10月 2/3

ネージュとの生活も三週目に入り、少しづつお互いの距離が出来てきました。

最初は二十四時間べったりだったけど、最近は目の届かない所にいることも多くなってきました。

といっても、家の中と家の周り程度の距離だけど。


絶対に着いてくるのは、私がお出かけする時と、ぷする時。

離れる時に、一応『森行くね』とか『ぷすりに行くね』って声かけると着いてきます。

でも、『洗濯してくるね』や『トイレね』は“みゃん”って返事するだけで着いてきません。

庭と畑、ポーション作りは、その時の気分次第みたいです。

あ、お風呂は絶対着いてきます。

シャンプーやリンスもお気に入りみたいで、洗ってると目を細めてゴロゴロいってます。

おかげで毛並みはいつもサラサラです。

女の子だねぇ。

雪猫自体が風呂好きなのか、ネージュだけがそうなのかは分かんないけどね。


趣味の発明はね、“猫トイレ”。

砂の入った入れ物じゃないよ。

猫サイズの洗浄乾燥機能付き水洗トイレです。


ネージュが用を足した後、舐めてきれいにしようとするので、最初は私が拭いてたんだけど、ネージュの賢さならいけるんじゃないかと思って作ってみたの。


ネージュが落ちないサイズのミニ便器の横にボタンが三つ。

押してる間だけ、水洗、洗浄、乾燥の機能が動作します。

最初温水洗浄でビクってしてたけど、今は慣れちゃってます。


当然、人間用の便座にも温水洗浄と乾燥機能付けました。

だって、温水が飛ぶ水晶出来ちゃったら作るしかないよね。

まあ、ネージュのトイレ作るのに悪乗りして出来ちゃったんだけどね。

でもこれでゴワゴワのチリ紙から解放されたよ。


今は一、二階共、トイレ横にネージュ用のトイレが出来てます。

ちゃんとドアまで付いてるよ。

最初はペットドアにしようと思ったんだけど、いつの間にかネージュが魔法で部屋のドアを開け閉め出来るようになってたから、ちっちゃいけどちゃんとしたドアの個室だよ。


あと、治癒魔法の開発してみたんだけど失敗でした。

ポーションの魔力で回復するなら魔法でも出来るんじゃないかと思ってチャレンジしてみたんだけど、自分のけがは直せたのに他者のけがは直せなかった。


攻撃魔法が動物相手には効かないのと同じで、相手の魔力が反発しちゃってダメみたい。

でも、いきなり魔力枯渇する例のルールには引っかかって無いみたいだから、可能性はゼロじゃないと思う。

現時点では相手の魔力反発を抑える手段が無いから、治癒魔法は技術革新が必要な今後の課題だね。


設備関連では、地下土置き場とアクセス用のスロープ作りました。

冬ごもりの最中に腐葉土必要になったら困るから、土ストック部屋と一段崖下の直通出入口、そこにアクセスするためのスロープ作りました。


森の巡回の際に一輪車で行って、帰りに腐葉土、沖積土、砂なんかを積んで帰って来ます。

暖炉使いだしたら、灰と混ぜて土づくりする予定です。


伸びてきた雑草刈って入れた、温風器付き生ごみ処理機も置いてあります。

ちょっと遠いけど、生ごみも毎日入れてます。

匂い対策に、部屋には換気ダクトも付いてます。


さて、今日は冷たい雨が降ってるから、朝から冬用装備作りです。

もうすぐ雪が降るはずだから、そろそろ準備始めないとね。

うちは外壁二重断熱にドアや窓も全て二重断熱だから室内は温かいけど、外は朝晩大分冷えるようになってきたからね。


真冬になっても床暖房、暖炉、壁暖房、温風器があるから室内は大丈夫なはずだけど、屋根の雪がねぇ…。

一応滑り落ちやすいように急傾斜にしてあるけど、実際の冬は初めてだから不安はあるんだよ。

真冬におうち改造なんて苦行はしたくないし。

屋根裏部屋はわざと屋根材が丸見えにしてあるから、裏から温めれば雪は融かせると思う。

屋根裏部屋の床も暖炉排熱床暖房で、煙突も立ってるから、熱で融けてくれないかな。

ダメなら温風器設置だね。

でも、屋根の下半分は二階のデッキに架かってるから融けないよね。

うーん…。


デッキ部分は屋根と二階の外壁に挟まれた三角形のドア無しストックヤードみたいになってるから、ドア付けて内部を温められる構造にしとくかな。

雪が傾斜では落ちなかった場合の次善策ってことで。


よし、壁とドア付けよう。

木材の方が断熱効果高いから、地下の高級木材使おう。

ウォルナットが結構余ってたはずだからね。


…デッキの幅、2mもあるから、ドアの横に縦長の採光窓はめ殺しにしとこう。

デッキだから二重断熱まではいらないよね。

一応ドアにも採光窓つけとこう。


あ、ネージュ、つまん無くなったのか部屋に入ってっちゃった。

ネージュに見放されちゃったけど、何とか出来た。


うん、こんなとこに使う木材じゃないね。

貴族の執務室の入り口みたいな高級感。

まあ、もう作っちゃたし、冬に楽が出来るならいいか。


そろそろお昼だし、昼食食べたら庭木の冬囲いしよう。


桜の木みたいに横方向に枝が広がってる木は、雪で枝が折れないように支柱を立てて保持していきます。

どれだけ効果あるか分かんないけど、麻布で幹をぐるぐる巻きにしておこう。

幹の細い木は周りに支柱を立てて円錐形に麻布で保護します。

寄せ植えは、真ん中に支柱並べて、切妻屋根みたいに麻布で囲いました。

苔は…さすがに覆うだけの布が無いので放置だな。


こういった作業は魔法での手抜きがしにくいので、終わったら夕方になってた。

私が作業してる間、ネージュはすっとリビングで食後のお昼寝してました。

夜、眠れるの?




今日は朝から晴れ。


日課済ませて、東の森を見廻りに来てます。

ダンジョンに寄ったら、兵士さんたちが杭打ちしてた。

話を聞いたら、冬も晴れてる日はスライム檻詰めするんだって。

だから吹雪き対策用のロープ張りしてた。


この地方では冬場に街の外に出るのは命がけ。

どうしても出なきゃいけない時は、ガイド用のロープが必須なの。

出る時に雪降ってたら、当然お出かけは中止ね。

出る時晴れてても、運悪く帰りに吹雪かれてホワイトアウトしたら、ロープをガイドにしてつかまりながら帰るの。

酷いと1m先すらまともに見えなくなるからね。

私も初めてホワイトアウト見た時はびっくりしたよ。

自宅から外覗いたら向かいの家すら見えなくて、自宅が雪山に転移したのかと思ったよ。


兵士さん曰く、中央と中央奥への道も同じ作業してるそうです。

大変だなー。

私なんか背が低いから、ロープあっても雪に埋まるからなぁ。


…よし、兵士さんのために除雪車作ろう。

街中でも使えば、みんなの除雪の手間も省けるよね。

午後に設計してみよう。


おうちに戻ったらポーション作って土保管して、ネージュと昼食摂ったらいざ設計。


ベースは…車輪式のブルドーザー型だな。

キャタピラ作るの大変だから、田植え機みたいな歯車型の車輪にしよう。

ステアリングは…前輪を一本の軸受けにして、軸受けを捻るようにするか。

ハンドルT字にすれば、重いけど切れるだろう。


移動は…反作用水晶使おう。

雪が重くて前進しないといけないから、大型水晶4連くらいにするか。

除雪部は…吸引式だと重い雪は難しいから、カッター式だな。

地面すれすれを水平にカットするようにして、前進してバケットに入った雪は縦にカットだな。

あ、刃は使わずに魔道具でカットすれば、巻き込み事故無くなるな。


後はバケットの中央に大穴開けて、煙突みたいに繋いで送風機で吸い上げるか。

煙突上部は可動式にして、噴出方向変えられるようにしよう。


バケットの幅はどうしよう。

うーん…、街の大通りって、荷車対向できるように5mくらいの幅だったよな。

去年までは道の真ん中をみんなで除雪して、左右は雪の壁になってたな。

あまり幅広だと運用しづらいし、除雪した雪の置き場にも困るよね。

じゃあ、バケットの幅は1mにしよう。


後は試作して運用しながら手直し…って、雪無いじゃん!

除雪機テスト出来るまで積もってたら冬ごもりしてるよ!

私、街行けないから手直し無理じゃん!

おうちで作って手直ししたら、街まで除雪しながら持って行くか?

でも、それだと兵士さんたちの冬場檻詰め作業に間に合わないな。

ぐぬぬ。


あ、いっそのこと雪上車にしちゃうか。

あれなら除雪しないで済むし、檻詰めスライム積んで帰れる。

万一吹雪かれても、毛布と温風器積んどけば一晩くらいならビバーク出来るよね。


兵士さんはペア行動が基本だから、二人乗りでいいか。

スライム積むのに荷台は…万一の荷崩れとか考えて、密閉式だな。

雪上用だから、沈み込まないように重量軽減付けて、車輪代わりに大きめのスキーだね。


想像図書いたらスキー板に乗った軽トラみたい。

…うん、圧倒的材料不足だな。

うちじゃ作れない。

仕方ない、ソード君か領主様に相談しよう。

今から行くとお泊りコースになりそうだから、明日、朝から行こう。




翌朝。

ほらー、雪降ってる。

今は薄っすら積もってる程度だけど、帰り積もってたらやだな。

は!スノーバイクあるじゃん!

まだ練習途中だけど、ゆっくりなら問題ない。

足元汚れなくていいよね。


…寒い。

風防無いから冷たい風がもろに当たる。

髪留め型の雨具を動作させてみたけど、風に負けて顔付近しか保護出来てない。

スノーバイク乗る時は、もう一枚余分に着よう。

ネージュは私の服の中、襟元から顔だけ出してます。

おかげでお腹だけは暖かかったよ。


「…そのへんてこなスキー、勝手に進んでないか?」


おう、お兄ちゃん、今日は北門担当なんだね。


「いいでしょー、雪遊び用に作ったんだ。傾斜無くても進むんだよ」

「…」


むう、ジト目で見られた。

やっぱお兄ちゃんとは感性合わないな。


街中は接触事故とか怖いから、重量軽減だけかけてスノーバイク押してソード商会に到着です。

お薬の納品済ませて聞いたら、今日はソード君新ダンジョン行ってるんだって。

仕方ない、領主様の館へ行こう。


領主館に行ったら、いつものように即面会。


「領主様、今日は冬のスライム檻詰め作業の事で相談に来たの」

「ああ、その事なら先に少し話を聞いてくれるかね」

「うん、いいよ」

「実は王都や大きな町では下水の事が問題になっていてね。処理能力が足りなくなって来てて、稀にだが家の中や街中で溢れたりしているんだ。疫病との関連性も指摘されているから、スライム式浄化槽の整備が急務になっているんだ。だが、各地のダンジョンのトラップ化を推し進めているものの、スライム檻を作る人材不足に困っているんだ。一般人が土から作るものは明らかに強度不足。陶器での代用は輸送時の割れが怖い。金属でも代用しようとしたが、徐々に溶かされてしまった。結果、スライム檻を作れる人材は、国全体で10人もいない。人材育成はしているが、物になるまでにかなりの時間がかかってしまうと陛下から泣き付かれて困っていたんだ。」


あ、領主様ストレスMAXですか?

話しながらネージュ手招きして、抱っこして撫で始めた。

ネージュは癒しだよねー。

お疲れみたいだから、真面目にお話ししよう。


「そんなことになってたんだ。確かにあの檻作るには魔力制御力高めだし、レベルアップもしないと個数が作れないね」

「そうなのだ。だが、冬まで出荷するにはダンジョンに向かう兵士だけでなく、輸送の危険も伴うと隊長から鬼気迫る勢いで説明されるまで全く危険を理解できなかった。正直王都も私も雪を甘く見過ぎていたようだ」

「あー、雪の怖さは体験したものしか分からないよね」

「10m先から戻れずに凍死するなどとは考えもしなかった」


うん、数年前の実話だ。

吹雪きの夕方に酒に酔った人が友人宅から帰ると出て行ったが、理由は分からないが閉鎖されてた門を開けて外に出てしまい、翌朝、門の10m先で凍り付いた状態で発見されたんだよね。

村では戒めとして語られてたんだ。

でも、疫病と聞いては薬師として黙ってられないよね。


「そんなお悩みの領主様にはこれです」


軽トラ型雪上車の図面を見せて説明してみた。


「…まさか、雪で閉ざされていても輸送が可能になると言う事か?」

「吹雪に遭ったら動いちゃだめだけどね」

「それでも凍死はしないで済むか」

「うん、これ作るのには材料無くて、今日はその相談に来たの」

「ふむ、長距離用の乗合馬車に少し似ているか」

「え?それってどんな馬車?」

「十人ほど乗れるように細長い箱型だ。長くて曲がりにくいから、御者席の下の前輪は馬の進む方向に向くようになっている」

「それ、流用出来るかも。車輪をそりに替えて御者席囲って、方向を自力で変えられるようにすればいけそう」

「方向を自力で変える?」

「あー、口で説明するの難しいから、模型作るよ」


模型作りは昼食を食べてからって事になったので、食堂に移動したらソード君が昼食食べに帰ってきた。

最近、館の食事は私のなんちゃってレシピ使ったものになってるらしく、おいしいからってわざわざ帰って来てるんだって。

ネージュもいるので、味付け薄めでお願いします。


席に着こうとしたら、知らない若いメイドさんが椅子を二つ持ってきた。

一つは私用の座面高めの椅子。

もう一つは赤ちゃん用の食卓椅子。

え?ネージュ用なの?


メイドさん、嬉しそうにネージュ持ち上げて椅子に座らせてる。

むふー、うちの娘、触り心地いいでしょー。

ネージュもお礼するみたいにメイドさん向いて、一声鳴いて頭下げてる。

あ、メイドさん口に手を当ててクネクネしてる。

慣れてないとあれは効くよねー。


って、そうじゃない。

…えっと、いいのかな?ネージュまで完全にお客様扱いなんだけど。

あ、メイドさん、ネージュの食事の介助するつもりなの?

でも残念、うちの娘、カトラリー使えます。

コース料理じゃないから食べ物一度に出てくるんだけど、ネージュ用のお皿はちっちゃいな。

ソーサーとか子鉢流用してるね。

コックさん、猫好きなの?


「ではいただこう」


領主様の一言で食事が始まったけど、メイドさん、介助しようとして固まってる。

だよねー。

お皿とスプーンが勝手に動いて、ネージュの口元にスープ運んでます。

うちでは見慣れた光景なんだけど、透明人間が介助してるみたいだよね。


「なあ、お嬢。ネージュ凄すぎじゃね?」

「えへへ、実はこれ、私がずぼらした結果なんだよ。テーブルに乗るのは行儀悪いし、かといって床にお皿置くのは差別してるみたいで嫌だったの。それで私の横に座らせて私が食べさせてたんだけど、そうすると私が食べられないじゃない。だから食べながら魔法でカトラリー動かして食べさせてたら、いつのまにか自分でカトラリー操って食べてたの」


ネージュはナイフとフォーク同時に操って、お肉食べてます。


「…」

「ネージュはマナーも良いな。素晴らしい」


ソード君絶句してるけど、領主様は寛容すぎませんか?

昼食終わってメイドさんに椅子を引いてもらったネージュ、メイドさんの足元に行って頭をすりすり。

メイドさん身悶えしてるよ。


食事を終えて館の倉庫に移動。

模型じゃなくて試作機作ったら、後はお任せ出来るそうです。


初めて入ったけど、資材いっぱいあるね。

各種金属に木材、水晶、ガラス、あ、銅パイプやバルブもある。

倉庫というより工房だね。


ソード君にLアングルとCチャンネル作ってもらって、私はフレーム作りです。

残念ながらステンレスは希少なので、素材は鉄です。

私、オールステンレスの一輪車作っちゃってたよ。てへ。


見本だからフレーム剥き出しの方が構造分かりやすいから、外装はありません。

続いてステアリング機構。

これはソード君と一緒に作って、構造を覚えてもらいます。

今回はアッカーマン機構にしました。

センター荷重の軸受け転舵より、左右に荷重かけた方が安定するからね。


ハンドルはT字型。

椅子は“つ”の字状の板バネの上に乗っけて振動抑制です。

広めのスキー板四枚をスプリング入れて取付けて、なんちゃって独立懸架。


続いて重量軽減と反作用水晶作って取り付けます。

重量軽減はわざと一個にしとこう。

飛んじゃうと危ないからね。


銅パイプで魔力供給ライン作って、アクセルはスリッパみたいなペダル式。

上に押し上げると前進、踏み込むと逆方向に取り付けた反作用水晶が動作してブレーキになります。

でも、止まった状態で踏み込んだままだとのろのろバックします。

メカ式のサイドブレーキでも付けとくか。

レバー引いたら板が雪に刺さるようにしとけば、坂でも止まるでしょ。


うん、出来たけど、フレーム剥き出しのスノーモービルみたいだね。

さて試運転。

雪は止んでるけど、少しだけ積もってるから丁度良いや。

それー。


うわー、これ、私のスノーバイクよりよっぽど楽だ。

完全に接地してるから体重移動気にしなくて済むのでラクラクです。

時速は最高で30kmくらいかな。

うん、上出来だ。

ソード君に運転代わって領主様とお話。


「これは凄いな。荷台を付ければダンジョンとの往復に使えるのではないか」

「ううん、兵士さんは二人一組じゃないと冬場は特に危ないし、吹雪き対策も出来てないから、あくまで構造を知るための試作だよ」

「そうだったな。しかし、車輪にすれば雪の無い季節なら走れそうだ。馬のように飼葉や水を持ち歩かずに済み、疲れを知らず走り続ける。このような乗り物に出会えるとは、まるで夢のようだ」


あちゃー、目的を言わずに利便性だけ話してる。

これは使用目的の中に言いにくいことが含まれてる可能性ありか。

仕方ない、釘刺しとくか。


「軍事転用はお止めください。私が薬師でいられなくなります」


突然変わった私の雰囲気に、領主様は言葉を探しているようです。


「…ゲンバク、スイバク、サイキンヘイキ」


領主様のつぶやいた言葉に驚いて、思わず後ずさってしまいました。


「やはり真実だったか。陛下から極秘で伝えられたのだ。以前の賢者の日記の最後の方に書かれていたそうだ。だが、明らかに精神を病んでいると思われる記述と同じ時期に書かれていたため真偽が分からず、王家の秘匿事項になっているそうだ」

「あー、この流れは嫌だなー。王家の伝承がどこまでその兵器について書かれてるかは分からないけど、本当だったらとてつもなく危険。だけど賢者の知識は捨てがたい。だからどこまで利用してもいいかをそれとなく調べろって言われたの?」

「…すまん」

「領主様相手だから駆け引き無しで正直に話すけど、さっき言われた兵器は前世に実際に有った最悪のものだよ。ただ、私はそれらを作る気は無いの。作ろうとしないのは、両親の二番目の願い『心優しい薬師であって欲しい』というのを守ってるから。でも、一番目の願いを脅かされた時は、私は薬師じゃなくなると思う」

「ご両親の一番の願いとは?」

「ほとんどの親が当然のように思う事。領主様がソード君に対して一番思ってることは?」

「………幸せに天寿を全うして欲しい」

「さすが領主様、うちの両親とおんなじだ。怖がられるかも知んないけど、王家の方にも正確な認識して欲しいから話しとくね。作ろうとするバカが出るといけないから原理は話さないけど、前世の世界には、子供でも指一本動かすだけで、離れた場所から屈強な戦士を殺せる武器があったの。単純計算で七人に一人がその武器を持てる量があった。そしてその武器はこの世界で簡単に作れちゃう。でも、私は薬師である限りは作らないよ」


脅しっぽい言い方になっちゃったけど、危機感はちゃんと持って欲しいからね。

私は今の辺境が好きだ。だから簡単に人を殺せる武器は出回って欲しくない。


「なんという恐ろしい世界だ。子供が指一本で戦士を?しかも七人に一人?想像を絶する狂った世界だ」


あ、脅かしすぎたかも。

領主様、顔引きつってる。

日本はわりと平和だったよ。“日本は”ね。


「まあ、そういう事だから、軍事利用は無しの方向で」

「約束しよう。…ちなみに薬師である条件とは?」

「治療以外で人を傷付けない事、傷付けるようなことに加担しない事」

「なるほど、軍事利用は加担になるな。正直に語ってくれたことに感謝する。そしてお嬢さんをこのように育ててくれたご両親に、改めて最大限の感謝を」


わーい、両親ほめられたー。


「えへへ、ありがとうございます。…ところで領主様、ソード君、乗りすぎじゃない?」

「…確かに」


いつまで経ってもソード君が降りないので、領主様に雪上車と除雪機の設計図渡して帰りました。

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