第47話 6月の交差点

 6月になった。

 まだ梅雨にはなっていない。今日は晴れ間が見えている。

 でも、雨の予報であったため純子ちゃんは来ていないようだ。


 榊 怜子は交差点に来ていた。

 周りを見回す。少年がいないか見回す。癖になっていた。


 すると・・・


「お巡りさん・・」

 足元から声をかけられた。

 見ると、小さな女の子が足元で怜子を見上げていた。

「あの・・天使さん見ませんでしたか?・・」

 怜子は思い出した。

 この子は、時々ヒロ君のところに来ていた女の子。

 たしか、かりんちゃんと呼んでいた。

 怜子はしゃがみこんで、少女と目線を合わせた。

「ヒロ君はね、今はちょっと出かけているみたい」

「そうなの?」

「うん」

「じゃあ、また来るね」

 嬉しそうに、走っていく少女。

 怜子は知らない。

 以前、この少女は病気のために走ることなどできなかったことを。

 ヒロによって病気が完治した少女。

 彼女にとって、ヒロは天使なのだ。


 少女は母親と思われる女性のもとに走っていった。振り返って手を振る。

 怜子は立ち上がって、少女に手を振った。


----


 3日後。小雨が降っていた。

 交差点に来た怜子。

 今日も、交差点には純子ちゃんは来ていない。

 そして、いつも来ていた人たちも。


「お巡りさん。申し訳ないが聞いてもいいかな?」

 声を掛けられた。

 傘を差した老人。怜子には、見覚えがあった。

「あなたは・・・確か、渡辺会長?」

「はい。ここにいた少年は今はどこにいるかわかりませんか?」

「それが、1か月ほど見ていないんです。」

「そうですか・・・それは残念です。会ってお礼を言いたいんです」

「渡辺会長がお礼?」

「いまは隠居しました」

「あ・・そうだったんですか・・」

「まぁ病気で続けることがもともと無理があったんです。でも、あの少年のおかげで手術でき、まだまだ生きられそうです」

「それはよかったです」

「それに、息子夫婦とも仲直りできました。ぜひお礼を言いたかったんですが・・・」

「また会ったら伝えておきますね」

「ぜひ、お願いします」


 去っていく老人。



 怜子は思い出していた。

 かつて少年は怜子にこういった。

”誰かを助けるなんておこがましい”


 そんなことないよ。

 ヒロ君のおかげでたくさんの人が救われた。


 だから、ヒロ君。

 あなたに会いたい人がたくさんいる。

 今、あなたはどこにいるの?




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