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「おはよう」


 病室の、彼女。


 安らかな顔で、眠っていた。病室の、やわらかな夜の灯りのなかで。


「今日はね、ようやく雨が上がったよ。ずっと降っていたのに」


 応答はない。


「僕は、最後の治療に来たんだ。検査して、大丈夫だったら。これで晴れて両目が治療完了です」


 彼女の心音。安らかに、安定していた。


「きみのおかげだよ。ありがとう」


 彼女は。


 ずっと昔から。


 ここで、眠っていた。


 目の見えない、自分の前に現れて。


 自分と一緒に、いてくれて。


 そして、最期に。どうしても、僕を実際に見つめて、告白、したかったのだろう。その気持ちが、いま。逆の立場になって。いたいほど、分かる。


 目覚めない、彼女。


 手を、握った。


 暖かい。生きている。


「ありがとう。僕に、生きる意味をくれて。ありがとう。今度は、僕が待つよ」


 耳は、失われなかった。目が見える。音も聞こえる。


 それでも。


 いちばん大事なものが。失われた。彼女という存在が。僕の世界から、消えた。


 夜の灯り。今日はずっと、ここにいよう。君が目覚めるのを、待ってるよ。手を握って、心のなかで。伝える。


 彼女の側で。


 彼女の音を。彼女の顔を。


 ゆっくりと、感じる。

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