27.対峙するは魔族と人
突き抜けるような空には、白い光がまばらに散りばめられていた。
時折またたくそれは、星であると知識は知っているものの、実際に見たのは初めてだ。
洞窟の中でも、会館の部屋でも、ミミックと空の間にはいつも天井があった。
一瞬外に出るだけで劇的な変化を遂げた視界に、切望する光景をもう一度目撃してしまえば自分は興奮で死んでしまうんじゃないか、ぽかりと口を開けて空を見上げるミミックはなかば本気でそう考えてしまった。
夜露に濡れた葉先が擦れて、ふくらはぎが冷たくてこそばゆい。
感触が楽しくて、勢いよく足を進める。
視線は星の降り注ぎそうな夜空に向けたままだ。
危ないと注意する声はどこにもない。
今更だ。
箱もなしに外に出た時点で、危なくない場所などない。
一時の感情に流されるのはバカのすることだと、記憶の中のテンタクルがかわいらしい声で囁いて、ミミックの歩みは少し鈍くなる。
外に出るなんて無理だ、新入りの声がそこに重なって、歩みは更に遅くなる。
自分が好き勝手することで、同種たちに危害が及ぶかもしれない。
鈍くて巨大な身体の癖に、潜むこともせず動き回る愚か者。
いつもバカにされていてあまり良い思い出はないが、死んでしまえと思うほどミミックは同種たちを憎んではいなかった。
外に出て、起こるだろうことを考えて、いっぱい考えて、それでも外に出た。
気配を感じる。
ミミックはつと見上げっぱなしだった顔を前方に戻し、睨み付ける。
噛みしめた唇の端はひきつり、吊り上げた眦には怯えが隠せていないが、それを悟られることはないだろう。
目の前に対峙しているのは人間で、夜に紛れたミミックの表情の細部を視認することなど不可能なのだから。
申し訳程度にフリルのついたエプロン、汚れの付きにくいチュニックワンピース。
肩辺りで切り揃えられた髪が、風でふわりと揺れた。
ごついベルトにいつも吊り下げている剣は、今は抜き払っている。
会館の明かりを背に受けて、剣身がぎらりと光った。
五指の揃った複雑な手の輪郭を、準備運動代わりにぼやけさせる。
いっぱい考えたから、ミミックは今日会話した少女が敵になることに後悔していなかった。
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