12月 1/3

十二月に入って、外に出られなくなってきました。


雪が深くなっただけじゃなく、気温もずっと氷点下(多分かなり低いと思う)。

風も強く、地吹雪が見られるようになりました。

木々も樹氷状態で、外は白一色。

雪像も雪に覆われてしまい、小山になってます。


十月中頃から雪に覆われ出し、四月の中頃まで雪が残ります。

十一月と三月は、積雪を気にしなければ天候の良い日は少し外に出られますが、十二月から二月末までは、晴れてても外は極寒(晴れてる方が寒いんだよ)。

こもる以外の選択肢はありません。


おうちは裏口が開かなくなりました。

上の段から雪が吹き下ろされて、おうちにぶつかって落ちて溜まってます。

裏の積雪は2mくらいかな。

土台が1m、基礎が30cmあるので、ちょっと雪かきすれば出られるけど、玄関あるから放置です。


玄関側は家が防雪壁代わりになっているので大丈夫です。

でも、寒いから外には出ないけどね。

熱魔法と重量軽減魔法使えば出られるけど、すること無いしな。

ネージュもお散歩止めてるので、二人でこもりっきりです。


地上に対して、地下とおうち内は平和そのもの。

畑には依然野菜が育ち、水田は稲が30cmほどに育ってます。

薬草類も元気に育ち、増殖しすぎて以前の野菜実験畑まで浸食しつつあります。

ポーションや薬を今作っても納品は春になっちゃうので、一時的に作るの止めてるから増えるのは仕方ないんだけどね。


スライムは相変わらずぷすってます。


ガレージでは、かける君もスノーバイクも新しく出来た除雪機も出番がなく、静かに鎮座しています。


そしておうちでは、床暖房の出力全開です。

今までは絞って使ってたんだけど、暖炉消してるとちょっと寒くなってきたからね。

でも、全開にしたら暖炉要らないんだよね。

たまに、ゆらめく火が見たくなって暖炉点けると、ちょっと暑い。

真冬なのに暖炉要らないなんて、このおうち、すごすぎる。

去年までと違って快適過ぎて、もう以前の生活には戻れそうにない。

やばい、辺境人なのに贅沢になってる。


食の面でも贅沢になってます。

以前は冬は保存食が当たり前だったからあんまり食欲湧かなかったけど、今はかなり改善されてるので、普通に三食食べちゃってる。

なのにこもりきりで運動してない。

…ちょっと春が怖いです。


本来冬ごもり中は服作ったり道具修繕したりして過ごすんだけど、私、服は結構買っちゃってるし貰ってもいる。

さらにミシンあるから縫物は直ぐ出来ちゃうし。


道具類にしても、魔力制御高くなり過ぎたのか一瞬で補修終わっちゃうし、新しく作るのも簡単なんだよ。


正直することが無さ過ぎて、磁鉄鉱掘ったり水晶掘ったりしてるけど、そろそろストック部屋が溢れそうなの。

だって鉄の抽出なんて、以前に比べて何倍…多分何十倍も多く出来るのに、魔力は余ってるんだよ。


だからこの有り余る魔力を活かして、地下の天井を拡張してます。

今までは、私の身長120cmプラス手を挙げた高さ30cmで、天井は150cmの高さだったの。

これは自身の身体から離れれば離れるほど同一の効果を得るための魔力消費量が跳ね上がるから、魔力節約して少しでも多く掘ろうとした結果なの。

でも、大人には天井低すぎるし、私だっていつまでも身長伸びないわけじゃない。

だから魔力消費を気にせず、天井を2.5m高に拡張してます。

これで将来も安心だし、大人が入っても大丈夫。

またレンガ増えてるけど。


実は天井を高くして、水田も積層化目指してます。

でも、天井拡張作業してて気付いてしまったの。

私、おうち作る時に上から作ってた。

部屋の中も、天井側作ってから下へ掘り下げて床を作った。

なら、洞窟や地下通路も最初から上を掘って、後で掘り下げれば魔力無駄にしなくて済んだはず。


私、気付くの遅せーよ!

畑とか作った後だと掘り下げるの無理だから、天井上げるしか無いじゃん。

まあ、1.5mで支障なかったから考えてなかったんだけど、後から気付く自分の愚かさ。

しくしく

次からは上から掘ろう…。


自分で勝手にダメージ食らっちゃったけど、そろそろ天井拡張も終了なので、失敗は過去に置き去りにしよう。

次からはちゃんと出来るから無かったことに…は、ならないな。

ソード君に肩車とかさせちゃったし。

…止めよう。

過去を悔いててもしかたない。


こんなこと考えるのも引き籠って暇すぎるせいだな。

よし、新しい事考えよう。


うーん……だめだ、直ぐには思いつかん。

とりあえずたまってきた野菜、お裾分けにでも行って気分転換しよう。

畑から良さそうな野菜を見繕って二重木箱に箱詰めして、かける君に搭載。

ネージュ、街行くよー。


およ?嬉しそうだね。

ネージュもこもりっきりで暇だったのかな。


かける君で軽快に走り、街に到着。

門の手前、道の左右にでっかい雪山が何個か連なってる。

これ、除雪した雪だよね。


去年までは大通りの真ん中だけ幅1mくらい除雪して、雪は左右に除けてただけだったよね。

今年からは街の外に捨ててるんだね。


おろ?門の横に詰め所らしき建物が出来てる。

去年までは冬ごもりの間は門を閉ざしてたので、最悪は門を飛び越えちゃう覚悟でやって来たんだけど、兵士さんの姿が見えるから入れてもらえそうだね。


門付近はしっかり除雪されてて、門の開閉にも支障はなさそうです。

未除雪の部分との境もなだらかな坂になってるから、かける君でも通れるな。

ダンジョンに行くための雪上車用かな。


詰め所の兵士さんに車内からお辞儀したら、手を挙げてくれて…ぬお!いつの間にかスライド式の門になってて、詰め所の中から操作してる。

うちのガレージと似てるな。

ちょっと来なかっただけなのに、浦島太郎の気分だよ。


え?かける君で進むの?

かける君の車幅1.5mくらいあるけど、除雪幅大丈夫なの?


兵士さんの指示で街に入ってびっくり。

街の中、道が端まで除雪されてる。

昨年までは村人総出で除雪して、かろうじて大通りだけが狭い幅で通れるようになってたんだけど、今は大通りの幅全てが除雪されてる。

これは除雪車作って運行してるね。


うわ!、開いてるお店もある。

寒いからドアや鎧戸は当然閉まってるんだけど、営業中の札がぶら下がってる。

もっこもこに着ぶくれしてるけど、歩いてる人もちらほら見える。


こもってないやん!

去年までは雪に埋もれたゴーストタウンみたいだったのに、街が活動してるよ。

すごいな、外寒いのにみんな元気だな。


のろのろと街中進んで領主館に到着したら、ここにも詰め所とスライドドアがあったよ。

え?ここもかける君のまま入るの?

兵士さんに先導されて、駐車スペースらしき場所にかける君停めました。


ネージュを肩に乗せて全身熱魔法発動。

野菜箱持って兵士さんの後に続き、館の中に入りました。

熱魔法切ったけど、館の中、めっちゃ暖かい。


あ、こないだネージュに悶絶してた、新しいメイドさんだ。

これ、お裾分けの野菜です。

メイドさんに案内され、いつものように即面会。


「やあ、お嬢さん、よく来てくれたね。元気そうで何よりだ」

「こんにちは領主様。今日は野菜のお裾分けに来たの」

「おお、助かるよ。この時期新鮮な野菜は貴重だからね」

「作りすぎて食べきれないので、消費してもらえると私も助かるの」

「以前にも息子に持たせてくれたことがあっただろう。あの野菜を見て地下菜園を計画したんだが、息子の勧めで地下都市構想に変わってしまったよ。今、冬ごもりで仕事の無い鉱山夫を集めて、とりあえず鉱山までの地下道を掘っている。当然、道の左右は畑や住居にする予定だ。すでに農夫が種まきを始めているよ」

「うわ、そんなことになってたんだ」

「話を聞いた時は正直夢物語だと思っていたのだが、実際に入ってみて、温かさには驚いたよ。地上はとんでもない寒さなのに、地下は何の暖房もせずに過ごせるとは思わなかった。聞けば、夏も涼しいそうだね」

「うん、夏も冬もほぼ一定の温度だよ。領主様がうちの洞窟に来た時は、丁度外気温と差が無い時期だったから分からなかったんだね」

「そうだね。地中の温度が一定だったとは、思いもしなかった。来年は王都で冷気放出と土圧縮、レンガ作成の魔道具が大流行りになるだろうね」

「あ、王都って、夏暑いの?」

「王城では毎年何十人も倒れるほどにね」

「げ、熱中症だ!お水に塩と砂糖溶いた補水液飲ませて、首筋とわきの下、足の付け根を冷やさなきゃ」

「…詳しく教えてくれるかね。水を飲ませて木陰で休ませるくらいしかしていないのだが、回復に時間がかかるのだ。ひどいものにはポーションも飲ませるのだが、あまり効きはよくないのだ」

「身体の奥に熱がこもって発症するから、ポーションでは治らないよ。ひどかったら水ぶっかけて扇いた方がいいよ」

「…弱っている者にそんなことをして大丈夫なのかね?」

「意識無くて身体が熱かったら、衣服脱がせて水シャワーがいいかも。意識戻ったら補水液飲ませてね」

「実は毎年数名は亡くなってしまうのだ」

「でしょうね。だからこそ手荒でも早急に身体を冷やす必要があるの」

「王都に情報提供しておこう」

「じゃあ、補水液のレシピと詳しい対処法書くよ」

「お願いする」


熱中症の対策と対処法、補水液のレシピ書いて領主館を出ました。

外は極寒。

真冬に熱中症のこと話すとは思わなかったよ。


おうちに帰ってまったりお茶してて気づいた。

今までの習慣で冬ごもりするのは当然だと思ってたんだけど、冬ごもりする理由って、雪深い極寒の中での行動は危険だからだよね。


私、全身熱魔法あるから寒くないし、重量軽減で雪の上歩けちゃう。

かける君で移動すれば、吹雪かれてもビバーク出来る。

しかも薬草は洞窟畑にたんまりある。

…私、何で冬ごもりしてるんだ?


午前中に続き、午後もダメージ食らった一日でした。




翌朝、空模様は曇り。

からっと晴れとはいかなかったけど、今日からは冬ごもり解除です。


日課終えたら、氾濫し始めてる薬草類を摘んで、ポーションと各種お薬づくりです。

ポーション作りはさくっと終わらせ、…多いな。

通常薬作りながら数えたら、ポーション五十本も出来てた。

ポーション以外の通常薬も、結構な量が出来るな。

よし、昼から納品に行こう。


ネージュとお昼食べたらお出かけ。

雪はちらついてるけど、吹雪く感じは無いね。

今日もかける君で街に向かいます。

かける君だと、街へは十五分かかりません。


いつものように街中を徐行しながら進み、ソード商会に到着です。

さすがに警備の人は外には居ないね。

荷物の上げ下ろしスペースにかける君停めて、商会内に入ります。


あ、入り口入った横に、警備の人いた。

だよね、外はきついよね。

ポーションとお薬納品して、執務室へ。

今日はソード君いました。


「こんちわー」

「ようお嬢、二日続けて街に来るなんて、なんかあったか?」

「ううん、昨日街に来たらやってるお店あったから、冬ごもり止めてお薬作っても、納品出来ると思って」

「ああ、うちも休まない…いや、休めないから出来たら納品してくれ」

「また忙しくなっちゃったの?」

「…自業自得。地下都市計画なんて秘密基地より面白いから、つい先走っちまった。元々スライム檻の出荷や雪上車の運航で時々開けるつもりだったが、毎日開店だ。正直、楽しくて寝る間も惜しい」

「身体壊さないでよ」

「おう、ポーションの世話にならないうちに休んでる」

「まあ、それならいいけど…」

「お嬢も冬ごもり止めたんなら、新年は館に来れないか?」

「吹雪いてなきゃ大丈夫だよ」

「じゃあ、出来たら年明けの前日から泊まりに来てくれ」

「いいけど、新年は家族で過ごした方が良くない?」

「父上の中では、お嬢とネージュは完全に家族扱いだ。当然来てくれるもんだと思ってたらしくて、俺が『お嬢は冬ごもりだから来れないだろう』って言ったら愕然としてた」

「そうなんだ…。どうりで昨日はお誘いされなかったわけだ」

「ああ、帰ったら機嫌良かったんで何でか聞いたら、お裾分け程度で来てくれたんだから新年も安心だとか言ってた」

「ありゃりゃ、勘違いさせちゃったか。でも、ソード君的にはいいの?」

「おいおい、お嬢は俺が新年におうちに行くって言ったら嫌なのか?」

「そうだね。ごめん、失言だったよ」

「じゃあ決まりな。今年は従妹もいるから楽しくなりそうだ」


おろ?今までは王都で家族と過ごしてたんだよね?

ひょっとして王都の家族も来て、姉妹ちゃんや私もいるから大勢で楽しそうってことなの?

王都からここまで冬場に移動するのは、さすがに大変じゃない?

でも、人様のおうちの事だから、あんまり聞いちゃダメだよね。

まあ、その時になればわかるからいいか。


お薬とポーション納品して、あとローラー距離計の設計図渡しとこう。

地下通路作ってるって聞いたから、あれば便利かと思って設計図だけ書いてきたんだよね。

え?なんで作らなかったのかって?

歯車めんどいからだよ!


あ、ついでにベアリングとネジの設計図渡して制作依頼しとこう。

これも自分で作るのは大変だけど、誰かに作ってもらえば楽だよね。


ベアリングやネジがあれば、旋盤やボール盤出来るから円筒形作るの楽々だし、一気に精度上がるから、魔力モーターや精密機械出来ちゃう。

洗濯機の性能向上やグラインダー出来るし、メカ式タイマー作ればいろいろな物の自動化も出来るよね。

かける君の四輪化も考えてるから、ベアリングは是非とも欲しいのです。

誰か早く作ってー。

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