5月 2/3

翌朝、またまた用意されてた仕立ての良い服を着て、みんなで朝食摂ってからお屋敷を出ました。

服のお礼は言ったけど、すんなり貰って帰ることにしました。

逆の立場だったら、遠慮なんかしてほしくないもんね。


るんるん気分で朝市に寄って、日用品と食料品買って帰りました。


さて、日課を済ませたら、昨日さぼった森の見廻り行ってこよう。

もう薬草も採取できるレベルに回復してるからね。


元気よく薬草採取したら、小屋に戻ってポーション作ってます。

あ、ソード君来た。

朝お別れ言ったのに昼にまた会うのって、なんか変な感じです。


「お嬢、東の森でダンジョンが見つかったぞ。昼前に隊長から報告があった」

「ふえ?…あー、やっぱり在ったか。あそこ薬草もあるしスライム全滅しないもんなぁ…」

「ああ、お嬢の説、当たりっぽいな。薬草が生えてるあたりを重点的に探したら、入り組んだ藪の中に入口あったって」

「そっか、大体見当ついた。低木生えまくって段差だらけだから、普段は入らない場所だね」

「すごいな、頭の中に地図でも入ってんのか?」

「そりゃ、二年以上この辺りを歩き回ってるんだもん。ソード君が王都の地図を思い浮かべられるのと同じようなもんだよ」

「いや、森に店や道無いからな。一緒じゃねーよ」

「建物の代わりに木や地形覚えるんだから、二年もあったら誰でも出来るよ」

「そんなもんかね…。あ、それで父上がそのダンジョンで水晶ランタンの実験したいそうなんだ。用意もあるから一週間後くらいで同行してほしいって」

「うん、わかった。私は雨じゃなきゃいつでもいいよ」

「おう、正確な日時は決まったら連絡するわ。じゃあ、今日は何するんだ?」

「当然、おうち作り!」

「おう、手伝いは任せろ!」


いつもの昼食食べてから、二人でせっせと屋根裏部屋の床と外壁、部屋の仕切り壁作りました。


部屋の仕切り壁はね、天井を支えるための補強用です。

上から見ると、壁が“田”の字になる設計で六畳間四部屋。

外壁と内壁の間は10cmくらい空気層にした断熱壁。

真ん中の十字部分も、大黒柱代わりに高圧縮レンガで空間持たせた二重壁にして作った十字型の煙突だったりします。


一階床から二階天井までの巨大煙突になっちゃうので、空間でかすぎて煙突効果が出るかどうか疑問ですが、家の中心から温まる壁暖房になればいいなと企んでます。


でもこのままじゃ屋根の中心に煙突が出てしまうので、屋根裏の床で大部分を蓋して、十字の一辺の真ん中位から外に出る煙突部を立ち上げます。うん、見た目大事。


空間大きすぎるうえに排出口手前ですぼまる設計。

作る前から失敗臭が漂ってるけど、ダメなら壁の中を仕切ればいいや。


いくらチャレンジャーな私でも、流石にゆがんだおうちは嫌だから、きちんと寸法測って水平垂直とってたら、床と外壁、仕切り壁作っただけでタイムアップです。


で、ソード君は帰宅前のお風呂。

私は明日のために屋根用の垂木や軒木作ってます。


全部粘土が材料なので、さすがに軽量化しないとマズいよね。

だから、中空構造の角パイプ作りです。

レンガ作るのと違って手間かかるよー。

でも、屋根材も作りたいから今日は夜間作業敢行です。


壁が出来たので照明の光が漏れないのをいいことに、夜中まで作業して、やっとノルマ終了です。

だって、早く屋根作らないと壁の内側に雨で水が溜まっちゃうもん。

でも、さすがに疲れたから、夕食(夜食?)パスしてお風呂だけ入って寝よう。


ああ、お風呂やばい。寝そう…。


翌朝、ちょっと寝坊したけど晴れてた。

良かったー、屋根張れるよ。


今日は日課を終えたら午前中から屋根作りです。

あれ?なんでソード君来てんの?


「おはよう。屋根って材料長いから一人じゃ大変だと思って勉強の休み変えてもらった」

「おー!めっちゃ助かるよ。10m以上の軒木なんて、端っこ持って乗っけようとしたら、てこの原理で身体浮いちゃうんだよ。助けてー」

「ぶふ、いくら魔力で力を補えても体重は増やせないからな」

「ああ!笑ったなー。昨日は夜に宙づりになって、めっちゃ悲しかったんだから笑うなー!」

「お、おう、すまん。まさかほんとに宙づりになってたとは……ぶはっ」

「きー!また笑った!いいから手伝えー!!」

「へいへい」


ぷんすこ怒りながらソード君をこき使い、屋根の下地を作っていきます。


あいつ、めっちゃ身軽だな。

ふらつくことも無く、平然と垂木の上を歩いてやがる。

重い角材渡しても、身体が無意識にバランスとってる。


「なんでそんなに器用なのよ。サルか!」

「は?何言ってんの?重い剣を振る時に、身体全体使って重心ずらしてバランス取るのを心掛けろって言ったのお嬢じゃん」

「…そうだった。でも、身に付くの早過ぎだよ」

「そうなのか?そういや父上にも、斬撃への力の乗せ方がうまいって褒められたな。お嬢のおかげだ、ありがとな」

「ぐぬぬ、無駄に器用な奴め」

「無駄言うな」


ちくせう、作業がガンガン進むのが何故か腹立つな。

午前中に屋根材張りだしちゃったよ。


屋根はね、焦げ茶色の大判レンガ張り…に見えるように、おうとつが入れてあります。

実際は2mx2mくらいの板状なんだけどね。

きちんと並べるだけで、重ね部分があるように見える優れものです。


屋根を1/4ほど張ったところでお昼休憩。

ソード君は安定のホットドッグ持参してたので、昼食タイムです。


一応、傷まないように食料庫に入れておいたので、取りに行ったんだけど…。

ホットドッグ、凍ってやがる。


実は、今朝帰って来た時に食料庫に冷気発生水晶置いといたんだけど、置いた棚の段だけ凍り付いてる。


こんなに冷却能力あったんだ…。

じゃあ、この棚が冷凍で、一段下はチルド、もひとつ下が冷蔵かな。

期せずして、冷凍冷蔵庫出来ちゃった。


でも、ホットドッグどないしよ?

あ、熱発生水晶も作ったから、あれで温めてみよう。

うん、電子レンジみたく使えるな。

これは水無くても加熱できるから、オーブンぽいか?


結果、温かくはなったけど、パンは水分飛んでるし、お野菜しなしなでソーセージは裂けてた。


凍らせちゃったからあたりまえか…ごめんね、ソード君。


「いや、お嬢、これすげーよ!冷めた食い物が手軽に温められるってめっちゃ便利じゃん!」


あー、私的には失敗なんだけど、電子レンジ見た事無い人からすればそうなるのか。

魔力変換水晶、筐体工夫したら家電製品だね。


さて、昼食済んだら屋根張り再開です。

でも、ここからはちょっと作業が複雑になります。

煙突立てなきゃいけないし、開閉式の天窓四つ、ドーマーも4四つ付けるのです。

合掌造りみたいな大きな屋根だから、採光考えないと部屋が暗くなるんだよ。


ドーマーはね、採光プラス屋根補修時なんかの出入口代わり。

…ごめん、嘘吐いた。単に私が付けたかっただけ。

だって、おうちにレンガの煙突とドーマーっておしゃれじゃん。欲しかったんだよ!


天窓が屋根裏部屋への採光で、ドーマーは2階部分への採光用です。

雪積もったら、天窓は採光出来ないから屋根裏部屋が暗くなりそうだけど、バランス的にはこれがいい感じなんだからしょうがないよね。

うん、見た目、大事。


ソード君に屋根張り任せて、私はせっせとドーマー作り。

レンガで壁作って、ちっちゃい三角屋根付けて、石英ガラスの二重窓付けて、一個完成!


か、かわいいよ。これ、すごくいい!

よし、残りも作ろう!


「なあ、そのちっちゃい家みたいなの、何のために作るんだ?」

「あれ?王都って、雪積もんないの?」

「まれに降るけど、薄っすら積もるかどうかだぞ」

「あー、ここって1mくらい積もるんだよ。その状態が三ヶ月くらい続くの。これなら積もっても明かり入るでしょ」

「おお!そんなに積もるのか。楽しそうだな!」

「いや、おうちの中から見るのはいいけど、外は極寒だから出て遊んだりしたら倒れるよ」

「げ、まじで!?」

「大マジ。夜なんか、吐いた息が凍ってサラサラ落ちてくよ」

「…王都って、冬でも路地で寝こけてる酔っ払いがいるんだが…」

「ここだったら、途中から永眠だね。多分朝にはつらら出来てるよ」

「……冗談にしか聞こえないのに、1mmも冗談が無いところが怖ええ!!外、出れねえじゃん!…あれ?買い物とかどうすんだよ?」

「いっぱい買い溜めして三ヶ月くらい籠るの。薪とか足りなかったら、おうちの中で凍死だよ」

「うわ、家で凍死って、外だけじゃなく家の中まで危険地帯かよ」

「まあ、村の大通りだけはみんなで除雪するから、ちょっとなら通れるよ。お店、開いてないけど。あ、今のうちに注意しとくけど、冬に裏通り行っちゃダメだからね。雪崩で圧死するよ」

「は?雪崩ってたしか山の雪がずり落ちるんじゃなかったか?」

「家の屋根、みんな片流れで裏通り向いて傾斜してるでしょ。積もった雪が表通りに落ちないようになってるんだよ」

「あれってそういう意味だったのか。…でも、雪ってそんな重くないだろ?」

「えーとねぇ、三十人くらいの大人が一斉に屋根からソード君めがけて滑り落ちてきたら?」

「は?…死ぬわそんなもん!よくて骨バキバキだわ!」

「これ、私の小屋の屋根で計算したんだけど」

「いや、さすがにそれは信じられん。計算間違いじゃないのか?」

「雪って元は何?」

「まあ、水だな」

「水か氷ると?」

「氷」

「屋根の上に厚さ30cmの氷が乗ってるとしたら?」

「怖っ!!まじでそんなになんの!?」

「うん、上に積もった雪の重みや、暖炉の熱で溶けかけて凍った雪でそうなるの。だから注意してね」

「お、おう。…改めて辺境の怖さを知った気分だ」

「辺境っていうより自然の怖さね。でも、今は春だから、しばらくは大丈夫だよ」

「…冬前にもう一度注意してくれ」

「わかった」


ちょっと危ない雪国あるあるを披露しながらも、手を止めずにせっせと作業しました。

冬に顔出して外歩いてたらまつ毛が凍るとか、鼻に小さいつららが出来るとか言ったら、大うけしてた。

あいつ、冬になったら絶対やりそうだな。


で、今日の成果。

屋根、ほぼ完成しました。

なぜ“ほぼ”なのか。

合掌造りみたいに屋根の軒先の高さが一階の天井付近まで伸びるから、小山削っていかないと軒先作れないの。

瓦とかって軒先から上方向に積んでくから、上から積んでけないんだよ。

だから、後でも延長できるように、並べて張り合わせるだけで重なったように見える屋根材にしました。


私、昨日頑張ったもん。

宙づりになるほどに…。

しくしく。


ソード君がいつものお風呂入ってるうちに、私は屋根裏部屋の中で設計変更に悩んでます。


当初は滝の水を取り入れて給水系配管するつもりだったんだけど、滝の出口から家の壁面まで約5m。

これ、吹きっさらしに空中配管したら、冬は凍結するよね。

だから、水生成水晶を蛇口型にしたら、給水系配管要らなくなるんじゃない?


当初は外壁と内壁の間に給水配管通す気だったけど、無くても大丈夫な感じです。


よし、排水系だけにしよう。

でも、ドーマー付けても部屋暗いな。

“田”の字のひとますは約六畳、で、採光は側面の窓一つとドーマー一つ。

うん、工事用照明要るな。

あの、工事現場にあるぼんぼりみたいなバルーンみたいなやつ。

あ、でも、工事終わったらお蔵入りになるか。

もったいないから、後でリビングで使えるようなおしゃれなフロアライトでも考えよう。

よし、小屋に戻って蛇口とフロアライト設計してみよう。


まずは蛇口から…。

やっぱりキッチンの蛇口はレバー式が使いやすいよね。

じゃあ、上下にスライドするシャッターみたいなの付けて、レバーの端に取り付けて、レバーをシーソーみたいにすれば行けるかな。

あ、お湯はどうしよう。

うーん、レバーを左右に動かすと加熱用の水晶に魔力が行くようにすると………。

シャッターの後で魔力の通り道二つに分けて、バルブを付けてレバーで回すようにすれば行けるかな。

で、出てくる水に加熱用の水晶の焦点当てればお湯になるかな。

よし、試作してみよう。

あ、ソード君、帰るの。またね。

………

……

結局、蛇口とフロアライト作るだけで、夜中過ぎまでかかってしまった。

相変わらず円筒形むずい。

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