第7話 ヒーローになりたい・2
「今回ダイブするのはズーポックスってゲーム。よくあるFPS(一人称視点のシューティングゲーム)タイプを発展させたものだね」
リュウとユズキが
パソコン画面には今から向かう仮想世界のプレイ映像やゲームの特徴などが映し出される。銃などの色んな武器で戦う戦士達、車で移動する者や街で装備を買う者など様々だ。FPSタイプとは言ったものの、フルダイブ仕様に合わせてだいぶ自由度が高くなっているように見える。
「で、依頼内容は?急ぎって事は相当ヤバそうだけど」
先に準備を終えたリュウがセイラの隣で画面を凝視。ユズキはまだ準備中なようで、リュウの二つ隣のベッドで自身のV gazerとノートパソコンをケーブルで繋いでいた。メタリックブルーが光る、彼が愛用している物だ。
「簡単に言うと殺人事件の捜査。犯人がこのゲームの中に潜んでるらしい、って」
「!、おいおい。予想以上にキナ臭いな。警察の管轄じゃねぇのそれ?」
「
思ったより大きそうな事件の規模にリュウは目を見開き、ユズキも思わず振り返る。セイラがキーボードを叩き更なる詳細を映し出す。ゲームの情報が映っている大きなディスプレイの左右に一回り小さいサブディスプレイがあり、資料や事件の詳細はそちらに載った。
「そもそもこのゲーム、他のゲームに比べて民度が結構低いみたい。よくユーザー同士の小競り合いが絶えなくてその度に運営も手を焼いてたっぽいよ」
セイラがサブディスプレイに映していた情報をメインディスプレイに移動し、見やすくさせながら続けた。
「事の発端は三日前。あるグループがチーム戦の時に立ち回り方で揉めたらしくて。当初はゲーム内での口論程度だったんだけど、ヒートアップしてバトルに発展。それに負けた方がキルした側に殺害予告をして…」
「実際に殺した、って訳か」
リュウの発言にセイラが首を横に振る。
「被害者が殺された時間帯、殺害予告をした人はバイト中だったの。他のメンバーもゲーム中だったりでアリバイが取れてる」
画面に被害者とその者が所属していたチームメンバーの情報が映る。人数は3人、アバターの見た目やら
「つまり誰かがバトルに負けたやつの代わりに殺した、って訳ですね。しかもそのチームの事情を知ってる誰か」
いつの間にか準備を終えたのかユズキも隣に立っていた。確かに状況から見れば犯人はチームの関係者という事になる。
「
「なるほど理解。そうと決まったらいきますか!」
リュウは手を前に伸ばし準備万端といった様子。ベッドでV gazerを装着し横たわる。ユズキもまたノートパソコンと接続したそれを被り横になった。
『バイタル安定。仮想世界へのダイブシークエンス開始』
電子音と共にパソコンの画面にGCSOのロゴが出現し、バーチャルダイブ時への専用操作画面が現れる。一見RPGのステータス画面のようだが、サブディスプレイにリュウとユズキの健康状態が映し出されリアルタイムの状況を伝える。
一方リュウとユズキの被るV gazerはフェイス部分が発光し、こちらにもGCSOのロゴが出現。英文でダイブ先への情報が羅列され、終わる頃にはリュウとユズキは目を閉じていた。仮想世界へのダイブが始まった合図だ。
「行ってらっしゃい」
そんな二人を見送り、セイラはパソコン画面に注視した。
真っ暗な空間に0と1の数字が流れる。その流れに逆らうように落ちていくリュウとユズキ。淡い数字の光に照らされながらリアルの見た目が徐々にバーチャルでのアバターへと変化していく。
完全に姿を変える頃に底から穴が開き光が差す。ダイブ先への道が開いた証だ。二人はそのまま光へと落ちていった。
ズーポックスのゲームフィールド内…人手がまるで見当たらない荒野に数字で構成された円形の陣が現れ、その中からリュウとユズキが降り立った。リュウは茶色のコート姿に赤の基本形態。一方ユズキは七分丈のシャツにズボン、そして同じ丈の上着を羽織ったカジュアルな服装だ。だが青を基調とした服に白や黄色のラインが入っており、リアルで着れば浮きそうな柄なあたりゲーム内のアバターと言った所。髪も青い外はねになっており、瞳の色も黄色く染まっていた。さらに腰のベルトのホルダーには
『今回は柚樹がそっち行ってるけど、状況開示はどうする?』
リュウとユズキが付けているインカムからセイラの声が届く。
普段はユズキがサポートの役割を担うのだが、今回はダイブする側に回っているのでセイラが代わりに請け負っている。現実でのパソコン画面はリュウとユズキを三人称視点で映しており、それこそゲームを見ているかのよう。もちろん遊びではないので画面を見つめるセイラの表情は真面目そのものだが。
「お願いします。別に俺がやらなきゃいけない訳じゃないし」
『わかった』
ユズキの返答を聞いたセイラがキーボードを操作し、ゲームのマップや現在接続しているプレイヤーの人数などを転送する。リュウとユズキの視界の端にそれらが現れ、現在の状況を的確に把握させる仕組みだ。
「にしてもなんやかんや来てくれるんだから、柚樹君優しいね~。おじさん感激だわ」
「どうせ断ったって連れ込むくせに。つかアバター名はユレンジだって何回言えば分かるんすか」
情報を一旦閉じ、露わになったユズキ側の名前欄にはYurangeの英文字が。バーチャルはアバター名で通すのが基本だが、リュウは笑いながらユズキの肩に手を回した。まるで従う気配がない。
「いいじゃん別に。俺、お前の名前好きだし。今回も頼りにしてるぜ」
「明らかに嘘くさいんですけど。つか答えになってませんって」
ユズキはため息と共に肩に回されていた手を払いのける。今まで同じようなやり取りを何度もしてきたのか、口調も半ば諦めたかのように感情がこもっていない。
「ま、とりあえずお仕事開始だな。ついでにバイトも探さないとだし」
「マジでやるんすね」
「当たり前だろ。何のためにお前を連れて来たと思ってんだよ」
「本音が出ましたね…」
荒野の先には遠目にも高いと分かるビル群が覗く。街がある証拠だ。二人は軽く話しながら歩き始めた。
…少し離れた岩に隠れた一つの影がこちらを見ていた事に気づかないまま。
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