第4話 仮初の守護者・4
「や、やめうわああああああ!!!」
街はずれ…レンガ造りの倉庫などが立ち並ぶ平原にて、かつてリュウが取り逃がしたリーダー格の男に一般プレイヤーがキルされる。大剣で斬り裂かれたプレイヤーは光の粒子となりその場から消え、周りにアイテムやお金を落とした。男は満足した表情でそれらに手を付けようとするが…
「ああ!またプレイヤー狩りしてる!いけないんだ~!!!」
大声で呼ばれ振り向くとヒトとフタが。かなり離れた位置で指を指していた。
「てめぇらは…!」
「また懲りずに小物臭い事してたんですね~?」
「んだと!?!?」
叫んだヒトに続きフタがニヤケながら煽る。男は物凄い形相でブチ切れ大剣を抜く。一瞬で怒りを露わにする辺り沸点がもの凄く低そうなのが見てとれた。
「前は妙な邪魔が入ったが、今日こそは仕留めてやる!!!」
「きゃあ~~~っ!!!」
男がズシンズシンと歩いて距離を詰める中ヒトとフタは手を重ね合わせながら悲鳴を上げる。だがその表情は恐怖どころかこの状況を楽しむかのように笑っている。
まるで自分たちの思い通りになったとでも言いたげに…当然だ。むしろこうなる事を狙っていたのだから。
二人に到達しようとした男の横に数字の0と1で象られたような円形の陣が出現する。魔法陣のような輪っかの中からはバイクに乗ったリュウが飛び出し、そのまま男を轢く。男は吹っ飛び地面を勢いよく転がった。
「現行犯の証拠はバッチリ抑えた、と…ありがとなお二人さん。後は任せな」
リュウがバイクから降りながらヒトとフタに微笑む。二人は同時に頷き近くの岩陰に隠れた。
「て、てめぇはこの間の…一体何者なんだ!」
「はぁ、マジか…みんなして俺らの事調べてないじゃん。あれから数日あったのに誰も興味なしか。やっぱマジで認知に力入れないとな」
そういえばリュウに説明されるまでGCSOの事はろくに調べなかった…ヒトとフタにも心当たりがあり、お互い顔を見合わせて苦笑い。一方男はタイヤ跡が思いっきり付いた頬を抑えながら立ち上がる。
「てめぇ!なんの権限で俺の邪魔をすんだ!!!」
「政府の権限だよ。前に言ったろ?仮想電脳法違反でお前の身柄を拘束するって」
「ありもしない法律でっち上げやがって!いいぜ…今回は装備も整えてる。ぶっ殺してやるよ!!!」
「一応お前らのような奴を裁くために新しく出来た法律なんですがね…まあいいや。今度は逃がさない」
リュウは両手にそれぞれのホルスターから武器を取り右手の方はそのまま銃に、左手の方は剣に変形させ走りだす。右手の銃を連射するが男は大剣でそれを防ぐ。
お互い距離が詰まった所でリュウが先に切り込む。左手の剣を振るが男はそれを受け止め力任せに押し出す。その勢いを利用してリュウは後ろに飛びながら銃を乱射。全弾命中し男は火花を散らしながら後ずさった。
「野郎…これでどうだ!」
男は半透明のディスプレイを出現させ操作。すると男の背後に円形の魔法陣が出現し、そこから光弾を放つ。変則的に動きながらそれらはリュウに向かって行くが、リュウはすんでの所でそれらをかわす。光弾が地面に着弾した箇所からは粉塵が舞い、辺りは砂煙に包まれた。
「そんなのもあるのか。さすがチーター」
このゲームでは今の技は強力なのかもしれないが、リュウは笑みを崩さない。男の方を見ながらこちらもディスプレイをブラインド操作。赤い画面の中に青、緑、黄色の項目が一つずつ現れる。その中の青い項目をタッチすると画面の色が青色に変わり、ディスプレイ自体がそのまま円形の陣に変わった。
こちらも0と1で象られており、自身の体より一回り大きいそれは前方からゆっくりとリュウを通過し…先からリュウの姿を変化させたのだ。
コートが半袖になり、青い袖の先からはこれまた青色になったインナーがひじの先辺りまでのぞく。インナー自体も首元が鎖骨の見えるまで開いた物になり、全体的に身軽な印象を与える。その他靴など赤かった箇所は全て青色に変化し、最後に青く変化した瞳が一瞬発光。
煙が晴れる中現れたその姿に一同は驚愕。姿が変わったのもそうだが、何より持っていた武器が違っていたのだ。両手に持っていた銃と剣は消え、腰のホルスターも無くなっている。代わりに左手に槍を握っていた。リュウの身長と同じくらいのそれは柄に龍を模したような装飾が施されており、先端に手のひら二つ分くらいの水色の刃が煌めいている。
「でもこっちもチートだ。政府公認のな」
「な、なんじゃそりゃあ!?くそっ!」
男はたじろぐも再び光弾を発射。リュウはまたかわすが先程と動きが大きく違っていた。その動きは回避というより瞬間移動だった。右に左に瞬時に体の位置が変わる。先程よりも余裕を持って粉塵の山を抜け、リュウは槍を構えて突撃する。
走り出した後にフッ、と姿が消える。否、瞬間移動か。リュウは既に男の背後に回っており、男は腰を斬られていた。男は”あぁ!?”と叫びながら振り向くが既にリュウは再び男の背後。今度は足を斬り付けていた。男が反応するよりも早くリュウは男の周りを移動。縦横無尽に動く度に男はあらゆる箇所を斬り付けられ、のけ反った。
「ぐっ、くっ、くそがあああ!!!」
リュウに斬られながらも男は何とか大剣をかかげ、地面に勢いよく突き刺す。すると男の周りに地割れが発生し、衝撃派が波のように発生した。広範囲への波状攻撃はさすがに避けようがなかったのか、リュウは槍を前方に構えて防御。
「なめんじゃねぇぞくそが!」
男は再び地面に大剣を突き刺し、今度はリュウに向けるようにえぐる。するとえぐれた地面の一部が石つぶてになり、まるで散弾のように飛んで来る…がリュウは余裕を持って回避する。
「そうくるなら、こっちでいくか」
リュウはまたまたディスプレイを操作し、先程と同じ要領で今度は黄色の項目をタッチ。するとさっきと同じ円形陣が出現するが今度の色は黄色だ。
それをくぐらせるとリュウの姿が再び変わり、青い箇所が黄色に変化した。コートが長袖に戻り、インナーは黄色の厚手のフリースに変わる。長めの襟が首を半分まで覆っていたり、その他黄色の靴がブーツになっていたりと、青の時とは真逆で重厚な雰囲気をかもし出している。
そして武器もまた変わっており、左手に握る槍は斧に変化していた。太めの柄には槍の時と同じ龍の装飾。そして大きな刃が黄金に輝く。
リュウは斧を地面に接触させながらゆっくりと歩き始めた。引きずられた斧がズルズルと音をたてながら地面に跡を残していく。
「姿が変わったからなんだ!喰らいやがれ!」
男は再び地面をえぐり石つぶてを発射。それらは一直線にリュウに向かって行くが、リュウは避ける素振りすら見せず真っすぐ向かって来る。
いや、避ける必要がなかったのか。石つぶては次々にリュウに当たるのだが、まるで金属にでもぶつかったかのように鈍い音をたてて跳ね返ったり砕けたりした。その間にもリュウは全くひるむ事なく歩き続ける。
「な…くそっ!くそっ!」
攻撃は確実に当たっているのに手ごたえがない…男は驚愕の表情を浮かべながら剣を振り続けるが、焦りにより視野が狭まったのかリュウが眼前に来るまで気付かなかった。
慌てて剣を構えるがもう遅い。リュウは斧を振り男から剣をはじき飛ばすとそのまま縦に一閃。男は大量の火花を吹き出しながら苦痛の叫びを上げる。
倒れこむ男を見据えながらリュウは赤色に形態を戻した。男はかなりボロボロになっていたのだが…
「ふざけやがってこのインチキ野郎!そんなチートあっていいと思ってんのか!!!」
まだ立ち上がり武器も持たないまま向かって来る。顔は怒りと傷でグチャグチャになっており、獣のように走ってくる様はもはや知性のかけらもない。
「お前が言うなよ」
一方リュウは冷静さを崩さず男をかわすようにジャンプをし、空中で二対の銃を抜き連射。男は火花を散らし、もはや叫びすら上げない。リュウは着地と同時に男の方を向きながら武器を左右に放り投げた。
「さて、そろそろおしまいにしますか」
赤に戻ったディスプレイを今までとは違う手順で操作し『Critical kick blast "burning"』の項目をタッチする。するとディスプレイが大きな火球に変化しリュウの左足を覆う。
左足首から先を炎の塊に変えたリュウは少し中腰になった後に走り、途中でジャンプ。そのまま空中で体を一回転させながら右腕と右足を曲げ、左腕と左足はピンと張る…いわゆるキックの体勢を取った。
「はあああああっ!!!!!」
左足の炎を大きく突き出し、リュウは男を見据えながらそのまま一直線。ダメージの溜まり過ぎた男はその光景をうろたえながら見るしか出来ず、キックを真正面から喰らった。
勢いが付いていたリュウの体は男をそのまま貫き、男の胴体に大きな光の穴を開け、勢いのまま少し地面を滑りながら着地した。
「ぐわあああああああっっっ!!!!!」
一方男は今までで一番のおたけびを上げ、身体中にヒビが入った後爆散した。半径数mに爆発が広がり、轟音が辺りに響く。
「ふぅ」
爆発跡には小さな火がいくらかくすぶっており、振り向いたリュウはそれを見ながら軽く息を吐いた。
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