第25話 立花 恭兵

その男性は並木道のほうから交差点にやってきた。

交差点の手すりの上に座っている少年を見つけると、ニヤッと笑ってやってくる。

地味なスーツを着ているが、なんとなくサラリーマンには見えない。

なんというか、しぐさがチャラいのだ。

年は20代後半から30代前半くらいと思われる。

まっすぐ少年のところまでくると、男性の方から声をかけてきた。

「よう、君がヒロ君かい?」

「こんにちわ、おにいさん。何か用ですか?」

二コリと微笑む少年。

見るからに怪しい男性なのだが、あまり気にしてはいないようだ。

「あんた、人を探してんだって?」

「うん、そうだよ?」

「じゃあ、ウチに依頼しないか?」

「依頼?」

その男性は、胸ポケットから名刺を出すと少年に手渡した。

「立花探偵事務所?つまり探偵さん?」

名刺には

  立花探偵事務所 所長

  立花 恭兵

と書かれている。

「そう、探偵だよ。この近くに事務所があるんだ。

 人探しは得意だ。ぜひ依頼してみないか?」

「つまり、営業に来たってこと?」

「ま、ありていに言えばそうなんだが。」

ニヤッと笑う少年。

「お金持っているように見える?」





がっくりとして、ヒロの座っている手すりの下に座り込む恭兵。

「そうだよなぁ・・子供がお金持ってるわけないよなぁ」

「そんなに仕事無いの?」

「無い無い。不況だしねえ」

「人探しは無くても、浮気調査とか?」

「まぁ、そんなのを細々やってんだけど。この不況でなぁ・・・

 今は逃げたペットを探すとかくらいしかやってないよ」

「へぇ・・ペット?どんな?」

「この猫ちゃん。見かけたことないか?」

内ポケットから写真を出して見せてくる。

丸々としてどこか愛嬌のある三毛猫。

しばらく、見ていて考え込む少年。

すると、ニッと笑って写真を恭兵に返す。

「もし見つかったらお礼してよね」

「え?」

手すりの上から恭兵を見下ろす少年はいたずらっ子のように笑っていた。

「その路地を行ったところにある喫茶店の佳織さんに聞いてみるといいよ」





次の日、恭兵はまた交差点にやってきた。

「いやあ、ばっちりだったぜ。喫茶店の女主人に聞いたらすぐに見つかった」

その猫は、喫茶店の前を毎朝通るので岸野佳織は覚えていたのだ。

「見つかってよかったね」

にっこりと笑う少年。

「お前にはお礼しないとな。ジュースでいいか?」

笑いながら言う恭兵に、少年はにやりと笑って言った。

「そんなのより、人探しを手伝ってもらいたいね」

ぎょっとする恭介。

「バカ言え。全然割に合わないじゃないか」

「他の仕事のついでで、気にしておくくらいでいいからさ」

「えぇ・・・まぁ、それならいいけどよ・・」

顔をしかめて、しぶしぶ受け入れる。

「探してる人ってどんな奴だよ」


少年は、探している人のことを話した。

「僕自身は会ったことないんだけどね。

 名前は”ヨウコ”。苗字はわからない。

 年齢は・・中学2年から高校1年の間だと思う。

 たぶん水泳が得意だよ」

「他には?写真とかないのかよ」

「それだけだよ」

恭兵はあきれて頭をかく。

「それだけじゃわかるわけないだろ」

「ちなみに、東京都の中学校と高校は全部調査済みだよ」

「なに!?」

こともなげに言う少年。

どことなく寂しげである。

「まじで・・都内全部調べたのかよ」

「まぁ。見つからなかったけどね。今は神奈川を調べてる。もうほとんど調べ終わったよ」

「すげえ、執念だなぁ・・」

信じられないという顔の恭兵。

「だから、何かのついででいいから。協力してよ」

「はいはい、あくまでついでだけだからな」

恭兵は、やれやれといった感じで立ち上がる。

ため息をついて言う。

「それにしても、そこまでして探したいのかよ」


少年は、交差点を行きかう人を見ながら答える。

「そうだよ、どんなことをしても絶対に見つけ出すんだ。絶対に・・・」

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