7月 3/3

さてさて、待望の丸太ちゃんが届いたことで、おうち作りは仕上げ段階です。

まず、一階と二階の壁をホワイトオークの板張りにしました。

一階の床は魔道具式の床暖房取り付けたので、テラコッタ調の大判レンガのままです。


続いて二階の床は、全室ウォールナット張り。

ドアと窓枠は圧縮したチーク材です。

玄関ドアは親子ドアにして二重ガラスのアーチ型窓を付けました。


ダイニングのテーブルは、なんとマホガニーの六人掛けテーブル。

さすがに一枚板では無理だったので、木目を合わせて真ん中でくっ付けました。

あと、リビングのローテーブルと私室、客室のテーブルも、マホガニーの猫足テーブルです。

ソファーはロココ調のカウチソファー。

みんな、すげー高級感漂ってます。


本棚と食器棚、小物棚なんかはチーク製。

イスはローズウッド八脚。

六脚がダイニング用で私の部屋と客室に一脚づつ。

あとね、怒られそうだけどコタツもマホガニー製です。

今はしまってあるけどね。


絶対余ると思ってた丸太、ほぼ使い切っちゃいました。

端材(といっても2m以上ある)は地下室に収納しました。


私のおうち、ちゃんと完成したんだけど変です。

おうち本体は材料費タダなのに、内装と家具は異常な値段だと思う。

普通おうちの方が高いよね。


作ってる途中で住みたくなっちゃって、二階の床と一、二階の壁に木を張った時点でベッド持ってきちゃいました。

だって、暖かくなってからは、小屋での調理、軒下だよ。

雨なんか降ってると、わびしさ満点なんだよ。

引っ越したくもなるよね。


今、小屋はポーションとお薬の専用調剤室になってます。

私の新しい部屋は、統一感ありません。

両親に買ってもらったベッドやワードローブと一緒に、超高級家具が並んでます。

両親に買ってもらった家具は使いたいからね。


二階の私の部屋からしか行けないもう一つの部屋には、ソード君に預かってもらってた家具類が入ってます。

ここは水晶関連の内緒の開発部屋になってます。

以前の食卓テーブルは作業机になってます。

父ちゃんと母ちゃんのタンスには、鉄やステンレスのインゴット、未加工の水晶、磁鉄鉱の結晶なんかが入ってます。

ワードローブには、素材用の木の枝や端材が入ってます。

父ちゃん、母ちゃん、こんな使い方しか出来なくてごめんね。


新居でのあーさー。


朝起きたら二階の洗面台で顔を洗い、身支度整えてリビングへ。

壁は全て二重張りな上にさらにホワイトウッドが張ってあるので、部屋だけでなく廊下や階段も寒くない(今、夏だけど)。


キッチンの魔道具冷蔵庫から食材を取り出し、魔道具換気扇を動かしながら魔道具コンロで朝食を作り、マホガニーのテーブルでローズウッドのイスに座って食事します。

食後、二階のベランダデッキでチークのテーブルに着いて、雄大な自然と村を見下ろしながらティータイム。

雨が降っても、軒が深いので濡れません。


なんだこれ?

優雅過ぎない?


今までは――

朝起きて、ちょっぴり寒いの我慢しながらお外で洗面。

水は当然自前(魔法)

軒下でせっせとバーベキューグリルに薪で火おこしして、洞窟の食材庫から食材持って来て調理。けむい。

晴れてたらお外の土テーブルで、土のイスに座って食事。

雨だったら小屋の中の作業台で食事。


………やばい、以前に戻れそうにない。

私って不自由を楽しんでたはずなのに…。


そんな優雅な時間を過ごし、徒歩一分の洞窟に出勤。

ぷすったあとは薬草のお世話してから森の巡回に。

雨に降られてもてるるんで濡れません。

戻ったら収穫してきた薬草で、広く使えるようになった調剤専用にした小屋でポーション作り。


1瓶銀貨2枚(約2万円)x10本。20万円。

洞窟薬草摘んで来て、さらにポーション作り。

1瓶銀貨5枚(約5万円)x10本。50万円。

洞窟濃緑薬草摘んで、またポーション作り。

1瓶金貨1枚(約10万円)x2本。20万円。

あ、あかん。金銭感覚が狂う。

ちょっと新生活に悩んでたら、ソード君来た。


「なに変な顔してんだ?」

「…ちょっと新生活の便利さに悩んでるの」

「便利でなぜ悩む」

「もう、ここ以外では生きて行けそうにない」

「ずっとここに住む気なんだから悩む必要ないだろ」

「…贅沢女になってる気がする」

「は!贅沢女ってのはな、王都にいる働きもせず勉強も適当で付き人に面倒ごと全部やらせて買ってもらったいい服着てお茶会で人のうわさ話ばっかりして他人見下してるやつのことだ!」

「…それ、なんて生物?」

「貴ぞ…いや、傲慢謎生物」

「うわー、そんなの居る所によく住んでたね」

「まあ、いい奴もいたけどな。実はそのいい奴たち、俺の商会にスカウトしてきた。向こうで身辺整理終わったら来てもらうことになってる」

「おお、さすが商会長」

「はっはっは、だから商品くれ」


ぶは、乗りいいな。

今日出来たポーションとお薬渡して、荷車2台にレンガ山積みして村に出発です。


「ソードレンガ商会?」

「…言うな。最近整地で削った土でレンガ作らされてるから笑えん」


バカ話しながら村に到着したら、新しい壁の上に防犯柵取り付けてた。


「おー、壁自体は、完成してるね。でも、高くない?」

「ああ、3mにしてある。その上に防犯柵30cm。2mだとスライムはいいが、馬鹿な奴らが出入りしようとするからな。今まではそんな奴いなかったが、街になると辺境の常識を知らん馬鹿が湧く可能性があるからな」

「そっかー、大きくなるのもいい事ばかりじゃないんだね。あれ?でも壁完成したらレンガ要らなくない?」

「お嬢のレンガは職人の折り紙付きだ。だから父上の館用に使うんだ。お嬢がやった空気層?で断熱する方法を採用したから、強度持たせるためにお嬢のレンガ使って、俺が接着してる。内壁も発注済だった安めの木材を張る予定だ」

「私の工法で大丈夫なの?」

「テストに小さな小屋作ってみたら、びっくりするほど暖かかったし、大ハンマーでも崩せなかった」

「良かった。ちゃんと実験してくれたんだね」

「頑固な職人を納得させるためだったがな」

「あ、職人さんの工法はやっぱり中に土を詰めちゃう感じ?」

「ああ、そうじゃなきゃ崩れるし壁が薄くなる分寒くなるって言って、俺の言う事聞かねえんだ。だから作って実証してやったら目の色変えて絶賛してた」


職人さんは、空気層が断熱になるって思えなかったのかな。

ああ、強度不足が心配だったのか。

お貴族様の言う事でも、自分で確認するまでは信じない。

さすが職人だね。

しばらくぼんやりと村の壁を眺めてたら、気になるところがあった。


「ねえ、土台を固める時に出来た溝、所々埋まっちゃってるけどいいの?」

「あ?あの溝は放置したら勝手に埋まってくだろ」

「え、もったいないよ。ちゃんと固めたら排水溝になるじゃん」

「…排水は地面掘って村の下水に繋げるって聞いたぞ」

「いや、雨水の排水。この地方って雨多いから、何でも下水に流してたら処理能力超えない?」

「処理能力?」

「多分だけど、どこかで一旦溜めて沈殿とかさせてるんじゃない?広げた土地の分も流したら溢れないかな?」

「…」

「ついでに壁の内側をならっしー君で傾斜させて固めて、所々に外側へ穴開ければ、壁の内側に水溜まらなくていいよね。村って、大雨降ると外から雨水流れ込んで来てたもん」

「…今から父上に話してくれ」


館の建設現場にいた領主様のところに、ソード君に引っ張られていきました。

説明より見てもらった方が早いと、その辺の土でミニチュア作って、ジョウロも作って降雨実験。


「…これは実に機能的だな。雨水は放置が当たり前になっていたが、たったこれだけのことでずいぶんと生活環境が良くなる」

「集めた水は畑の散水に使ってもいいし、火事の消火にも使えるよ。要らなきゃ流しちゃえばいいし」

「…文官からは下水を心配する声が上がっているが、そちらは何か策は無いかね」

「スライムは使っちゃダメ?あいつら有機物は何でも吸収するし、排出しないから便利だよ」

「ゆうきぶつとは?」

「あー、木や草、動物とかの成長するもの全般」

「排泄物もかね」

「うん。下水に流す前にスライム入れた枡付けるだけで、ずいぶん水はきれいになるよ」

「逃亡の危険性は?」

「まだ三か月ちょっとだけど、一度も脱走は無いよ。念のために専用の小部屋作って、外から確認できるようにすれば安心かも」

「捕獲方法は?」

「ダンジョン前の罠の底をスライド式の蓋にして、その下にスライド式の蓋が付いた牢屋みたいな箱置けば、蓋のスライドだけで捕獲出来るよ。箱の内周に返しの付いたトゲトゲ生やしとけば、ジャンプできなくなるし」

「…枡の見本を作ってもらえるかね」


領主様乗り気です。

下水用の溝がすでに掘られていたので、館との接続部分に四角い枡を作り、二段重ねの重箱みたいな構造にしました。

下の段がスライム置き場付きの浄化枡で、上の段には万一の脱走者退治用に、蓋裏にトゲトゲいっぱい生やしておきました。

まだスライム入ってないので、上下段とも蓋は接着はしてありません。

一応見本代わりにスライムの入ってない捕獲檻も、固定せずに置いてあります。


「なるほど。この檻なら捕獲と運搬も容易いか」

「何らかの事情でスライム入れられなくなっても、檻を抜くだけで済むから」

「…感謝する。ダンジョン前の罠の改造と、捕獲は息子に頼もう」

「おお、ソード商会はスライムも販売できるね」

「うおい!それ、何の商会だよ!」

「お薬からスライムまで、何でも売りますソード商会!」

「ひでえ…」


ちぇ、即興キャッチコピーは受けなかったよ。

遅くなったので、結局お泊りコースでした。


翌朝、優雅に目覚め…あれ?普通な感じする。

あ、メイドさん、また新しい服持って来てくれた。

身支度して食堂に行くと、サッと出てくる朝食。

うん、やっぱり優雅だ。

ちゃんと優雅だと思えるうちは、私の感覚は狂ってないよね。


朝食後のティータイムで、領主様が色々説明してくれた。

まず、鉱山のズリ山は、二つ半無くなったそうです。

ズリ山レンガ化の途中で、捨てられていたクロムが結構見つかり、鉱山主任が必死に魔法で抽出するも追い付かず、銅を抽出していた人員にクロム抽出を教えているんだって。

現在、新しい作業所を拡張エリアに建設中。

鉄は、大量過ぎて魔法抽出では追い付かないので、今まで通り高炉で抽出するそうです。


それとね、新しく坑道掘るんだって。

鉄鉱石の坑道かと思ったら、水晶用だって。

今、試掘中だから、場所が決まったら指導してほしいって頼まれました。


あと、鍛冶屋さん。

弟子を三人も採って、二人をステンレス製品作り、もう一人を剣作りに育ててて、拡張エリアに大きな鍛冶屋を新築中。

何でも、刃に炭素鋼を使った剣とステンレス製品がバカ売れで、大忙しなんだって。


雑貨屋さんは、3WAYバッグが街で大人気になり、革職人雇って3WAYバッグの量産を始めたそうです。

それとそろばん型魔力制御練習器と九九表三十六個バージョンの作成も領主様が依頼してるので、やはり作業所建てるらしい。


そしてソード商会の取り扱い商品は――

私のポーションと各種お薬以外に、シャンプー、リンス、水晶ランタン(携帯用伸縮式、フラッシュライト型含む)、はかるん(国への専売)、水洗トイレ便器(水生成魔道具タンク付き)、各種魔力変換水晶ロッド、さらに貴族用特注水晶ライト、そしてスライム檻。


今、ソード君は王都での発表に備え、午前中と日没後、せっせと商品を作り置きしてるそうです。

すでに発表されたランタンは貴族に、はかるんと各ロッドは国に販売してて、金貨ざくざくで、もう男爵としての年俸超えてるんだって。


ほへー、ソード君の頑張りなら当然かも。

ちなみに、面倒なガラスや金属部は外注。

そこはずっこい!


荷車あるので食材や生活用品を多めに買って戻り、洞窟の食料庫にしまおうとして気付いた。

おうちの食料庫、家の地下じゃん!何のために冷凍冷蔵完備にしたんだよ。使えよ!

うん、習慣って直ぐには抜けないね。

ぷすりと薬草のお世話してから、おうちに戻りました。


一休みしていつもの服装に着替えたら、今日もレンガ作りです。

小山は消えておうちは完全に露出したんだけど、土台部分が残ってるんだ。

今は、高さ1mで直径が30m近くある円形の土台の真ん中に、ぽつんとおうちが建ってるの。

これをね、おうちの周りに幅2mだけ残して削ります。

高さ1mの犬走りが2m幅である感じね。

これは雪対策です。

犬走り部分は深い軒に隠れるので積雪はせず、雪が深くなってもおうちの周りは除雪無しで歩けるように画策してます。

屋根の張り出しは2.2mにしてあるので、二階のデッキ部分も玄関も裏口も雪に埋もれない…はず。


屋根からの落雪がどうなるかは未知数だけど、出来れば雪かきは遠慮したい。

だって、マイナス二十度くらいの中での雪かきって、絶対鼻つらら出来そうだもん。

だからおうちの土台は1m上がってるのです。

後は邪魔な部分を削って、下に雪が積もるようにしなきゃね。

あと玄関ポーチとアプローチも作りたいし。


出来たレンガはおうちの裏に積んでおきます。

今まで適当に積んでたレンガ、どかせたらたたきみたいになってるの。

他の部分は雑草生えてきて緑なのに、一部だけ土色にハゲてるんだよ。

どうせなら緑の草原の中のおうちにしたいんだよ。

今あるレンガはどんどん村に持ってって、地面全部露出させなきゃね。

じゃあ、頑張ってレンガ作りしよう。


………

……


魔力枯渇寸前まで頑張ったけど、全体の1/4で力尽きた。

レンガ、また荷馬車一台分できちゃった。

当分、レンガ売りの少女だな。

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