11月 3/3

急な団体さんが泊まりに来た翌朝、外は晴れてます。

朝、パン焼くために早めに起きたんだけど、もう赤毛のおねえちゃんが起きて来てた。


「おはよう。早いね」

「おはよう。実家では朝から家事をしてたから、早起きが癖になってるのよ。あの、この家、どの部屋も朝起きた時から暖かいんだけど、暖炉消えてるのにどうして?」

「このおうち、全室床暖房なのよ。三階は暖炉消えるとダメだけどね。一階と二階は冬の間は床暖房点けっぱなしだから、室内はいつでも暖かいよ」

「朝、寒さに耐えながら暖炉に火を入れて、部屋が温まるのを待たずに家事始めてたのよ。こっちってすごいのね」

「残念だけど、ソード商会と領主館とここだけだよ。普通は夜中に誰かが起きて、暖炉に薪を足すの。でないと家の中で凍死者が出かねないから」

「領主館でレクチャー受けたけど、実感出来てなかったわ。昨日初めて実感したの。雪と氷の世界に迷い込んだみたいだった」

「実際に雪と氷の世界に来たんだよ。一年の半分近くは雪に覆われてるからね」

「その通りよね。商会長が決断してくれなかったら、私たちは今も雪の中にいたのよね。昨日寝る前に妹と話してて恐怖がよみがえって来ちゃったから、年甲斐もなく抱き合って眠ったわ」

「ベッド一つでごめんね。それで、その妹さんは?」

「毛布にくるまって外で雪像見てるわ」

「げ!誰にも見られないだろうと思って妄想のままに作ったのに…存在忘れてたよ」

「私は窓から見ただけだけど、いい出来だと思ったわ」

「…恥ずかしいので雪像の話は無しの方向で」

「いいけど、もうすぐみんなに見られちゃうわよ」

「くっ、今から崩したいけど、朝食の準備が間に合わなくなる…」

「大丈夫よ、私や妹には不思議で幻想的な作品に見えるから」

「ううう…」


なんだか嫌な予感を覚えながら、朝食の準備に取り掛かりました。


パン焼いてたら、男組が下りてきました。

朝の挨拶を交わしたら、ソード君に三階の状況確認です。


「夜中大丈夫だった?風邪ひかなかった?」

「ああ、上がった時は毛布一枚で充分だったけど、明け方前にすげー寒くなって来て、温風器点けた。後は朝までぐっすりだ。煙突暖房システム、侮れない出来だぞ」

「さすが共同制作者。よくチェックしてるね」

「お嬢に説明されて作ってたからな。原理と効果は理解したから、次に何か建てる時には使わせてもらう」

「おろ?もう次の建物の予定でもあるの」

「ああ、人が増え過ぎて収容しきれてない。春になったら建築ラッシュだな」

「秋までも建築ラッシュだった気がするけど?」

「だな、冬以外は建築ラッシュだ。街を拡張したはずなのに、もう土地が足りなくなって来てるからな」

「ほえー、発展しすぎてない?」

「出歩けない冬がネックだ。あと、食料も自給出来ないから吹雪が続いたりしたらとんでもないことになる」

「地下都市作っちゃえば?暖かいし雪関係ないし夏は涼しいし年中作物作れるから自給出来るし」

「は?地下に都市だと?」

「建材要らずでお得だよ」

「出来る…のか?」

「うちの地下見てるじゃん」

「いや、それはお嬢だから出来るんであって、作業出来る人数が少なすぎる。作業員確保の段階で躓く」

「なんで魔道具使わない前提なのよ。圧縮用の水晶を掘る形に配置して、真ん中はレンガ作成水晶並べて車に取り付ければ、誰がやっても押してくだけで掘れるわよ。二層、三層って掘ったら鉄鉱石や水晶出て来たりしてね」

「…まじか。否定出来ねえってことは可能なのか?地下に都市?夏涼しくて冬暖かくて年中作物が育つ?建材無料?都市作ってるのに鉱石出るかもしれない?なんだその美味しい話は?詐欺か?詐欺なのか?」

「崩落防止と換気は絶対要るし、水脈対策も必須だけどね」

「…地下の街の中にきれいな水が出る可能性もあるのか?」

「水はかなりの確率で出るよ。街の井戸の深さと位置で、ある程度予測付くんじゃない?雪解け水が地下通ってるはずだから、水脈はいっぱいあると思うよ」

「西に川はあったはずだぞ」

「雪解け水が全部流れるにしては水量が少なすぎるから、地下水は確実だよ」

「…」


ありゃ、ソード君黙っちゃった。


「ねえおねえちゃん、あの二人って私たちより年下だよね」


おや、お帰り妹ちゃん。


「そうね、確実に数年下ね」

「知識あるとあんな会話が出来るんだね。しかも私にも理解出来たんだから難しいことは言ってないんだよね」

「ええ、分かることだけを組み立てて、実現の可能性の高い案にしてるわね」

「地下に都市作るのが実現可能なんて…。私、真面目に勉強するよ」

「楽しみながら一緒にやろうね」

「本当に楽しみながらであんな会話が出来るようになるとしたら、必死に勉強してる人に申し訳なくなりそうだよ」


くっ、昨日諭すようなこと言っちゃったから、大したことは話してないとは言い難いな。

ここは雰囲気変えるためにも食事にしよう。


…厚焼きトースト、大好評だったけど、在庫にする分まで全部食われた。

若い男子の食欲って、おばけレベルだ。


後片付けしてからみんなにお願いしてみた。

みんなで一緒に写真撮りたい。

大勢のお客さんが来てくれて楽しかったから、記念になるものが欲しかったんだよ。

快諾してもらったので外に出たら(外の方がきれいに写るからね)、案の定、お兄ちゃんが聞いてきた。


「なあ、昨日は吹雪で気付かなかったが、あのヘンテコは何だ?」


なぬ!いくら何でもヘンテコは酷い。

抗議しようとしたら、おねえちゃんが援護射撃してくれた。


「あれのセンスが分からないと、さすがに女性には…あ、ごめん」


ぬお!その攻撃は液体窒素レベルだよ。

最後まで言わずに謝ってるけど、かえって攻撃力が増してるよ!

あーあ、お兄ちゃん、一瞬で固まっちゃった。

あれ、意識飛んでないか?

きっと昨日の夜、男だけでさんざん諭されたんだろうな。

朝から無口だったし。

副長さんが背中押して歩いてるけど、なんか動く人形みたいになってるよ。


結局、雪像前でおうちをバックにして写真撮ることになってしまった。

朝、逆光にならずに写真撮るなら、この方向になるよね。

思い出と一緒に芸術作品(笑)も残るのか…。


いざ撮影時となって気付いた。

誰が撮るの?

セルフタイマー機能なんて無いよ。

誰か抜けなきゃじゃん。


「若いのだけで撮ればいい。正直俺は場違い感が辛い」


副長さんがシャッター係買って出てくれ、みんなで写真撮りました。

二枚撮って、一枚はソード商会に飾るそうです。

…せめて執務室に飾ってください。

店頭は勘弁して。


撮影後はかける君でみんなを送ることになりました。

うちから材料持って行って雪上車直すのかと思ったら、事故対応や修理ノウハウの蓄積のために、ソード商会と兵士さんで対応するそうです。

これぞ“転んでも”ただでは起きない、だね。


かける君の荷台にみんなを載せて街まで送ったら、捜索隊が組まれて北門に集まってた。

みんな心配してたんだよね。

写真なんか撮ってないで、もっと早く送って来るべきだったね。

みんな、ごめんね。


みんなと別れておうちに戻り、遅ればせながら朝の日課です。

スライムぷすったらネージュと別れ、薬草のお世話して、摘んだ薬草でポーションやお薬を作ります。

さっき街に行った時に、作り貯めてたお薬やポーションをごっそり渡して来たので、また在庫作らなきゃね。


薬師としてのお仕事が終わったら、次は農家さんします。

野菜、完全に作りすぎだな。

ソード君にわんさか持たせたり、お客さんの消費で少しは減ったけど、どう見ても春までには余る。

年中食べたくて植え付け時期ずらしてるから、収穫途切れないんだよね。

ある程度はフリーズドライ化してってるけど、やっぱり新鮮な方がおいしいからなぁ。

…山になったら領主様に押し付けに行こう。


水田の方は少し変わりました。

土壌による成長の変化が出たので、一番成長の良い土壌に植え替えて統一しました。

稲は20cmを超えたあたり。

新米は遠そうです。


畑と水田のお世話したら、今度は土保管部屋へ。

保管してある土は何もしないけど、畑のお世話で出た弱った葉っぱや剪定した茎、調理後の生ごみを生ごみ処理機に入れてちょとっと撹拌。

いい肥料になれよー。


農夫さんが終わったら、次は整備士です。

かける君は雪上走った後だから、足回りのお掃除と点検、核の補充、ボディのお掃除。

特にボディは木製だから、ちゃんと水分拭き取らないと劣化が早いからね。


整備士終わったら、次はちょっとだけ趣味の時間。

今は少しづつ除雪車作ってます。

春になったら使うからね。


私は物作り始めると寝食を忘れて没頭しちゃうので、タイマー作りました。

タイマーと言っても、シーソーの片側にある容器に水を入れるだけ。

容器には小さな穴が開いてて、徐々に水が減っていき、水が無くなるとシーソーが動いて鈴を鳴らすだけ。

でも、これが無いと時間忘れるからね。


一人なら別にいいけど、今はネージュの保護者でもあるからきちんとお世話しないとね。

もっとも、最近のネージュは食事とお風呂以外手が掛らなくなってるけど。


趣味の時間が終わっちゃたら、食材庫寄ってから調理の時間。

ネージュはお散歩から戻って来てます。

時計も無いのにちゃんと食事前に戻って来てる。

私よりしっかりしてない?


昼食摂ったらお片付けして、しばらく暖炉前でネージュとごろごろ。

時々ネージュをお腹に乗っけてうたた寝しちゃいます。

この時間、大好きです。

でも、寝すぎるとネージュに猫パンチで起こされるの。

なんでネージュが先に起きるかな?

君、猫(寝子)でしょ。

うんわかった、起きるから額ペチペチしないで。


さて、客室と屋根裏部屋、お掃除してこよう。


…客室、お掃除されてる気がする。

客室は温かいし、予備の毛布四枚しかなかったので、姉妹ちゃんには自分たちの毛布だけ使ってもらったから毛布残ってないのは当たり前なんだけど、なんかきれい。

あの姉妹、貴族令嬢のはずなんだけど、王都の令嬢って働き者なの?

じゃあ屋根裏行こう。


…出たよ男子。

寒いだろうからと予備の毛布貸したんだけど、毛布がつくなってる。起きてそのまんまだな。

男どもはお世話されるのがデフォなのか?

父ちゃんはしっかり母ちゃん手伝ってたぞ。


寒いけど、換気しながらお掃除開始。

ソード君、暖炉消えると寒いって言ってたな。

やっぱり融雪屋根じゃなくて無落雪屋根にして、屋根断熱した方が良かったかな?

でも、おうち自体が重い上に、更に雪の重みがかかるのかぁ。

地下室掘っちゃってるからなー。

一応地下室は一回り小さくして、おうちの荷重は地面に逃がすようにはしてあるけど、構造計算なんてしてないんだよ。

うーん、悩ましい…。


屋根裏の掃除は終わったので、貸した毛布のお洗濯です。

毛布一枚づつしか洗濯機に入らないなー。

今日は洗濯で午後が終わりそうです。


夕方、…昨日も思ったけど、干した毛布、邪魔。

外気温はずっとマイナス。

当然デッキもマイナスなので、デッキに干したら凍ってしまう。

乾燥器は、毛布たたんでしか入らないから乾きにくいんだよ。

だから二階の階段スペースに干すんだけど、壁が出来たみたいで圧迫感がひどい。


…改造してやる。

デッキや屋根裏部屋が寒いのは、屋根の裏側が断熱されてないから。

じゃあ、裏側に数センチ空間取って板張りすれば、断熱にはなる。

融雪のためには数センチの空間だけ温めればいい。

材料は、薪使おう。

暖炉の稼働は夜中止めても問題なかったし、ガンガン薪くべなくても充分暖かいから、かなり薪余りそうなんだよね。

うん、行けそうだ。

明日から取り掛かろう。




翌日、吹雪いてはいないけどまた雪だ。

さっさと日課済ませたら、デッキを暖房しながら作業開始。

熱交換しやすいように、何度も往復する構造にするために、つづら折りの送風経路を屋根の裏側に作ります。


続いては薪の加工。

木目全然合ってない集成材みたいだけど、気にせず板状にします。

木と土の接合は無理なので、スライド式にはめ込んでいきます。


後は送風部。

前回の融雪実験では送風機二つで十分だったので、デッキの左右から送風して、真ん中から排気。

上部から温風を下向きに排気するから足元は寒いけど、物干しスペースだからいいよね。


簡単に出来たな。

よし、反対側もやろう。


ドドドドドド


あ、もう片側の雪が落ちた。

効率いいな。

もう片側のデッキもサクッと作って外に出たら、屋根の一部から湯気が…。

しかも屋根のこう配の下半分しか融雪してない。

…屋根裏部屋も改造しよう。


昼食挟んで屋根裏部屋の天井張ってたら、お客さんが来た。

この反応は従者さんだね。


玄関出たら、知らない雪上車が停まってた。

荷台部分が箱馬車だけど、ちょっとかける君っぽいな。

話を聞いたら、救助協力のお礼に来たんだって。

早いよ、昨日の今日だよ。

しかもお礼の品が続々と降ろされてる。


「貴族家では借りは出来るだけ早く返すのがマナーですので、差し支えなければお受け取り下さい。また、冬ごもり中に食材を分けていただいた場合も、なるべく早く食材を返すことが辺境での礼儀とお聞きしましたので、食材を多くお持ちしました」

「そうだけど、明らかに多すぎでしょ」

「主の縁戚であるお嬢様方が見違えるように積極的に行動されており、お預かりした当家といたしましては、薬師のお嬢様に感謝するばかりでございます。どうか、感謝の万分の一でもお受け取り下さいませ」

「私、一晩泊めてちょっとお話しただけなのに…。従者さんの言い回し上手すぎ。感謝はありがたく受け取る以外ないよね」

「畏れ入ります」


<領主館執務室にて>

「ご当主様、ただいま戻りました」

「受け取ってもらえたか?」

「はい、『感謝の万分の一でもお受け取り下さい』と申し上げたところ、『従者さんの言い回しは上手すぎる。感謝は受け取る以外にない』とのことでございました」

「くっくっく、『感謝は受け取る以外ない』か。しかも言い回しをわざわざ褒めたということは、従者の仕事ぶりをも考慮して受け取ると言う事か。まるで上位貴族を相手にしているようだな」

「はい。ですがお嬢様には上位貴族と対面するような緊張感を感じませんので、思わずボロが出て、『畏れ入ります』と申してしまいました」

「はははは。救助のお礼に行ったのに、それでは受け取ってくれた相手の気遣いに感謝してしまっておるな」

「赤面の至りにございます」

「おぬしにボロを出させるなど、なんと痛快なお嬢さんだ」

「失言の後になんともお幸せそうな表情を頂戴しまして、失言が癖になってしまいそうです」

「ぶははははは。物を貰うより気遣いに感謝された方が幸せという事か。何とも心地よい」

「全面的に同意いたします」


◇◇◇◇◇


従者さんが去ってから救助のお礼を開けてみたら、食料だけでなく食器セットも多数入ってた。

これからも泊まりに来るの?

食器棚すかすかだから、収納しとこう。


午後は作業途中だった天井張りを完成させ、融雪実験も上々でした。


夜、祝福来た。

私、レベル12だ。

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