第8話 ヒーローになりたい・3
大きく開けた広場のような空間に二人はたどり着いた。中央に円形の噴水を臨む、石畳の床にベンチや自販機が並ぶ現代的なものだ。
いつもは奇怪な目で見られる仮定員の面々だが、舞台がこのような設定だと服装が浮かなくて済む。リュウとユズキも特に注目を浴びる事なく歩き続けられた。
「例のチーム、ログインしてますね。接触してみます?」
「チームメイトが死んだってのにいい度胸してんなー。ま、行くだけ行ってみるか」
画面に映した情報から例のメンバーが集まっている事が判明する。リュウとユズキは呆れながらもそのまま向かった。
広場の端にあるベンチにて男二人が座っていた。例のチームメンバーだろう。辺りにあまり人がいないためなるべく目立たないよう、なおかつ付かず離れずの位置にリュウとユズキも腰かけた。
「はぁ、警察の奴ら何回話聞いてくんだよ。ダルすぎ。お前、ホントにやってないんだよな?」
「だからあいつが殺された時はバイトしてたっつってんだろ。お前こそ、ホントにログインしてたのかよ?」
「あ!?俺の事疑ってんのか!」
「俺じゃないならお前しかいねぇだろ」
「んだと!!!」
まさに一触即発と言った感じだ。会話に耳を傾けながらユズキがディスプレイを操作し、リュウに同じ画面を転送する。
画面に映った情報によれば言い争っている二人の男…茶髪の方がスト、金髪の方がレイジというアバター名らしい。両名ともFPSゲームに沿った順当な装備をしており、ベルトホルダーにしまった銃が見えていたり防弾ベストを着用している。
「もうチームは解散かな。こんな状態じゃまともにやってけないだろ」
「あ!?前の大会でベスト8までいったんだぞ!?!?今更やめられるかよ!」
これ以上ヒートアップしたら収集が付かなくなると見たのか、リュウが動く。ベンチから離れストとレイジの前に立った。
「GCSOの者です。チームJOEのメンバー、ストさんとレイジさんですね?先日の事件についてお話をお伺いしたいのですが」
仮定員である証のGCSOのロゴ画面を見せるリュウだが、ピンときていないのかストとレイジ両名はしかめっ面で。口論の途中なのもあるがかなり不機嫌そうだ。
「誰っすかあんた?話なら警察にしたでしょ」
「てかGCSOってなんすか?宗教なら入りませんよ。俺らは神には祈らねぇ」
「そうきたか。逆にこのタイミングでそんな発想できるのスゲーよ」
ケンカ腰な態度にすかさず敬語の外れるリュウ。ロゴの画面を閉じながら続けた。
「宗教でも警察でもねーよ。政府から派遣された仮定員だ。独自にこの事件を追っててな。繰り返しになるかもしれないんだけど、君らのチームメイトが殺された日に何してたか聞かせてくれないか?」
「また話すのかよ…もういい加減にして下さいよ」
散々聞かれてうんざりしているのか、ストとレイジはため息と共に立ち上がる。その場を離れようとしたため、リュウはとっさにストの手首をつかんだ。
「おいおい、話は終わってないぜ」
「いや終わってるよ。お前がな」
そう言ってストは腰のホルダーから銃を取り出す。誰もが次の行動を容易に予測出来た。流石に静観を決め込んでいたユズキも立ち上がるが…銃口を向けトリガーが引かれるよりも早くリュウは身を翻してかわし、腕をつかんだままカウンターの要領でストを地面に叩きつけた。
「こいつ!」
レイジがすかさず銃を抜くが、既にリュウの銃剣がレイジの脳天を捉えていた。
「このゲーム、バトルフィールド以外での戦闘は禁止されてなかったか?お互い穏便にいこうぜ」
笑みを浮かべるリュウとは対照的にレイジは舌打ちをしながら銃を下ろし、ストも半ばリュウをどかす形で這い上がった。
「ちっ、行くぞ」
ベンチに蹴りを入れ、あからさまに怒り心頭なスト。レイジもまたリュウ達をにらみつけており相当頭にきているのが見て取れる。怒りを露わにするような荒い足取りで歩きだした。
「あ、待っ
「いいよ。これ以上聞いても無駄っぽいし。警察に知り合いがいるから捜査協力の名目で情報もらっとく」
「リュウさんって意外と顔広いですよね」
「お前と違って友達多いからな」
「ホント一言多いですね」
ユズキの静止を遮り、軽口を叩きながら画面を操作するリュウ。ユズキも同じくディスプレイを出現させログアウトしようとするが…
「あ、あの!」
声をかけられ振り向く。そこには女の子が立っていた。
年齢は若そうでユズキと同じくらいか。背もリュウより一回り以上小さく、金髪のポニーテールが首元辺りまで伸びており瞳は明るめの茶色。黒い作業着のような服装にダウンベストを羽織っており、腰からはアサルトライフルの両端が思いっきりはみ出している。少女には重厚な装備に見えたが、その辺りはゲームなのでご愛嬌といった所か。
「バイト、募集してるんですよね?応募したいんですが!」
リュウとユズキはお互い顔を見合わせた。
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