第40話 防衛

「怜子さん、恭兵さんの事務所を荒らした人たちの手がかりはありそう?」

「それは分からないわ。鑑識の結果待ちね」

 少年は交差点で榊怜子と話している。立花恭兵の事務所は、警察によって調査中でなのだ。

「それで・・スケッチは見つかりそう?」

「今のところ見つかってないわ」

「そう・・持ち去られた可能性が高いね」

 少年は、スケッチを恭兵に渡したことを後悔していた。すぐ横で山崎純子は不安そうにしている。

 そこに、交差点を渡ってきた女性が声をかけてきた。

「純子・・・大丈夫?」

「おねいちゃん・・・」

 やって来たのは、少女の姉の山崎美智子だった。

 少年は、美智子にかいつまんで状況を説明した。

「怜子さん。この二人を警察でかくまうことって可能なの?」

「うーん、事件性が不明なので何とも言えないわ。しばらく交番にいることは可能だけど・・」

「そう・・」

「じゃあ、私たちは耕助の家に行くのはどうかしら。耕助は実家暮らしで家族が同居してるから安心だし」

「耕助さんの家?」

「耕助に聞かなきゃわからないけど、何度も行っているから大丈夫でしょう」

「それは心強いね」

 少年は、しばらくぶりにキシシと笑った。

「耕助さんのバイトはあと1時間くらいで終わるかな?」

「多分それくらいね。交差点にいるってメールしておくわ」


 しばらくして、山田耕助が交差点にやって来た。

 ずいぶん急いできたらしい。


「おいおい、メール見たけど大丈夫か?」

「今のところは大丈夫。来てくれて助かったよ」

「耕助・・それで、私たちを耕助の家で預かってほしいんだけど・・」

「それは全然大丈夫だけど。ヒロも来るのかい?」

「ううん、僕は大丈夫。怜子さん。耕助さんの家を一応聞いて、できれば重点的にパトロールしてもらえるとうれしいな」

「それくらいなら、だいじょうぶよ」


 耕助に案内されて2人の姉妹が、去っていく。


 ヒロは、安堵した表情で榊怜子に聞く。

「それで、恭兵さんへの依頼主って誰かわからないの?」

「それが、あの男。絶対に言わないって。まったく口を割らないの」

「ふうん・・それは困ったな・・」

「ヒロ君。本当に純子ちゃんは狙われているの?」

「狙われているのは他の人なんだけど、手がかりになりそうなのは他にないだろうからね」

「手がかり?スケッチのこと?」

「そう。それについて根掘り葉掘り聞きたい人がいるみたいだからね」


 ヒロは気が付いていた。

 ずっと交差点を観察している複数の視線。いくつかは耕助たちの方に移動している。

 しばらくは大丈夫だろうけど、長くほおっておくわけにもいかない。


「怜子さん、恭兵さんに伝言をお願いしてもらってもいい?」

「いいわよ、何かしら」

「明日の朝、一番にここに来てほしいって」

「わかったわ。それだけでいいの?」

「うん、お願いね」




 やがて、夜になった。

 ヒロは交差点の手すりから降りて歩き出す。

 路地を歩いていく。

 その先には、神社のある公園。

 もう、すっかり暗くなっている。


 公園の中を歩いていく少年に、後ろから声をかける人物がいた。

「おい、坊主。ちょっと聞きたいことがあるんだ」

 少年が振り向くと、そこにはガタイのいい2人の男が立っている。おそらくは堅気の仕事ではいないだろう風貌。

「すまんが、ちょっと一緒にきてくれないかな?」

 にやにやと笑いながら言う。脅しているつもりらしい。


 すると、少年はニッと笑った。

「僕も聞きたいことがあったんだよ。ちょうどよかった」


 男たちは、顔を見合わせた。

 思っていた反応と違う。


「さて、行こうか。あなたたちのアジトに行った方が周りに迷惑がかからなさそうだ」

 そう言って。少年は男たちの方に近づいていった。



 この日、男たちには不幸な夜となった。

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