6月 2/3

朝来たー。

なんだかみんなが心配で早起きしちゃったよ。

さっさと日課済ませて東の森へ行こう。

あ、今日はマギ君用にスライム十六匹要るから溜めとこう。

荷物は昨日、監視小屋に置いてきたから、今日は軽装で行けるね。


監視小屋に着いたけど、外にいる人たちはのんびりしてるから大丈夫だった見たい。

よかったー。


「おはようございまーす」


外のみんなと挨拶してたら、小屋からソード君出てきた。


「お嬢、おはよう。昨日は何も無かったぞ」

「おはよう。ひとまずは安心だね。…なんか眠そうだけど、大丈夫?」

「寝てても、鳥の鳴き声やガサガサって音で目が覚めちまって寝不足だ」

「あー、森で寝るのって怖いよね。ましてやダンジョン前だもんね」

「ああ、小屋の中なのに全然安心出来なかった。森、怖えーよ」

「素直に怖いって思えるのは、ソード君が辺境に馴染んできた証拠だよ。王都の人がここに泊っても、怖いとすら感じないんじゃないかな」

「…ただの宿感覚ならそうなるな」


うんうん、自然の怖さを肌で感じられるなら、辺境でも生きていけるよ。

ソード君の成長に感心してたら、副長さんたちが来た。


あれ?知らない人が二人いる。

私の怪訝な顔に気が付いたのか、ソードくんが説明してくれた。

なんと領主様、領都の伯爵様に掛け合って、十二人の兵士を借り受けて来たそうな。

監視のローテーションに数人づつ組み込んで、三ヶ月くらい監視する予定なんだって。

前回のスタンピードは、ダンジョン入口封鎖してから三ヶ月くらいかかったから、たしかに三ヶ月は見張らなきゃね。


あ、兵士さんたちは今から朝食か。

副長さんたちが持ってきた朝食配ってる…って、またホットドッグじゃん!

持ち運びが便利なのはわかるけど、ホットドッグって主食なの?

あ、私はソード君が持ってくるからいつも食べてるけど、みんなはそうじゃないか。

…私も一個貰ってしまった。

私、朝食食べてきたから、お昼に回そう。


ん?今、かすかに地面揺れなかった?

…嫌な予感がする。


「ソード君!武器持って来て!。微かに地面が揺れたから、湧き部屋確認した方がいい!」

「お、おう、ちょっと待ってろ!」


ソード君、慌てて小屋に走ります。

村の兵士さんたちも、槍を準備してる。

領都の兵士さんたちはぽかーん状態。

まあ、幼女の采配は受け入れ難いよね。

私はみんなの準備ができるまで、ダンジョン入口前に陣取ります。


「あー、スライム出てきた!スタンピードの速さだよ!」


入り口に一番近い私に次々とスライムが襲い掛かって来るけど、方向が限定されてるから楽だね。

すぱすぱとスライム切り落とします。


「お嬢、どうする?」


ソード君が剣を持って駆けつけてくれました。


「中を確認しなきゃ。ポーション取ってくるから少し代わって」


さっとソード君に交代して、大荷物の中からポーション用のショルダーバッグだけ持ってきました。


「私が前行くから、ソード君は後ろよろしく」


私は走りながらスライムを切断しつつ、ダンジョンに入ります。

ソード君も腰を落として前傾姿勢で続きます。

すぱすぱすぱすぱ……。

スタンピードモードでも、スライム一匹づつだから余裕で湧き部屋に到着です。


「うわ、部屋が増えてる!しかもランタン、床に食われかかってる!」


湧き部屋の奥に穴が開いてて、そこからスライムが飛び出し続けてます。


「ソード君はランタン何とかして。私はスライム片付けるよ」

「おう!」


スライムを斬りながら中を覗いたら、直径2mくらいの小さな部屋の床から、スライムが湧き続けてます。


「お嬢、ランタンの下の部分は床に飲み込まれちまった。上半分だけはもぎ取った」

「ありがとう。目が離せないからしばらくバックアップお願い。一応入口も警戒して」

「おう、任せろ!」


うわ!横からも来た。


「ランタン壊れたから周りからもスライム生まれるよ。辛かったら背中合わせでお願い」

「ああ、さっきからこっちでも生まれてるけど、今んとこ対処出来てる。つーか、段々生まれる数減ってきてないか?」

「うん、こっちもペース落ちてきた」


5分ほど戦ってたら、ぱたりとスライムが生まれなくなった。


「あれ?止まったね」

「ああ、こっちも出てこねえ。終わったのか?」

「わかんない、しばらく様子見ないと。外に連絡――」

「嬢ちゃんたち、大丈夫か?」


あ、副長さんとお兄ちゃん来た。

槍、振れないのに。危ないなぁ。

まあ、通路には一匹も逃がしてないはず。ソード君が。


「うん、大丈夫。でも、しばらくは様子見ないと」

「ああ、分かった。じゃあ俺たちもここで待機だな」

「いや、副長とそっちの兄さんは出てた方がいい。湧き部屋でも天井は低いから槍は不利だ。お嬢と二人の方が、なんかあった時にも戦いやすい」

「…その方がいいか。槍振り回したら、人に当たりそうだ」

「悪いが通路の核だけ回収していってくれ。後で湧いた数を数えるから」

「了解、じゃあ一時間くらいで、一旦出てきてくれ」


ソード君と二人で湧き部屋待機してたら、二十分くらいで1匹湧いた。

でも、普通にぴょんぴょんしてたから、スタンピードモードじゃないね。

その後は1匹も湧かなかったから、外に出ました。


しばらくダンジョンの出口観察してたら、領主様が十人くらい兵士さん連れて走ってきました。


「現状は!?」

「一時間半くらい前、かすかに地面が揺れてスタンピード発生。お嬢と二人で討伐しながら入って湧き部屋も制圧。ランタンは床に食われかけてた。奥に小部屋が出来ててスライムがぞろぞろ出てきたから討伐してたら、徐々に数が減って来て五分くらいで生まれなくなった。一時間湧き部屋で様子見したが、生まれたのは通常のスライムが一匹だけ。で、今は入口監視中」


へー、ソード君が報告するんだ。

まあ、こっち側、お貴族様はソード君だけだからね。


「そうか、スタンピードは収まった可能性が高いということかな?」


およ、話がこっち来た。


「そうだとは思う。経過の観察は必要だけど」

「それは当然だな。では、領都兵は一旦戻って厳戒態勢は解除するよう伝令してくれ。…しかし困ったな。狭すぎて討伐に入れないダンジョンで、湧かないようにも出来ないか…」

「あの、罠作ろうか?」

「ん?罠とは?」

「出口の前に穴掘って、穴の下にスライム溜めるようにすれば、討伐は簡単かも」

「………やってみてくれるかね」

「木が必要なの」

「この場所を切り開く特に切り倒したのがあるが、あれじゃだめか?」


隊長さんが指し示す方には、何本かの丸太が積んであります。


「あれだけあったら大丈夫。じゃあソード君手伝って」

「おう、指示してくれ」


まずは土をレンガにして穴掘り。

断面はYの字構造。V部分にスライム落ちてきて、下のIに溜まります。

一番下がぷすり場。

で、Yの左上を支点とした、木の板で出来たシーソー式落とし穴で蓋します。

奴らは視覚無いはずなのに、水には落ちないし高い段差は飛ばないんだよね。

土製だと重すぎて反応悪いから、木の板で騙されてくれるといいな。

シーソーの反対側を少しだけ重くしておけば自動で戻る…はず。

跳ね上がらないように、Yの右上にストッパー付ければ、平らになる…はず。

最後はYの両サイドに2.5mの塀立てて完成。

処理部へは塀横の縦穴からどうぞ。


でけたー。

やっぱりソード君と二人だと早いわ。

途中でスライムに襲撃されるかと思ったけど、襲われることなく一時間くらいで完成しました。


「………私の息子は、知らぬ間に成長していた」


そりゃあソード君はほぼ毎日、レンガ作ってるからね。

一仕事終えてソード君とまったりお茶休憩してたら、五連シーソー(幅50cmのシーソーが五つ並んで2.5m)の一つが動いた。


「おお!しっかり動作したよ。スライムが転がって落ちて行った。すばらしい!」


領主様、息子が手伝った罠が気になったのか、ずっと出口を見張ってたみたい。

いそいそと縦穴降りようとしてる。


「あ、領主様、これを下に置いといてください」

「む?何かねこの…針葉樹の模型のような棘は?」

「スライムが溜まる底の中心に取り付ければ、この棘が核に当たって勝手に討伐できるはず。夜間放置するなら、これで溜まって溢れないようにしたいの。まあ、核は無駄になっちゃうけど」

「………人がいなくても勝手にスライムが討伐されていくということか。……常識が変わるな」

「あ、でも屋根は作ってね。冬場は雪でシーソー動かなくなるから」

「…直ぐに手配しよう」

「でも、これも例の悪者さんには内緒でお願いします」

「ああ、了解した。念のために領都兵を返しておいて正解だったよ。皆もこの仕掛けの事は、村の兵以外には漏らさないように」


さて、そろそろ私は帰る時間だね。

あ、今日はソード君も帰るんだ。

二人で歩いて山の登り道まで来たら、村の兵隊さんに囲まれたマギ君がいました。


プチン!


「何やってんの!?スタンピードなんだから出歩いちゃダメでしょ!」

「え?領都兵が、収まったから厳戒態勢は解除って報告してたよ」

「おばか!!スタンピード終わってもスライムはあちこちに散らばるんだから、安全が確認されるまで村から出ちゃダメでしょ!兵士さんたちだけでもケガするスタンピードなのに、足手まとい居たら全滅だよ!」


あ、やばい。涙出てきた。


「え、あ、そうなのか、知らなかった…」

「なあマギ、お嬢は薬師なんだぞ。誰かがケガすることは普通の人より何倍も嫌がる。だから安全マージンの無い行為は叱られて当然だ。人の命が掛かってるだぞ」

「…私の無知で、兵士を危険に晒してしまったのか。本当に申し訳ない」


村の兵士さんたちに深々と頭を下げるマギ君。

分かってくれたみたいだね。

兵士さんたちは、お貴族様に謝られておろおろしてるけど。


結局、危険性がかなり低くなったことを説明して、兵士さんたちには帰ってもらうことになりました。

護衛はソード君で十分だからね。


「お嬢さんにも心配をかけてしまって申し訳なかった。誠心誠意謝罪させていただく」


マギ君が頭を下げようとするので、無理やり止めました。


「違うよ。謝るべきはマギ君の身体にだよ」

「……なんとなくですが分かりました。では、僕は自分の身体が危険に晒されないように、いっそう注意すればいいんですね」

「うん、分かればよし!じゃあ、ぷすりに行こうか」


何とか分かってくれたみたい。

私がいくら心配しても、他人がケガするのは止められないからね。

でも、自分の身体を自分が心配すれば、もっと慎重になってくれてケガが減るよね。

レベルが上がればもっと危険性が減るから、今日もぷすらせるぞ。

今日は十六匹だったよね。


三人で小屋に戻り、マギ君が十六匹、残りはソード君がぷすりました。

ぷすり後、二人は直ぐに帰るのかと思ったら、マギ君が相談あるそうなので、お外でお茶してます。


マギ君の相談内容は――。

マギ君が王都を立つ直前、八歳の貴族の少女が馬車の事故に遭い、大けがをした。

何とか一命はとりとめたものの、食事もほとんどできず、ベッドから起き上がることも出来ない。

ポーションを飲ませると苦しみだすので、手の付けようがなく、医師も匙を投げてどんどん衰弱している。

元々は自然が大好きで、あちこち出歩いてた少女なので、なんとか慰められないか。


「だーっ!なんでもっと早く言わないの!?その子、祝福は?」

「一回も無いはずだよ」

「多分、元々の魔力上限が低いから、ポーションの回復量を吸収しきれなくて苦しんでる可能性あるよ。そうだと仮定すると、魔力上限が低かったら身体の回復に回す魔力量も低いから、身体を直しきれなんだよ。その子は死にかけるぎりぎりでがんばってることになるよ。マギ君直ぐにスライム持って、あー!スライム全部倒しちゃた!どうしよー!」

「え?どういうことかな?」

「祝福受けさせて魔力上限上げればポーションの効果が出るはず。祝福未経験とすれば、最低でも祝福三回は欲しい。誰かが介助して倒すなら、十四匹要る。でも、140kgも馬に載せたら、直ぐに馬がへばっちゃう。四人で馬移動なら35kgか。馬を使いつぶすつもりじゃ、替え馬四頭も手に入るかな。あー!どうしたらいいのよ!!」

「今ので大体状況は理解した。お嬢はポーション量産してくれ。あと、スライムの檻詰めも頼む。俺たちはいま直ぐ帰って準備する」

「わ、わかった。朝には十四匹溜まると思うけど、檻詰めしたら村まで届ける?」

「その方が取りに来るより早いか。朝早いが頼めるか?」

「うん、必ず用意して持ってくよ」

「マギ、俺も付き合うから、明日は王都まで早駆けだ」

「う、うん。よく分からないけど、緊急なのはわかった。よろしくお願いするよ」


話が決まるが早いか、二人は走って行きました。


私は、スライム溜まるのを待つ間に出来ることは、ポーション作りか。いや、まだ夕方だから中央の森でスライム捕獲しよう。

中央のダンジョンは夜開きっぱなしだから、何匹かいるはずだよね。

あたりが暗くなるまでがんばって、何とか三匹捕獲しました。

おお、トラップタワーも三匹溜まってる。

とりあえず詰めておこう。


じゃあ、次はポーションだね。

洞窟薬草畑、作っといてよかったよ。

若い株だけ残して、全部ポーションにしちゃったら、四十本も出来てしまった。


まずい。やること無くなったけど、全然眠れないや。

……そうだ、慰めたいって言ってたから、お見舞い作ろう。

自然が好きって言ってたし、私の好きな景色のミニチュアでも作ろう。

そろそろ夜中なんだけど今日は眠れる気がしないから、ちょっと凝ったのにしよ。

色々考えながらプレゼント作ってたら、かなり時間が経った。

スライム確認してこよう。


おしい!、七匹。

あと一匹じゃん。

せっせと檻詰めしてたら、もう一匹落ちてきた。

よっしゃー!

スライム檻十四個をせっせと上に運んでたら、また一匹落ちてきた。

お前は予備だな。


洞窟の外まで十五個のスライム檻を運び出したら、微かに明るくなってきてた。

二本の天秤棒作ってスライム檻を鈴なりにぶら下げて両肩に担ぎ、魔力全開で村に走ります。

門に来たら、兵士さんから南門へ行ってくれと指示されたので、そのままダッシュで駆けました。


「ソード君!スライム持ってきたよ!」

「早いなお嬢!よし、みんなで分担して積んでくれ」


馬、六頭もいます。

村にはこんなにいなかったはず。

どっから調達したの?

でも、無駄話してる場合じゃないから、急いでスライム檻とポーションの入ったショルダーバッグ渡しました。


「お嬢、ありがとう。じゃ、行ってくる!」

「うん、気を付けて!」


馬六頭の集団は、明るくなってきた街道を颯爽と駆けて行きました。

私はもう、祈ることしか出来ません。

徹夜明けの全力疾走はさすがに堪えたので、ゆっくり歩いて帰りました。

小屋に辿り着いたら、倒れるように寝ました。


気付いたらお昼過ぎまで寝てたよ。


さて、洞窟薬草激減してポーションもストック無いので、採取に出かけます。

今日は薬草を土ごと持って来て、洞窟内に植えるつもり。

持ちきれないはずなので、天秤棒持参です。

以外に使えるな、天秤棒。


東の森まで行って、八株収穫してきました。


東の森ダンジョンに寄ったら、兵士さんたちがトラップ部分を覆うように小屋建ててたよ。

さすが辺境人。

村で家建てる時は近所総出で手伝うから、小屋くらいなら建てれるんだね。


一応、しばらくの間は夜も監視するそうです。

このまま何もなければいいな。

夕方、帰ろうとしたら差し入れが来て、私も貰ってしまった。

ねえ、ホットドッグ、ほんとに主食じゃないよね。


小屋に戻ったら早速薬草の植え替えです。

東の森からここまでの間だけで、少し元気がなくなってる。

君らほんとに魔力に敏感だね。

君ら薬草ちゃんのために、洞窟の換気を減らして、核を入れた箱を設置してあげるからね。

換気で外に漏れる魔力を減らして、核の箱から漏れる魔力で濃度を上げれば、濃い緑の薬草が栽培出来るかもだから。


濃すぎるポーションはそのままでは使いにくいけど、はかるんあるから水で薄めればいいよね。

携帯時の重さや体積も減らせるし。


新製品、濃縮還元ポーション!

原液でのご使用はお控えください。

さて、昨日から色々大変だったから、今日はお風呂に入ってゆっくりしよう。

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