5話 一歩ずつ
一夜明け、いつもの通り毎朝やっていることを始める。
外に出て、薪割の準備を始めつつ、自宅の横に設置してあるテントをちらりと視線を移すが、まだ寝ているようだ。昨日あれだけ移動して、なおかつ素振りをさせていたからまだ疲れが抜けていないんだろうな。暫くは寝かせておいてやろう。
と、言っても転がり込んでいるのは向こうなので気にせずに薪割を開始する。
いつもの様にカコン、カコンと子気味良い音をさせながら薪を割っていく。どうやら数本は焚火をするのに使っていたらしい、使った分は後で割らせてやるとするかな。
そうしてしばらく薪を割っていると、もそもそとテントから出てきたアニスと挨拶を交わしつつ何時も使っている分の薪を割って一息。
「自分がやるべきですよね」
一息ついている所に申し訳なさそうな顔をしてやってくるのを手で制止する。
「人の日課に手出すんじゃないよ、やりたいなら自分でやりな」
そう言いながら予備の斧に指をさしてやるなら止めないという様に。勿論、真面目だというのは分かっているので、予備の斧を手に取ると上下にぶんぶんと振り、具合を確かめてからまだ割っていない丸太に手を伸ばす、所でもう一度止めさせる。
「そのまま付いてきな」
「えっと、このまま」
「斧を忘れるんじゃないよ」
そうして少し山の中に入って、10分程歩いてから一本の木の前に。そこまで大きくも太くも無いのだが、間引いた方が日当たりが良くなるので、間伐しようと思っていた木になる。そうして倒していい方向を見定め、石で目印を付ける。
「今日中にその斧でこれを伐採すること、切ったのは後で家に運んでもらうよ、あと枝も燃料になるから忘れるんじゃないよ」
「結構大きいですね……」
「婆の私にできるんだ、若いお前なら出来るだろうよ」
「ああ、そうそう、魔物も出るかもしれんが、その斧使っていいからな」
「ラビやボアだったら夕飯に使えるから持って帰って来な」
これで根を上げるかどうかってのも今後の課題になるが、多分大丈夫だろう。一応倒すときの注意も言っておいたので、後はどれくらい時間が掛かるかと言う話だ。
して、1人にしてから家でまったりと紅茶を嗜む。
時折遠くの方から木を切る、乾いた音が響くので、頑張っているようだ。
「……昼飯くらいは作ってやるかね」
乾いた音と紅茶を暫く楽しみつつ、日が昇るのをゆったりと体で感じつつ、昼飯を作ってからアニスを呼びに戻る。
「飯にするよ」
「もうそんな時間ですか……」
「はじめてにしちゃ、中々進んでるじゃないか」
もう少し切り込みを入れたら自重で折れるだろうという所までは頑張っている。朝から叩き続けている割には結構進んでいる。と、なるとやはり綺麗な動きで剣を振るえるというのがこの成果になるんだろう。そもそもしっかりとした基本の振りが出来るのだから、此処まで順調に行っているのは真っすぐ斧を入れられている証拠だ。
「大した旨くない飯だが、文句言うんじゃないよ」
「その文句を言う程の元気はないですよ……」
「それは良かった」
ガチガチに硬い黒パンと、昨日購入しておいた野菜で作ったスープを用意して張って外で食事。
「足りなかったら自分で調達しな、下れば川もあるし、深いところに行けば食える魔物もいるからね」
「いきなり無茶苦茶してきますね……」
「何日も飲まず食わずで移動しなきゃならん時もある、魔物や何かしらの問題で手持ちの食材がダメになるかもしれん、そういうのを踏まえてだよ」
「……あの斧はあのまま使っても?」
「好きにしな、お前さんの斧だ、私は何も言わんよ」
そう言うとすぐにパンをスープで流し込み、斧を持ってすぐにまた木を伐りに行くアニスを見送る。
「ちょっとは気合が入ったか」
若いのが頑張っている姿ってのは良いもんだね、私もあんな風に必死こいていた時期があった。スープを入れておいた器を洗い、一通り片付けてから紅茶を啜りつつ少し昔の事を思い出す。あんな風に真面目だったらもう少し良い生活をしていたんだろうけど、そういうのには縁が無かったって事だな。
「言っていてもしょうがないが」
左の義肢を指でなぞりながら自傷気味に軽く笑ってから、また聞こえる乾いた音を楽しむ。
予想以上に早く切り倒せるだろうな、あれは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます