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「どう。いたく、ない?」


「大丈夫だ。いたいことは何もなかったよ。細胞幹をシートで貼るだけだもの」


「すぐに、見えるようになるからね」


「うん。ちょっと楽しみだなあ」


「隣に。座っても、いい?」


「いいよ」


 右隣が。暖かくなる。


「あなたの目が見えるようになって、はじめて見るのが、わたしでありたいから」


「そっか」


 手が、握られる。やさしい、温度。


「もうそろそろ、かな?」


「もうちょっとだね。まだ何も感じないよ」


「はやくはやく。たのしみ」


 目の感じ。


 何も見えないから、目を閉じているに、少しずつ、変わっていく。不思議な体験だった。世界を、幕が覆うような、感じがする。目の見えないほうが、世界のことを、正確にとらえることができていたのかもしれない。


「目を、開けるよ?」


「まって」


 頬に、手の温もり。


 やさしく、首が、右側に。固定される。


「どうぞ」


 ゆっくり。そうっと。


 目を、開けた。


 耳で感じていたときと同じ顔が。そこに、ある。綺麗。


「おはよう」


「おはよう」


 彼女。


 目に涙を浮かべている。


「泣かないでよ。目が見えるようになって、最初に見えるのが、あなたの涙になってしまう」


「ごめんなさい」


 彼女。ぐっと、泣くのをこらえるような動作。


「あなたに。わたしを。見てほしかったの。最期に」


 最期。


「好きです。それだけを、伝えたくて。あなたのことが。好きでした。ありがとう。わたしに、生きる意味をくれて。大好き」


「最期って、なに?」


「ありがとう。ごめんなさい」


 彼女の姿。


 消えた。


「ねえ」


 右隣のぬくもり。


 消えている。


 頬にあてられた手の暖かさも。


 彼女の涙も。


 そして。


 心の音も。


 すべて。


 聞き取れない。


 彼女は。


 いなくなった。

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