第6話 初デート(2)

「え?」


 クリスマスのプレゼント?それは、予想もしていなかったことだった。


「ここの予約だけじゃなくて、プレゼントまで……。嬉しいんだけど、告白がおじゃんになってたら、ほんとどうするつもりだったの?」


 初デートでこんな疑問を言うのは空気が読めてないかもしれない。しかし、それこそ、1日で準備出来るものじゃないだろう。告白が失敗して気まずい次の日にプレゼントとか、難しいだろうし。


「その時はその時!私はそっちに賭けたの!」


 そうきっぱりと言う雪ちゃん。


ゆきちゃんは、随分ギャンブラーなんだね」


 仮に勝率が高いと見込んだとしても、人の心なんてわからないもの。そう思って軽口を叩いたのだけど、


「ちっちっち。ひかる君はわかってないなー」


 雪ちゃんは何やらドヤ顔をしている。


「十分わかってるつもりだけど」

「もし、私が光君に振られて、一人寂しく、渡す宛のなくなったプレゼントを抱えていたとして……それも含めて人生じゃない?」


 その言葉に僕は衝撃を受けていた。振られたその先にも人生はあるんだ、と簡単に言ってしまえる彼女の心の強さに。


「確かにもっともだけど……そこまで覚悟完了している人は多くないと思うよ」

「その辺は色々あるんだけど……。とりあえず、プレゼント、受け取ってくれる?」


 そう言って差し出した袋を開けると、中には赤茶色のマフラー。


「これ、暖かそうだね。どこかのお店で買ったの?」


 それにしては、包装がいい加減だけど……。


「て、あれ?ひょっとして……手編み?」

「正解ー。光君のために、1ヶ月前から編み続けてきました♪」


 てへ、と照れ笑いをする雪ちゃんだけど、ある意味恐ろしい。本当に、告白が成功する方に全額賭けたんだな、と。そして、それだけの熱量を僕にぶつけてくれたのだと思うと、胸が熱くなるのを感じる。


 クリスマスの1ヶ月前から、僕の前では何気ない感じで振る舞いながら、こつこつと帰ってからマフラーを編んでたんだろう。


「そういえば、雪ちゃんって手芸が得意だったんだね」

「そうだね。弟の服のボタンを縫ってあげたりとか、よくしてるよ」

「なるほど。そういう背景が……」


 しかし、プレゼントは嬉しいけど、少し心が重くなる。


「僕の方がお返し出来なくて……ごめん」

「いいの、いいの!私が勝手に突っ走っただけだから」

「でも、恋人にクリスマスプレゼントの一つも考えられなかったのは……」


 どことなく、きまりが悪いと感じてしまう。


「いいから、そういうことで悩まないで?今日は楽しいデートなんだし」

「……そうだね。今度、何かお返しを考えておくよ」

「光君。なにげに執念深い?」

「雪ちゃんには負けると思うよ」


 そう言い合って、なんとなくお互いに可笑しくなる。甘酸っぱいはずのデートだけど、少し気が抜けてしまった。


「そういえば、クリスチャン的には、恋人にクリスマスプレゼントはどうなの?」


 ふと思った疑問。クリスマスは、キリスト教の信者にとっては、ある意味神聖な記念日でもある。もちろん、クリスチャン(仮)な彼女にしてみればどうでもいいことだろうけど、ふと、聞いてみたくなった。


「恋人に……というのはあんまりないけど、家族や友達同士だと普通にあるよ?」

「へえ。聖なる日を、そんなイベントにするな!とかは無いんだ」

「元々、クリスマスパーティー自体は日本オリジナルじゃないから」

「ああ、そういえば、そうだったっけ」

「カップルでクリスマスを祝うっていうのは、日本独特だけどね」

「年末年始をカップルで祝ってたら、ちょっと妙なのと同じ?」

「そうそう。それに近いかも!」


 なるほど。納得だ。もちろん、年末年始をカップルで過ごす人もいるだろうけど、普通は、家族と、あるいは実家で過ごす日だという人が多いだろう。


「それで、後はどこか行きたいところ、あるの?」


 一通り食事を終えた今の時間は14:30頃。雪ちゃんの家の門限を考えると、行けたとしても、一箇所くらいが限度だ。


「あのね。京都だと、定番過ぎる、定番すぎる、場所なんだけど……」


 どことなく言いづらそうな彼女。


「ひょっとして……」


 ここ、京都市内における、ある意味定番と認知されているデートスポット。


「「鴨川かもがわ」だったりする?」


 お互いに揃って言い合ったのだった。

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