第30話 占い師
平日の夕方。暗くなり始めた頃。
交差点には少年と、その隣には見かけたことのない人物。
黒いスプリングコートに黒いロングスカート。
妖艶という表現が適切な色気のある女性。
しかし、水商売とも思えない雰囲気。
その女性と少年は真剣な顔で話している。
「神奈川県の中高生で”ヨウコ”という名前の女の子、332名の調査は完了したわ。どれも該当しないと思っていいわね」
「そうか・・まぁ高校に通っていなかったら調査から漏れるけど・・」
「それは仕方ないわね、他の方法で調べるしかないわ。でも、可能性は低いと思うの」
「しかし、その可能性もある」
少年の口調はいつもと違って真剣そのものである。
大人びた口調。
「向こうで・・住民票に登録されていなかった」
「そうなの?じゃあ・・」
「住民票を移していないか・・場合によっては国籍がないかもしれない」
国籍がない・・・つまり出生届をされていない子供。
「その場合は・・確かに学校に行っていない可能性もあるわね」
「まだ、そうと決まったわけじゃないけどね」
「じゃあ、どうするの?調査を続ける?」
「今は、それしかないからね」
「じゃあ、次は千葉県を調べるわね」
「申し訳ない・・・こんなことを頼んでしまって」
「あらぁ・・あの娘のためよ。気にしないで」
女性はようやく微笑んだ。
「あの娘の容態は?」
「あまり・・良くない・・」
「処置はしているの?」
「していない・・・彼女が拒んでいる」
「そう・・」
二人ともうつむく。
あの日のことを思い出す。
目の前で倒れていく彼女。
彼女のことを、守れなかった。
二人ともそのことを悔やみ続けている。
「ところで・・・」
「何かしら?」
「占いとやらで、ここでずっと探し続けているけど・・・本当に見つかるの?」
「占いではそう出ているわね」
「その占い、本当に大丈夫なの?」
「あらあ・・」
にっこり女性は笑って言った。
「私の占いって、評判なのよ?知ってるでしょ?」
「まぁ・・評判なのは知っているけどね」
その女性、その筋で有名な占い師なのであった。
街角で辻占い師としても活動をしている。
しかし実態は、裏社会の有力筋において非常に重宝されている占い師なのだ。
「だから、大丈夫よ。ここにいればきっと見つかるわ」
「でも、調査は続けよう」
「そうね、じゃあ今度は千葉県を調べるわね」
「あぁ・・すまない」
「いえ、だから彼女のためよ」
「そうか・・」
ヒロもようやく微笑む。
「じゃあ、行くわね」
するとヒロは交差点の手すりを降りた。
もうすっかり暗くなっている。
「送っていくよ、物騒みたいだし」
「あらぁ、心配してくれるの?大丈夫なのに」
ーーーー
暗くなっている公園を通り抜ける女性と子供。
すると、暗がりから男たちが突然現れ二人を遠巻きに囲んだ。
その数、2〜30人。かなりの人数である。
しかも、ナイフを持っていたり、何人かは日本刀まで抜きはなっている。
全員無言である。
その女性と子供。さきほどの占い師とヒロは全く慌てた様子もない。
ヒロは女性に聞いた。
「手伝うよ?」
女性はにっこり笑って言った。
「私がこの姿のときは、大丈夫よ。すぐに終わるわ」
「じゃあ、見てるよ。危なそうなら手伝うけど」
15分後、取り囲んでいた男たちは全員地面でうめいていた。
女性は何事もなかったかのようにヒロに言った。
「お待たせしたわね。行きましょうか」
公園の出口近くでヒロが言う。
「それにしても、やっぱりその姿には慣れないなぁ」
女性も言う。
「それはこちらのセリフよ、じゃあここらでいいわ」
「では、またね」
「調査が進展したらまたくるわ」
少年は真剣な顔で言った。
「申し訳ない、頼む」
そう言って頭を下げた。
「やめてよ、これは私が彼女のためにやってることよ」
女性は微笑み、手を降って歩いてゆく。
やがて、女性は夜の闇のなかに消えて行った。
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