9.ミミックには夢がある

「のわりには、広い場所の写真が多いですね」

「あ、えと、えへ」


マッピーの動きを真似して、ミミックも掃除に邪魔な紙を拾い集める。

草原や海の風景写真にいくつか印のつけられた地図。

外国の暮らしや地理が書かれた本。

机からこぼれ落ちた紙は、どれもが外に関する情報ばかりを伝えてくる。


「異端だっていうのは、分かってるんだ。

ぼくらは影で生まれて、暗がりに置かれた箱の闇に潜んで、近づいた獲物を喰らって、それを繰り返して死んでいく」


ミミックの白い歯から伺える口の形は更に歪んで、もはや笑顔というよりひきつりが顔面を支配している。

巨躯を震わせ、きょどきょどと右往左往どころか上下にもさ迷いまくった視線だったが、手の中に収めた写真に落ち着いたそれはかすかに柔らかみを帯びた。


「でも、生まれ故郷から馬車に乗せられてここへ来る道中で、こっそり覗いた景色がとっても綺麗で……

また見てみたいな、ってちょっとだけ思ってる」


山中から麓の町を見下ろしたような写真だった。

赤黄の鮮やかな紅葉の隙間から、目映いほどに整備された人間の町並みがミニチュア模型のように鎮座している。

美しさの違う自然と文明が集まった一枚。


白目の目立つ三白眼が、憧れを直視したようにきゅう、と細まった。

そんな彼を見て、マッピーが思ったことは。

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