10月 3/3

十月も残り少なくなり、最近は雪が積もったり融けたりしながら、徐々に積もってる期間の方が長くなってきました。


私は、薪、食料、日用品、毛布、布類、防寒着など、いっぱい買い込みました。

森の薬草も繁殖用を残して採取して大量にポーションを作り、ストック用に納品してきました。


西の岩山ダンジョンの湧き部屋に置いた水晶ランタンは、核入れを三ヶ月以上持つ特大型に替えました。

天候の良い日は確認に行って、核補充してきてるけどね。

これでいつ冬ごもりが始まっても大丈夫です。


暖炉も初めて実稼働しました。

朝寒かったので点けてみたんだけど、はっきり言って暑かった。

断熱した家で暖炉を使うと、あれほど暑くなるとは思わなかった。

壁暖房も、ちゃんと機能してるのかもね。

なので本格的な冬になるまで、もうしばらく暖炉はお休みです。

今は床暖房だけで十分暖かい。


ネージュはレベル8になり、身体もかなり大きくなりました。

体長30cmくらいかな。

普通の成猫サイズだけど、まだ母猫サイズには至ってません。

雪猫は青年期長いのかも。


でも、最近ちょっと困ったことがあるの。

ネージュがお気に入りの場所に、勝手に棚作ってるの。

現在、家のあちこちに、何も乗ってない棚が出来上がってます。

高さ的に頭ぶつけそうなのもあるから、こっそり角だけ丸めてます。


畑は順調に収穫できてます。

でも、消費しきれないからフリーズドライ化してます。

あ、フリーズドライは水晶出来たよ。

核の消費量すごいけど、おかげで保存食づくりがはかどります。


田んぼは苗を植え変えて実験中。

今15cmくらいに育ってるけど、まだ水や土壌による顕著な変化は見られません。


設備面では、ポーション畑の横にポーション作成部屋作りました。

真冬に小屋でポーション作るのは、かなり辛そうだからね。

ポーション作りだけで、余分に薪を消費するのはもったいないし。

でも、春になったら、また小屋を使います。

両親が残してくれた小屋だからね。


あと、おうちの屋根裏部屋、ちょっと改装しました。

二十四畳分の広さを余らせておくのはもったいないから、万一お客さんが大勢来た時のために、宿泊出来るようにしました。

土ベッド並べてサイドテーブル置いて、水晶ランタンと温風器配置しただけだけどね。

…多分使われないだろうな。布団もないし。


魔法関係では、熱魔法が進化しました。

今までは手をかざして加熱してたんだけど、全身を熱の層で包むことに成功しました。

スノーバイクに乗っても暖かです。

これで真冬に出歩いても寒くない。

でも、重量軽減と同時に掛けないと、雪にズボります。


趣味の発明品は、まずはさっき話したフリーズドライ水晶。

寝る前の修行(即効睡眠技?)の末、何とか水晶に出来ました。

練習で効率上がっても四回で魔力枯渇するので、完成まで七日かかったけどね。

収穫して余った野菜や、日持ちのしない食材をせっせと乾燥させてます。


後は加湿器と窓用ヒーター。

冬は加湿しないと、喉ガラガラになるからね。

窓用ヒーターは結露対策。

いくら二重断熱でも、多分結露はすると思うから。

一応鎧戸も付いてるんだけど、閉めると部屋が暗くなるし。


村の自宅の時は、ガラス無くてごっつい板と鎧戸だけだったから、冬は開けられなくて室内は常に夜。

さらにオイルランプは暗いし、それさえオイル節約で点けなくて、暖炉の明かりだけだったから、部屋の隅はまっく〇く〇すけ出るかと思ったよ。

だから冬でも外光が入る窓にしたいの。


でも、結露してカビたらやだからヒーター使います。

多分冬場は点けっぱなしになるから、核の補充面倒だな。

だって、窓二十か所以上あるし。

そして大物も作ったんだけど、これは後で紹介するね。


世間様では、雪上車導入されてた。

初めて見た時はびっくりしたよ。

だって、薄い雪化粧した平原を木の箱が動いてたんだよ。


私の設計ではもう少し車っぽかったんだけど、流用した長距離馬車の御者席覆っただけだから、見た目は小さ目の木製コンテナが動いてるの。

窓も小さいから、遠目じゃわからないし。


でも、これで兵士さんの危険も減るから一安心だよ。

私もスライム檻出荷しようかって言ったら、それより薬師の領分で頑張ってくれって言われたので、現在ポーション以外の薬の原料になる薬草を、洞窟内で試験栽培中です。


王都では、水晶ランタンの設計情報が公開され、あちこちの商会が色々な照明を作って販売し出したので、空前の水晶ランプブームだそうです。

おかげで水晶不足が顕著になって、価格が高騰してるらしい。

うちの領は、産出した水晶を半分しか売らずに、次に来るであろう魔道具ブームに備えて備蓄してるんだって。


あと、魔道具を作る魔学研究所の職員さんの事を、魔道具技師っていう資格制度を導入して、認定制にしたそうです。

認定は作れる種類の魔道具を星の数で表すそうで、ほぼすべてを作れるソード君は、マイスターと呼ばれるらしいです。

私にもマイスター用の認定バッジ持って来てくれたけど、私、薬師だからね。

せっかく持って来て貰ったんだから、部屋の小物机にしまっときました。


そうそう、隣町との定期便も開通したんだった。

なんと雪上車。

運営はソード商会。

魔道具やスライム箱の輸送と、魔道具技師見習いを目指す人の足になってるそうです。

メンテナンスとかあるから仕方ないとは言え、ソード商会、何屋さんなの?


今は森も雪が積もってるし、薬草類も繁殖用を残して採取してしまったので、森の巡回はしていません。


朝の日課を終えたら、街へお買い物です。

あと半月ほどは天候が良ければ街にも行けるんだけど、綿と布類追加で大量に買おうとして気付いたの。

スノーバイクじゃ持って来れない。

そして荷車は路面状況厳しいうえに自分が滑る。

なので、荷台付きの雪上車作ろうと思ったの。

これが大物です。


ソード君が作った雪上車見て気付いたんだよ。

外装、木でいいよね。

なんとなく前世のイメージで、外装は金属だから作るのめんどいし、塗装しないと銀色で世界観ぶち壊しな気がしてたの。

でも、木製ならいけそうな気がする。

で、作っちゃいました。


下部シャーシは領主館で試作した内容に近いけど、贅沢にステンレス製です。(自分でクロム鉱石買って、クロム抽出しました)

ステアリングは、ハンドル欲しくてラックアンドピニオンにしちゃったから、歯車作るの大変だったよ。

タイヤの代わりは、スノボみたいな強化圧縮木材の板で、当然なんちゃって独立懸架。

座席は二人掛けの革張りソファー。

領主様が、王家に状況提供してくれたお礼にって、贈ってくれました。

そしてボディは、なんと贅沢な圧縮チーク材の二重構造。

ドアも荷台もチーク材なので、かなりの高級感。

フロントは、足元にスペース欲しかったんで斜めにしたら、外観が、木製ミ〇ットIIみたいなシルエットになりました。


昨日遅くまでかかって、やっと仕上がったんだよ。

これ作るために、わざわざ土置き場の横にガレージ作って、スロープも拡張したんだよ。


いやー、久々に作成に没頭しちゃって、食事の用意忘れてネージュに猫パンチされちゃったよ。

お馬鹿な保護者でごめんね。

でもネージュ、これから初走行で街までお出かけだからね。

いくぞ“かける君”!


にゃはははははー、楽しいぞー♪

快適快調!

おろ?もう着いちゃった。

ちょっとスピード出し過ぎたか。

門番さん、ちーす!

…街中では人が走るほどの速度は出さないようにって注意された。

誰か暴走でもしたの?


ソード商会に到着して、注文してあった布類を荷台に乗っけてたら、変なの寄って来た。

仕立てのいい服着た十五歳くらいのおデブ少年と、両脇に金属甲冑付けた寒そうな護衛らしきおっさん二人。


「おい、そこの子供。その乗り物は何だ!?説明しろ!」


うわ、初見の人間にいきなり命令口調。

ろくな人間じゃないな、無視しよう。

身構えちゃってる肩のネージュにも、イメージで無視の指示。


「おい、返事をしろ!」


あ、ネージュが乗ってるのに肩掴んでゆすってきやがった。

むかちん!!ネージュが落ちたらどうすんだ!

ベシ!

強めに手を払いのけてやった。


「な!無礼者が!俺を誰だと思っている!」

「勝手に他人に触れる愚か者」

「き、き、き、きさまー!!」


うわ、いきなり装飾過多な片手剣抜いて切りかかって来たよ。

私もネージュが落とされそうになって腹立てたけど、こいつは即ギレしやがった。

でも、剣の振り、遅すぎるな。

一歩前に出て剣の鍔を掴み、切っ先を無理やり顔に向ける。


「切りかかったってことは、切られる覚悟あるんだよね」


どんどん切っ先を顔に近づける。

慌てて剣の柄を両手で持つおデブ。

でも止められないよ。うりうり。


「な!よ、よせ!止めろ!」


左右の護衛がようやく剣を抜いた。

反応遅!

しかもなぜ剣を抜く?

警護対象の命握ってる私に敵意向けてどうすんの?

この状況なら、まず武器を手放して命乞いでしょうに。

護衛に状況理解させるために、おデブの剣先をおデブの首筋に近づける。


「そっちが剣向けてくるなら、こいつ切っていいよね」


ゆっくりと剣を首筋に押し付けていく。


「ひ!や、やめ――」

「お嬢様、何卒御平らに!そちらの二人も警護対象の首を落とされたくなければ、今すぐ剣を納めなさい!」


あ、従者さんだ。

でも、護衛が剣を納めるまではこのままだよ。


「早く納めなさい!このままでは本当に首を斬られてしまいますよ!」


従者さんの剣幕にのろのろと剣を下ろし、互いに見合ってる護衛二人。

わー、護衛の質悪すぎ。

全然状況判断出来てないや。

従者さん言ったじゃん、剣を抜いてること自体が警護対象を危険に晒してるって、気付けよ。

私は依然、剣をおデブの首に押し当てたままです。


「は、早くしまえ。このままでは…」


おデブは自分の命が懸かってるって理解できたのか、脂汗掻いて小声で指示してる。

あ、やっと剣をしまった。

仕方ないな、離してやろう。


おデブは剣を下ろしたまま、ゼーハーしてる。

あれ?護衛はダメでも自分は剣抜いたままでいいとか思ってんの?


従者さんがおデブの剣を奪い取って後ろに投げ捨てると、懐から筒を取り出しました。

私はやっと、身体強化を緩めます。

従者さんはおデブに筒を見せ、結んであった紐を解いて下に引っ張ります。

おー、紙が出てきた。

あんな仕掛けになってたんだね。

おデブに書面を見せながら――


「国王陛下より賜った勅許状です。我々にはあなたの首を刎ねることが許されていますが、どうなさいますか?」

「な!、か、か、帰る!」


おデブ、勅許状を見せられてさすがにやばいと分かったのか、顔真っ青です。


「帰れませんね。罪人として捕縛しますので、そちらの兵士の指示に従ってください。反抗した場合は即刻首を頂戴します。それと老婆心ながら申し上げます。そちらの護衛二人は反応が遅すぎる上に状況判断も出来ていません。首が繋がっているうちに、もう少しましな者にすることをお勧めします」


うわー、従者さん、すっごい真顔で脅してるよ。

そしていつの間にか、商会員さんが兵士さん連れて来てた。

兵士さん、剣抜いておデブの背中つんつんしてるよ。

変な一団は連れられて行ったので、従者さんに謝らなきゃ。


「迷惑かけてごめんなさい」

「とんでもございません。店の中にまでやり取りは聞こえていたそうですので、状況は理解しております。お嬢様が謝罪なされることなど一つもございません。それどころか、店の者に状況を確認していて遅参いたしました。こちらこそ――」

「ダメ!従者さんは何も悪くない。状況を確認してから行動するのは当然の事だし、私はすごくありがたかったから感謝しかないの。だから謝らないで」

「さようでございましたか。では、私の行動をお褒めいただいた事に、感謝を申し上げます。少しご説明いたしたい事もございますので、お茶でもいかがでしょうか」

「分かりました。お願いします」


その後、ソード商会の執務室の応接スペースでお茶を頂きながら、従者さんから説明を受けました。ソード君は留守だけどね。


なんと、領主様、ソード君、従者さんは、以前のおうちへの招かれざる訪問者の件の後、私を守るために国王様から勅許状を頂いたそうです。

勅許状には、魔道具関連の秘密を守るためなら貴族をも殺めても仕方なしとなってるらしいけど、実際には私を阿呆な権力者から守るためのものなんだって。

この勅許は全貴族家に通達されたそうなんだけど、さっきみたいな阿呆が出た場合は、王命を無視したとして王様直々に該当貴族家を処断するそうな。

私、知らない間にすっごい守られてるな。


さっきはきれい好きなネージュを、雪で足元ぐちゃぐちゃの場所を歩かせたくなくて肩に乗せてたのに、落とされそうになってムカってきちゃったんだよね。

我ながら短絡的だったとは思うけど、ネージュの事になると自分のこと以上に腹立っちゃったんだよ。

これは、みんなに迷惑かけないように、街に出てこないで引き籠ってた方がいいのかな。


説明受けた後、従者さんに敬語は止めてって頼んだんだけど、『主からはご自身とご子息の大恩人だと伺っております。従者として主のご恩人を敬わせていただく事を、何卒お許しください』って懇願されちゃった。

大恩人って、そんな大したことしてないと思うんだけど。

こっちがお世話になることも多いし。

うーん、でも従者さんの立場だとそうなっちゃうのかなあ。

仕方ないな、耐えるか。


帰りがけ、私にまで勅許状貰ってしまった。

これ使ったら、多分薬師じゃなくなっちゃうよなー。

携帯してくれって言われたけど、なんか面倒いな。


嫌な奴らのために私が気分を落ち込ませるのはなんか腹立つので、さっきの事はすっぱり忘れて、かける君で楽しくドライブして帰りました。

ネージュ、車内暖房してるからって、座席で寝ないでよ。

なんか寂しいよ。

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