6話 食い扶持
一応人を預かっている以上、死なせたらそれはそれで夢見も悪いし、面倒を見ると言っているので最低限の生活はさせてやるってのが世話をしているわけなのだが。
「食い盛りの若いのがいるとはいえ、2人分だとあっと言う間だね」
1人で十分足りていた1週間分の野菜だが、やはり2人で消費したら1週間も持たない。そういう訳で山を下らないと行けなくなるわけだ。
そしてこの数日の間アニスに関しては、山の中を駆け回らせた。
朝一で下山させて昼前に戻らせ、昼になったら間伐し薪を作らせる。夜は流石に危ないので家の近くにいさせた。数日くらいで体力が劇的に上がる訳ではないが、本来の真面目さと言うのもあって、疲れにくい動き方、体の動かし方をそれなりに分かったのか、ゆっくりと余裕が出てきた。
「街に行くよ」
「分かりました、準備しますね」
「武具は全部持ってきな」
「はぁ……そう言うなら」
そういう訳で、いつも通り街に行く準備をこっちもやっていく。いつもの麦わら帽子、バスケット、杖、一応の外装も肩に掛けて、外に。
アニスも準備が出来たのか、野営のセットを片付け、初めて会った時と同じ格好なのでうんうんと頷いてから一緒になって山を下っていく。
「それにしても、何で急に?」
「一人大食いがいるから、うちの食い物が無くなったんだよ」
「すいません……」
「お前にもしっかり働いて貰うからな」
相変わらずの陽気を受けながら、この間来た時と同じような道を進んでさくっと街に向かう。
「一週間たってないぞ婆さん」
「連れが飯を食うせいでね」
少し後ろにいたアニスを杖で指し示すと、なるほど、と言った顔を浮かべて街に入れてくれる。
ここの門番は堅物だが、しっかり仕事をこなしている点では非常に好感が持てる。
「さて、と……まずは武具屋だね」
「えっと、何をするんですか?」
「良いから付いてきな」
そう言って街の中心地、冒険者ギルドからそこまで離れていない武具屋に。
今使っている杖も此処で購入した物なので、信用もしっかりある。こういう細かく作った人脈ってのは大事にするもんだ。
「いらっしゃい……いつものかい?」
少しくたびれた感じの小人族。所謂ドワーフがカウンターの横からひょっこりと出てくる。もさもさの髭を自分で弄りながら私の杖を掴もうとするので、さっとそれを避ける。
「まだ大丈夫だよ、今日はこいつの方が問題でね」
後ろにいたアニスを紹介すると、2人で挨拶を交わすのを眺める。
「とりあえず、その装備全部脱ぎな」
「剣と盾、鎧ですよね」
「試着室は向こうだ」
ドワーフの指を指した方向に試着室があるのでそこで言われた通りに鎧をがちゃがちゃと音を鳴らしながら脱ぎ始める。
「手頃な皮鎧一つ頼むよ」
「あの若造用かい?」
「ま、そんなとこだね」
そんな事を言っていれば脱ぎ終わったのか、普通のズボンとシャツの恰好に、脱いだ鎧と置いてあった武具はさっさとドワーフが持ってカウンターに。
「え、あ、ちょっと!」
「私の言う事、聞くんだろう」
そういえば黙って事の成り行きを見始める。
しばらく剣と盾、鎧を見てから、皮鎧と一般的なショートソード、金貨5枚を差し出してくる。
「まさか路銀が無いからって僕の装備を売ったんですか!?」
「いいや、質に入れただけさ……とりあえず売りはしないで頂戴」
「しっかり磨いて飾っておいてやるから、安心しな」
「質って……それじゃあどうやって買い戻すんですか!」
「勿論、稼いであんたが改めて買い直すって話だよ」
「仕事もないのにどう……」
「その仕事を今からしに行くんだよ」
金貨はそのまま懐に入れ、皮鎧とショートソードを装備させてから、武具屋を後にして冒険者ギルドへと。
「あ、お婆さん、どうしたんですか?」
「こいつの冒険者ギルドの登録」
「い、いや、ダメです、勝手に登録したら……」
「何時までも親の機嫌を伺う子供じゃないだろう、私の名前を使っていいから頼むよ」
「えーっと、いいのかなあ……とりあえず此処に記入を」
冒険者ギルドの登録に必要な事は読み書きができるかどうかであって、本人の能力に関しては全くもって考慮されない。その代わりに難度の高い依頼をこなすことは出来ないので、いつまでたっても低位をうろつくしか無いという問題も存在している。
「読み書きは出来るだろう、良い所のお坊ちゃんだしな」
「……いいのかなあ……」
「私の言う事を聞くんだろう」
そういう訳でアニスを冒険者として登録。位は一番低い一位なのだが、上がっていくと最大十位となる。ま、とにかく一番見習いだって事だ。
「はい、確認が出来ました、認識票は明日になるので明日以降にまた来ていただくことになります」
「それじゃあ、先に宿を取りにいくかね」
「食べ物買いに来たと思ったら何でこんな事に……」
「ほら、付いてきな」
数日ぶりに前に泊まった宿で同じ部屋を取り、アニスの武具で仕入れた金貨1枚で1週間分を支払っておく。
「明日から何をするんですか?」
「そりゃ勿論、仕事だよ仕事……あの武具を買い直すのが次の段階さ」
「えっと、自分で稼げと……」
「まずは自力で稼げるようにな、やる依頼はこっちで見繕う」
「なんだかおんぶにだっこですね」
「ぺーぺーの時こそ、しっかり手綱を引いてやるのが年長者の務めだよ」
そう言うと宿から貰った紅茶を一啜りし、さっさと寝ろと言う様に自分の部屋から追い出す。
明日からは山の中で素振りをしていた方がマシだったと思うかもしれんがな。
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