第48話 半年後
あれから半年たった。
もう、秋。
「こんにちわ、婦警さん」
「あ、こんにちわ香織さん」
交差点によく来る榊 怜子は、色んな人から声をかけられるようになっていた。
怜子のことを交差点の天使として取材したいなどという申し出が署に届いたと聞いた。もちろん、怜子は即座に断った。
交差点の天使は別にいる・・・
「すっかり、交差点も変わったねぇ」
「そうですね・・・
純子ちゃんは、部活に入って忙しくなって来れなくなったそうですし・・
耕助くんは就職活動だそうですよ。
ああ・・それから、松下奈美は結婚することになったって聞きましたよ」
みんな、それぞれの事情。
悲しいことがあったわけじゃない。むしろ喜ばしいことのほうが多いと思う。
だけど・・・
寂しいと思う私の気持ちは、わがままだろうか?
「まぁ、しょうが無い。ここは交差点だからね」
「え?」
「交差点は、立ち止まるところじゃないだろ。通過していくところなんだ。だから、みんな通過していく。そりゃあ、寂しいと思うかもしれないけれどね」
香織さんは、そう言って自分の店の方に戻っていった。
私も交番に向かって歩いていく。
その途中。振り返った。
ほんの半年前まで。
あの交差点には、ヒロくんがいた。
そしてその隣にはスケッチをする少女。山崎純子ちゃん。
耕助くんがヒロくんにジュースを持ってくる。時々、山崎美智子さんも一緒だ。
松下奈美がヒロくんに絡んでいく。
立花恭兵がやってきて面倒事を持ってくる。
他にも、ヒロくんに会いに色んな人がやってきていた。
賑わっていた交差点。
だけれども、今は誰もいない。
小さくため息を付いて、交番へ向かう横断歩道を渡る。
「ヒロ君ヒロ君。そういうの良くないと思うの!」
横断歩道の人混みの中で、声が聞こえた。
驚いて振り向く。
そこには、180cmくらいの背の高い男子高校生とポニーテールの女子高生が歩いていく。カップルのようだ。
「先生へのプレゼントなんだから!ちゃんといろいろ見て決めないと!」
「わかったよ。ほかの店も見に行こうか」
話しながら歩いていく。
ヒロとは明らかに違う体格。
ちょっと、気にしすぎね。
怜子は苦笑して、背を向け横断歩道を渡った。
榊 怜子は気づいていなかった。
その背の高い少年。前髪の奥に隠れた瞳の色が鳶色だったことに。
そして、その少年が振り向いて怜子に小さく微笑んだことに。
「どうしたのヒロくん、行きましょ」
「あぁ、わかったよ洋子さん」
今日もその交差点にはたくさんの人が行き交っている。
どこかで、キシシという笑い声が聞こえた。
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