなかった。しかも明るさ調整まで出来やがる。お嬢に相談して良かった」
「本当は蓋をネジ式にしたかったんだけど、手作業で作るの面倒だったんだよ」
「ああ、こないだ頼まれたやつな。蓋がすっぽ抜けなくなるから便利だろうけど、大量に作るのには向かないな。…じゃあ、これの大量生産、よろしく」
だよね。一個作っただけじゃお手伝いになんないよね。
この後、ソード君と分担して、せっせと五十個作りました。
ネージュぅ、作業台の横でお腹向けて寝ないでよ。
思わずモフりながら、全部魔法で作業しちゃったよ。
作業終わって地上に出たら、夕方近くになってた。
吹雪き止んでたから、ソード君送って、とっとと帰りました。
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