第39話 錯綜

「じゃあ、警察では特にそんな話は聞いていないってことなんだ?」

 少年は交差点で婦警姿の榊 怜子と話をしている。

「ええ、少なくとも私くらいの交番勤務では時に何も聞いていないわね。もしかしたら別の部署だったらわかるかもしれないけれど」

 山崎純子の描いたスケッチを見せて聞いてみたが、交番では特に探し人の依頼は無いようであった。

「恭兵さんによると、複数の私立探偵にかなり額で依頼が出ているらしいんだよね」

「それって、何か事件っぽいわね」

 怜子は眉をひそめて言った。

「怜子さんもそう思う?」

「わかったわ、もうちょっと調べてみる。なにか胡散臭い話だからね」

「うん、お願いします」

 怜子が去っていくと、少女はヒロに聞いた。

「あとは警察に任せるの?」

「・・・そうだね」

 少女は思った。きっと、任せるつもりはないんだな・・と。



 その夜。

 とある東京郊外のアパート。

「お父さん、早くお風呂に入れちゃってよ」

「よーし、じゃあお風呂に入るぞ~」

「きゃっきゃ!」

 家族団らんの声。


 その表札を見る人物。

「ふうん・・」




 次の日の朝。

 立花恭兵が、交差点にやって来た。

「おいおい、聞いてくれよ。昨日さぁ、事務所荒らしにあっちゃったんだよ。朝、事務所に入ったら、しっちゃかめっちゃかになっててよ。もう大変だよ」


 少年は、そんな立花恭兵を睨みつけた。

「それがわかっていて、なんでここに来たんだよ」

 いつもとは違うただならぬ雰囲気に、山崎純子は驚いて少年を見る。

 立花恭兵は、ポカンとしている。

 チッ  

 舌打ちをする、少年。珍しくイラついている。

「ここに来たら、間違いなく目を付けられるじゃないか。僕はともかく、純子ちゃんまで巻き込むなんて。一体、何考えてるの?」

「え?」

「あきらかに、非合法な連中が絡んでいる案件だってわかるでしょ?そんなことに子供を巻き込まないでもらいたかったね」

 言っていることを理解したのか、立花恭兵はだんだんと顔が真っ青になっていく。

 ため息をつく少年。

「どうしてくれよう、この状況」

「ど・・・どうしたらいい?」

 大人が子供に聞く内容じゃないのだが・・・


「まず、交番に行って状況説明してきて。あと、できれば榊 怜子巡査にここに来てもらうように言ってもらえるかな?」

 立花恭兵に指示する少年。

「あ・・あぁ、わかった」

 恭兵は交番に向かって走っていった。


「純子ちゃん。できれば家族の人に電話して迎えに来てもらってもいいかな?」

 すると、少女は心細い声で言った。

「お父さんは出張で・・お母さんは旅行に行っちゃった。お姉ちゃんは家にいると思うけど・・・」

 目を見開く少年。

 つまり、家には姉と純子の2人だけらしい。

「それじゃ・・美智子さんに、ここに来てもらえるように連絡してもらえるかな?」

「うん・・」


 さて・・・

 考え込む少年。

 まずは、この子をどうやって守るか・・だな。



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