第46話 1週間後

 次の週末。

 交差点では、山崎純子がスケッチをしていた。


「こんにちわ、純子ちゃん」

「こんにちわ」


 浮かない顔の純子に、榊 怜子が声をかけた。

 お互いが、お互いに聞きたかった。

 ”ヒロは来たか?”と。

 でも、二人とも・・・わかっていた。それぞれが言わないということは、会っていないということを。


 怜子は、スケッチをする純子の横でしばらく立って交差点を見ていた。

 これからは、できるだけ交差点にこよう。純子が一人だと、物騒である。


「もう・・・来ないのかな・・・」

 純子が小さくつぶやく。

「どうかしらね・・・」

 余計な期待を持たせるのも悪いと思い、あいまいに答えた。


「・・・せめて、さよならを言いたかったな・・・」

「そうね・・・」


 純子を見ると、涙を流していた。

 怜子は、やはり悲しい気持ちになった。


----


 夕方の交差点に、松下奈美がやって来た。

 そこには山田耕助が、ペットボトルの炭酸飲料を飲みながら立っていた。

「よう・・」

「こんにちわ・・・」

 二人とも、沈んだ声である。

「やっぱり、ヒロ君来てないんだ・・」

「多分な・・」


 空を見上げる奈美。

「ヒロ君にあいたいなぁ」

 誰とはなしに言ってみる。

「あんた・・・ヒロのこと好きだったんだろ」

 耕助が奈美に聞いた。


 奈美は耕助の方を向いて、にっこり笑った。


「もちろん、大好きよ」

 なにか吹っ切れたような笑顔だった。


----


 榊 怜子は、何度も交差点を通った。

 そのたびに少年はいないかと周りを見る。


 でも、その週末に少年が現れることはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る