7月 1/3


罠づくりから一週間、私は何気ない日常を過ごしています。


朝起きて洞窟薬草の面倒を見てからスライムをぷすり、午前中に森に出かけて薬草採取。

戻ったら、採取した薬草と洞窟薬草でポーション作り。

午後はおうち作りしています。

たまにポーション納品とお買い物に村へお出かけ。

午前中にお仕事終わって、午後は趣味の時間。

うん、このくらいのペースが私には合ってるようです。


薬草部屋は二号室作りました。

順調に薬草が育つので、拡張しました。

なんと、一号室の四倍の広さです。

まあ、一号室を田の字に並べてアーチ状の通路付けただけだけどね。

今はほんの一部しか薬草無いけど、これで増えても安心だよ。


おうちは、めでたく全部露出しました。

軒の深い屋根も完成し、二階には屋根の保持も兼ねた、家の全周を廻る幅2mのウッドデッキ風ベランダも出来ました。


これで外観はドアと窓を残すのみで、今は地下室作ってます。

スライム式浄化槽設置して窪地への下水管に繋げるために、地下空間欲しかったんだよ。

おうちの荷重を考えて一階より一回り小さい田の字状にして、薪置き場や食料庫にするつもりです。


今、ポーション作ってるので、終わったら今日も地下に潜ります。

えっ?ソード君来た!?

ソード君が王都に出発して、まだ十日くらいだよね。

とんぼ返りしてきたってことは、間に合わなかったの?


「悲しそうな顔すんな。ご令嬢は持ち直したから安心しろ」


よかったー。

話を聞くと、ずいぶんな無茶をしたらしい。


ソード君の説明では――

まず、王都に向かうのに、自分たちだけでなく馬にまでポーション使った。

夜は、私がポーションバッグに忍ばせた用法用量レポートを、マギ君が精読。

馬はレベルゼロだからと、効き目の低いポーションを休憩の度に水に少しづつまぜ、量を徐々に増やしていって適量を測った。

しかも、街に着くたびに新しい馬に乗り換え、同じことをした。

結果、王都まで三日弱で到着した。

夕暮れに王都に到着し、そのまま令嬢の屋敷に直行。

昏睡状態の令嬢に家族がお別れを言っている現場に突入。

説明の暇がないと見たマギ君が王子の強権を発動してソード君以外を部屋から出して、マギ君が状況説明。

ソード君がご令嬢の枕元にスライム置いて、長槍繋げて遠くからスライムを突いた。

例の魔力風(?)感じなかったから、突くのは一匹だけにしておいた。

馬適量の1.5倍のポーションを医師を入室させて与えてもらった。

マギ君の説明に、常識と違うと納得しない両親。

医師が、苦しまずに脈も少し強くなったから様子を見ようと提案。

夜中に令嬢の腕がぴくぴく痙攣。

これが祝福の状態だと説明し、痙攣が終わってから、今度は馬適量の二倍のポーションを飲ませた。

脈と呼吸が安定してきたので、強行軍だったソード君とマギは明け方まで休む。

明け方、今度は二匹のスライムを枕元で討伐。

今回は扉を開けたまま家族も様子を確認。

馬適量の三倍、はかるん値2.5ポーション1本分を投与。

令嬢の呼吸が穏やかになり、頬に赤みが戻る。

私が話した衰弱時ポーション3時間間隔投与を信じ、三時間後2.5ポーション再投与。

四肢が少し動き、瞼がひくついたので、医師が覚醒前兆候と説明。

以降三時間おきに2.5ポーション投与。

夜までに二度ほど半覚醒を確認。

夜中、祝福の痙攣確認後、4.0ポーション投与。

三十分後、令嬢覚醒。

以降四時間おきに4.0ポーション投与。

朝には会話可能なまでに回復。

枕元でスライム四匹討伐。

討伐後、5.5ポーション投与。

一時間ほどで、食事できるまでに回復。

マギ君がポーションの用法用量について詳しく事情説明。

以降四時間おきに5.5ポーション投与。

夜中の祝福後、5.5ポーションを投与後、朝までは未投与とし、念のため、朝に枕元でスライム八匹討伐。

討伐後、5.5ポーション投与。

自立できるまでに回復したので、以降は4.0ポーションを四時間おきに変更。

医師の回復宣言を受け、ソード君は帰郷。

マギ君は医師と共に回復後治療にあたる予定。


「…よかった、助かったんだね」

「ああ、助かったんだ。…俺、今回の事で思い知った。医師や薬師って、患者が死ぬかもしれない恐怖と戦いながら治療してるんだな。俺自身、マギが指示してくれなきゃ怖くて動けなかったと思う」

「あー、確かに怖いよね。自分の行動が相手の死に繋がるかもって思うと身が竦むよね」

「ああ、俺には医師や薬師は無理だって理解させられた」

「なんかごめんね、大変な思いさせて」

「え?なんでお嬢が謝るんだ?ご令嬢助けたかったのは俺とマギだし、俺が医者や薬師の大変さを少しは理解出来たって事だろう」

「いや、すごく大変そうだったから」

「まあ、大変有意義な勉強を知ったってことだな」


さすが前向き人間。

いい捉え方するね。


「じゃあ、今日は帰ってゆっくり休んでよ」

「………風呂に入らせてくれ」


あはは、そうか。お風呂に慣れちゃったから、風呂無し生活は堪えるんだね。

ソード君は長風呂して、めっちゃすっきりした顔で帰って行きました。…ホットドッグ置いて。


置き土産のホットドッグ食べて、地下室造成です。

地下室の外側の壁は、上におうちが乗ってるのでガンガンに固めます。

十字の壁も、一階と二階は断熱と煙突用に空洞有るけど、地下は30cm丸々高圧縮壁です。


魔力量、すんごい増えてるわー。

四部屋できちゃった。


よし、下水も掘ろう。

窪みへの下水の横配管が、ちょうどおうちの下を斜めに通ってるはずだからね。

…配管の場所探そうと思ってお外出たら、暗くなってた。

仕方ないね、明日にしよう。


お風呂入ってから、夜は家電代わりの魔力変換水晶作りました。

換気扇代わりの風発生水晶作ってて、思わぬ落とし穴発見しました。

前に風出てるのに、後ろの空気吸ってないの。

これ、空気を生成して押し出してるの?


…そういえば、土圧縮水晶も持ってても反作用無いな。

魔法って、便利なんだか利用しにくいんだか、よくわかんないね。

悩んだ末、周りの空気を押し出すイメージで作ったら、成功しました。

…利用しにくいのは私のイメージのせいだったよ。


コンロ用の水晶は、なべ底全体を加熱するイメージでOK。

ファンヒーター用なんか、温風が出るイメージしたら、水晶一個で出来ちゃった。

蛇口もね、水生成水晶と熱湯をイメージした水晶で出来ました。

ゴメン、魔法ってめっちゃ便利だったわ。


あーさー。

うん、曇ってるけど雨は大丈夫そうだな。

日課したら、今日は東の森の見廻りです。


最初にダンジョン前に寄ったら、小屋の周りに薬草の芽が出てました。

罠を隠す小屋の中なんて、黒薬草生えてたし。

そっか、夜の間は核放置だから、魔力漏れ放題か。

これは仕方ないね。


待機してた兵士さんに、黒薬草は食べないように注意してから、見回りしました。

帰り道、通り雨に降られました。

帰りつくまでに結構濡れちゃったので、小屋に戻ってお着替えです。


濡れた服は室内に干して、昨日作った温風水晶で乾燥してみました。

季節は七月に入ったところ。

日中の最高気温は、体感で二十度くらいです。

狭い部屋で温風出すには暖か過ぎました。

雨が上がったので、下水管の場所調べしてたらソード君が来ました。


「いらっしゃい。雨降られなかった?」

「ああ、村は降ってなかったぞ。こっち来たら地面が濡れてたけど、降られはしなかった」


そっか、私は降られたのにラッキーな奴め。

でも、測量一人だと大変だから、来たのなら手伝ってもらおう。

恒例のお昼してたら、爆弾発言がありました。


「昨日言い忘れてたけど、マギがお礼に材木くれるって」

「え?やった!これでドアと窓枠が作れるよ」

「マギと一緒に王都で注文したんだけど、ここまでどうやって運ぶかな」

「あー、道狭いよね。登り口まで運んでもらえたら、後は私が運ぶよ」

「大丈夫か?丸太百本だぞ?」

「ほわっ!?百本て、多すぎでしょう!」

「いや、マギが材木商に小さ目の二階建て用の木だって言ったら、このくらい必要だって言われたらしい」

「それって多分、壁も床も木造の話なんじゃない?」

「俺もよく分かんねーから、マギに任せてきた」

「…ねえ、マギ君って、注文する時どんな服装で行ったの?」

「王子様仕様」

「をぅふ…量だけじゃなくて、とんでもない木が届きそうな予感」

「まあ、来るもんはしょうがないから、道を考えないとな。地形的にはどうすりゃ道付けやすい?」

「…今の小道の狭くなってるとこを、荷車が通れるくらいに拡張するのが一番手っ取り早い」

「じゃあ、それで行くか」

「まじで!?ほんとに私ん家だけのために小道横の崖、削ってもいいの?」

「あのなあ、登り道から森までの西側の段々になってる部分は全段お嬢の敷地だろ。好きにいじればいいんだ」

「はあっ!?この付近は好きにしていいって言われたから、小屋の周りだけなんじゃないの!?」

「父上は西側全部って言ってたぞ」

「でも、牧場並みなら相談しろって言われたんだから、牧場サイズはダメなんじゃないの?」

「こんな段々の土地で牧場出来るかよ。それは平原使う場合だ」


“周辺”や“付近”って、お貴族様と庶民で範囲違うの?


「………お貴族様怖い」

「なんでだよ、小山無くしちまうお嬢が言うな」

「いや、あの小山は敷地内だと思ったから…」

「普通、敷地内でも20m以上ある山無くそうなんて考えないからな。地形変えるなんて軍が出るレベルの大工事だぞ」

「…そうだった。私、すでに地形変えてたよ」


小屋の周りは自分の敷地って感覚だったから小山削ってもいいと思ってたけど、小屋から700m以上離れた場所まで自分の敷地だったとは思いもしなかったよ。

しかも十日以内って、一日70m以上整備しなきゃだよ。

ソード君、君、ちゃんと計算してる?


ソード君の爆弾発言後、小道の拡張が始まりました。

道幅2m以上確保すべく、上の段をレンガにして削っていきます。

ちょこっとだけ幅が足りない所は、崖ごと圧縮して幅を確保します。

夕方までに幅の確保だけは終わったけど、道、歩測したら800mくらいあるよ。


「ソード君、これ、無理じゃない?残り九日で800mも舗装出来ないよ」

「あ?舗装って、どんだけきれいにする気なんだよ。例の魔道具で適当に固めりゃ、行けるだろ」


うん、私が悪かったよ。

荷車通すって言われたから、せめてレンガ舗装しなきゃって思っちゃったけど、よく考えたら街道ですら土を踏み固めただけだったよ。

荷車が通れれば何でもいいんだね。

よし、夜はロードローラー代わりの魔道具作ろう。


翌朝、日課を済ませてから、昨晩作った魔道具の調整してたら、朝からソード君登場です。


「………お嬢、なんだそれは」


ソード君、私が作った新型魔道具を見て、チベットスナギツネ顔です。


「何って、土圧縮用の魔道具だよ。使いやすいようにちょっと工夫してみた。その名も、ならっしー君」

「………」


新作の魔道具は、棒状の土圧縮魔道具を8本等間隔に下向きに並べ、左右に短めのスキー板を取り付けてあります。

下向きの千歯扱きにスキー板が付いたような形状です。

これをゆっくりと押していけば、2m幅で圧縮された道が出来ます。

スキー板はおうとつ吸収と沈み込み防止用兼、車輪代わりです。


ソード君に見せるように、ゆっくりと押していきます。

幅2mほどの圧縮された平たんな道が、通り過ぎた後に出現しました。


「どう?便利でしょ。ほんの少しだけ外側に傾いた道が出来るから、排水対策もばっちりだよ」

「あー、うん。構造見れば原理は分かった。確かに便利そうだな。………押すだけで道が作れる道具って、初めて見たわ」

「ふっふーん、高さ調整も出来るから、固め具合も自由自在だよ」

「なあ、土圧縮用の魔道具って、王都で試作されたばかりって事、覚えてるか?」

「うん、そういう事に…あれ?試作品がいっぱい使われてる道具、私が持ってちゃおかしいよね」

「…ばれないように使おうな」

「…はい」


うん、失敗した。

王都新発明の魔道具を鈴なりにした物、辺境の薬師が持ってたらおかしいよね。

自分で発案者だってばらしてるようなもんだよ。

反省しなきゃね。


ところでソード君、何嬉しそうに道作ってんの。

結局、私が見張りして、ソード君がにこにこ顔で道作りました。

道拡張工事は、昨日午後と今日の午前、実質一日で終わりました。

ならし―君はしばらく没収だそうで、明日、ソード君が荷車と幌持って来て回収するからって、洞窟の物置部屋にしまわれちゃいました。


いつものお昼食べてからは下水管作りです。

ソード君と二人作業なので測量も手早く終わり、縦管掘ったら位置もばっちりでした。

やはり測量は二人作業が基本だね。


ひと作業終えて休憩しててふと気づいたの。

丸太、百本もどこ置くの?

木って乾燥させたのを使うんだよね。

雨に濡れたらまずくない?


小屋とおうちの間はレンガが山積み。

使えるとしたらおうち西側のスペースか、おうちの周り。

だけど、おうちの土台が1m上がってるから荷車通れないよ。

土台は削って上り坂付けるとして、おうち裏の崖下に仮屋根作るかな。

またおうち外の作業が増えてしまった。

私のおうち、いつ出来るんだろう。


休憩後に、急遽木材置き場を作ることになりました。

えーっと、一本平均30cmの直径として…

0.15x0.15x3.14x100

おう…隙間なく積めたとしても7㎡以上

張り出した屋根支えてる外柱から崖まで3m

7÷3

高さ2.5mくらいになっちゃうじゃん。

取れないよそんな高いとこ。

うん、西の空きスペースに崖にくっつけて柱と屋根だけ立てよう。

幅5mなら高さ1.4mか…。

余裕を持って6mにしとこう。

長さは…荷車で運んでくるはずだから、多分5mくらいが限界か。

うん、6mx6mで何とかなるか。

でも、地べたはまずいから枕木代わりも作らなきゃ。

…うちの小屋、4mx3mだよ。

私のおうち、大きすぎるかと思ってるのに9.9mx7.9mだよ。

6mx6mって、ほぼ家じゃん!

……王子様恐るべし。

高貴な方々って、限度知らないの?


結局、丸太置き場選定して、地ならししただけで夕方になっちゃった。

くっ、こうなったらおうちは夜間作業して進めてやる。


ソード君はさっさとお風呂して帰ったので、今からはおうちちゃんの時間です。

作りかけだった浄化槽に、檻詰めスライムを固定。

後は排水系を外壁の内側にくっつけて作っていきます。


一階の床下を排水管這わせて、トイレ、お風呂、キッチンの設置予定場所に立ち上げておきます。

S字管と排水トラップも、忘れずに付けておこう。

最後は二階用の排水管を壁に立ち上げて、これで一階の床が張れる。


一階の床下は、メンテナンススペースと床暖房用に、なんと1mもあります。

空間狭いと、配管が邪魔して空気流れにくいからね。

よし、もう夜も遅いから、今日はここまでにしよう。


翌日、昼から荷車引いてやって来たソード君は、丸太置き場を手伝った後、ほんとにならしー君を荷車に積んでた。

自分の作ったレンガを周りに積んで、偽装までしてたよ。


あ、ちゃんとお風呂は入っていくんだね。

丸太置き場は骨組みだけ完成しました。

私は夜間作業で一階の床張しました。

えへへ、テラコッタ風タイルの床、なかなかいい感じです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る