26.空は突き抜けるように

会館の下水道には、除外設備がある。

水に混じった油分や沈殿物をある程度取り除く場所だ。

そこを抜けてしばらくすれば、近隣の水再生センターへ繋がっている。

ミミックが成し遂げたい目的を果たすためには、会館の敷地外にあるそこは遠すぎた。


下水道に繋がっていたマンホールを押し上げて、しばらくぶりの地上へ身を乗り出す。

管に潜る関係上、纏えずに引っ張りこんだ布を絞ればゴミや汚物がびちゃびちゃと異臭と共に落ちて不快だったが、不意に吹き抜ける夜風を感じてしまえば、ベトベトした感触はすぐに気にならなくなってしまった。


布を纏いなおし、ぱちりと目を開けて、辺りを見回す。

広大な敷地故に手入れが行き届いていないのだろう。

自然に囲まれたそこは視界を遮る樹木はないものの、マンホールの上に直立するミミックの膝の辺りまで下草が好き放題に生い茂っていた。

そんな下草を、人間が踏み倒してできたと思われるずぼらな道が細く延びている。

遠くに建物の明かりと、その後ろに夜空より黒い山の影が見えた。

建物はさきほどまで自分がいた会館だ。

すぐ隣にはなんの用途か知らない高い塔のようなものも見える。


いつもの部屋の暗闇と同じ色なのに、どこまでも終わりのない空気の流れがまるで違う光景であると語る。

生まれた時から一緒の箱はない、隠れられそうな場所もない。

ただし壁も天井もない、ミミックを足止めする存在は見渡す限りどこにもない。


肝胆を底冷えさせるほどの恐怖と孤独感、そして両手を振り回して大声で叫びたくなるほどの解放感が、同時にミミックを襲う。


やった、と口をついて出そうになって、ミミックはあわてて口を塞ぐ。

声で居場所がばれるのは得策ではないし、まだ目的を果たしていないからだ。


目指す場所は派手で分かりやすい。

ミミックは目印を頼りに、草をかき分け影色の素足を動かしはじめた。

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