5月 1/3

皆さんお久しぶり、私です。


一ヶ月前にスタンピードで両親を亡くし、周囲の人に助けられながら、なんとか一人暮らししています。


騎士様曰く、私は『夢渡りの賢者』というものらしいのですが、自分では両親の後を継いだひよっこ薬師のつもりです。

両親が健在な頃は、夢で見た前世の知識も遊びに使う程度だったけど、一人暮らしを始めてからは大いに頼ってます。

まあ、知識だけなので実践すると失敗も多いんだけど、なんとか暮らして行けそうです。


先日、ソード君用に作った剣、鍛冶屋さんの研ぎと拵えが終わって納品されたようで、ソード君、今、目の前で振り回してます。

喜んでもらえるのは嬉しいけど、危ないから落ち着け。


「ちょっと。嬉しいのは分かるけど、そんなに振り回さないでよ。関節壊すよ」

「お、おう、悪い。この剣見てたら身体が勝手に…」


おい、私は妖刀なんか作ってないぞ!


「ねえ、はたから見ると危ない人だよ。いいの?」

「…まじ?」

「うん。今にも人を斬りそうに見えて、作ったの後悔しそうなくらい」

「す、すんません!お嬢が後悔するような使い方は絶対しません!はしゃぎすぎました!」


こうやって直ぐに反省して切り替えできるのは、君の長所だね。


「絶対だからね。…で、もう試し斬りはしたの?」

「ああ、約束する。試し斬りは鍛冶屋でやったけど、お嬢みたいに丸太切り飛ばすのは無理で、半分くらいで刃が止まった」

「祝福の回数と魔力制御の進捗からすると、十分だと思うよ。魔力制御の質と共に切れ味も上がると思う」

「おう、魔力制御頑張るわ。ところで、今日は何してんだ?」

「崖を掘り固めてはしごみたいにして、崖上に上がれるようにしようと思って。今のままだと小山の整地が進められないから」

「ああ、そうだな。小山を階段代わりにしてたら、いつまでたっても整地出来ねえな。手伝うぞ」

「じゃあ、小山の方、レンガにして削って」

「おう、魔力制御の練習に丁度いいな」


ソード君、言うが早いか小山登ってるけど、帯剣したまんまだよ。ありゃ、作業中も手放す気ないね。まあ、いいけど。


私の方の作業は、壁面に等間隔にへこみを付けて固めるだけだから、割とすぐ終わったので、ソード君と一緒に小山削りしました。


小山の高さ、残り約8m。

ここからは工事方法を変えるつもりです。


当初は、小山を全部削ってからレンガを積んで家を建ててくつもりだったんだけど、よく考えたら一人で足場なんて組めないよね。

しかも、足場の材料なんて無いし。

屋根の天辺なんて高さ10m位になるんだよ。

足場無しじゃ作業出来ないよね。


だから私、考えたの。

“上から建てよう”


どうせ小山を削るのなら、家を上から作りながら削ってけば小山を足場代わりに出来るし、壁も床もそこにある土を圧縮すれば手間いらずじゃない?

私の設計では、二段積み豆腐ハウスに切妻屋根を乗っけた三階建て(二階プラス屋根裏部屋)だから、屋根裏部屋と屋根から作れば、今後の雨の心配もしなくていいよね。


外観はレンガ調にして、屋根の薄い洋風合掌造りみたいな感じにしたいな。

外壁も粘土色一色じゃつまらないから、外から色の違う土を蒸着して塗装しよう。

二階と屋根裏の外壁は淡いベージュ、一階は赤レンガっぽい色がいいな。

あ、屋根は濃いめの茶色かな。


にゅふふ、夢が広がるわー。


「おーい、お嬢。風呂、使っていいかー?」


はっ!いかん、トリップしてた。


「うん、いいよー。自由に使ってー」


危ない、危ない。にまにま顔を見られるとこだった。

小山の上と下で離れてたから助かったよ。

顔、戻して、私も下へ降りよう。


ソード君は鼻歌混じりでお風呂の用意してるので、私は洞窟の薬草部屋でも作ってよ。


ずごごごごご


薬草、順調に育ってて、もうすぐ試験用の部屋がいっぱいになりそうなんだよね。

だから、試験運用じゃなくて本格的に薬草栽培しようと思ってます。


ずごごごごご


試しに洞窟栽培の薬草でポーション作ってみたんだけど、回復量が半端ないのが出来ちゃいました。

もうね、レベルが低い(祝福回数が少ない)人が飲むと、苦しくなりそうなレベル。


ずごごごごご


あ、色々と人体実け…ごほん、臨床試験して分かったんだけど、レベルが低い人ほどポーションを飲める量の限界値が低いんだよ。

用量超えると辛くなって、更に飲んじゃうと苦しくなるみたい。

世間では、容量が固定されたポーションを時間を空けて一日三本までってなってるんだけど、これ、用法用量を、ケガや衰弱具合、レベルに合わせて変えた方がいいよね。


ずご


あ、薬草部屋出来ちゃった。

…魔力結構余ってるな。

よし、家の内壁作ろう。


ずごごごごご


多分、保有魔力量の上限値がレベルアップで上昇するからだと思うんだよね。

体感では、スライム倒すたびに徐々に保有魔力量が上がって、いっぱいになるとレベルアップして上限値が拡張されてる気がする。

だからポーション瓶にレベル表記の目盛付けて、一度に飲める量を制限して、ケガや病気の重さで投与間隔を変えた方がいいと思うんだ。


ずごごごごご


しかもポーション自体も効き目が違うから、グレード分けしないと最適な投薬にならないよね。

私も両親の後を継いだ薬師として、頑張ってデータ集めてるんだ。


ずごごごごご


ある程度データが溜まって目安が付いたら、騎士様に頼んで発表してもらおう。


ずごご


おっと、考え事してたら部屋の内壁もできちゃった。屋根はまだだけど。

壁があるから、夜間作業しても村側には光、漏れないよね。

屋根付けたら中暗いし、作業用の水晶ランタン要るね。


ソード君は、今日も湯上りほかほかで帰って行きました。

歩きながら、左手が鞘を触ってる。

……ほんとに妖刀じゃないよね?


まあ、気を取り直してランタン作ろ。

で、せっせとランタン作ってて、ふと、思い付いた。

おうちの照明、電球色とか作れたらおしゃれでいい感じだよね。

水晶は魔力をそのまま流すと太陽光みたいな光。

じゃあ、違う魔力を流したらどうなるんだろう?


実験、実験。

水晶をつまんで持ち、水晶の先から水が出るイメージで魔法を発動。

…あり?魔力が流れて行かないよ。

なんか詰まってるような感じする。


魔力量増やしてもう一度チャレンジ。

ぐぬぬ、うぉりゃー!

あ、今ちょっとだけ流れたけど、光らないね。


もっとか。もっとだな。

ふんがー!!

あ、先端から水滴出たけど、全然光らないや。

しかも、水球出す魔力の十倍以上使って水滴一つって、非効率にも程があるよ。

だめかー、ちょっと期待してたのになー。


…ん?

水晶の表面に、なんか筋が出来てるような…。

ひび入っちゃったの?

再度魔力をそのまま流してみたら、魔力の流れも悪いし、光り方も弱くなってるよ。

あーあ、壊しちゃったかぁ…。


ほわっ!?

なんで水滴出てんの!?

純粋に魔力流してるだけなのに、弱々しく光りながら先端から水滴が落ちてきてるよ!


ま、まさか、魔力を水滴に変換してる!?


………えいっ!!

今度はでっかい水球作るつもりで魔力流してみた。

…最初の時より若干魔力が流れやすい気がする。

水晶光ってないけど、水滴はぴちょぴちょ出てる。

あ、徐々に魔力が流れやすくなってきた。

水量もちょっとづつ増えてきてるね。


……ふるぱわー!!!

おお!水晶の表面の筋が光ってる!しかも徐々に太くなってるし!


なんかこの筋の模様、どっかで見たことあるな…。

あー!!スライムの核だ!

核の表面にある模様に似てるんだ。

核の方はもっと複雑で細かいけど、このペイズリー柄っぽいのはそっくりだよ。


スライム生まれる時って、核が出来てから徐々にスライのボディが生成されてたよね。

じゃあ、核が魔力使ってボディに変換してる?

ってことは、この模様って魔力の変換機能なんじゃ……おわっ!!床が水浸しじゃん!

いつの間にか水量ドバドバになってるし!


うん、考え事しながらの実験はあかんね。

気付いたら大惨事だよ。


あー、でもまじかー。

また、やばい系の発見しちゃった気がする。

ううー、ソード君のあきれ顔が目に浮かぶよ…。

ほらー、純粋に魔力流しただけで模様だけ光ってドバドバ水出てくるし…。


これ、水道とか換気扇とかコンロとか作れちゃうんじゃない?

大発見だよ…。

ぐすん、また、あの叱られそうないたたまれない雰囲気経験するの?

嬉しいのに素直に喜べないよー。

………。


それはそれ、これはこれ。

先っぽから熱出す水晶、炎出す水晶、風出す水晶作ってみました。

核の粉にセットしたら、ちゃんと動くし!

…はぁ、寝よ。


翌日。朝の日課を終えてから、森の見廻りに行く気にもなれず、鬱々としながら断罪の時を待つ私です。


あ、レンガ製造水晶と土圧縮水晶と冷気放出水晶も出来ました。


ご、ごめんなさいー!

どうせ叱られるんなら、少しでも便利な物作って心象良くしようと思っただけなんです。


「お嬢、なに頭抱えてクネクネしてるんだ?」


ひー!ついに断罪の時が…。


「あ、あの、ご、ご機嫌いかがですか?」

「……今度は何やった?」


ちょ、ご機嫌伺いしただけでやらかしたことばれてるー!


「え、え、えっとね、ちょっと実験してたら手違いがあって…」

「…まさか、ダンジョンを爆散させたとか…」

「ちょっと!私そんなこと出来ないよ!ダンジョンの壁なんて硬すぎて欠けさせるくらいしか出来ないよ!」

「…ダンジョンの壁は硬すぎて、剣で切り付けても傷一つ付かないって聞いてるぞ……欠けさせられるんだな」

「え?あ、あれ?」

「…とりあえず、周りに被害は出てない事なんだな」

「うん、あ、でも、ソード君には、また、迷惑かけちゃうかも…」

「あー、そっちか。…で、何か発見したのか?」

「うん、…これ」


私は、おずおずと昨日今日で作った魔力変換水晶を差し出します。


「水晶ランタン?あ、模様がついてる」


形状は水晶ランタンそのままです。

でも、光の代わりに…。


「おわ!水出た!!なんじゃこりゃ!?」

「光の代わりに水が出ます」

「………なあ、なんで複数あんの?」


ぐ、鋭い。


「火が出ます。風が出ます。熱が出ます。冷気が出ます。レンガが作れます。土を圧縮出来ます」

「……わかった」


ぎゃー、魚が死んだような目で私を見ないで!


「さすがにこれは父上案件だな。お嬢、今からいいか?」

「はい、お願いします」


急いで支度して3WAYバッグに水晶をしまい、ソード君と村へ出発です。


「お待たせしました」

「…さっきから何で敬語?」

「やらかした自覚はあるので…」

「あー、前に父上が行ってたろ。賢者の行動は犯罪性が無い限り自由だって。だから怒られたりしないぞ」

「でも、またソード君や騎士様に迷惑掛かっちゃう…」

「ああ、そうか、お嬢に言ってなかった。俺も父上も王家から直接任命されたんだ。『賢者様お世話係』に」

「は?何それ?」

「迷惑かけられるのが仕事みたいなもんだ。しかもお嬢のは迷惑でもなんでもないし。俸給つく上にお嬢関係の何かを処理するたびに王家から報奨金もらえる。だから父上もこの村の領主に任命された」

「え、領主ってどういうこと?ここ、伯爵領だよね」

「今は父上の領地。伯爵様には王家からかなりの金額が支払われた」

「それじゃあ騎士様やソード君の生活が激変しちゃうじゃない。そんな迷惑かけられないよ!」

「全然迷惑じゃないぞ。領地を持たない貴族は、ある程度の年齢になるまで働くと、小さな領地を貰って隠居するのが夢なんだ。父上にもその話は出てて、俺も一緒にくっついてく話になってたから、賢者云々関係なく場所以外は予定通りだぞ」

「ほんとに?」

「予定じゃもっと小さい村だったんだ。それが街に発展しそうな規模の村になって、領主以外に任務時は公爵待遇の王家特使の身分まで付いてきて、無役のはずの俺も、特使代理で魔学研究所上級研究員。もう大出世どころじゃねえよ」

「でも、それだと私といるのはお仕事になっちゃう…」

「ちげーよ。今まで通りやりたい事やってて給金と身分がもらえるの。文句なんか出ようがねーよ。しかも俺、王都の暮らしが合わずに父上にくっついてきたんだけど、こっち来てからストレス無いどころか楽しくてしょうがないんだ。お嬢や村のみんなのおかげだ。ありがとよ親友!」


あ、友達だとは思ってたけど、親友認定されてしまった。

えへへ、ボッチの自覚があるだけに、結構嬉しいかも。

しかも、私が好きなここの事を褒めてくれてる。

君ってほんといい奴だね。


ちょっと恥ずかしくなったので、ソード君にもらったホットドッグかじって誤魔化しました。


さて、騎士様のお屋敷に着いたら、即面会です。


「父上、お嬢が新しい発明したから相談乗って」

「おお!、今度は何かな?」


あれ?騎士様期待してる?


「スライムの核を燃料に、火や水、風なんかが出る道具が出来た」


ソード君、言うなり火と風の水晶稼働させてるよ。

あ、コップ持って来て水も出してる。


「それは……離れていても動く道具ということか!しかも核があれば水を出し放題じゃないか!!」


うわ、びっくりした!

騎士様、いきなり机を叩いて立ち上がっちゃったよ。


「ああ、重い水を持ち歩かなくても旅ができるし、暑い日には部屋で涼めるし寒けりゃ暖められる。あ、レンガも作れるな」


うわ!騎士様がすっ飛んできて私の両手をぶんぶんしだしたよ。


「素晴らしい!お嬢さん、君は天才だ!!これでどれだけの人が助かるか、想像もつかん!」


騎士様、声でかいよー。耳痛い。

でも、全然怒られなかった。

ソード君の言う通りなのかも。


「うん、熱にうなされる人の頭を冷やすための氷を作ったり、傷んだ水や食料でお腹壊す人が減らせると思うの」

「…我々は健康な者への恩恵を考えていたが、さすがは薬師だ。早速魔学研究所に連絡を入れよう。作り方も公開していいのかね?」

「うん、私の事を内緒にしてくれるなら、自由に使ってください」

「また、欲のないことを…」

「欲、あるもん。私はあの場所でひっそりと自由に暮らしたいから」

「ああそうだったね。任せてくれたまえ」


その後、作り方を話して予備に持ってきた水晶でソード君に実演してもらったら、かなり苦労してやっとちょろちょろ水が出る水晶が出来た所で魔力切れになったみたい。


私が追加で水量上げようとしたら、水球生成の魔力が全然通らなくって、フルパワーでやったら水晶が割れちゃった。


私の作った水生成水晶とソード君のでは、若干模様が違ったので、生成時のイメージの違いが影響するのかも。

ひょっとしたら、一人でやらないと作れないのかもしれない。

魔力変換水晶、作るのは結構大変みたいです。


報告も済んだのでそろそろ帰ろうとしたら、騎士様にお泊りを勧められました。

来るたびに泊まらせてもらうのも悪いからと辞退しようとしたんだけど、騎士様がソード君に隠れて何度か拝むような合図を送ってくるので、何かは分からないけど、とりあえず泊ることにしました。


夕方、裏庭でソード君の稽古を騎士様と見てる時、小声でお礼を言われました。


「お嬢さんには本当に感謝しているよ。息子はまっすぐな性格が王都の貴族たちと合わずにぐれかけていたんだ。環境を変えれば何とかなるかと思って連れてきたんだが、勉強もせずに遊び歩いていた。ところが、君と会ってからというもの、真面目に勉強し、鍛錬もこなし、私の手伝いまでするようになってくれた。全て君のおかげだ。ありがとう」


そっか。隠れて合図してたのは、ソード君には知られずにこのことが言いたかったのか。


「あー、それはちょっと違うと思います。彼は元々ああいう性格だったんです。辺境の人間は助け合わなきゃ生きていけない、死と隣り合わせの生活をしてます。私じゃなくても辺境の人間と触れ合えば、彼の性格は前面に出てきたと思います。だから騎士様の『環境を変える』という試みが成功しただけです」

「……まいったね。存外に嬉しい言葉だったよ。これからも是非、息子の友人でいて欲しい」

「それはこちらからお願いすることです。これからもご迷惑をおかけすると思いますが、長い目で見てください」

「ああ、君たちの成長が楽しみだ。長い付き合いになりそうだが、嫌がらないでほしい」

「もちろん!これからもよろしく!!」


騎士様と何やら通じ合ったようで、お互い、笑顔で握手しました。


夕食時には私の失敗談に花が咲き、つられて騎士様も失敗談を披露し出したら、ソード君がやたら嬉しそうにしてました。

親の失敗談なんてそうそう聞けないもんね。

父親との親密度が更に上がったのかな。


ちょっと前までは、他の親子が仲良さそうにしてるのを見ると胸がきゅってなってたのに、今は自分も嬉しいや。

父ちゃん、母ちゃん、私、人を羨まなくなれたかも。

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