8月 3/3
本気モードを始めて一週間、今日も日課と森巡回終えてからポーション作ってたら、ソード君が来ました。
荷馬車いっぱい引き連れて。
荷台には腐葉土、苔、野菜の種、花、庭木、そしてなんと庭石まで、大量の物資が積まれてました。
「お嬢、お待たせ。庭いじりしようぜ」
「え?お仕事大丈夫?無理してない?」
「あー、やっぱりか。心配かけてすまん。俺、正直手を広げすぎて余裕無くなってた。お嬢のおかげで溜まってた注文はほぼ納品できたし、父上の伝手で雑用や経理、店長も雇った。昨日もゆっくり寝れたし、今日からは午前中だけの仕事量にした」
「身体壊さなかった?」
「ああ、お嬢のポーション飲んでたからな」
「ちょっと、それは壊れかけって事じゃない!ポーションは薬なんだよ!」
「そうだな、父上にも叱られた。余裕が無くて大事な物見失ってないかって。だから反省して以前の状態に戻したんだ」
「楽しむ余裕が出来たって事?」
「ああ、だから遊びに来た」
「そっか、…うん、じゃあ遊ぼう」
知らないおじさんたちが下ろしていった庭木や花を使って、ソード君と二人、東の庭づくりしながら色々話しました。
まずソード商会は、アルバイト含めて人員が三倍になったそうです。
本当に秘密にしなければならない部分だけを中核の四人でこなして、後は新しく雇った人に丸投げ。
しかも管理は領主様の従者さんがやってくれるんだって。
領主様も信頼できる元部下や友人たちを呼びよせて家人にし、仕事に余裕ができたそうです。
そして私は、仕事させとくよりある程度遊ばせといた方が、ぽんぽん発明するだろうから自由にしろだって。
反論したかったけど、自分でも思い当たる節があったんで、渋々納得しました。
ソード君も、私と遊んでるのが楽しいって言ったから、まあいいか。
そんなこんなで、東の庭が完成しました。
結局、イングリッシュガーデンは無理だったよ。
理由は、厳冬期を超えられる草花が少ない事、そして積雪による重みに耐えられるものも少ないんだって。
だから芝生ぽく刈った雑草の庭にリンゴ、洋ナシ、ラズベリーの木とガゼボ、そして越冬可能なバラやベリー類を島のように寄せ植えした庭になりました。
今、ソード君は久々のお風呂です。
あ、おうちの方のお風呂は初めてか。
私はというと、西の庭に穴掘ってます。
だって、庭木の中にいいもの見つけちゃったんだから、これは西の庭に植えるしかないでしょう。
桜、枝垂桜、梅、ツツジ、もみじ。
こ、これは春と秋、両方楽しめてしまう。
アプローチがあるので東の庭を優先したけど、個人的には苔庭を早く完成させたい。
リビングの窓から借景するつもりなので、配置を考えて穴掘りです。
冬までにちゃんと根付いてくれるといいな。
ソード君はまた遊びに来ると言って帰って行ったけど、まだ日没までは時間があるので、せっせと一人作業です。
夕方、庭木を植え終わったので、近場に一輪車で土を回収しに行きます。
苔庭ならもこもこと盛り上がったふくらみが欲しいので、回収した土で地面に変化を付けます。
あー、日が沈んじゃった。
よし、明日は朝から西の庭作ろう。
翌朝、曇ってるけどてるるん付けてれば問題なし。
昨日途中だった地面の起伏付けを終え、今度は庭石を一輪車で運んでます。
地面に穴を掘って、庭石が半分埋まるようにして、バランス考えながら配置していきます。
ちょっと焦って作業してるのは、持って来てもらった苔が積んであるから。
早くしないと下の方が枯れちゃうもんね。
習慣づいた昼食もぶっちして作業を進めた結果、午後には苔を張り始めました。
…なんか、苔多いな。
予定部分は張り終わったけど、まだ1/3くらい残ってる。
よし、北の裏庭も張っちゃおう。
私、頑張った。
夕方には全作業終了したよ。
まだ苔が繁殖してないからつぎはぎ部分あるけど、かなりそれっぽくなったよ。
リビングの窓越しに見ると、結構いいバランスです。
あー、顔がにやけるー。
思った以上に借景、うまくいってる。
あとはちゃんと根付くように、毎朝水やりするからね。
リビングでお茶しながら、庭を見てまったり。
えへー、えへへへへー。
翌日、朝から日課こなしてダッシュで森の巡回済ませました。
今日は野菜作りするんだー。
昨日持って来てもらった荷物の中にあった野菜の種、ラディッシュ、水菜、いちご、大根、じゃがいも、ニンジン、白菜、キャベツ、枝豆などなど。
どれだけ成功するか分からないけど、新鮮な野菜、欲しいんだよ。
身勝手な期待を込めながら、大きなプランターに腐葉土と灰、石灰を混ぜたものを詰めていきます。
でも、洞窟内の温度って、多分10度代前半。
地温もそうなるだろうから、発芽温度に至ってない気がするの。
なので、昨日の夜、急遽温風器作りました。
朝、温風器と照明をONにして、夕方OFFにする。
これで温度差と日照時間作ったら育つんじゃないかと目論んでます。
発芽のために、しばらく温風器は点けっぱなしだけどね。
でも、これが成功すれば、冬でも新鮮な野菜が……じゅるり。
今回は温度の関係で夏野菜は避けたけど、もう一部屋作って温風器増やせばトマトとかも育つかな……じゅるり。
おっと、妄想でパブロフわんこしちゃったけど、土の配合やら温風器の出力やら、受粉やら失敗要素も多いんだった。
ちょっとづつ色々な条件変更して、目指せ新鮮野菜!。
そのためには、やはり温度計が欲しい。
なので、ガリレオ温度計作りました。
メスシリンダーみたいな入れ物作って水を入れ、中には空気と砂を密封した透明なカプセルを、砂の量を少しづつ変えて入れてあります。
はっきり言って温度は分かりません。
でも、何個目までが浮くか沈むかで目安にするつもりです。
カプセルの重さを同じにしないと、中に入れる砂の量での調整が意味をなさなくなるので、上皿天秤まで作ってたから夜になっっちゃった。
夕食食べたらお風呂入ってさっさと寝よう。
朝来たー。
空模様はかなり怪しい。
これは雨降るかも。
今日はお出かけ止めとこう。
ちょっと実験したいことがあったから、日課を済ませたら今日はおうちで実験です。
フリーズドライ食品作りたい。
だって、冬は三ヶ月くらい籠るんだよ。
洞窟畑が成功したとしても、野菜以外が保存食ばっかりは寂しいよ。
冷凍室作っては見たけど、温度分かんないから食材が三ヶ月持つかどうかわかんないんだよ。
だから、フリーズドライにして冷凍庫に入れとけば、何とか持つかと思ったんだ。
でも、フリーズドライって、冷凍しながら減圧して、凍った水分を昇華させるんだったよね。
さすがに真空ポンプとか作れないし、魔法で減圧するのも難しそう。
昔の冷凍食品がまずいのって、解凍時凍った水分が溶けだす時に、一緒に水に溶けた成分まで流れ出すからまずくなるって聞いたんだよね。
でもさ、“鉄抽出”で鉄鉱石から純鉄が出てくるんだから、 “水抽出”って、水しか出てこないんじゃないかな。
で、“水蒸発”ならフリーズドライに近いものが出来るんじゃないかと思ったんだよ。
だから、まずは常温のまま水だけを蒸発させる魔法を作ろうと思うの。
では、実験開始です。
用意するのは、その辺に生えてる雑草。
雑草から湯気が出るようなイメージで、魔法発動!
…しなびた。
しかも雑草、温かくなってるし。
このイメージだと“昇華”じゃなくて“蒸発”だよね。
うーん………カップ麺の薬味みたいに色と形が残ったままからっからになって欲しいんだよなー。
…あ、下手に途中経過を思い浮かべずに、その完成イメージのまんまでやってみればいいのか。
てい!…うわ、これ、魔力結構持ってかれるな。
やっぱり、いきなり完成形に持ってくのはきついか…。
魔力半分近く持ってかれたけど、何とか出来た。
雑草、形もそのままに、色も結構残ってる。
お水に浸けてみよう。
………
……
…
うん、何とか戻ったね。
ちぎってみると、何もしなかった雑草よりはもろいけど、ある程度の引っ張りには耐えるね。
でも、葉っぱ一枚で魔力半分持ってかれるんじゃ、魔力変換水晶作れないな。
…仕方ない。毎日練習して魔力消費抑えるか。
寝る前の日課にしよう。
実験終わってダイニングテーブルでお昼食べてたら、変なの来た。
ダイニングの窓からは東の庭とアプローチの小道が見えるんだけど、
知らないおっさん三人組が小道を歩いてきた。
金属鎧着けたおっさん二人と、妙に派手な服着た神経質そうなおっさんが一人。
これは貴族がらみだろうな。
ドンドンドンドン!
うわー、ドアノッカー(内側ベル付き)付いてるのにドアを直接叩いてるや。
嫌な予感がするから出ないでおこう。
貴族から何らかのアプローチがあるなら、当然領主様経由になるはずだから、最低でも顔見知りの兵士さんが着いてくるはず。
なのに知らない人ばかりがいきなる来るっていう事は、領主様が知らないってことだからね。
ガチャガチャガチャ
げ!勝手にドア開けようとしてる。
何て礼儀知らずな。
でも残念でした。
スライムがいる森の近くに住んでるんだから、在宅時でも鍵かけるのは当たり前だよー。
あんな失礼な奴らなら、次はきっと窓から中を覗いてくるな。
二階に上がっておこう。
こっそり二階のデッキから様子を窺ってたら、案の定だよ。
「中には人影は見えません」
「ちっ、折角訪ねて来てやったというのに、留守にするとは無礼な!」
無礼はそっちだぞー。
来てくれなんて頼んでないし、来るって連絡さえ貰ってないぞ。
「仕方ない。その庭で昼食を摂るぞ、準備しろ」
うげー、勝手にガゼボ使いだした。
あ、ごみを寄せ植えにポイ捨てしやがった!
辺境では見ない阿呆だな。
これ、言葉は通じるけど話は理解できないって奴らだ。
前世でもたまにいたなー。
こういう奴らは、いくら話してもこっちの時間が無駄になるだけだからなぁ。
どうしようかなぁ……。
おお!、ソード君と兵士さんたちが走って来た。
申し訳ないけどお任せしよう。
「おい!貴様たちここで何をしている!」
「無礼な!我らは男爵家の家人だぞ!」
「ただの阿呆か…捕らえろ!」
おー、即断即決!ソード君かっこいいね。
兵士さんたちは一斉に槍を構えてにじり寄ってる。
「よ、よせ!男爵様の命を受けた我らを捕らえるなど、ただでは済まんぞ!」
あーあ、金属鎧のおっさん二人、剣抜いちゃったよ。
「おまえたちは罪人だ。罪は領主の許しなく北の平原を超えた事、そして領主の庇護下にある者の私有地への無断立ち入りだ。街に入る時と北門を出る時、二度説明されたことも理解できぬ愚か者が!更に領主の子息で男爵位を持つ俺に剣を向けるなど、貴様らだけでなく命じた男爵もただでは済まさんぞ!」
ソード君、言うが早いか剣を抜いてる二人の間に飛び込み、左右の剣を引っ掴んで、“く”の字に剣を曲げちゃったよ。
切れ味悪そうななまくら剣とはいえ、結構無茶するなぁ。
あ、そのまま剣を奪い取っちゃった。
剣を取られまいと引っ張ってたおっさん二人は、引っ張ってたものが急に無くなって尻もちついちゃってるよ。
「な!、そ、そんな馬鹿な…」
派手服のおっさんは、やっとまずい状況だと理解できたみたい。
顔が青ざめてるね。
「馬鹿とは俺の事か?」
曲がった剣を投げ捨て、にやりと笑うソード君。
ソード君、笑顔が黒いよ!
「い、いえ、めっそうもございません!」
うわ、派手服のおっさん、ジャンピング土下座しちゃった。
「捕縛して父上の元へ連れていけ!」
やーい、縛られてやんの。
あ、曲がった剣と一緒に、散らかしたごみまで兵士さんが持っててる。
ひょっとして証拠品にするの?
おっと、ソード君だけ残ったから降りてかなきゃ。
「ソード君、ありがとう!助かったよ」
「いや、遅れてすまん。兵士集めるのに時間食って遅くなった。あいつら、北門の兵士には理由も話さず平原に出るだけだって言って貴族風吹かせて強引に北門出たらしい。兵士が怪しいって報告に来たから人数集めてるうちに宿に確認したら、宿で仮病使って薬師の居場所を聞き出してやがった」
「うわー、自分勝手な傲慢野郎か。相手しなくてよかったよ。でも、何しに来たんだろう?」
「これから裏取するけど、多分お嬢のポーションだ。父上のとこには複数の貴族家から5.0以上のポーションについて問い合わせが来てた。製法は極秘だって言って全部断ったんだが、念のために登り口から北への進入は領主の許可が必要だってお触れを出したんだ。でも、お触れを無視するとは思わなくて、後手に回った。迷惑かけて悪かったな」
「いやいや、迷惑かけてるのは私でしょ。忙しいのにごめんね」
「違うぞ。迷惑かけやがったのはあの馬鹿どもだ。お嬢も俺も掛けられた方な」
「まあ、そうなのかも…。あんなのは辺境にはいないもんね」
「…王都にはわりといた。だから俺には合わなかったんだ」
「それは、まあ、何というか…ご愁傷様?」
「死んでねーし!」
ソード君は後始末があるからって帰っちゃったけど、やっぱり王都にはああいうのいるんだね。
うん、私にも合わん。
やっぱり王都や都会は避けよう。
ちょっと鬱入りそうだったので、趣味に走って忘れよう。
うーん、何作ろうかなー。
あ、そうだ、石灯篭作ろう。
夜、ライトアップされた苔庭を見ながらまったり。
にゅふ、いいんじゃない。
どんな形がいいかなー。
どうせなら可愛いのがいいよね。
えーとぉ……あ、キノコ型にしよう。
大黒本しめじみたいに傘が広くなくて柄(え:茎みたいな部分)がぶっとくて、ずんぐりむっくりなの。
でも、一つだと広さ的に光源足りなさそうだから、もう一つ欲しいな。
うーんとねえ、じゃあ、角を落としたキューブ型にしようかな。
よし、崖の上にいっぱい石あるから、適当なの取って来よう。
どうせ加工するんだから、カットして崖上から落とせばいいよね。
………
……
…
ちょっと凝り過ぎたかも。
二つ作ったら既に夕方だし。
水晶ランプだと太陽光みたいな光で風情が無いので、頑張って電球色ランプ作りました。
電球色の光源をイメージして魔力変換水晶作ったら、見事に電球色ランプが出来ました。
よし、夕食作ってるうちに日が暮れるだろうから、食べながら眺めよう。
にゅふ。
にゅふふふふふ。
やばい、頬が緩んで顔が戻らん。
この夜の西の庭、誰かに見せたいけど、緩み切った顔まで見られちゃうよ。
慣れるまでは一人で鑑賞しよう。
夜、寝る時になって気付いた。
石灯籠、消しに行かなきゃ。
…ワイヤレスでON-OFFしたいけど、魔法での電波実験は失敗に終わったんだよね。
魔法で電波発生させようとしたら、いきなり魔力枯渇でぶっ倒れました。
魔力は物質(水とか)を作り出せるエネルギー量持ってるんだから電磁波作るくらい余裕なはずなのに、何故だかダメなんだよ。
指先で小さな放電させるのは簡単に出来たんだよ?指、痛かったけど。
…魔法って、法則外の規制がある気がするんだよね。
ひょっとしたら神様あたりが規制掛けてるのかもね。
根拠ないけど。
まあ、そうなると電気作って有線でって事になるんだけど、バッテリーは作れるだろうけど発電機やモーターがねぇ…。
コイル用の薄くて丈夫な絶縁体作るのは大変そうなんだよね。
なんだかね、ドアの向こうにゴールがあるのに、開け方分からなくて遠回りしなきゃいけないみたいなもどかしさなの。
神様、ズルせずに地道にやれってことですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます