9月 3/3

新ダンジョンのトラップが稼働を始め、ちょっと放置され気味な私です。


東、中央、中央奥の各ダンジョンは、三交代二十四時間体制で稼働して、スライムの檻詰めと、余剰分は兵士さんや鉱山作業員、研究所の新人のレベルアップに使われてるらしいです。


ソード君、クマとヘラジカを見て、危機感を覚えたみたい。

兵士の生存確率を少しでも高めるため、無駄にしてた夜間のスライムも使う事を決めたようです。


新しいダンジョンは結構大きいみたいで、一日に百匹くらい出てくるそうなので、東と中央を檻詰め用にして、新ダンジョンはレベルアップ専用にしたみたい。

人間が森奥に侵攻しない限り猛獣対人間は起こりにくいと思うんだけど、ちょっと脅かしすぎたかな。

まあ、この領の未来を担う可能性のある人だから、危機感無いよりはいいけどね。


領主様も新しいこと始めたみたいで、色々な職人を呼び込んで、この街だけで魔道具の生産を可能にしたいらしい。

産出する鉄とクロムを使ってステンレスを作り、同じく産出した水晶を使って魔力変換水晶を作り、加工や組み立ても街の中でやる計画なんだとか。


魔学研究所の支部は、新人の選考基準が厳しくて履修後の領間移動も制限されてるのに、就学希望者が後を絶たないらしい。

今はソード商会員さんたちが講師に就任して教えてるらしいけど、魔力制御が上達しないと無理だから、時間掛かるだろうね。


マギ君の方も、やっと出来た直轄領のダンジョントラップに通い詰めて、レベルアップとスライム檻詰め、ダンジョン上の薬草畑も初めたらしく、大忙しだって。


私だけ、のほほんと今まで通りの生活しちゃってるけど、いいんだろうか?

たまに魔力変換水晶の作成依頼受けてるけど、魔力有り余ってるからすぐ終わっちゃうんだよね。

ソード君は『何人分もの仕事、一気にしてもらってるから助かる』って言うけど、私、結構暇だよ。


なので、今、エアカー用の浮遊魔法に挑戦してるんだけど、これはどうやら例の規制に引っかかってるっぽい。

ソード君には飛行機は作るなって忠告されたけど、エアカーと飛行機は別物だよね。


上方向にベクトル掛けて重量軽減することは出来るんだけど、上昇をイメージすると一気に魔力喰われるの。

重さの問題かと思って、板に私と同じくらいの重さのレンガ載せて板だけ浮かせるイメージしたら、魔力消費は多いけどちゃんと浮かせられたんだよ。

なのに私が乗って板を浮かせようとすると、一気に魔力枯渇しそうになるの。


何でだよ、理論に合わないよ!

試しに重量軽減水晶複数作って板に取り付けてみたんだけど、なぜか一個だけ取り付けたのと同じで、浮くことは出来なかった。

ゼロG近くまでは行けるけど、マイナスGはダメって事みたい。


切り口を変えて物理的反作用だけ発生する水晶も作ってみたんだけど、複数付けてもやっぱり上昇まではいかないの。

でも、木で作った模型飛行機の胴体下部に水平に反作用水晶取り付けたら飛んだんだよ。

直接的に人が飛ぶ魔法や魔道具はダメってことなのかも。


成果無しではつまんないから、雪上用スノーバイク(キックボードのスキー版)作って、重量軽減して水平に反作用水晶取をり付けてみたら、走行は出来ました。

でも、草スキーしてる気分になって、いまいち喜べなかった。


しかも底面が何かに当たると、反動でしばらく浮き上がったままになっちゃうし舵も切れないの。

スカイダイビングみたいに、自分の姿勢次第で進行方向は変えられるけど、空気抵抗弱いから、すっごい大廻り。

しかも、風吹くと攫われる。


乗ってる板の左右に1個づつ水平に反作用水晶取り付けて、魔力供給をハンドルと連動して魔力増減させて舵代わりにしてみたんだけど、取り付け距離(板の幅)が短くて利きが悪い。


考えた末、乗る側の板に重量軽減、舵側のスキー前部に前進用の反作用水晶取り付けることで、舵の問題は解決しました。


でもこれ、乗りこなすのは結構難しい。

自転車みたいな左右への体重移動に加え、前後の体重移動も覚えないと空中で縦回転します。

転舵時の左右への体重移動も、ジャンプした時はシビアです。

適当な体重移動すると、空中で縦と横の円運動しちゃって大変なことに…。

うう、酔った、気持ち悪い…。

しばらくは低速・接地状態で慣れてから、雪積もったらこれで遊ぼう。


ソード君にも見せたんだけど、大回転事故を思い出して恐々乗ってたから、のろのろ自走する草スキーに見えたみたいで、お叱りは無かったよ。


荷車の重量軽減と自走用にって言って水晶渡したら、そっちの用途の方が衝撃だったみたいで、しばらく呆けてました。

面白い顔してたので、自動車の絵を書いて渡したら、さらに面白い顔になってた。


あ、模型飛行機は、見せてないよ。

ソード君の忠告思い出したので、内緒でお蔵入りです。


乗り物つながりでは、一人乗りのちびエアカー作ろうかとも思ったんだけど、おもちゃのペダルカーに乗ってる幼女みたいな絵面が浮かんだので止めました。


あと、変わった事といえば、なんと、水田が出来ましたー!


ドンドンパフパフー!!


以前、ソード君にお米のすばらしさを熱く語ったことがあったんだけど、そのことをマギ君との手紙の中で知らせたらしいの。

そしたら、南方では栽培されてたらしく、短粒種のお米が籾の状態で100kgくらい届いたんだよ。

ソード君、マギ君、ありがとー♪


速攻で地下水田作っちゃったよ。

滝の水と魔道具で作った水、どちらが適してるか分からないから、滝の水の給水路まで作っちゃった。

当然排水路も掘ったよ。


けど、まだ種籾が芽を出した程度なのでしばらくは使えません。

お米なんて田植えはしたことあるけど育てた事は無いので、水田は一列ずつの長いプランター方式にして、土質や水の量なんかを変えて実験するつもりです。


ソード君が食べさせろって騒いだから、木臼の籾摺りと精米用の瓶作ったら、自分で精米してた。

仕方がないので土鍋作ってご飯炊いて、ベーコン丼作ってやったらがっついてた。

私は余ったご飯で塩おにぎり作って食べた。

懐かしかったけど、前世的には安っすいブレンド古米くらいの味。

ソード君は気に入ったみたいだけど、私は切実に思ったね。

コシヒカリ欲しい!


前世では田舎のじいちゃんがコシヒカリ作ってて、毎年新米が一年分届いてたから、あの味に慣れちゃってたんだよ。

まあ、この思いが田んぼづくりに反映されちゃって、実験農場みたいになっちゃったんだけどね。

種籾も厳しい塩水選別潜り抜けた猛者たちだから、ちょっとは期待していいよね。


農作業関係では、野菜の収穫が始まりました。

まだきゅうり収穫し始めただけだけど、今後はどんどん収穫物が増えてくと思うんだ。

新鮮野菜、ひゃっふー。


最近半農半x生活の私ですが、薬師としての仕事も忘れてませんよ。

ポーション軟膏とポーション丸薬発明しました。

まあ、ポーションから水分抜いただけなんだけどね。

でも、ポーションにした後で水分抜こうとすると、ポーション自身の魔力に阻害されて、制御の上手い魔力おばけでもないと水分抜けません。

最初から抜いとけって?

粉末にした薬草を魔力で満たした水に溶かす工程があるので、どうしても水分は入るんだよ。

なので出来上がったポーションから、魔力は抜かずに水分だけ抜かなきゃいけなくなるんだけど、強力かつ繊細な魔力制御しないと、ただの薬草汁に戻っちゃってすぐ劣化しちゃうの。

でも、頑張ったおかげで、塗った外傷の部分だけを早く修復させる軟膏が出来たよ。


丸薬は…、うん、やりすぎた結果です。

輸送コストや携帯性良さそうだから、軟膏と一緒にマギ君に送って、実用性検査してもらってます。


さて、午前の日課はポーション作りまで終わったし、午後は何しようかなー。


ぽけーっと東の庭見てて思い出しました。

うちの庭のリンゴと洋ナシは、植え替えたストレスが原因なのか、今年は実がならなかったけど、世間ではそろそろシーズンだよね。


一度父ちゃんたちに連れて行ってもらった果樹の多いエリア。

たしか西の森の南西方向に一時間くらいだったよな。

ちょっと早いかもしんないけど、一度様子を見に行ってこよう。

上手くすれば、新鮮な果物も手に入るよね。


うろ覚えの記憶を元に、やって来ました西の森南西。

川だ。

そういや父ちゃんに肩車されて渡った記憶あるな。

川幅は10m程、水深は50cm程だけど、流れが速い。

…私じゃ桃太郎さんになるね。


でも渡れるよ。

エアカー作りで出来た重量軽減魔法、幅跳び状態で使うと飛距離が十倍くらいになるから。

跳び過ぎて何かにぶつからないように、注意は必要だけどね。


…ちょっと跳び過ぎて向こう側の森に突っ込んじゃったけど、桃太郎するよりはいいよね。


しばらく森を探索して、目的の場所を発見しました。

何で果樹がかたまって生えてるのかと思ったら、ここは条件がいいんだね。

盆地みたいになってて東側だけなだらかだから、日当たり良くって寒風からは守られてるみたい。


でも、来るのがちょっと早かった。

実はなってるけど、まだ青くて小さいのばかりだね。

せっかく来たんだからと、探し回って発育良さそうなの採ってたら、桃、発見しました。

大きな桃の木には所々に色づきかけた桃もなってる。

横には樹高2mくらいの木に、若い桃が大きなどんぐりみたいになってます。


にゅふ、にゅふふふふふ。

色づきかけてる桃を採ったら、小さい桃の木の根元を掘り返します。

絶対持って帰る!!

なんとか桃の木を移動可能な状態にして担ぎ、枝が折れないように広い場所を探しながら南下します。

これだけ大きなもの持って西の森経由は厳しいので、南下して草原経由で帰ります。


草原には来る時渡って来た川が渓谷作ってるから渡れないんだけど、私なら魔法で何とかなるもんね。



<お食事中の方、注意!>


しばらく木々の間を縫いながら進んでたら、腐敗臭が…。

森ではよくあることなんだけどね。


あ、死体発見。

これは、母ちゃんが若いころ見たって言ってた雪猫ってやつか?

白っぽい長毛で尻尾と耳のふちはこげ茶、目の色は分からないけど体長50cmくらいのラグドールっぽいです。


ん?森ネズミ咥えてるな。狩りの帰りに襲われたか。

お腹には二つの穴が開いてるから、牙イノシシにでもやられたのかも。

吹き飛ばされてぶつかったのか、後ろ足も両方折れてるね。


なんまいだぶなんまいだぶ。

死体を見つけたら、なるべく埋める。

これ、森でのルールね。


穴掘ろうとして付近見まわして気付いた。

かなりの距離、血の跡と引きずったような跡が死体まで続いてる。


…お前、ひょっとして身体引きずりながら帰って来たの?

よく見ると、木の根元付近に何度も引っ掻いた跡がある。

前足だけで登ろうとした?

あ!まさか、頭上にある弱い魔力反応って!?。

探知にはごく弱い反応が頭上にあるんだけど、リスか何かだと思って気にしてなかった。


慌てて木に登ってみたら巣があったよ。

太い枝と枝の付け根付近に折った枝を何本も渡して床を作り、小枝や枯草、蔓草でドーム状に囲ってある。

雪猫賢いな。


巣の中には赤ちゃんを卒業したてくらいの子猫が三匹いるけど、ニ匹は死んじゃってるね。

残りの一匹も、かろうじて生きてるって感じ。


急いで救出して、ポーションを私の小指に垂らしながら与えてみたら、何とか飲んでくれた。

お、目の色ブルーだね。ますますラグドールっぽいよ。

しばらくしたら飲む力強くなってきたんだけど、小指、くすぐったいよ。


あ、やっちゃった。

こういった場合、森では手出し無用が原則なのに、思わず助けちゃったよ。

でも、あの母猫の行動を推察したら、もう助けるしかないよ。

こんなに衰弱するまで放置されてるってことは、父猫は子育てしないか、もういないって事だよね。

助かるかどうかは微妙だけど、手出ししたからには最後まで責任持たなきゃね。


子猫はポーション飲み疲れたのか、飲むの止めて寝ちゃったみたい。

お腹がゆっくり深く上下して呼吸が安定したみたいだから、布に包んでリュックの上部に入れました。


もう一度木に上って兄弟(姉妹かも)たちを下ろし、母猫に抱かれるような体制にして木の根元に埋めました。

さあ、早く帰って子猫温かくして餌あげなくちゃ。


緊急事態なので、桃の木担いだまま、身体強化ジャンプと重量軽減全開で森を抜けます。

着地点が悪そうだったら、反作用魔法で位置調整です。

渓谷の川も、水面走るみたいに低空で抜けてきたから、多分見られてないよね。

普段人が来るとこじゃないし、多分大丈夫。

ソード君に知られたらお小言確実だけど、あの母猫の思いは遂げさせてあげたいよ。


大廻りして帰ったので、おうちに着いたら夕暮れでした。

まずは子猫の体温保持。

布をたたんで角型シュラフみたいにして、子猫を中に入れます。

次に開口部の反対側から、やや遠めに温風器置いて加熱します。


よし、餌作ろう。

歯も生えそろってきてたから、離乳後期だよね。

でも、弱ってるから完全なペーストの方がいいか。

材料は、生肉すり下ろそう。

あと、魚の干物もあるから、塩抜きがてら茹でてすり潰すか。

食べてもらうのにも、種類あった方がいいよね。

あ、ちょことだけポーションも入れとこう。


…ご飯出来たけど起きないな。

体温も上がってきてるし、ポーション効いてて回復中かな。

一応お皿に入れて、目の前に並べておこう。

起きた時、私がいると警戒して食べないかもしれないから、ランタン使いながら桃の木でも埋めてよう。


桃の木、半分くらい実が落ちちゃったな。

無茶な移動したから仕方ないよね。

それに、ある程度摘果しないと、植え替えで弱るはずだからね。


桃の花って濃いめのピンク色だから西の庭に植えて鑑賞したかったけど、西の庭は日当たりいまいちなんだよね。

だから、東の庭の北風が当たりにくい日当たりの良い場所に植えました。

東の庭って果樹園になってきたな。


おうちに戻ったけど、子猫まだ寝てるよ。

魔力反応は大分強くなってきてるから大丈夫だとは思うけど、お腹空かないのかな?

あ、猫トイレ無いや、作らなきゃ。

トイレスコップもいるね。


サクッと作って戻って来たけど、やっぱり寝てるね。

こりゃ、今晩は寝たままかもね。


子猫の横に寝っ転がってしばらく様子見てたら、いつのまにか寝落ちしちゃいました。

気持ちよさそうに寝る子猫、床暖房で更に足元からは温かい温風。

寝ちゃっても仕方ないよね。


明け方、ざりざりと顔を舐められて目が覚めた。

おお!元気になったか!

ちゃんと立ててるよ。

ご飯二皿ともきれいに食べてあるし、トイレの砂もかいた後あるから使用済みだね。

えらいぞー。


しかも私の事怖がらないんだね。

なでなでなでなで

あはは、気持ちよさそうにしてるね。

でもこれ、撫でてるだけで毛繕いじゃないぞー。


トイレの始末しようとして歩き出したら、とことこ後着いてくる。

今までは母猫や兄弟たちとずっと一緒にいて、いきなり一匹になったら不安だよね。

よしよし、私が母親代わりだぞー。

よーし、朝ご飯作ってあげるからね。


…困った。

一晩ですっかり元気になってくれたけど、どこでもよちよち歩きで着いてくるの。

昨日寝落ちしちゃったから朝風呂入ってたら、お風呂のドア、カリカリしてる。

仕方ないから入れてあげたら、よたよたしながらも浴槽に飛び上がろうとするし。

危ないよ、私浸かってるけどお湯に落ちたらどうするの。

ゆっくりと抱き上げて後ろ足だけお湯に浸けてみたけど、おとなしいまま。

あれ?水、怖くないの?


前世で飼ってた猫は、初めてお風呂に入れたら、爪立てて私の身体を登ろうとして流血大惨事だったんだよ。

お湯、赤く染まったからね。


もうちょっと浸けてみよう。

…ねえ、何で気持ちよさそうにしてるの?

最終的に首元近くまでお湯に浸けてみたけど、目を細めて気持ちよさそう。

口、少し開いて舌出てるよ。


野生どこ行った!

雪猫ってこんななの?

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