37.そのあとどした
「僕は確かに言いました、人間なんだしミスは起こる、それは仕方ないことだと」
「はい」
「ただこれはね、ミスの範疇を超えてるよね」
「はい」
「もうちょっと考えることはできたんじゃないかな?」
「はい」
「修理費、いくらかかるか分かってる?」
「はい」
「はいしか言えないのかな?」
後日、事務室にて。
魔王でもこんな威圧感は放たないだろう、と言わんばかりの空気が質量を持って場を支配していた。
いつもは賑やかな職員達が、息もひそめて静まり返っているのがその光景の異様さを如実に現していた。
その威圧感の最も近くで正座する新入りがいる。
普段ならはい以外の言葉も言えるが、恐ろしすぎてマッピーは震えながらイエスマンになるしかなかった。
普段温厚な主任が背後に般若を背負う様は、もう二度と体験したくない恐怖である。
ただしそんな状況でも近くのデスクでバカめ、とひっそり笑うメカクレ先輩は見えたのでマッピーは後で殴ろう、と震えながらかたく決意した。
「想像を絶するほど怒られた」
「そりゃそうだよ」
数時間後、ようやく解放されてげっそりと肩を落とすマッピーの頭上から容赦ない声が飛ぶ。
呆れたようにこちらを見下ろす真っ黒な影と、浮かぶ二つの目にいらりときてマッピーは回し蹴りでむき出しの脛を狙った。
ぱっつぁん、と小気味の良い音が廊下中に響く。
「痛い! なんで!」
「誰のせいでこうなったと思ってんだ! ちょっとは感謝しろ!」
数秒かけて考え出した策。
それは、マッピーがあらんかぎりの剣技でもって3-A区画の壁を破壊し尽くすことだった。
これならミミックが壊した壁の証拠も隠滅できるし、収容違反ではなく自分が壁を破壊したから偶然外に出ちゃっただけです、と言い訳できると思ったのだが。
ただでさえひび割れのひどかった壁は、マッピーの斬撃を受け止めきれなかった。
向こう側の壁や廊下までもを切り裂いた結果、区画は半壊、負傷者は出なかったものの結果として全員が引っ越しを余儀なくされた。
マッピーは器物損壊で普通にめちゃめちゃ怒られた。
当然である。
庇ったはずのミミックは特になんの制限を掛けられることもなく飄々としているものだから、それがまた腹が立つ。
罰則くらい受けろ、と当時とは矛盾したことを強く念じているのだから、人の心のなんと移ろいやすいことか。
「頼んでないもん! そんなバカなことするマッピーが悪いんでしょバカ!」
「そもそも収容違反なんてバカやらかすミミックのせいでしょうがこのバカ!」
「どっちもバカよ」
バカバカと頭の悪い口喧嘩を一言で収拾させたのは、ミミックが背負う箱に座るテンタクルであった。
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