第6話 ヒーローになりたい・1
`Thrusting blast`青い画面に表示された英文字…必殺技のコマンドをタッチし、リュウは左手に持っていた槍の先端に水流の塊をまとわせる。
「なんだありゃあ!?」
「知るか!やっちまえ!」
リュウと相対していた男達は身構える者や向かって来る者それぞれ。
だが後の反応は決まっていた。瞬間移動の内に水の槍に貫かれ、腹や胸から光のヒビを発生させた後に爆散。そんな光景を背にリュウは元の状態に戻った槍を地面に突き立てる。
「う、うわあぁぁぁぁぁ!!!」
叫び声で振り返ると一人取りこぼしたのか、遠い位置で恐怖に怯えている者が。
リュウは槍を構え直し急いで向かうのだが、たどり着くよりも早くそいつはログアウトを済ませ消えてしまった。立ち止まったリュウは唇を尖らせ槍をその場に槍を突き刺す。
「やべ、また取り逃した。柚樹」
『今追ってます。とりあえずいったん戻って来たらどうです?』
インカムから聞こえるユズキからの提案に反対する理由もないので、リュウも画面を操作しログアウトの項目をタッチ。すると足元から青い数字で構成された円形の陣が現れ徐々に上に登っていく。それに合わせるようにリュウの身体が光のつぶとなって消えた。
リュウはV gazerを外しベッドから起き上がる。見慣れた自身の部屋。そばにある大型パソコンの席にユズキが、隣のベッドにはセラがそれぞれ腰かけていた。
「やっぱソロだと限界あるなー。性能差があっても人数差まではどうしようもねぇ」
「まあ残りの奴もすぐ追えますし大丈夫でしょ」
「あのな、そのすぐの間に逃げられたら面倒だろ。やっぱ誰か手伝ってくれないかな~。ちらっちらっ」
軽いため息の後にリュウはユズキの方を見るが、視線を向けられた本人は笑顔でエアタイピングの仕草。
「俺にはこれがあるんで」
表情とは裏腹にきっぱりと否定。だがリュウは納得がいかないようで。
「それ
「あ、ソフトウェアのアップデート確認しないと」
「うわ出たよ」
手を合わせて頼み込むがユズキはパソコンをイジリ始めた。もはやリュウを見てすらいない。リュウは歯を思いっきりむき出しながら煽るような表情で返した。それも見られてないが。
「やっぱり私が出ようか?」
割って入ったセイラの発言にリュウは表情を戻し苦笑い。
「いやいや。お前はあくまで‘切り札’なんだから。簡単には出せねぇよ」
「だよね…ならさ」
反対されるのを分かっていたのかセイラは素直に従い、人差し指を立て少し前のめりになる。
「バイト、雇ってみたら?」
「バイト?このチームに?」
予想外の返答にリュウは目を見開き、セイラは頷いた。
「別に珍しい事じゃないって聞いたよ。実際に雇ってるチームもあるんだよね?」
「いやまあそうだけど…う~ん」
発足してまだ日の浅い組織であるGCSOだが、そう言った所はしっかりしており雇用形態も様々だ。人手がまだまだ必要な分野なため、バイトを雇っていれば外部の関連企業とも提携している。
実際全国にそこそこあるチームは正式な仮定員だけで固めている所もあれば、バイトやパートで人員をまかなっている所もあるが…リュウ自身人手を増やそうという考えがなかったのか、腕を組み悩み始めた。
「3人じゃ色々と限界だと思うよ。私的には欲しいと思うな」
「…そうだな。ちょっと支所に聞いてみるか」
セイラの推しに意を決したのかリュウはスマホを取り出し電話を始める。その間にユズキのいじっていたパソコンからポロンという音が。画面にはメール受信の通知が現れていた。
「仕事の依頼ですね。どれどれ…おお、今回も香ばしいですよ」
「せっかくだし、たまには柚樹もダイブしたら?」
「え~。いいですよ俺は」
「いやこの感じは連れて行かれそうだよ」
セイラとユズキは依頼内容を見ながら会話を広げる。急なセイラからの提案だったがユズキはそれも拒否。
だが提案するにはそれなりの理由がある。リュウの電話応対が見るからに好感触だったからだ。実際通話を終えたリュウはずいぶんとご機嫌そうだ。
「バイトの件、あっさりOKになったわ。それから今入った依頼を早急にこなしてくれってさ。さっき取り逃した奴は別のチームが引き継いでくれるらしい。という訳で…」
部屋の壁掛け時計はまだ昼前を指しており、仕事を続けるには充分な時間がある。セイラの予感が的中したのか、リュウの怪しい笑みはユズキをじっと見ていた。
「…嫌ですよ」
「仕事ついでにバイトの募集もしなきゃだしな。悪いね~手伝ってもらっちゃって。聖羅、今回はサポート頼むわ」
「わかった」
「だから嫌って言ってるのに~~~!!」
ユズキの言葉など誰も耳を傾けていない。リュウは抵抗するユズキの首をひじで挟んでズルズルと引きずり、空いた席には代わりにセイラが座りインカムを装着した。
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