18.勇者の末裔も苦労している
勇者の末裔。
それはマッピーを形作る大部分で、あらゆる状態異常への耐性や強靭な肉体という形でなにかにつけて恩恵を受けてきた。
だが、それによってマッピーの行動の大部分が制限されてきたことも確かだ。
『ご先祖様に恥じない生き方をしなさい』
『勇者の血筋らしい振る舞いを』
勇者は剣の名手らしいので、末裔のマッピーは剣を習った。
勇者は魔物を倒す正義の味方らしいので、末裔のマッピーは軍でしばらく訓練していた。
どれも誰かに言われてやったことだ。
子供の頃は自分で考えて行動したこともあったのだが、なにかにつけて『勇者はそんなことはしない』と言われるものだから、次第にマッピーは自分で考えることが億劫になってしまった。
ここへの就職だって、そうだ。
所長からスカウトされて、ことあるごとに勇者の末裔という生まれに絡めて評価される軍の居心地が良くなかったから、それを承諾した。
望んで会館へやってきたというより、嫌なことから逃げてきたと言った方が正しい。
なにも考えずに、従っているだけで正しいと認めてもらえるような手順書があればいいのに。
剣を振るう度にベルトの内側で上下する丸めたマニュアルの感触が不快だった。
「めんどうくさい」
カバーを切り裂いた中からポコポコと大量に出てきた円柱状の物をむしりとって焼却炉へ投げ入れていく。
スプリングの役割を果たしていたらしい原材料不明のそれは、ぼよぼよと手の中で奇妙に跳ねた。
無心で手首のスナップを効かせている内、次に頭に思い浮かんだのは、やっぱり先輩の余計な一言だった。
魔族の外出を『無理だな』とばっさり両断した台詞は、腹立たしくも先ほど己が口にした言葉とまるで同じ。
言われた事はマッピー本人も予想していて、先輩の言葉にはむしろ同意してしかるべきだったのだ。
なのに、ぱっと胸中に沸いたのは失望にも似た感情。
原因はわからないのに突如宙ぶらりんで現れたその事実が癪にさわる。
目だけしか見えないくせに、傷ついたことがはっきりとわかったしかめっ面を思い浮かべると更に不快感が募る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます