11話 何故なのか

「そういえば、どうして何も言わずに受けてくれたんですか」


 冒険者ギルドのそこまで美味しくない飯をアニスと食べながら、そんな質問を投げかけられる。

 確かに何も言わずに付いて来いと言ったので、そういう疑問を持っても不思議ではないか。


「……ま、確かにね」


 ずっと不思議そうに此方を見ながら、硬い黒パンをスープに浸してふやかし、口に放り込んでいるのを見ながら少し考え込む。無償で、しかも理由も聞かずに鍛えているという話だからな。

 とりあえず自分の食事を全て平らげてから口を拭って水を一飲みしてから一息つく。


「そんなに気になるのかい」

「そりゃあ、まあ、報酬の話や条件の話もせずに押し掛けたのは事実ですし、それを聞いて此処までやってくれていますし」

「そうだねえ……」


 もう一度水を口に含んでから少しため息交じりに息を吐き出して食べ終わるのを少し待つ。

 

「まずは綺麗に食べてからだよ」

「あ、そうですね」


 これから話す事が少し長くなると思ったのか、言われた通り、出された食事をアニスが少し駆け足気味に食べ、流し込んで大きめに喉を鳴らして食べきる。

 老人の昔話なんて今の若い子にはただの苦痛だと思うんだが、そんな事も気にせずに、何かの英雄譚を聞くような興味津々な顔で此方を見てくる。

 まあ本人が納得しないというのであればこの辺りでしっかり説明をしておいた方がいいかもしれない。とりあえず新しい飲み物を注文しつつ、他の連中の雑踏の中話を始める。


「そもそも何かを教えて欲しいって奴には何も取らないって決めてるんだよ」

「それは、どういう理由で?」

「まあ、遺言って所だね、長く生きているとそういう物を背負って欲しいって言われるんだよ」

「だとしても、どれくらいそれを続けているんですか」

「……50年、私の所にきたのは使えるくらいにしてやってるよ」


 注文していた飲物を受け取り、口の中を湿らす。


「50年前……って、確か魔王が倒された年ですよね」

「正確に言えば51年前だよ、覚えておきな、冒険者をやるなら数字には細かくなりな」


 話を聞きつつ、返事をしてくるのでそのまま話を進める。


「魔王が倒された後、ガタガタだった国や人を立て直すために言われた事をずっとやってるだけさ」

「え、いや、そのへんはしゃりすぎじゃ」

「そうだぞ、婆さん、数字には細かくならないと駄目なんだろう?」


 気が付けばいつも冒険者ギルドにいて、それなりな依頼をこなしている顔なじみの冒険者が私の後ろで同じように話を聞いていた。


「婆の昔話を聞く前に少しは働いてきな」

「さっきまで森に行ってたからいいんだよ、それに弟子としては話を聞いてみたいだろう?」

「え、そうなんですか……?」

「長くこの街にいて冒険者やってる奴は少なからず婆さんの教えを受けてるんだよ」

「その割に、簡単な依頼を受けないだろうに」


 まったくと、大きめにため息を吐き出してからまた口を潤すために杯を傾ける。


「位が高いからしょうがないだろ?この婆さんに仕込まれたら最低限死ななくはなるぜ?」

「派手なことはないですが」

「良いんだよ、新人が余計な事をして死ぬよりはよっぽどマシだからね」


 確かに死んでないと冒険者の一人が頷いて、納得している。


「とにかく昔言われた約束を続けて、そろそろ引退しようと思った所にあんたがきたんだよ」

「普通期限とかありますし、限度ってものがあると思うんですが」

「言ったろう、遺言だってな」


 少しだけ遠くを見てふうっとため息一つ。


「と、言ってもある意味では呪いに取れるかもしれないね」

「そこまでして守りたいものですか」

「……俺も初めて聞いたよ」

「ゲロ吐いていつも死にそうな顔してたやつは聞いてこなかったからね」


 残っていた分を一気に飲み干してふーっと一息。

 

「だから後は本人がどこまで本気かって話で判断してるのさ」

「ある意味で狂気ですね」

「私自身そう思うよ」


 ふふっと笑いつつ、食事分の金を取り出してテーブルに置いておく。

 

「さて、婆は先に宿に戻るよ……あんたも明日の仕事に響かない程度にしておきな」

「あ、はい、わかりました」

「それじゃあ、俺が奢ってやるから、もう少し飲むのに付き合えよ」


 完全に絡まれているが、悪い奴ではないので良いだろう。

 これも冒険者として、住民として大事な事さ。

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