第29話 探し人

4月中旬の土曜日。

もうすぐGWともなると、だんだんとこの街にも人が増えてくる。

交差点には相変わらず、少年が手すりの上に座っている。

その横には、スケッチブックに鉛筆を走らせる少女。

もはや、その二人はセットになっている。

少年は交差点に行き交う人々をじっと見つめている。

少女は行き交う人々を見つめては、スケッチブックに書き留める。

ほとんど、会話をすることもない。


そこへ、スーツを着ながらもどこかチャラい男性がやってきた。

「こんにちわ、立花さん」

「いよう!ひっさしぶり!」

手を上げて挨拶してくる、立花 恭兵。近くで探偵事務所をやっているとのことだ。

その立花を見て、山崎純子はぼそっと言った。


「なにこのおじさん。胡散臭い」


その発言を聞いて、笑顔がひきつる恭兵だった。

その表情を見て、少年はキシシと笑った。


「で、今日はなんの用事かな?」

少年が聞いた言葉に気を取り直して、恭兵は言った。

「よくぞ聞いてくれました!ちょっと協力してもらえないかなぁ」

「なあんだ、依頼した探し人の情報が入ったかと思ったのに」

「う・・それはおいおい・・」

「で、なんなの?」

「実は探し人の依頼が来ていて、ここで見なかったかと思ってね」

「どうせ、浮気調査とかじゃないの?」

「なんでわかった?」

少年は、ため息をついた。

「子供に聞くことじゃないと思うけど?」

「まぁいいじゃねぇか。俺とお前の仲だろう?」

「一緒にしないでもらいたいんだけど」

少年はさすがに辟易した表情である。

「で、この女性だけどここで見なかったか?」

写真を見せてくる。

色気のある、水商売っぽい女性。

「あぁ、今日の昼に見たかな?」

「まじで。その時一緒にいた男性はわからないか?」

「一人だったよ」

「え?」

「だから、一人だったよ?」

「本当か?」

「純子さん、12時半頃この人見なかった?」

すると、少女はスケッチブックをめくっていく。

そして、あるページを見せてくる。

そこには、Tシャツを着た女性のデッサン。

写真の女性と同一人物のようである。

絵には日付と時間も記載されていた。今日の12:38と記載されている。

「うわぁ・・まじか。奥さんから今日は二人で絶対あっているはずって聞いたんだけどなぁ」

「じゃあ、この女性じゃないんじゃない?」

「そっか。じゃあ、この写真の人は見なかったか?」

「どれどれ・・」

写真を見た少年は、ちょっと悩んだ表情となる。

無言になる少年。

すると、その写真を見た山崎純子は、またスケッチブックのページをめくる。

そして、ある絵を見せてくる。

少年は、無言で目をそらす。

その絵をみた立花恭兵は目を見開く。


そこには・・・



次の日、立花恭兵が交差点にやってきた。

「こんにちは、立花さん」

「いよう、おかげで依頼は完了したよ」

「僕は何もやってないよ、純子さんにお礼を言うんだね」

隣でスケッチブックに鉛筆を走らせる少女を示す。

「それにしてもなぁ・・まさか、こんなことになるとはねえ」

「どうなったの?」


奥さんと言っていた依頼人は、実は結婚していたわけではなかったらしい。

そもそも、交際もしていなかった。

どちらかというと、片思いのストーカーに近い女性だったらしい。

相手の男性を独身と思い込み、他に交際相手がいないか探っていたらしい。


その男性。

実際は家族がいたのだ。


山崎純子が示した絵には、男性と女性と子供が描かれていた。

仲睦まじい家族の絵。

それを依頼人に見せることで、依頼人は男性のことを諦めた。


「へえ、じゃあ報酬は純子さんに上げてもいいくらいだね」

「え?いや・・・それは・・」

すると山崎純子は言った。

「お金はいらないから。アイスおごってくれればいい」

それを聞いた恭兵は、満面の笑顔で言った。

「お安い御用だせ、お嬢!」

そして走ってコンビニに入っていった。


少年と少女は顔を見合わせた。


「「お嬢??」」

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