第13話 嫉妬と気にしない彼女

 僕らの通う、私立星成高校せいせいこうこうの治安はすこぶる良い。

 たまにイジメがあったり、ボッチな奴はもちろんどうしても出てしまう。

 ただ、世間の高校にはあるらしいスクールカーストみたいな息苦しさはない。

 もちろん、皆仲良しこよしではない。棲み分けがきっちりしているのだ。

 趣味があう奴ら、気の合う奴ら、などで緩いグループが出来ている感じ。

 カーストがピラミッドだとするならば。

 うちは、平らな水面に島がいくつかあるといったところだ。


 とはいえ、鬱屈のたまる奴はいるらしく、学校裏サイトなんてものはある。

 治安がいいので、主に教師やテスト問題、学校行事の愚痴が主だけど。

 しかし、今日はその裏サイトに聞き捨てならない言葉が書かれていた。


『Aクラの「聖女様」が、男と付き合い始めたんだってな』

『おいおい、キリスト教信者なのに、男と付き合っていいのかよ?』

『神様に奉仕する代わりに、男に奉仕しますってか』

『博愛主義者ですって顔をして、とんだビッチも居たもんだな』

『付き合ってる男ってどんな奴なんだ?』

『やたら科学大好きなH・H君。どんな接点があったものやら』

『H・H君に説得されて、信者止めたんでね?ほんと羨ましいこって』

『あの大きなおっぱいで、奉仕されたりしてるんだろうなー』

『美人を鼻にかけて、男ども振ってきたくせによ。よーやるわ』


 などなど。その書き込みを見た瞬間、僕は腸が煮えくり返る想いだった。

 文面を見ると、多数の中傷ではないだろう。約1名嫉妬に狂った男。

 「ビッチ」や「キリスト教信者なのに」辺りにそんな匂いがする。

 「男ども振ってきた」は、雪ちゃんの人気に嫉妬してた女子辺りか。

 それに下ネタ好きな奴や色恋好きな奴が乗っかったというところだろう。


「ぶちのめしてやりたい……」


 それが正直な感想だった。下ネタ言ってる奴くらいはいいとして。

 ビッチ扱いしてる奴とか、美人を鼻にかけてとか言ってる奴らを。


「ねえ、勇斗ゆうと。ちょっと相談があるんだけど」

「なんかやけに難しい顔してるな。なんだよ」

「これ、ちょっと見て?」


 勇斗は学校裏サイトを管理している人間の一人だ。

 あまりに目に余る書き込みは削除したりしている。


「これまたひどいな……おおかた、嫉妬に狂った少数の仕業だろうけどよ」

「僕もそう思う。クリスチャンが男作っちゃいけないとか、色々間違ってるけど」

「それはいいとして、削除しとくか?風間にはあんまり見せたいもんじゃねーだろ」

「削除はいいんだけど、書き込んだ奴をぶちのめしたい」


 こういう中傷の類はとりわけ僕は大嫌いだ。

 しかも、彼女のことをよく知りもせず……と怒りが湧いてくる。


「お前、こういう時、やたら武闘派になるよな。まあ、気持ちはわかるけどよ」

「腕力に訴えるのは最後の手段だけどね。書き込んだ奴のIPアドレスはわかる?」

「ちょい待ってろ……。ほら、こんな感じだ」


 裏サイト管理画面を見せてくれる。

 予想通り、ビッチだの何だの言ってたのは同一人物。

 意外なのは、「科学大好きな」と「男ども振ってきて」も同じ人物ということだ。

 要は大半が一人による自作自演で、後は興味本位で乗った奴ということ。


「自作自演してる一人って特定できないかな?勇斗」

「といっても、IPアドレスだけだと、「誰」はわかっても、それ以上は……」


 まあ、そうだよね。IPアドレスだけだと、同じ端末だろうって事はわかっても、

 それ以上は難しい。


「端末情報は?原理的に、記録出来るはずだけど」

「お前、とことんやる気だな。んー……UA見る限り、XPeriaの最新機種っぽいが」

「XPeriaの最新機種ね……検討がついた気がするよ」

「そこを覚えてる辺り、やっぱ、お前色々すげーというかやばいよ」

「まあ、そこは生まれつきだしね」


 とはいえ、犯人の検討はついた。こないだ、

 XPeriaの最新機種を自慢してた子がクラスに居た。

 「風間さんって綺麗だよね」と言ってたことも確かあったはず。

 温厚で明るい子という印象だったけど、人の内心とはわからないものだ。


「光君も、勇斗君もどうしたの?難しい顔をして」


 どうしてやろうかなと暗い炎を燃やしていたところに、雪ちゃんが出現。


「あ、学校の裏サイト?あんな趣味悪い場所見ると、ソウルジェムが濁るだけだよ」

「ソウルジェムってね……。雪ちゃんもあのアニメ見てたんだ」


 唐突に魔法少女アニメネタをぶち込んでくる雪ちゃんには苦笑いだ。


「ストーリーもよく出来てたしね。それはそうと……って、あー」

「どうしたの、雪ちゃん?」

「だから、光君が怒ってたんだなって納得したの」

「もう見たんだ。早いね」

「操作の早さには自信があるから」


 まあ、見られたものは仕方ないか。

 問題は彼女がどう思うか……だけど、意外にも平気そうな顔だ。

 いや、普段の彼女を思えば当然なのか?


「その割には、なんか平気そうな顔をしてるね?」

「こんな中傷、気にしても仕方ないって。気にするだけ時間の損」


 自分の事だというのに、なんとも割り切った言葉だ。

 しかし、それは非常に彼女らしいのだけど。


「僕の怒りが全然収まらないんだけど」

「私は、光君が怒ってくれるだけで十分。こんなどうでもいいの、放置しよ?」

「まあ、雪ちゃんが気にしないなら。勇斗、削除だけ頼めるか?」

「ああ、それくらいならお安い御用だ」


 と、書き込みの削除で一応の決着はついたのだけど。

 僕のイライラが収まらない。遠くの彼女を見ると授業に淡々と向き合っている。

 僕だけが怒ってるのなら、言っても仕方ないか……。


 放課後、せっかく彼女になって初登校だし、連れ立って帰ろうとしたのだけど。

 「ごめん、今日、家の用事があって。じゃ、また明日」

 とそそくさと去ってしまった。


(なんか違和感があるな)


 違和感が気になって、彼女がよく黙想をしていた空き教室に足を運ぶ。

 もし、想像通りなら……って居た。


 そこでは、彼女が、よく見るように、目を閉じて黙想をしていたのだった。

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