第33話 伊吹山に鬼が泣く ②
次の日の夜
伊吹山の中腹の祠前にはさらに多くの人間が集まっていた。
榊 和葉は祠の前で見つめている。
祠からは、明らかに声がしている。
まるで、泣き声だ。
おぉぉぉぉぉ
おぉぉぉぉぉ
「お下がりください、もう封印が持ちそうもありません」
「仕方ないわなぁ。命と引き換えにしてでも止めんとあかんなぁ・・」
その場の全員に緊張が走る。
この場にいる全員が契約をしている者たちだった。
つまり、術を使える術者たちであった。
榊家は代々伝わる、陰陽師の家。もはや今日で陰陽師の術者がいるのは榊家だけになってしまった。
その榊家でさえ、実戦を経験しているものはほとんどいない。
それほど平和な時代が続いていたのだ。
榊 和葉は内心、恐怖を覚えていた。
我々では、復活した鬼を止めることはかなわないであろう。
でも、時間稼ぎくらいは・・・
その時、夜の闇がフッと濃くなった。
明らかに異常である。
かがり火をたいているのに、真っ暗闇となり隣の人間さえ見えなくなったのだ。
その闇も一瞬で元に戻る。
「こんばんわ、和葉さん」
少年が和葉の隣にいた。
その場の全員が術者であったのに、術を感知できなかった。
ざわざわと動揺する一同。
「落ち着け」
和葉の声が飛ぶ。
「ヒロ殿。来てくださり感謝いたします。もう、封印が持ちそうもありませんのや」
「まぁ。木や紙での封印だからね。これだけ持っただけでもいい方なんじゃないかな?」
明るい声で答える少年。
まるで緊迫感を感じない。
「なんとかなりますでしょうか?」
「いったん、封印を解くしかないんじゃないかな」
驚く和葉。
「・・それしかないんでしゃろか」
「そうだね。だからあの絵葉書をよこしたんじゃないの?」
「あのお方はまだ着きませんやろか」
「車だからね。まだかかると思うよ」
「そうですか・・」
祠からの声が、さらに大きくなった。
「うん、もう持ちそうもないね。封印を解いちゃうね」
「え・・・?」
少年は祠の前に立つ。
祠にかけられたしめ縄が黒く変色したかと思うとボロボロと崩れていった。
祠自体も黒く、灰のように崩れていく。
静かに。そしてあっという間に封印は解かれてしまった。
それと同時に、洞窟の奥から強大な力が解放された。
洞窟の奥から出てくる強大な力。
それは女性の姿をしていた。
和服の女性。まだ若い。
歩み出てくる女性は、涙を流していた。
伝承にあるような角は見えない。
それでも、圧倒的な威圧感。
この女性が、あの伝説の鬼。
「やあ」
少年が、明るく声をかける。
その鬼は少年を見た。
「久しぶりだね。茨木童子」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます