10話 冒険者とは

 顔見知りの所でとりあえず体を拭き、衣服の汚れを簡単にだが落とした後、冒険者ギルドに。

 こういうある程度時間が掛かる依頼に関してはしっかりとした経過報告が大事になる。


「あれ、早いですね?」

「まだ途中だよ、いつもより数が多い」


 皮袋に詰めた魔石をカウンターにどちゃっと置いて確認をしてもらう。

 それにしても此処の受付はなかなか肝の据わった奴だ、ある程度匂いや汚れを落としたとはいえ、嫌な顔をせずにしっかりと対応をしてくれるのだから。


「スライムの魔石ですね、ええっと……個数が30個なのでスライムの最低討伐数に関してはこれで大丈夫です」

「いつも言ってるけど、上は改善策ってのを考えないのかね」

「冒険者の数は多いんですけど、どうしてもギルドからではなく街か国からの依頼なので報奨金も中々付けられないのが問題なので……」

「分かってるよ、あんたに言ってもしょうがないのは」

「助かります……して、スライム分の報酬はどうします?」

「纏めてでいいよ、面倒だろう?」

「そんな事ないですけど、保管しておきますね」


 しっかり魔石の入った皮袋に個数と名前を書いて保管してもらう。

 数日かかるような討伐依頼はこうやって預かりもしてくれるので、本当に便利。と、言ってもこういう事をしてもらえるのは顔なじみ、だからではないのだが。


「後は鼠と虫ですか……種類は分かりますか?」

「鼠はいつも通りラットンだね、虫の方は色々って感じだね」

「最低討伐数は見てると思うんですが、なるべく多くお願いします」

「全く、こういうのこそ若い連中にやってほしいんだけどね」


 ちらりと卓で次の依頼の話や、分け前をどうするか、向こうは向こうでもしゃもしゃと食事をしているし連中を見て少し大きめにため息を吐き出して、呑気なもんだなと心の中で吐き捨てる。

 やはり冒険者と言うのもあるので、大きい仕事や稼げる仕事、華やかな物の方に夢を見ているのも多いってのは確かだ。腕っぷしさえあれば稼げる上に、金稼ぎが良いから何と言っても女性、男性に限らずモテるってのもあるな。

 

「街の仕事は報酬が低くなりがちですから仕方がないですよ」

「自分の尻や周りに火が付かないとやらないってのは二流だよ、本物ってのは誰にも言わず、感謝もされずに成し遂げるもんさ」


 騒いでいる他の冒険者を見てから少し遠くを眺めつつ、受付へと愚痴を零すと、不思議そうな顔をして此方を向いてくる。


「そう言えば、お婆さんって、普通に依頼をこなしてますけど、どういう人か聞いた事ないですね……」

「ま、確かにね……別に言った事も無いし、聞かれた事もないからね」

「本当はものすごい高名な冒険者……とか?」

「馬鹿言うんじゃないよ、高名だったらこんな所で燻ってないで、王都辺りで左団扇してるよ」


 いいな、王都で左団扇。

 もう少しまとまった金があれば引っ越しして向こうに出向いて細かい依頼をこなしたら何とか生活は出来そうだが……左団扇は難しいか。


「それに、長い事やっててもこんなもんだよ」


 懐から認識票を出すと三位と記されている、つまるところ下から数えた方が早いって事だ。


「うーん、その割には結構強い魔物を倒したり、難しい依頼をこなしている気がするんですけど……」

「位ってのは目安でしかないからね、採取でも討伐でもコツさえ分かってれば何て事ない物が多いよ」


 特にここの街じゃ危険な魔物も居なければ、危ない場所と言うのも無い。まあ、やばそうなのは隣国が攻め入るって可能性があるかもしれんところか。

 

「ただいま戻りました」

「コツが分かってない、いい例がこいつだね」


 アニスがそこそこ汚れた格好で戻ってくると依頼書の控えを受付に差し出す。その控えには依頼主だろうサインが書き足されているので、しっかり掃除をしてきたことなんだろう。

 その依頼書の控えを受付の子が確認して、控えてない方の依頼書と照らし合わせてから、報奨金を受付に。

 

「結構頑張ってこれだけって大変ですね……」

「街の掃除で銅5枚は破格なんだがな」

「そういえばいない間は何を?」

「掃除だよ、あんたよりきついね」


 それにしても街の掃除ってだけで互いに結構汚れるもんだな。

 私の方はこれでもまだマシにした方だが。


「とりあえず宿に戻って綺麗にしてから飯だね……自分で稼いだ金で食う飯は美味いぞ」

「そういえば、初めてです、自分で手に入れたお金を使うってのは」

「今までは旅の路銀を削ってたんだろう、噛みしめて使うんだよ」


 少し強く返事をすると共に、自分で稼いだ銅貨をぎゅっと握りしめるのを見て、少しだけ口角を上げる。

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