第2話 仮初の守護者・2

 聞き慣れない単語を放った男の風貌は一言で言うと異質だった。

 見た目は二十台後半くらいか。左右に少し流れるようにセットしてある茶色のミディアムショートに赤い瞳。茶色のロングコートは腰部分で赤いベルトによって固定されており、インナーには赤いシャツが見える。ズボンは焦げ茶色で靴は真っ赤。コートやズボンの裾も赤く映えており、その他所々に赤いラインも走っている。全体的に赤と茶色のツートンカラーでまとまっていた。

 腰のベルトからぶら下がる左右のホルスターには大きめの銃と思われるグリップの部分が見えている。そして何より異質なのが男の乗っていたバイク。中型の車体はフロント部分が口を開けた龍のような形になっており、そのままリア部分まで龍の体のようなデザインになっている。全体的に濃い紫色で瞳の部分は暗めの赤。男の服装もそうだが、このゲームは中世ファンタジー風テイストなのだ。とにかく浮いて見えた。


「な、なんだテメェは!」


 突然の出来事にヒトを斬ろうとした男はすっかりコートの男に注目していた。まあその場にいた全員がコート男を凝視してはいたが。


「だから言ったろ。仮想電脳法違反によりお前らの身柄を拘束するって。GCSOの者だよ」

「あ?じーしー…なんだって!?」


 コート男は全員に見えるように半透明のディスプレイを表示させる。水色の背景には何かのロゴだろうか…網状のラインが入った球体が出現し、それを囲むように'Government Cyber Stable Organization'と書かれた英文字が現れた。よく見るとコート男の左胸元に同じロゴを象ったワッペンがある。だがそれを見た全員の反応はこれと言ってピンときてない様子。


「うーん…まだまだ認知が足りてないか。一応活動を開始して三か月くらいにはなるんだけど。広報担当はちゃんと仕事してんのか?」


 コート男は軽く頭をかくが、訳の分からない状況に痺れを切らしたのかチーターグループのリーダー格…体格のいい男は立ち上がりコート男を指さした。


「めんどくせぇ!まずはテメェからだ!やっちまえ!!!」


 それを合図に取り巻きの男達が剣を取り出しながらコート男に迫る。コート男は軽く息を吐いた後やれやれと言った表情で


「まあこうなるか。仕方ない。お仕事開始だ」


 ゆっくりと歩きだした。



 コート男は左側のホルスターから銃を抜いた。一見大型のオートマチック型に見えるが、銀の表面にマスケット銃のような装飾が施されており…しかも銃口の下には薄い赤色の刃が覗く。銃剣のようにも見える、こちらも一風変わった物だ。

 左手に握ったままトリガーを引く。取り巻き全員に一発ずつ銃弾が命中し、それを受けた男達は火花を散らしながらのけぞる。チーターであるがゆえ装備の防御力は高そうに思えたが、普通に効いている。


 ヒトとフタは反射的に距離を取る。その間にもコート男の追撃に取り巻き達は苦痛の雄たけびを上げた。


「ぐわぁっ!くそっ、なんだよこいつ!」


 ひるまずに取り巻きの一人が剣を振るが、コート男は銃剣で受けとめると同時に取り巻きの腕を掴み、ゼロ距離射撃。5発程撃ち込まれた男は火花を散らしまくり吹っ飛ぶ。次に別の取り巻きの攻撃が迫るが、コート男は体を翻して回避。同時に回し蹴りを入れ、ロングコートの裾と取り巻きの体が舞う。

 更に3人目が向かってくる中コート男は右手で銃剣をおさえながらトリガーを逆方向に引く。するとグリップ部分が曲がり、銃口下の剣部分が大きく伸びた。銃型の武器があっと言う間に剣へと変形したのだ。取り巻きが振るよりも早くコート男は剣を振り、斬撃を受けた男は火花と共に倒れる。


「何やってんだてめぇら!くそが!!!」


 リーダー格の男は大剣を振りながら飛びかかるが、コート男はそれを避ける。更に下方向への一閃が来るが足を上げて回避。ジャンプし一旦距離を取る。


「おめぇら!後で合流だ。後は任せる」

「はい!」


 リーダー格の合図で取り巻き達はコート男を囲む。その間にリーダー格はディスプレイを操作しそのまま光と共に消えていった。ログアウトし逃げてしまったのだ。


「いやソッコー逃げるじゃん。仕方ない、こっちをさっさと片付けるか」


 取り巻き達がじりじりと迫る中コート男は武器を銃型に戻し手をかざす。それに合わせて赤色のディスプレイが出現し、少し操作すると'Shooting blast'の文字が。タッチするとディスプレイが炎の球体に変わり銃口にまとわり付いた。取り巻き達は少し驚いた素振りを見せるもコート男に同時に斬りかかる。だが…


 コート男は体を回転させながら銃撃。炎の球体がそのまま取り巻き達に飛んで行く。それを喰らった男達は体に光のヒビが入り、雄たけびを上げながら爆散した。


「ふぅ」


 コート男は軽く息を吐いた後武器をしまう。ヒトとフタは完全に呆気に取られていた。





「しもしも~?悪い。ザコは片付けたんだがリーダー格と思われる奴は逃がした。ああ。倒した奴らは今頃伸びてるだろうからいつも通り頼む。そいつらが吐くだろうけど念のためそっちでも追ってくれ。こっちは被害者がいたっぽいから話をしてから戻る。ああ、よろしく」


 インカムだろうか、コート男の右耳に小型の通信端末のような物がかかっている。右手を添える事で通信をオンにしているようだ。インカムの先端が点滅する度に誰かの話し声がかすかに漏れる。少し話をした後コート男は二人に歩み寄った。ヒトとフタは状況が理解出来ていないのか口をポカンと開けっ放しだ。


「大丈夫か?さっきの奴らから何か被害を受けたりした?」

「い、いえ…」

「そっか。あ、俺はリュウ。さっきも言ったけどGCSOの構成員だ。ちょっと話したいんだけど、時間あったりする?」


 コート男…リュウは二人にディスプレイを見せる。薄い赤を基調とした画面には名前の欄にRyuと書かれており、現在のアバターの顔写真やら先ほどの見慣れないロゴやらが映っていた。


「はい、いいですけど…」

「助かる。でもここで話すのはなんだから出来れば現実リアルでやり取りしたい。差支えがなければ連絡先を教えてもらっていいか?ゲーム内チャットアドレスID(ディスコード)でもいいんだけど。あ、言っとくけどすぐに直接会うとかじゃないから安心してな」

「分かりました。えっと…」


 気を遣っているのかリュウは割と譲歩した聞き方をするが、とりあえず話をしないと始まらない。お互いに連絡先を交換し、ひとまずログアウトした。

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