7.ミミックのお宅訪問
「こんにちは、マッピー=マーフィーです。部屋の掃除に来ました」
「わ、えっと、はい! ごめん、ちょっと待って!」
ステンレス製のドアをがんごんとノックすれば、慌てたように跳ねる声と、なにかを漁るようながさごそという音が扉の向こうから返ってくる。
おお、とマッピーは感動した。
本日個室の掃除に取り掛かってから、初めてまともな返事をもらえたからである。
現在掃除中の区画3-Aは、洞窟などの閉塞的なダンジョンを住み処とする魔族達が暮らす場所だ。
その環境ゆえか、基本的に彼らは静かで大人しい。
手がかからないが、警戒心の強さは玉に瑕だ。
灯りはつけず、常に暗がりへ身を潜め、掃除中も無言でじっと見てくるので、マッピーは居心地の悪さを感じていた。
「あ、はい、もう大丈夫!」
数十秒後、ようやく許可がもらえたのでドアの隣に備え付けた読み取り機にカードを通す。
ホルダーにぶら下がった硬質のプラスチックでできたそれは、交流会館の職員にだけ所有を許可されたカードキーだ。
刻印されている魔方陣の読み取りが終わると、ぷしゅんと自動的に扉が横へスライドする。
まず目に入ったのは、ランタンに点るオレンジ色の小さな灯りだった。
四メートル四方程度の小さな部屋だが、それでも全体を照らすには心もとない。
ランタンの置かれたテーブルから少し目線をずらせば、他の部屋と同様に深淵のごとき闇が広がっている。
その一角、暗がりに突如パチリと眼が二つ開く。
「さっきぶりですね、ミミック」
「あ、うん、さっきはどうも……」
先ほど泣きわめいた醜態を思い出したのか、ミミックは照れくさそうに目を反らした。
ひょっとしたらもじもじと頭など掻いていたかもしれないが、闇と完全に同化したような真っ黒の肌では身じろいだかどうかも判別は難しかった。
「すみませんが、照明をつけるかランタンを消すかしてもいいですか」
「それなら照明をつけて! 人間は暗がりをずっと見ていると、目が悪くなるんでしょ?」
どうやら首から下げた暗視ゴーグルは久々の休憩を得たらしい。
健康に悪いよ、と続けるミミックの厚意に礼を言い、マッピーは入口付近のスイッチを点ける。
ぱちん、軽い音と共に闇は消え去り、部屋の全貌が明らかになる。
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